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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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ラファレリアの空で


「そう言えば、街が復興して王宮を建てた後でも、王宮の周辺はずっと農地だったみたいですよ。アルファニア王家はエルフ族ですから、自分の農地で収穫できる作物を好むんです」


「え、そうなの?」


「そうみたいですよ。私はハーフだからなのか気にしたことがありませんけど、エルフ族的な感覚では、自分が日頃いる場所と同じ大地で、同じ陽射しや魔力を受けて育った野菜や果物や獲物...要するに地元の産物ですよね? それらを食べて生きることが大切だって思うらしくて」

「へぇー!」

「だからエルフ族の場合は、貴族でも敷地内に自家農園を持っている家が多いんだそうです」

「そりゃ知らなかったよ」


そう言えば王都のリンスワルド家別邸でも、広い庭で色々な作物や家禽が育てられていたな。

姫様は『いつでも自前の食材が用意できれば、不意の来客にも対応できるので...』とか言ってたけど、その根底にはエルフ的な感覚が息づいていたのかも知れない。

きっと領地にあるリンスワルド城も周辺が緑豊かなのも、そういう感覚が基盤にあるからだろう。


「もっとも、ラファレリアが発展して大きな街になり、王宮もどんどん人が増えて拡張していくうちに、さすがに足下で野菜を育てるのは無理があるとなったのでしょうね」

「街の成長って、経緯を聞くと面白いよな? キュリス・サングリアの歴史を姫様から聞いた時も感心したよ」


「そうですか? むしろ私もお母様も、御兄様が街の姿を『涙の真珠』って仰ったことの方に感銘を受けましたけど」


「まあ、あれはふっと思い浮かんだだけさ...」


あの時にパルミュナが姫様から貰った巨大な真珠は、いまではセイリオス号の斥力機関の『芯』になってしまっている。

いつか、ピクシーサイズやコリガンサイズの身体に合う大きさのアクセサリーをパルレアに買ってあげられるといいな・・・


シンシアに聞いた話では、ラファレリアはミルシュラントの王都キュリス・サングリアやエドヴァルの首都カシンガムよりも遙かに古いらしく、一説には、すでに滅びてしまったり、シュバリスマークの旧王都サランディスのように衰退して小さな街になってしまった古都を除くと、『北部ポルミサリアで最も古い大都市』なのだという。


もちろん、これはすべて世界戦争の後での比較だけど、それを考えると老錬金術師が言っていた『アルファニア王家の先祖は、古代の世界戦争でイークリプシャン王家と対立していた陣営だった』という話も信憑性があるよな・・・


「シンシアの言ってた本は図書館に収められてるんだよな? 王宮図書館って言うからには、王宮内にあるのかい?」


「そうですけど宮殿内部というわけではなくて、外縁部の建物です。魔道士学校の学生達や普通の官僚も出入りする場所ですからね」

「とは言え、俺みたいな部外者が入るのは難しいだろ?」

「そうですね。私だけなら申請を出せばなんとかなる可能性はあると思いますけど、それも確実とは言えないです」

「厳しいな。元魔道士学校の学生でも駄目なんだ」


「いえ、私は途中で呼び戻されたので正式には卒業していませんから...」


ああ、そう言えば暗殺未遂のゴタゴタで、リンスワルド家の魔道士達が総辞職する羽目になったんだっけ。

あの時は聞き流していたけど、呼び戻された時のシンシアは悲しかっただろうな。


「だったら不可視化したまま忍び込むしか無いか...」


「最後の手段としてはそうなんですけど、アルファニアの王宮には凄腕の魔道士達が大勢いらっしゃるので出来れば避けたいです。精霊魔法の不可視結界が見破られるとは思いませんけど、『見えない誰かがいる』とか、『不審な魔力の形跡がある』とか、万が一、そういうことを嗅ぎつけられて騒ぎにされても困りますし」


「それもそうだな」


「ですので、以前の知り合いの方に頼んでみようかと思います。王宮魔道士の一人なので図書館には自由に出入りできますし、閲覧だけで無く、本を外に持ち出すことも許されるかも知れません」

「あ。それって、ひょっとしてシンシアに探知魔法を教えてくれた先生とか?」


「そうです。でも、私が探知魔法でアレコレやってたことや勝手に弄ってたことはナイショにしてて下さいね?」

「もちろんだよ。その人はシンシアを信頼してくれたんだからな」


ナイショにした方がいいと思う理由は、シンシアが『秘密を漏らした』ってことよりも、アッと言う間に『凄い魔法に改良した』ってことの方にショックを受けてしまいそうだからだけど。


「ここからは飛翔で、その方の居所まで行こうと思います。南側の貴族街ですが、場所がうろ覚えなので飛翔しながら探す方がいいと思いますから」


シエラには当面は飛んで貰う予定が無いからシンシアの小箱の中に入ったままだし、わざわざここで出すほどのことは無い。

だから飛んで行くってことは、つまり俺がシンシアを抱っこして飛ぶってことだ。


「分かった。方向を指示してくれ」


シンシアも当然のように俺の首に腕を回して『抱っこされる』体勢を取る。

細くて軽いシンシアを抱き上げて空に浮かぶと、さっきより鮮明になってきたラファレリアの美しい街並みが目に飛び込んできた。


キュリス・サングリアも美しい街並みだったけど、ここはまた雰囲気の違う美しさで、『古都』と言われるに相応しい風情がある。

あっちは全体に『白い街』だったけど、こっちが『赤っぽい街』なのは付近で採掘される石材の違いかもしれないな。

その色のせいなのか、凜とした冷たい空気の中に佇んでいる家々は不思議な温かみを感じさせてくれる。


「綺麗な街だな...」


俺が思わず呟くと、眼下を眺めて目的の場所を探していたシンシアがパッと首を回して俺の方に顔を向けた。


「そうでしょう御兄様! お父様のいる王都も綺麗だと思いますけど、冬はとても寒いですし...実は、私の個人的な趣味としてはラファレリアの街並みの方が好きなんです」


「気持ちは分かるかな? キュリス・サングリアの方が活力に満ちてて明るい雰囲気がするけど、ちょっと権威主義な感じがあるものね。こっちの方が落ち着いてて...上品なのに家庭的な感じだ。むしろシンシアの雰囲気に合ってるって気がするよ」

「そうですか?!」

「うん。例えば、あっちの王都での暮らしが姫様のタイプだとすれば、こっちでの暮らしがシンシアのタイプだね」


「それって、私の方がお母様よりも上品で落ち着いてるってことに...」


この印象は本当に俺の本音だ。

決してシンシアが年齢の割に老成しているという意味では無いが!


例えば・・・本当に例えばの話だけど、もし仮に姫様とシンシアの人格が入れ替わっていて『シンシアの中身が姫様』だったとしたら、年齢もジュリアス卿の意向も関係なく、俺はとっくの昔に正式な婚約者になって尻に敷かれていた気がするからな・・・


「そう思うよ? だってシンシアが両手でオリカルクムの脇差を振り回しながら舞ってる姿なんて想像つかないもんな?」

「もうっ!」

「いや冗談はともかく、雰囲気についての印象はホント」


「本当に?」


「ああ、本当にホント。もちろん姫様も凄く上品な人だけど、たまに予想外にはっちゃけたりするだろ? 例えばシーベル城での武闘会の時みたいに...まぁ他にも色々と」

「確かにそうですね...」

「そりゃあシンシアにだって、さすが武闘派のリンスワルド家の女性だって思わせるところは沢山あるよ? でもね、俺はシンシアの纏う雰囲気に触れていると、それだけで心が落ち着くんだよ」


「はい...嬉しいです御兄様...」


シンシアはそう言って、俺の顔に向けて首を伸ばしてくる。

俺もちょっと下に顔を向けてシンシアの眼を見つめると、シンシアが顎を上げつつ目を瞑り、薄い桃色の唇が微かに開かれた。


「えっと兄者殿?」


「ぅあ、ああぁ、なんだいマリタン?」


シンシアのお腹の上に乗っかっている状態のマリタンから不意に呼びかけられて、心臓が止まりそうになった。


「まさかと思いますけれど、お二人揃ってワタシの存在を失念してるなんてことがあったりするのかしら、ね?」

「ままま、まぁさかそんなことは無いですよマリタンさん!」

「そ、そぉぅだとも!」


「そう? でしたらワタシは気にしませんので、続きをどうぞ」


「は、続き? もちろん目的の屋敷は探してるぞ?」

「そそそぅです。きっと、この近くだったハズなんですっ」


マリタンのシレっとしたセリフに、俺もシンシアも揃って顔が赤くなってしまったよ・・・ってか、分かっててワザと言ってるよなマリタン!


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