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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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Part-2 : レスティーユ侯爵領 〜 侯爵家の領地へ


「なんだか、こう言うのって久しぶりですね御兄様! つい先日だったような、でも懐かしいような、不思議な感じです」


のんびりと進む荷馬車の御者台で、横に座って手綱を握っているシンシアが俺を見上げて微笑みながら、そう口にする。


可愛いなぁ、シンシアは・・・


シンシアが言ってるのは、二人でドラゴンに会いに北部大山脈で荷馬車を走らせていた時のことだ。

あの時の俺には、シンシアの笑顔をゆっくりと眺める心の余裕なんて無かった。


「わかるよ。俺もあの時の一部始終って鮮明に思い出せるのに、なぜか随分昔のような感じがするんだ」

「です!です!」

「まあ、日数で考えるとそれほど経っているとも言えないのに、色々なことがガラッと変わったから、余計にそう感じるんだろうな」


二人に関して言えばあの時と何よりも違うのは、今のシンシアは俺の婚約者だってことだな。

ま、その他にもあらゆる事がガラッと変わっているけれど・・・


「ガラッと変わったって、ソレってアタシの身体の大きさとかー?」

「うるさいわパルレア」

「いや俺も変わったぞパルレア殿」

「そーなの?」

「あの時に『勇者と決闘だぜ!』とか息巻いてた自分を思い出すとかなり恥ずかしいぜ? そんで、ライノに首をへし折られ掛けて、そのあと鱗の内側から煮られそうになったんだよな...」


「いや、それ思い出さなくていいからアプレイス...」


「あら、アタシがシンシアさまと出会ったのはソレよりも随分後のことだから、昔の話をされると妬けちゃうのよね?」

「本が嫉妬してんじゃねぇよ」

「でもドラゴンだって、自分が仲間に加わる以前の話で皆に盛り上がられてたら、チョットは寂しいんじゃないのかしら?」


「あー、そりゃあまぁ。そうかな...」


みんなで相談した結果、レスティーユ侯爵家が『古代の魔道具』を探し続けてることやらを鑑みると、今すぐに『獅子の咆哮』が飛び立ったり、ラファレリアの地下で『魔力触媒』が動き始める可能性は低い・・・タイムリミットまで、まだ少しは時間があるだろうという結論になって、今回はパルレアとアプレイスにも一緒に来て貰うことにしたのだ。


今回は敵の本拠地に飛び込むことになるかもしれない。

話を聞く相手の嘘を見破るという点ではパルレアに、そして、もしも戦闘になった時を考えるとアプレイスに一緒にいて欲しいからね。


獅子の咆哮さえ動き出さなければ、ルリオンの守りはエスメトリスに任せられるし、偶然にもいまのサラサス王宮は、スライとジェルメーヌ王女の『実は以前から秘密に婚約してました』というでっち上げの発表から怒濤の挙式準備へと、上を下への大騒ぎだ。

俺たちがシレっといなくなっているには、丁度いいタイミングなのである。


結果として荷馬車の上は、五人でガヤガヤと少々騒がしい状況になっている。


俺たちの設定は、『レスティーユ領では骨董取引が盛んだと聞いて、一稼ぎしにやって来た外国の商家の若者達』である。

もちろん、魂の年齢とか実年齢とか関係なく、俺もアプレイスもパルレアもみんな若者達だ。

でないと、本当に若いのは『シンシアだけ』ってことになってしまうからな。

マリタンなんてガラス箱に入ってた間をカウントすれば、実年齢は三千歳を超えてるんだもんな!


「兄者殿、いま何か仰った?」

「いや?」

「そう...気のせいかしら。ワタシは本なのに『気のせい』なんてあるのかしら?」

「知らんけど、直感みたいなモノがあるんだったら、気のせいだの気の迷いだのあってもおかしくはないだろ?」

「そうね。言われてみればそんな気もしてきたわ」


ほら、自分でも『そんな気』とか言ってるしな・・・


ともかく、実家の商館から持ち出してきた色々な骨董品を貴族家に売り捌きつつ、田舎を回って旧家に仕舞い込まれている骨董品を買い取って持ち帰るというのが『空想上のミッション』だ。

コレがちゃんと出来たら親に店の経営を任せて貰えるとか、新しい店を出させて貰えるとか、まぁ建前はそんなノリ。


怒濤の勢いでパジェス先生とオレリア嬢が手配してくれた、各種の免状や特権状、実家の店があるフリを出来るような書類、そしてシンシアがリンスワルド家とスターリング家から掻き集めてきた適当な骨董の数々を馬車に積んである。

これらの骨董品は、姫様にジュリアス卿にも目的を知らせて『売っても失っても構わない』と許可を貰った。


ミルシュラントはアルファニアとの間で和平と通商に関する二カ国間条約を結んでいるから、物品の持ち込みも問題は無い。

あえてラファレリアにある品物を避けてミルシュラントから持ってきたのは、『物珍しさ』も演出できればいいという狙いだ。


レスティーユ侯爵領内を荷馬車でのんびり回るのは時間の無駄だから、出来ることならアプレイスの翼で目的地まで一気に近づきたかったのだけど、公爵領の境には『検問』があると聞いて断念し、少し手前に降り立った。


仮にレスティーユ侯爵領がエルスカインの本拠地だとすれば、どんな警戒手段が施されているか分からない。

もしも検問所で発行される割符が、ソブリンで使われていた『魔銀のトークン』のように魔法的な効果を付与されているとすれば、正規の手順で発行された許可証を持っていたいからね。


++++++++++


しばらく馬車を走らせると、街道を遮るように石造りの検問所が見えてきた。


その手前にたむろしてる人達や、旅人になにかを売り受けようと僅かな露天があるあたりは、ソブリンの市壁外を思い出す。

もっともここは国境では無く領主の関所なので、両側にそれほど長い石壁が建てられている訳でも無く、徒歩でちょっと山あいに入れば、検問を通ること無く出入りできるだろう。


「じゃ、こっから先は打合せ通りの役でな? あと、俺の演技力に関するコメントは不要だ」

「言われても、すぐにどーこー出来ないもんねー!」

「やかましいわ」

「アタシは革袋に入ってたほーがいい?」

「先に通ってる人達を見ても面倒な手続きなんかしてる気配は無いな。通行税を払って終わりってだけなら子供のフリしてて問題ないだろう」


「りょーかい!」


マリタンはいま、荷台に寝転がっているアプレイスの腹の上に乗っていて外からは見えないけど、街中に入る時には何かカモフラージュを考え方がいいかな?


一般人のフリをしているシンシアが、いかにも高価そうな分厚い本を肩から下げてるのはどうみても不自然だけど、かと言って小箱に入って貰ったのではマリタンが周囲の状況を掴めない。

パルレアが革袋の自分の部屋に入るのと違って、シンシアの小箱に入ったマリタンにとっては時間が止まってしまうからだ。


古代の魔道具に関してはマリタンの分析が重要だから、常に一緒にいて欲しい。


++++++++++


まあ結局、領境の検問はどうと言うことも無かったし、トークンのような手の込んだ魔法仕掛けも無いようだ。

いちゃもんを付けられたり高額な関税みたいなものを掛けられないように、『商品』にする骨董の類いは全て革袋に仕舞っておいたんだけど、荷馬車持ちの商人だと言うことでしっかり通行税だけは取られた。

ちょっと悔しい。


「シンシア、人目に付かずに隠れられそうな場所があったら、そっちに馬車を進めてくれ。そこで馬車を仕舞ってからアプレイスにレスティーユ城の近くまで運んで貰おう」

「はい御兄様」

「えー、お兄ちゃんの、お祖母ちゃんの、実家、には行かないのー?」


会ったことも無い母親の、そのまた母親の実家とか言われても正直ピンと来ない。

親戚って感覚なんかまるで浮かばないし、もはやリンスワルド家関係の人達の方がよっぽど親戚のように思える。


「ロワイエ准男爵家な?」

「それそれー!」


「行くけど、先にレスティーユ侯爵家の様子を見てからだ。先にそっちに行くと、かえって面倒な事態になりそうな予感がするからな」

「そーなの?」

「御姉様、もう准男爵家が乗っ取られている可能性は高いと思います。それでしたら重要なモノが置かれたままになってるはずがありませんから」


「そっかー!」


「そういう事だよパルレア。逆に、もし乗っ取られてないなら、侯爵家の様子を探った後で行っても問題ないと思うよ?」


「もしさー、ロワイエ准男爵家が乗っ取られてるとしたらホムンクルスの支配下よねー?」

「だろうな。当主に成り代わって好き放題だ。まぁレスティーユ侯爵家だって、とっくの昔にルースランド王家と同じ状態になってるように思えるけどね」


そう思うのは、レスティーユ侯爵自身が滅多に王都に現れないという話を聞いたからだ。

上位貴族全員が集まるような大きな催事のある時以外は、滅多に自領から出てこず、王都での用務のほとんどは侯爵家名代に任せてしまっているのだという。


手練れの魔法使いがウジャウジャいるアルファニアで、しかも王宮となればパジェス先生みたいな魔道士団の管理下だ。

何かの弾みで、ホムンクルスだってことがうっかり露呈するリスクを考えると、滅多なことでは近寄りたくないだろうからな。


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