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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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魔力触媒鉱石の出所


「銀の枝の先端に、目玉と一緒にオーラを測定するための感知機を取り付けて、それで内部を測定するんです。銀の枝をどこまで伸ばせるかはやってみないと分かりませんけど、元々、アレの目玉で地下施設の内部を探る予定だったのですから、やるべきことはその延長です」


「なるほど、それなら俺たちが物理で侵入する必要は無いな!」


「はい。オーラを読み取るための検知器はかなり小型にする必要がありますけど、伯父様の技術をお借りすれば製作出来ると思うんです。目玉と同じで、銀の枝の先端に保持させるのはオーラを嗅ぐための『鼻』だけですからね」


「おぉ『鼻』か。もし銀の枝や銀ジョッキ本体に何かあっても、マリタンに危険は及ばないんだよな?」

「そこは大丈夫ですね。マリタンさんにやって貰うのは、あくまで銀ジョッキの遠隔操作ですから」

「凄いぞシンシア、行けそうな気がしてきた...」

「御兄様。ともかく銀の枝に取り付けられるオーラ検知器の製作に取り掛かってみましょう。マリタンさんも一緒に御願いします」


「かしこまりましたわシンシアさま」


「ふむシンシアさん。オーラ検知器や記録装置を作成するための部品や素材は色々と持っているから提供しましょう。なんなら私のオーラ検知器は分解して貰っても構いませんからね」

「有り難うございます伯父様。それと検知器の設計についてアドバイスを頂けると助かります」

「もちろん、喜んで!」


どうやら伯父上自身もシンシアに教えたいことが色々とあるようで、見るからにワクワクしている様子だ。


以前からマリタンが実験を繰り返していた液体金属による『銀の枝』を利用することで、旧市街の地下に蓄積されている魔力触媒を探れる可能性が見えてきた。

閉塞したように見える状況を打開してくれるのは、いつでもシンシアの知恵なのである・・・


「それにしても伯父上は、この魔力触媒の鉱石をどうやって手に入れたんですか?」


さっき伯父上自身も言っていたように、魔力触媒は『どこにでも転がっているモノ』じゃあ無い。

新たに手に入れようとしても何年かかるか分からないと言っていたのも、それだけ珍しくて、滅多に売り買いされることが無い品物だからだろう。

そりゃあ『危険物で一般的な使い道も無い』となればむべなるかな、だけどね。


「ライノ君は驚くかも知れませんが、これれはレスティーユ家の伝手を通じて入手したのですよ」

「おぉっと、そう来ましたか!」

「あれは...レスティーユ家に嫁入りした妹がシャルティアを産む前のことでしたから、かれこれ四十年ほど前のことになりますな」


大伯父の妹なんだから俺の大叔母上か・・・その娘のシャルティアが嫁入り前に権力争いに巻き込まれて国外に脱出したのが十代後半だったとして、更にその数年後に俺が産まれたとすれば、確かにざっと四十年だな。

俺はまだまだエルフ族よりも人間族の感覚の方が強いから、四十年というと一昔前に感じてしまう。

まぁ、俺が産まれる遙か以前ってことに間違い無いし!


「元々レスティーユ家に骨董品を売り込んでいたと自称する商人が、『錬金術素材の関係ならロワイエ家が良いだろうと領主様に紹介された』と言って、持ち込んで来たのですよ」

「あからさまですね!」

「今にして思えば、私に渡しておけば魔力触媒の利用に関して何らかの研究成果が出るかも知れないし、仮に私が扱いを誤って寿命を縮めたところで自分達に損は無い、そういった考えだったのでしょうけれどね」


「まあ...なんだか納得いきますよ」


王家の谷の地下に籠もっている老錬金術師のように、才能のある人族に素材や技術を与えて新たなモノを生み出させ、上手く行けば利用する・・・失敗しても痛手はないし、長い年月と膨大な資産を使うことの出来るエルスカインにとっては、駄目で元々ってくらいの発想なんだろうな。


きっと俺たちが知らないだけで、これまでも大勢の魔法使いや錬金術師達に話を持ちかけていて、その中で僅かな人数だけがエルスカインの手下となって生き延びているのに違いない。

いまこの時点でも、エルスカインの走狗(そうく)にされていると気が付かないまま、『自分の研究に羽振りの良いパトロンが付いた』と上機嫌な魔法使いがどれだけいることやら・・・


「しかし、そのお陰で魔力触媒に関する知見を得ることが出来ましたからね。それに実物の鉱石を手に入れたことが『錬金素材の変遷』を書く切っ掛けの一つにもなったのですよ。人生、なにがどう転ぶか本当に分からない物ですな!」


なるほど、エルスカインに感情的なモノがあるのかどうかは知らないけど、人族を『自分よりも格下の存在』と規定して接し方を変えられないエルスカインは、むしろそのせいで配下の粗雑な行動に足下を掬われたり、計画にほころびを生み出したりしているように見受けられる。


フェリクス王子やアクトロス号の魔法使い、それにエルダンにいた連中なんて、その最たるものだろう。


今回も、使い捨てで利用するつもりだった伯父上の知識と技量が、逆に大結界を阻止するための鍵になるかもしれないとは、なんとも皮肉だし、言葉は悪いけど『ザマアミロ』的な感情も抱いてしまうけどね!


++++++++++


その後、触媒鉱石の生み出す魔力の連鎖反応を止めるために、どの程度の魔力阻害障壁の力が必要かを調べる実験は徐々に段階を進めていき、伯父上の判断では『暴走が始まる三歩くらい手前』のところまでやって来た。


「これ以上の実験は危険でしょう。私も魔力触媒の働きを全て解明している訳ではありませんし、不測の事態を避けるためにも、実験はここで止めておくべきだと思います」

「ですが伯父様、『あと三歩』と仰るのでしたら、もう一段階は反応を進めても大丈夫なのではありませんか?」


「シンシアさん、それは理想論ですよ」


シンシアがごく軽い感じで言った言葉に対し、伯父上は思いがけず厳しい声色で返事をした。


「は、はあ...」


「確かに不測の事態と言っても、この程度の触媒量であれば『何かがおかしい』と思った時点で手を打てば大事には至らないでしょうね」

「でしたら...」

「しかし不測の事態が二つ重なったとすればどうでしょう? それは可能性として起こりうることですし、トラブルが二つ同時に発生した時に、大抵の人は対応できないものです」


「それは...確かにそうかもしれません」


「想像もしていなかった未知の事象だからこそ『不測の事態』なのですよシンシアさん。そういったことが発生した時に、まだ止める余裕が一段階残っていることが大切なのです」

「はい伯父様。良く分かりました」

「うんうん。もちろんシンシアさんが限界を見極めたいという気持ちは良く分かりますよ? ですが錬金術の研鑽においては、常に安全マージンを残しておくべきなのです。自分自身と周囲の安全のためにね」


魔道具に持たせる能力の上限値を確認しておきたいというシンシアの考えはもっともだし、安全を第一に進めるべきだという伯父上の考えも正しい。

まあケースバイケースってコトなんだろうけど、魔力触媒っていう不確かな存在を相手にする今回は、伯父上の方法論に乗っておいた方が良さそうだな。


「ねぇシンシア君、ちょっとコレを見て貰えるかな?」


パジェス先生がそう言って手元の革張りノートを開いて差し出した。

白い上質な紙には文字や数字、ちょっとした図っぽいモノなんかがビッシリと書き込んである。

これはパジェス先生の手書きメモかな?


「このグラフが分かるかいシンシア君?」


「えっと...この曲線は...あっ! 魔力触媒の連鎖反応の進み方と、それを抑えるために必要だった阻害障壁の力の相関図ですね!」

「さすがはシンシア君だ。一発で見抜いたね!」

「いえ..」

「ほっほう。コレまでの実験による『変化の量』をグラフにした訳ですな、パジェス殿?」


「ええ、そういうことですロワイエ卿。でね、シンシア君...このグラフの末端がさっきの実験の位置だよ。ここまでのグラフの線の延び方を見れば、何か気が付かないかい?」


「このグラフは横軸が触媒鉱石の量で、縦軸が魔力障壁の発揮した力ですから、それぞれの点を結んで線を引くと...徐々に連鎖反応が激しくなって、最後は倍々に増え始めますね先生!」

「そうなんだよシンシア君。これまでと同じ量の触媒を追加したら、恐らく次の反応は倍増するだろうね」


「ですよね先生...」


そう言ってシンシアが俯いた。


おっと?

それは、足した分だけ増えるんじゃ無くて、一気に倍増するってコトか・・・


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