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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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いわゆる作戦会議


俺たちが戻った気配を感じ取ったエスメトリスが、少しけだるい雰囲気漂わせながら寝室から出てきたので、俺たちがどこで誰と話してきたかを手短に説明し、ここまでの情報を共有する。


ちなみに、これまで『大人の女性』的な雰囲気を漂わせていたのはマリタンの声だけだったけど、これでシンシアとパルレアの可憐な美少女二名に対して、妖艶な大人の女性が二名・・・マリタンもエスメトリスも人族では無いけど・・・というバランスの取れた組み合わせになったワケだ。


いや、だからなにがどうって訳でも無いけどさ。

ちょっと現実逃避しようとしてたな、俺の思考・・・


あの老錬金術師から聞かされた話は、それくらい重い話だった。

もちろんアスワンから大結界のことを聞かされて以来、文字通りに『世界の危機』だと捉えて向き合って来たつもりだったけど、具体的に何が起こるかを聞かされると『心の重荷』が一桁ほど重くなると言っていい。


シンシアはすぐに銀ジョッキの操作台を出して、いつでもマディアルグ王と老錬金術師の監視に戻れるように準備したが、画面の中に動きは無い。

あの部屋は本来がホムンクルス置き場であり、日常的に誰かがいる空間では無いのだろう。

むしろフェリクスがアヴァンテュリエ号と繋ぐ転移門を・・・恐らくはエルスカインにもコッソリと・・・置かせたことが普通じゃ無いのだ。


「さてと...予想外の収穫だったのは有り難いけど、予想外に重大な話だったよ。これって、パトリック王やオブラン宰相になんて話せばいいんだ?」

「難題ですね...」

「そのまま言っちゃえばー?」

「もちろん、本当はそれがいいんだけどなパルレア」


「マリタンさん、獅子の咆哮の地下が探れなかったのは、きっとその『兵器本体』の構造物で遮蔽されてたからですよね?」

「ええシンシアさま。きっとそうだと思うわ」

「だったら相当な大きさですよ御兄様。『獅子の咆哮』が浮かび上がったら黒壁の周りに穴が空く程度では済まない可能性も...場合によっては王家の谷が崩壊するかもしれません」

「だよなぁ...そうなると、この王宮だって無事かどうか分からないよ」


「なあライノ、あの錬金術師の爺さんが言ってことが、俺たちを嵌めるための罠だって可能性は無いのか?」


「パルレアはどう思う? あのご老人は嘘をついてたかい?」

「ぜんぜーん」

「嘘は混じってなかったと」

「アタシに分かる範囲ではねー...」

「なら罠じゃ無いよアプレイス。俺は自分の目と耳以上に、パルレアの目と耳を信じてるからな」

「了解だライノ」

「でもお兄ちゃん、アタシは『しょーじきなホムンクルス』って、なんかムカつくんだけどさー!!」

「無茶言うなよパルレア...」


なんとなくパルレアの言いたいことも分からないでは無いんだけどね。


悪の権化の、その手先としてずっとやって来たヤツなのに・・・実は正直者で、自分の過去を振り返って後悔して・・・挙げ句に雇い主の暴挙を勇者に止めさせようと考えるなんて、ちょっと上手く飲み込めない話だ。


でも、俺自身もあの老錬金術師が俺を罠に掛けようとしてるとは全く思えなかったし、エルスカインがそんなことをさせる理由も思い浮かばない。

ただ、きっと俺もパルレアも、悪い奴は悪い奴のままでいて欲しかったんだろうな・・・

言うなれば、『成敗しても呵責を全く感じ無い相手』のままで。


正直、今度あの老錬金術師に会った時に、俺はすっぱりとガオケルムを振るうことが出来るんだろうかと考えてしまうよ・・・やるしか無いと分かってはいるけど。


「まず最初に確認しておきたいんだけどいいかな?」


俺がそう言うと、皆が一斉に俺の顔に目を向ける。

マリタンの雰囲気も含めて、笑ってる顔は一つも無い。

パルレアでさえだ。


「ラファレリアの被害を防ぐためにルリオンを見捨てるって選択肢は、俺には有り得ない。そこはみんな納得でいいかな?」

「もちろんです御兄様!」

「まぁどっちかを見捨てなきゃいけない時点で負けだろうな」

「ねー!」

「一つ聞いてもいいかしら兄者殿?」

「なんだいマリタン」

「これはあくまでも現実的な確認なのだけど、もし『獅子の咆哮』が浮かび上がってしまった時に、ルリオンでもラファレリアでもない場所にだったら、叩き落とすっていう選択肢はあるのかしら、ね?」


それはそれで難問だな。

でもマリタンの問題提議は正しい。

要は俺たちが力不足だった時に『何を諦めるのか』って話であって、全てを救えないなら、救う対象を『選ぶ』しか無い。


「それしか無いならな。俺たちの力が及ばず、それ以外に大結界の完成を遅らせる方法が無いなら、やるしか無いと思うよ。もちろん、その時にも出来るだけ被害の少ない方法を選びたいとは思うけどね」

「分かったわ兄者殿」

「では御兄様、あらかじめパトリック王を通じて、王宮の方々やルリオンの市民達に避難を呼びかけておきますか?」


「いやシンシア殿、それをやると必ずエルスカイン側に情報が伝わるぜ。むしろ歩みを早めさせてしまうんじゃねえか?」

「そうですね...」

「アプレイスの言う通りだ。ルリオンを犠牲にするつもりはこれっぽっちも無いけど、ヘタな騒ぎにすると却って全体の状況を悪くすると思う。それもあってパトリック王達になんて伝えるか悩ましいんだけどな!」


「まあ仕方ないぜライノ。地面に埋まってる状態で獅子の咆哮を粉砕するって話じゃ無けりゃあ、すぐルリオンに被害が及ぶとも限らないし、やりようは有ると思うからな?」

「やりようって...例えば?」

「俺と姉上が飛翔装置ごと獅子の咆哮を抱え込んで海の上に持っていく」


「いや、仮にそれが出来たとしても、ずっと抱えてなんていられないぞ? 力負けすると分かったら、相手は必ず毒ガスを放出して二人を殺そうとするよ」


「だったらその前にライノが、例の『魔石矢』で俺たちごとまとめて獅子の咆哮を吹っ飛ばすんだよ。海の上なら被害も抑えられるだろ?」

「うむ!」

「うむじゃないエスメトリス! そんなコト出来る訳あるかぁっ!」


「しかしクライスよ。もしソレしか方法が無いとなれば致し方有るまい?」

「いやいやいや待てって」

「俺だって、これは最後の手段だと思うぞライノ。だけど、もし最後の手段を取らなきゃいけなくなった時は、やるっきゃないだろ?」


「勘弁してくれよアプレイス...」


「どうしてもクライスに出来ぬと言うなら、我とアプレイスが両側から飛翔装置を抱えて、同時にブレスを浴びせかけるしか有るまいな。それで無事にヒュドラのガスを焼き尽くせたなら良いが」


「その前に二人とも死ぬだろ!」


「無論だクライス。だが他に方法が無いからこそ『最後の手段』と言うのであるぞ? お主が手を下せぬと言うならば、我らは誇り高きドラゴン族の姉弟としてその命を全うする。愛するアプレイスと最後を共に出来るのであれば、我にとっては悪くないゆえな?」

「はい姉上。俺も喜んで姉上と一緒に星の世界へ参ります」

「嬉しいぞアプレイスよ」


「分かった! 分かったから! 姉弟揃って互いにブレスを吹きかけさせるなんて出来る訳ないだろ! 俺が頑張るよ。最後まで俺が超頑張る。もしもの時は俺が最後まで責任持ってなんとかする! それでいいか?」


「ああ、ライノがそう言うならな」

「うむ。すべて、勇者ライノ・クライスの考えに任せよう」


全く・・・いきなりこんな話になるとは。

そりゃ確かに『救う対象を選ぶ』しか無いんだけど、よりもよって親友と恩人をこの手で吹っ飛ばすハメになる可能性を話し合うとは思わなかったよ。


出だしからキツいんだけど?


「ともかく持ち上げて飛ぶってのはナシだ。ヴィオデボラでの様子から見て、ドラゴンと言えども海に行くまで保たないと思うからね。たぶん持ち上げてもルリオン市街のど真ん中に一緒に墜落するってオチになりかねないぞ?」


俺がそう言うと、ふいにシンシアがずいっと身を乗り出した。


「私もそう思いますエスメトリスさん。酷い言い方になってしまうかも知れませんが、それこそ『犬死』になりかねません。私はアプレイスさんにもエスメトリスさんにも、そんな最後を迎えて欲しくないです!」


シンシアが滅多にださない強い口調だ。

エスメトリスは少し驚いたようにシンシアの方を見たが、すぐに満面の笑みに代わった。


「あいわかったぞ愛しいシンシアよ! シンシアが我らを案じてくれるその心、決して無下にしたりはせぬ。軽々しく命を捨てたりはせぬと誓おう」


「はい、有り難うございます!」


シンシアは納得したけど、俺はまだちょっと引っ掛かる。

エスメトリスもアプレイスも性格的に、『軽々しく早急に』じゃ無ければ、命懸けの行動に走りかねないからな。


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