表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
839/934

目的の場所とは


「そうだ陛下、一つ御願いがあるんですが...」

「おお、ぜひ言ってみて欲しい勇者殿」


「先ほどのレスティーユ家とロワイエ家の件です。あらかじめ言っておきますが、俺にはレスティーユ家への私怨...恨みや憎しみはありません。それよりも背後にエルスカインの影が見え隠れしていることが気になります」


「それは間違いないという気がするが」


「そこで相談なんですが、両家に関する情報を集めて欲しいことと、俺たちがこっそりレスティーユ領に入り込んで調べて回っても言い訳が立つような、そういう身分とか役目とか立場とか、なにか用意して貰えませんか?」

「なるほど!」

「自治領に近いと言うことであれば、王家が表立って動くのも軋轢を生じるでしょうし、エルスカインに警戒させる可能性もあります。俺とシンシアがただの民間人...例えば行商人みたいな姿に身をやつして動く方が良いと思うんですよ」


「侯爵家に出自を持つ勇者殿と大公家の姫君が行商人? これはまた突拍子も無く面白い! 相手の意表を突くとはこのことであるな!」


そう言ってクローヴィス国王は笑い声を立てたけど、俺たち、いや俺にとっては貴族風の装束よりもソッチの姿の方が落ち着ける姿だったりするのだ・・・


その後もクローヴィス国王とはしばらく話し、結局のところ『国家の力』を行使してエルスカインと闘う術はいまのところ無い、という結論に納得して貰った。


エルスカインは軍隊で制圧できる相手でも、法律や王命で縛れる相手でも無いのだから致し方ない。

ジュリアス卿とパトリック王も、そこの機微はサクッと理解してくれたから良かったんだけど、クローヴィス国王も同じで安心したよ。

やっぱり『評判の良い国』の元首というのは、聡明で物わかりが良いモノなのかもしれないね。


そして『王宮へ賓客として滞在してはどうか』という誘いを固辞し、ついでに『自分もワイバーンに乗って飛んでみたい』というオーラを醸し出しているクローヴィス国王の気配には気が付かないフリをする。


そして、今後もパジェス先生を通じて密かに相談しあうと言うことで合意した一行は、また二階へ上がって王宮本館へと戻っていった。

さっきは吹き抜け二階の回廊に突然現れたので驚いたけど、実は王家の関係者のみが利用できる渡り廊下的なモノが図書館との間で繋がっているらしい。

しかもしれは建築物と言うよりも魔法で作られたモノに近いので、無関係な者は絶対に通れないそうだ。


++++++++++


クローヴィス国王は好感の持てる人物でホッとしたけど、この図書館も、本来なら王家が独占していてもおかしくないような貴重な知識の数々を、こうして広く利用できるようにしているのだから、むしろ開明的と言うべきなんだろうな。


その嵐が去った後の閲覧室に残った俺たちは、国王が来るまでというか、オレリアさんがモルチエ卿というオッサンに絡まれる前の状態へと思考を巻き戻した。


俺たちと一緒に残ったパジェス先生に、『放棄された農地』が後に『公園』として活用された場所が何処なのか、そこがいまどうなっているのかを調べているところだと説明し、マリタンのアイデに基づく調査方法について話す。


「凄いっ!」


パジェス先生の第一声はやっぱりそれだった。


もちろん、この喚声が向けられているのは俺とシンシアが場所探しのヒントを見つけたことでは無く、魔導書であるマリタン自身が新しい魔法と錬金素材の開発を行っている、ということの方だ。

まあ、それは俺も掛け値無しに凄いと思ってるから、マリタンにパジェス先生の賞賛が向けられていることは、純粋に仲間の一人として嬉しい。


興奮気味に新しい魔法の概念をマリタンに聞き質しているパジェス先生は少しの間そっとしておくことにして、俺とシンシアはオレリアさんが新たに持ち込んできた資料の内容を検分してみることにする。


「売り買いの来歴に『公園用地』と記されていたものは無かったのですが、区画図は古いものも残っておりましたので、それを年代順に比較すれば何か分かるかと思って持って参りました」

「有り難うございます、オレリアさん」

「いえ、過去に広い公園だったとしても、後に細かな区画に分割されて別々の人の手に渡っているということも多いですから...」


それはそうだろう。

一気に大きな土地を買える人は限られているからな。

それに手間さえ考えなければ細かくして売った合計の方が、一括で売った場合よりも高くなることも多いと聞いた。

土地の場合でも、まとめ売りの場合は値引きを要求されるのかな?


「だとすると、昔は一区画が広くて、後代に行くほどゴミゴミしてくる、そんな場所を探してみればいいのかな?...」


「御兄様、それは大きな可能性ですが、一時的に細分化されていたけれど、いまは広く使われているという場所も外せないですよ?」

「え、なんで?」

「大きな土地を手に入れた時は、細かく分割して売って差益を多く得るということも多いですけど、逆に細かな土地を買い集めて一つの広い土地としてまとめ、貴族や大商人相手に高額で売りつけるということも多いそうですから」


「へぇー、そうなんだ...でも、前者と後者の切り替えポイントがサッパリ分からないぞ?」

「それはケースバイケースですね。土地の様子や、欲しがっている人がいるかどうか次第ですから。それに、最初に公園を潰して譲渡するとなった時に、大きな土地のまま売ったのか、その時点で細かく分割したのかは分かりません」


なるほど?

やはり良く分からない・・・


あ、コレってひょっとすると、アーブルの劇場で知り合った銀行家のバティーニュ准男爵から教えて貰った話かな?

あの人、土地開発が大好きだって言ってたもんな!


「だったら、ともかく古い区画図で広い土地が載っている場所を優先的に探してみようよ。それでめぼしい候補が見当たらなかったら、後代にどうなっていくか比較してみるのが良いんじゃ無いかな?」


一口で『旧市街の西の外れ』と言っても、エリアとしては結構広そうだ。


それにシンシアの意見を要約すると、結局『全ての土地に可能性がある』と言う話になってしまいそうな気もするし・・・

だったら、シンプルに『古い区画図で広い場所』を探す方が手っ取り早いだろう。


ただしオレリアさんの話によると、正確な区画図を記録するようになったのは、『王都物語』の農場はもちろん、『ラファレリアの復興と発展』に書かれている公園造成の頃よりもずっと後だそうで、今は無き『公園』が区画図に記載されている可能性は低いらしい。


早速オレリアさんが持ってきてくれた区画図の冊子の束から、一番下にある古いものを引っ張りだし、パラパラとめくってみる。

さっき見ていた地図を較べると縮尺が細かいので、なんとなく大通りと小径の見分けさえ付く感じだ。

もちろん、早々に公園だったぽい場所が目に付くはずも無く、初めて訪れたラファレリアという街が変遷していく様子を学ぶような気分でページをめくっていく。


三人で手分けしながら、古い区画から新しい区画へと順繰りに調べていったけれど、あからさまに『広い土地が小分けされた』とか『貧民街が一掃された』みたいな劇的な変化は見当たらなかった。


「なかなか難しいな...」


「そうですね御兄様、この様子だと、もう少し別のヒントも見つけないと厳しいかも知れません」

「別のヒントか。つまり『王都物語』に出てくる農場が何処にあったか、もっと絞り込めるようなネタってことだよな?」


「そうなりますね。『ラファレリアの復興と発展』の方では、あれ以降は公園に言及している記述はありませんでしたから、『王都物語』に別の話が出ていたりすると良いのですけど」

「うーん、大失敗して散財して放棄した土地だからな...その後も関わってるか微妙なところだ」


とは言え、わずかでもヒントがあるとしたら無視は出来ない。

なんならパジェス先生に頼んで『王都物語』を貸し出してもらい、持ち帰ってみっちり読み込んでみるのが最速の最適解だって可能性もありうるだろう。

これは区画図を眺めるよりも、先に『王都物語』をしっかり読み込んでみるかと考え始めた頃、丁度、開いていた区画図の一角に目が留まった。


いや正確に言うと、無意識に蓄積されていた違和感にスイッチが入ったっていう感じだろうか・・・


その違和感とは、とある地域の区画図において、古いものから順にめくっていっても『変化がない』区画(ブロック)が一カ所だけあると気が付いたことだ。

もちろん貴族の屋敷なんかは建てられてから数百年も経つくらいは普通だし、そもそも城の類いは四百年前の大戦争を機に一気に造られて、そのまま残っているという建物も多い。


だけど建物一つだけの話ならともかく、区画(ブロック)全体に四百年間全く変化が無いって言うのは不自然じゃないか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ