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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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マリタンの部屋


以前にパルレアは、『閉じた空間の中に別の閉じた空間を入れ子にすると魔力の流れ的に良くないから不測の事態が起きかねない』と言っていたけど、今回の魔法障壁で囲まれた空間ならば『魔力の流れその物を遮断してるから大丈夫なハズ?』と、微妙に不安な語尾を付けながらも保証してくれている。


だから障壁発生装置を稼働させたまま革袋に仕舞うという実験に踏み切れたわけだし、実際に成功した。

部屋その物を収納するって言うのも、この実験室全体が『箱』と認識出来る構造になっているのなら、たぶん問題ないだろう。


理屈としては、その『障壁内空間』にマリタンが入っても大丈夫なはずだ。


もしも何らかの事象で魔力が発揮できなくても、革袋に入っている他の諸々と同じように時間も停まっている世界にいるだけなら危険は無いだろう。

言い方は悪いけど、心はどうあれマリタンの実体は『魔道具』なんだし、仮にマリタンをマリタンたらしめている魔法が停まっても、単に時間が止まっているだけのはずだ。

はずだけど・・・

やっぱり試すのは怖いなぁ・・・どうも、エルダンの転移門事故のことが脳裏を過る。

アレとは全く違う状況だとは分かっているし、あの状態を上手く制御したパルレアとシンシアが大丈夫だろうと言ってるんだから、今さら俺が心配しても仕方が無いんだけどね。


「ホントに試すのかマリタン? もしもの事を考えると俺の方がちょっと躊躇しちゃうんだけど?」

「兄者殿ってば、小心者ね」

「言い方!」

「大丈夫よ兄者殿。だってワタシの本質は一種の魔道具にすぎないと思うもの。それに障壁の内側で魔法が働くことは確実なのだから、そもそも心配する必要が無いハズでしょ?」

「まぁそう言えばそうなんだけどなぁ...」

「小心者...」

「オイ、これは仲間を気遣う気持ちだよ!」


「冗談よ。兄者殿の優しさは知ってるわ。でもワタシに生命活動は無いのだから停まったとしても問題ないハズ、ね?」

「多分、な」

「実験結果からも、ワタシの直感としても、コレは上手く行くって思えるの。リスクは低いのだから試して損は無いわ。万が一、精霊魔法と魔法障壁の重ねがけに未知の問題があってワタシが機能停止したら、兄者殿が引っ張り出して頂戴。それで大丈夫よ」

「リスクは低いか...分かった」

「じゃあ一度、部屋の外に出ましょう。扉を開けたままでワタシが魔法障壁の範囲を制御するわ」


言われた通りにマリタンと銀ジョッキを抱えていったん廊下に出る。


外から見ても普通の部屋にしか見えないけど、よくよく目を凝らすと、廊下の板張りと部屋の壁の建て付けが微妙に不自然だな。

ピッタリくっ付いているようだけど、言われないと気が付かないレベルの僅かな隙間が有る。


「えぇっとマリタン、魔法障壁の予備機はそのまま動かしててもいいのか? 入れ子で二重になるだろう?」


いかにも几帳面な性格の伯父上らしく、錬金実験室の障壁発生装置は二重になっていて、どちらかが不具合を起こしても魔法障壁が途切れることが無いようにしてある。

何て言うか血縁的には俺の大伯父なのに、性格的にはむしろシンシアのお祖父ちゃんみたいだよ。

それとも錬金術師って言うのは、みんな・・・なんにでも予備を作るような人達ばかりなんだろうか?


「構わないわよ。だって、別に打ち消し合うわけじゃあ無いもの、ね」

「ただ二重になってるだけ、か?」

「いまは、革袋に仕舞った障壁発生装置から銀のパイプを通じて障壁の機能を外部に引き出せているから、予備機と併せて『魔法が使える空間』が二重になってるワケなの。それだけの話よ」

「なるほど了解だ」

「ともかく、これで部屋自体を収納しても問題は起きないはずよ」

「よし、やってみよう」


手を伸ばして錬金実験室の壁に触れる。

この部屋が一つの『箱』の様なモノだと思い浮かべた上で収納を念じると、触れていたはずの壁がスッと掻き消えた。

目の前には、いかにも地下室っぽい石造りの空間がぽっかりと広がっている。

この構造からすると、元々はかなり広い地下室だった場所に錬金実験室を設置した後、周囲に板を張って廊下や壁を造ったらしい。


「凄い、成功だわ兄者殿!」


「ホントに箱だったなこの部屋は。どこも壊れたりカタチが崩れたりはしてないみたいだ」

「先に収納した障壁発生装置との位置関係はどうなってるの?」


「部屋を収納する時に、空間的には革袋内で発生している魔法障壁の内側に入るようにイメージしておいたよ。だから部屋の中にあった魔道具類もそのまま動かせるはずだ」

「ええ、銀のパイプを通じてワタシにも認識出てるわ。魔法障壁自体も銀のパイプを通じてワタシと兄者殿をくるんでる...これで、ワタシを部屋の中に入れられるかしら?」

「やってみよう。ついでに革袋の中でも概念通話で話し続けられるかどうか試してみようか」


さっそく会話を概念通話に切り替える。


< ええ。銀の糸を通じて革袋の中と魔力波がやり取り出来てるのだから問題ないはずだわ >

< もしも途中でマリタンの声が途切れたら問題発生って事だな >

< その時は御願いね、兄者殿 >

< よし、入れるぞ >


小脇に抱えていたマリタンを、そっと革袋の口に押し当てつつ、慎重に魔法障壁の内側の空間に彼女が位置するように思い浮かべる。

次の瞬間、マリタンの重みが手の平から消えて、革袋の内部空間にポツリと浮かんでいる姿が認識出来ていた。


< 聞こえてる兄者殿? >

< ああ聞こえてるよ! 大丈夫か? なにか不都合は無いかい? >

< 心配性ね! >

< 心配して当然だ >

< 有り難う兄者殿。ワタシ自身にはなんの不都合も無いと思うわ。ただチョットだけ不思議なのは... >

< なんだ? どうかしたか? >


< 銀の枝の目玉で、この空間の中や錬金実験室は見えてるのだけど、ワタシ自身も動けるのよ、ね >

< は? >

< えぇっと魔法障壁の内側だけなんでしょうけど、ワタシは宙に浮いてるわけよね。それで、自分が注意を向けた方に向かって身体が移動する感覚があるの。どうしてかしら? >


< あー、革袋の中は上も下も無いし、重さもないんだよ。マリタンも自分の『書籍』として装幀されてる身体の重さを失ってるから、注意を向けた方に魔力が流れて引き寄せられるんじゃ無いかな? >

< そうなのね! >

< いや、ただの想像だけどな >

< 盲点だったわ。でもこの事象って他にも応用が利きそうな気がするわ >

< 他は問題ないかい? >

< 大丈夫だと思うわ。それじゃあ、いったん引き出してくださる? >


革袋に差し伸べた手の先にマリタンの存在をハッキリと知覚し、そのまま掴んで引き出す。

感覚としてはガオケルムや他の『手に持てるサイズのアイテム』を引き出す時と何ら変わらない。

少しだけ違うのは、その対象が喋りながら出てくることくらいだ。


「ふぅ、これも大成功ね兄者殿!」


「ともかく良かったよ。精霊魔法と魔法障壁の重ねがけも大丈夫そうだし、魔法空間を二重に入れ子にすることも、魔法障壁が魔力の流れを遮断すれば問題ないってことは分かった」

「だから言ったでしょ?」

「まぁな」

「それで兄者殿、この錬金実験室をパジェス先生のお屋敷に出しても邪魔だと思うのよ、ね」

「そりゃそうだな」

「でも成功したからには有効活用したいわ。早速のご相談なのだけど、この部屋の管理をワタシに任せて頂けないかしら? 実験は上手く行ったからこのまま障壁を稼働させておく分には問題ないでしょうし、いまはロワイエ卿も新しい錬金実験に取り組んでいられる事態じゃあ無いワケだし、ね?」


「良いんじゃないか? 伯父上も錬金実験室にあるモノは好きに漁って勝手に使って構わないって言ってただろ。今回、持ってきてくれと頼まれたモノは渡すとして、その他のモノは伯父上が必要だと言った時に都度出してあげればいいし、伯父上自身を革袋の中に入らせることは絶対に出来ないんだから」


「姉者殿が言っていた、『(ことわり)から外れかけてる魔獣である人族』を革袋に入れるのは危険って話ね」

「そうなんだよ。この革袋を使って乗合馬車的に人を運べないかって話をしたら、入れる人物次第でどうなるか分からないから止めた方がいいって言われた」


「では、ロワイエ卿の許可が得られたら、そういうコトで御願いしたいわ」

「了解だ。帰ったら伯父上に話そう」


これはいいアイデアだ。

伯父上の錬金実験室には錬金の素材も資料もふんだんに用意されている。

それらをマリタンが自由に活用出来るとしたら、液体金属に続く次の魔法の開発に繋がるかもしれないしな!


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