表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
844/934

なぜ市街地の地下に?


「目玉が伸びるって、ホントにそういうのが出来そうなのかシンシア?!」


ぶっちゃけ、俺自身としては半分くらいは冗談というか、『夢物語』みたいな感じで口にしたんだけど?

まさかそれにシンシアが食いつくとは!


「目のユニットを取り外せるようにして、液体金属の細紐を通して銀ジョッキ本体に繋ぎ、それを通して見たモノが送れるように出来れば、出来そうな気がします...目のユニットを何処まで小さく出来るかがポイントですね!...あ、その前に液体金属で魔導波を綺麗に送れるかテストしないと...それと、マリタンさんの開発した新しい魔法を制御台に組み込むとして、目のユニットを支える液体金属を強度的に何処まで伸ばせるかが実用性を左右するから...」


最後の方はほとんど独り言になっていた。

シンシアの頭脳がフル回転を始めた時の、『いつもの様子』だな!


「ちょっと試してみます御兄様!」


シンシアは言うが早いか部屋を飛び出して、俺の部屋と廊下を挟んで斜め向かいに用意されている自室に入っていった。

早速、銀ジョッキの『目』の改造に取り掛かりつつ、マリタンとは部屋の中から指通信で液体金属の使い方について相談しているようだ。


ぽつんと部屋に一人で残された俺は、いっそマリタン謹製の古代生活魔法『変わり身の魔法』でも使って、一人で街に偵察に出ようかと考えてみたけど、仮にそれで『誰と特定出来ないような見知らぬ相手に見える』ようにしたところで、あの無人の街区の周辺をウロウロ歩き回るのは変だよな・・・


人払いの結界の中で平然としてる段階で、『ただ者じゃ無い』って思われるだろうし、だったら不可視結界を頼りにして嗅ぎ回る方がまだマシだろう。


銀ジョッキ改造がどんな風になるかは分からないけど、シンシアの様子からすると実現出来ると考えて良さそうな気はする。

コイツはきっとシンシア流のネーミングからすると『銀ジョッキ改四号』と呼ばれるのが確定だな。


それで屋根とか換気口の隙間とかから『目』を差し込んで中の様子を確認できたりするかな?

隙間や換気口から室内に向けて、目玉をどの位伸ばせるか次第か・・・


そもそも、マリタンが液体金属の錬成と制御を言い出したのは、地下の潰れた坑道がどちらに延びているかを探るためだった。

あの区画の直下には、ほぼ間違いなく『潰れていない坑道』が存在しているはずだし、そこに辿り着くためのルートは、必ず地上のどこかと繋がっているはずだ。


なぜなら、そこに転移門を開くためには、魔法使いの誰かが物理的にその場所に行かないとならないのだから・・・

そして、人族の魔法である橋を架ける転移門(ブリッジゲート)は『使うと消耗する』ので定期的なメンテナンスも必要になる。


恐らく『獅子の咆哮』の浮遊兵器本体や、あの老錬金術師がいたホムンクルス工房の設備は、マディアルグ王がエルスカインの手でルリオンに送り込まれた時か、あるいはそれ以前の段階で、何らかの理由で地中に『埋められた』か『埋まった』かしたものだろう。

エンジュの森も一度は土砂で埋め尽くされたって話なんだし、戦争の余波でルリオンが埋まった可能性も高いな。

そして全く使われずに保存されていた転移門の『橋の向こう側』をエルスカインがどこかの遺跡発掘で発見したと考えれば、色々と腑に落ちる。


それに対して、問題の街区は旧市街の街中にあるし、古代文明とは無関係な先史時代のドワーフの遺産だから、『先に転移門ありき』ではなく、普通に地上部分を占有してから坑道に降りて転移門を張ったはずだ。


うーん・・・何か引っ掛かる。


でも自分でも良く分からないな。

いったい何が、俺の中で引っ掛かってるんだろう?


いや、待てよ?


『王都物語』の一節を信じるならば、著者のご先祖はあの街区になっている空き地を農場にするつもりで購入し、落盤の影響なんかで酷い目に遭ってる。

当然、その時点ではエルスカインはあそこに拠点を造っていなかったワケだ。


じゃあ、『なんで』エルスカインは、すでに人が大勢住み着いている場所の地下に目を付けたんだろう?


しかも世界戦争時代の古代文明の遺跡でも無く、何かは知らないけど鉱石も掘り尽くした後の先史時代の古い廃坑に・・・

単に地下に蟻の巣のような坑道が張り巡らされてるから『秘密の倉庫』にするのに便利とか、そんな理由でわざわざ街のど真ん中を買い取って占拠し続けたりするものか?

分からないな。

そうじゃないとも言い切れないけど、どうもしっくりこない。


もし『人目を避けた地下の巨大倉庫』が欲しいだけなら、エルスカインの力をもってすれば幾らでも方法があるだろう。


それこそエンジュの森みたいな人目に付かない山奥とかで、ウォームにトンネルを掘らせたっていいじゃないか?

そうしないのは・・・いや、それはそれで何処かにあるかも知れないけど、ラファレリアの地下に拠点があるのは、エルスカインにとって『そうするに足る理由がある』からだ。


うん、ここは逆に考えてみよう。


師匠の教えによれば、『敵がやればいいと思うことをしてこないのは、それが出来ないからだ』ってことになる。

つまり、他の場所には魔石集積所を造れない理由がある。

この大都会ラファレリアの、旧市街の、地下の、先史時代のドワーフの廃坑にしか、魔石集積所を造れない理由。


ああ、そうか!

うっかりしていたというか、既定事実としてすっかり馴染みすぎていた。

ココは『大結界の中心』だったよな・・・


奔流を弄くってるコトと、魔石を集積してるコトがどう関わってくるのかは分からないけど、『関わりがある』こと自体は間違いないだろう。

いったん集積した魔石をルリオンに眠る獅子の咆哮まで送るのだとしても、ココに溜めることには何か意味があるはずだ。


あの老魔道士は、マディアルグの率いる『ホムンクルス部隊』が、ヒュドラの毒を撒いた後のラファレリアにおいては単なる土木作業員・・・それも使い捨ての・・・にされる予定だと考えていた。


まず、ヒュドラの毒を満載した浮遊兵器がラファレリアに到着し、毒ガスを撒いて全市民を惨殺する。

その後に毒に対抗する血清を打ったホムンクルス部隊がやって来て、血清の効果が切れるまでなんらかの土木作業を行わされる。

そして、大結界が稼働し始めたら魔力量の問題は無くなるので、浮遊兵器を再び飛び上がらせて、ポルミサリアの何処へでも差し向けられるようになる、と。


ヒュドラの毒ガスの備蓄量次第とは言え、おぞましい殺戮兵器に対抗できる国家なんて存在しないはずだ。

大結果の内側やルースランドでエルスカインが何をしていようと、他の国の元首達は自分たちに災いが降りかからないように息を潜めているしかない。


エルスカインに歯向かって目を付けられたら破滅だからな。


細かく言えば、老魔道士の話の中で端折られている部分・・・つまり『土木作業を行わせる』と、『大結界が稼働し始めたら』との間に、『大結界の完成』というステップが入るだろう。

そのための何かが、あそこの地下にある。

しかもエルスカイン自身が運び込んだのでは無く、元からそこにあった状態でだ。


考えてみるとエルスカインは、エルダン城砦にしろ、ウルベディヴィオラにしろ、ヴィオデボラにしろ、そして獅子の咆哮やホムンクルス工房にしろ、基本的には埋まっているモノを掘り起こして活用している。

それは転移門や各種の魔道具を稼働させるために使っている高純度魔石からして同様だ。

老魔道士が言っていたように、いかに高度な魔導技術を持つエルスカインと言えど、『素材の欠乏』はいかんともし難いってコトなんだろう。


じゃあ、太古のドワーフ族が見捨てた廃鉱山に何があるって言うのか・・・?


・・・って、鉱山なんだから『鉱石』に決まってるよ!


そしてその鉱石が、大結界を完成させるために『(かなめ)』なんだ!


太古のドワーフたちには意味が無かった、あるいは利用するための冶金(やきん)術がまだ登場していなかった、そんな貴重な鉱石が手つかずで旧市街の地下に眠っているとしたら?

エルスカインが掘削作業の邪魔になる市民は皆殺しにした後に、旧市街の一角どころか街全体を掘り返すとしても驚かないな・・・


なんの根拠もない推測に過ぎないと言えば過ぎない。

でも俺はこの時、自分が正解に辿り着いたんじゃないかっていう感触を掴んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ