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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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塩と魔獣の山


作業員たちが降りていった採掘孔からは、濃密な魔力の奔流が吹き出していた。


これが、辺りを覆っている魔力の元か・・・

ただ、以前にガルシリス城で見た禍々しいようなものとは違って、純粋な魔力の奔流が地表に吹き出しているような感じだ。


「これ、旧街道みたく何かがおかしくなってる訳じゃ無いんだよな?」

一応、こっそりパルミュナに確認してみる。


「うん。ふつー。きっとこの地域? この辺り? 昔からこういう場所なんだろーね。奔流が何本も束になってるような場所なのかも?」


きっと採掘孔の穴が無くてもこの辺りに滲み出ていただろうけど、通り道が出来たから一気に吹き出してるって状態だな。


「レビリス、この採掘孔からは結構、濃密な魔力が吹き出してるぞ」

「えっ、そうなのか?」

「ああ、魔獣たちがここに寄ってくるのは、それに引き寄せられてだな。採掘孔の穴の中に入りたがるのもそのせいだろう」

「おおぉー、それは...困るな?」

「だな」


かと言って、ガルシリス城でやったみたいに、ここの魔力の奔流をパルミュナに捩じ曲げて貰うっていうのは違う気がする。

何より、パルミュナの言うとおりだとすれば、ここは自然にこういう状態な訳で、リンスワルド家もこの魔力をどうこうしようというのでは無く、単に塩を掘り出しているに過ぎないのだしな。


「とは言えレビリス、別に悪いモノがいるわけでもないし、ここはこういう場所だとしか言いようが無いよ。それに魔力の奔流はいつのまにか動いたりするそうだから、これがいつまであるのかもわからないし...」


俺がそう言うと、パルミュナも黙って首肯(しゅこう)した。

ここは無理に動かすことに賛成では無いらしい。


「そうか...まあ、言いようは悪いけどフォーフェンの破邪衆にとっては飯の種でもあるしさ。俺がその良し悪しを考えるものでも無いって思うさ」

レビリスはそう言って、自分的な決着とするようだ。


「採掘孔の中に入ってみるかい?」

「ああ、ぜひ見てみたい」

「よし、じゃあ行こう」


レビリスに引き連れられて採掘孔に降りていく。

とは言え、はしごを伝って云々とか言う穴では無く、単に傾斜のキツい坂道というか洞穴のようなものを降りていくだけだ。

降りていく地面の真ん中には、木道のようなものが敷設されていて、掘り出した岩塩を積んだトロッコがスムーズに動かせるようになっていた。


しばらく行くと、現時点での採掘現場に行き当たった。

大勢の作業員たちがツルハシをふるって岩を砕き、適当な大きさに割れた岩塩の塊をトロッコに積み込んでいる。


白い。

空間全体が白い。


なんとなく頭の中では、赤っぽいような普通の岩があって、それを作業者が力任せに割ると中から塩の塊が出てくる・・・みたいなイメージを持っていたのだけど、そんな生やさしいものでは無かった。

自分たち自身が、『掘り下げた岩塩の中』にいるのだ。

地下全体が岩塩の岩で、その岩の中をみんなで掘り進んでいるという方が正しいだろう。


「凄いな...」

「びっくりー! まっしろー!」


魔石のランプに煌々と照らされた採掘現場は、床も壁も天井も、なにもかもが白く光を反射している。


もちろん、よく目をこらしてみればすべてが純白というわけでは無く、ピンクがかった筋のような模様で岩肌が埋め尽くされているのだが、それでも、外の地面と較べれば、『真っ白』と言って差し支えないだろう。


「俺ちょっと感動してるよ...」

「凄いねーお兄ちゃん、これが全部塩なのねー...」


パルミュナはそう言いつつ、壁際の亀裂から小さな白い塊を剥ぎ取って口に入れた。

いやそれ辛いだろ?


「からーい!!」


ほら言わんこっちゃない。

でも、やってみたくなるよな。

俺もごくごく小さな欠片を摘まんで口に入れてみた。


・・・うん、塩だ!

俺はいま、塩に囲まれている!


ただ、多すぎて有り難みが減るな、これ。

塩は、塩だけで食べるものでも無いので、いくら塩好きな俺にとっても、特に夢のような光景ってほどにはならない。


言うまでも無く採掘孔の中には奔流から吹き出した魔力が充満しているが、別に濁っているモノでも無いので、作業員たちが悪い影響を受けたりはしていないようだ。

ただ、知らずとも魔法使いの素質がある人や、魔力に敏感な人なら、ここに来ると微妙に元気になるかも知れないな・・・


まだ作業を始めて間もないので、トロッコに積み込まれた岩塩はそう多くない。


「あれが一杯になったら、さっきの木道伝いに外に押し出して、待機している馬車に積み替えていくんだな?」

「そうさ。馬車の御者さんたちにとっては大変な仕事らしいよ」

「なんでだい? 行き帰り決まった道を往復するだけだろう」

「帰りの方が重たいからさ。結構急な下り坂を岩を満載した馬車で下りていくんだ。ブレーキ操作を誤ると危険だしさ、馬車や馬の足にも負担が掛かるだろ?」


「ああ、そっか!」


「さっきロイドから、雨の日に作業しないのは事故防止だって聞かされた時に、それに思い至って合点がいったよ」


「なるほどな...そりゃ言われてみると当然って感じだな」


++++++++++


岩塩採掘場の見学を終えた俺たちは、岩塩をフォーフェンに向けて運び出す馬車に便乗させて貰うことにした。


採掘現場を出る直前に、例のお兄さんがまたレビリスに声をかけてきて、なにか真剣な様子で話してたけど、人生相談にでも乗ったのだろうか?

まだ若いのだし、立ち直れるなら良いことだ。


行きとそのまま逆方向に岩塩採掘場から降りてきた道が街道に合流するところで、俺とパルミュナは馬車を降ろして貰った。


レビリスはそのまま馬車に乗って終点の中継所まで行き、そこで岩塩集積場行きの馬車に乗り換えてフォーフェンに戻る。


「ありがとうレビリス、連れてきて貰えて本当に良かった! 念願の岩塩採掘の様子も見られて大満足だ」

「そりゃ良かった。まあでも助かったのはこっちの方さ」

「そうかい?」


「ここが、よその土地と較べても細かな魔獣が多い場所だって分かったし、しかも、その原因もいっぺんに分かって、ダブルで有り難いさ」

「その原因は、どうにもしようが無いけどな」

「いいのさ。いつかなにかの動きがあった時に考える参考になる」

「まあそうか」


「またフォーフェンに来ることがあったら顔を出してくれ。ついでにラスティユの村かホーキン村でも寄っていくといいさ」


「ああ、機会があれば是非そうしたい。そうだ、結婚式に出るなら、ラキエルとリンデルによろしく伝えておいてくれ。あと、エスラダ村長とミレアロさんにもな!」


「レビリス、元気でねー!」

「じゃあなレビリス!」


「パルミュナちゃんも達者でな。じゃあなライノ。またの日まで!」


そう言ってレビリスは馬車の上で前に向き直った。

彼も破邪だ。

別れは軽くアッサリとっていう流儀が身についている。

いつまでも手を振ったり、後ろを振り返ってみたりはしない。


「じゃあ、ここからはまた二人で歩き旅だな」

「うん。久しぶりにお兄ちゃんと二人で水入らずだねー」

「水入らずって言葉の用法が微妙な気がする。あと、自分が『水』扱いされてるのをレビリスが聞いたらむくれそうな気がする」


なんだかんだ言いつつも、レビリスが一緒の時は二人とも遠慮があったから、この類いの馬鹿を言い合いながら街道を歩くのも久しぶりだ。


そう言えば、採掘場の悪党二人の一件以来、パルミュナが俺のことを『お兄ちゃん』としか呼ばなくなってるな?

以前は二人きりの時は普通に『ライノ』と呼んでいたのに。


故郷の村に住んでいた頃は、兄妹のいる友達を見るに付け『俺も妹が欲しいなあ』なんてずっと思っていたが、まさか今頃になって大精霊の妹が出来るとはな・・・

人生って分からないもんだ。


いや、本来は俺が勇者になったことの方がビックリなんだろうけど。


ともかく、二人きりで街道を歩くのは、フォーフェンからパストに向かった時以来か・・・ほんのちょっと前のことなのに、あれからずいぶん経ったように感じるのが不思議だ。


まあ、久しぶりの田舎道だが、俺にとっては久しぶりの精霊魔法の練習チャンスでもある。

桶のお湯を温めるぐらいならまだしも、なにかを飛ばしたりするようなダイナミックな奴は、さすがに宿屋の中では練習できないからね。


特に熱魔法の次に練習したいのはパルミュナが『力の魔法』と呼んでる系統を応用したものだ。


この魔法って、離れたところに向けて自分の力を届かせたり、なにかに力を乗せて手元から動かすことが出来るんだけど、実は最初に山歩きしながらパルミュナから精霊魔法の色々な使用例を教わった中で、『これを身につければ、今後は狩猟用の弓矢を持ち歩かなくてすむかも?』って思った手法がこれ。


パルミュナは『馬車を橋から落とすのに使える』と言ったけど、当面の俺の目標はそこまで強いものじゃなくて、小さな石つぶてを早く遠くまで飛ばすっていう技だ。


これがなんの役に立つかって言うと食料調達。


つまり、弓矢の代わりに石つぶてとかをズバッと飛ばして鳥を落とそうとか、そういう考えなんだよ。

しかも、精霊の土魔法の応用で固めた石つぶてを自分の手の平の上に生成して飛ばせば、鏃の補給も必要ないという、実に魅力的な技だ。

まあ、その分の魔力は消費するけどね。


と言うわけで、パルミュナとも適度に会話を交わしつつ、ひたすら石つぶてを飛ばしながら歩き続けて数刻・・・

結構なスピードで狙い通りに飛ばせるようになってきたが、そろそろ魔力補給の休憩が必要かもと思い始めたところで、パルミュナが急に立ち止まった。


「おー?」


街道脇を流れる川の対岸に、黙々と石つぶてを撃ち込みながら歩いていた俺も、その声を聞いて前を見る。


「お、おう...」


遙か前方、街道の脇の空き地に、『箱』が置いてあった。


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