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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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フェリクスの再出現


王宮警備隊に派遣された使者から詩集を受け取ったブリュエット嬢は使者への礼もそこそこに、急ぎ足で部屋に戻っていく。

その後を銀ジョッキに追わせて一緒に部屋に入り、前回と同じポジションに陣取らせる。


ブリュエット嬢はお茶の準備をしていたメイドに『自分が呼ぶまで絶対に部屋に立ち入らないように』と釘を刺して追い出すと、そそくさと頁を開いて無事に魔法陣が挟み込まれたままであることを確認した。


シンシアが偽造した手紙には、『転移先の開門が間に合わなかった場合は、この転移門の中に入ったままになるかもしれないが、中の人物に危険は無い。転移門を回収できたら、念のために魔石を飲み込ませて転移門を開くことで無事を確認できる』と記しておいてある。

ブリュエット嬢は絶対に予備の魔石でフェリクスの無事を確認するはずだ。


自ら転移門に飛び込んだフェリクス本人は、エルスカインの拠点にどこかに繋がっているのだと思い込んでいただろうから、ブリュエット邸で飛び出せばかなり驚くだろうな。

まあ、『エルスカインならではの用心深さ』だと納得して貰うしかないんだけどね・・・


ともかく、俺たちが固唾を飲んで見守る中で、ブリュエット嬢は丁寧に魔法陣の紙を開き、渡しておいた二つ目の高純度魔石を飲み込ませた。

ここが、シンシアの模造した罠のミソだ。

本来の錬金術師が作った『転移先記述の失敗作』の罠の時はパルレアが魔力を注ぎ込んで転移門を逆向きに動かすことでペリーヌ嬢を救出したけど、こちらの改良版は魔石を喰わせるだけで転移門への入出を交互に繰り返すように作ってある。


しかも、転移門に『吸い込む』時と『吐き出す』時にそれぞれ魔石の追加が必要な造りにしてあるから、思わぬ事故の危険性が激減しているのだ。


と言っても、俺たちがこんな罠を使うことは、もう無いと思うけどね・・・多分。


『う...ここは?』


転移門から転がり出てきた肌着姿のフェリクスが驚いた表情で辺りを見回し、すぐ脇に立っているブリュエット嬢の存在を認めた。


『こんな転移先は知らんぞブリュエット? どうなっておるのだ?』

『ご無事で何よりですわ。ここはわたくし個人の屋敷でございます』


地下牢では母上と呼びかけていたのに、二人きりだと母親を呼び捨てか?

ブリュエットもフェリクスに対して敬語を使ってるし、どうもおかしな雰囲気だ。


『ああ、お前の家か。王宮からはかなり離れていたと思うが、使用人達の身元は大丈夫だろうな?』

『もちろんでございます。この十年、パトリックの手の者が訪ねてきた事もございません』

『はっ! それで安心するなよブリュエット。お人好しのパトリックはともかく、ユベール・オブランは油断のならん男だ。恐らく今では、この屋敷の周囲も見張らせておるだろう』


そう言われてブリュエット嬢がハッとした顔になる。

正解だよフェリクス。

しかも家の周りじゃ無くて、その部屋の中も見張らせて貰ってるけどね!


『しかし、その転移門はどうやって入手したのだ?』

『直接この屋敷に届けられました。夜の闇に紛れて一頭のワイバーンが運んで来たのでございます』

『ワイバーンが?』

『はい。転移門と魔石、使い方を書いたこの手紙を入れた革鞄を口に咥えて降りて参りました。首から魔石のランタンを提げておりましたゆえ、野生の個体では無いとすぐに勘づいたのでございます』


『フーム...この文字と転移門のカタチ...となるとアイツの手回しか...懐かしいな。まぁいい。俺を直接どこぞに送り込まなかったのは、万が一の追跡を懸念してだろう」

『追跡? 転移門とは追跡できるものなのでございますか?』

『知らん。だがエルスカインが出来るかも知れぬと考えておるのであれば、本当に出来るのかも知れん』

『ならば、この屋敷もすでに?』

『その場合はパトリックの配下や、あの忌々(いまいま)しい勇者どもに襲撃される可能性はあるな。覚悟は決めておくがよい』


俺たちが忌々しくて悪かったなフェリクス!

いや、むしろコイツらに忌々しいと思われてるなら良い事か。


『左様で御座いますか...かしこまりました陛下。このブリュエット、サラサスを陛下の手に取り戻すためならば、喜んで(いしずえ)になる覚悟にございます』


おい、ちょっと待て!

いまブリュエットは陛下って呼びかけていたぞ?


「御兄様っ、いまブリュエット嬢がフェリクスのことを『陛下』と呼びましたよね?!」

「ああ。ってことはブリュエット嬢はフェリクスの正体...ホムンクルスの魂の中身を知ってるってことだ。自分の本当の息子を殺して入れ替わってるマディアルグ王だとな」

「息子を殺されて...それでも陛下と敬うんですか?」

「マディアルグが手を下してないとか?」

「ですが...」

「経緯が分からないからな...例のモヤで操られてる様子じゃ無いし、場合によっては、ブリュエットは『本物のフェリクスの魂』がエルスカインの手で保管されてると思ってるのかもしれない。有り得ない話じゃないからね」


「それってエルスカインにメリットがあれば、ですよね?...」

「まあな」


『立派な心がけだブリュエット。あの忌々しい勇者どもが現れたのは予定外だったが、なに、少しばかり計画が遅れるに過ぎん。いずれバランド子爵家とお前たちの忠誠には報いよう』

『勿体なき御言葉にございますマディアルグ陛下』


うーん、お前たちって言い方が少し引っ掛かったな。

ブリュエットの他にルフォール侯爵家の連中を指してる可能性もあるけど、文脈からすると、お前たちと言うのはブリュエット嬢と本物のフェリクスだと考える方が腑に落ちる感じがする・・・


『ともかく、今はこちらの体制を整え直すのが先決だ。自害して身体が消えたかのように地下牢に脱いだ服を置いて偽装してきたが、勇者に見抜かれる可能性もある。ここに持ってきたフェリクスの服は今もあるな?』

『はい。すぐにお持ちします』

『うむ、念のためお前が持ってこい。俺がいる間、この部屋にはメイド達を近づけるなよ?』

『承知いたしております』


すぐにブリュエット嬢は服を取りに部屋を出た。

残ったフェリクス・・・いまでは中身がマディアルグ王の魂だと確定しているが、どかりとソファに腰掛けると天井を見上げてボソリと独りごちる。


『面倒だな...これなら死んで戻った方が手っ取り早かったかもしれん...』


やっぱりか!

実際のところはどうか分からないけど、マディアルグ王自身は何度死んでも蘇ることが出来ると確信している。

そりゃあ四百年ほど前の世界から生き返ってきたのなら、そう思って不思議は無いけど・・・

いや、この余裕からすると、すでに経験済みってコトか?

エルスカインは、本当に魂の複製を無数に用意できるんだろうか?


『陛下、こちらの服でよろしいでしょうか?』


ブリュエット嬢が両手一杯に服を抱えて戻って来た。

十年前に亡くなったはずの息子の服を今でも保管しているって言うのは、普通なら『想い出の品だろう』とかって思うところだけど、きっとブリュエット嬢の場合は違うな。

単に、いずれ『また必要になる』と判断していただけだろう。


『ああ。それとなんでも構わんから何か食い物を袋に詰めて用意しろ。メイド達は全員自室に下がらせて部屋から出すな』

『かしこまりました』

『俺はこれから向かうところがある。転移門を運んで来たワイバーンはまだ近くにいるのか?』

『いえ、いつの間にか飛び去っておりました』

『だろうな。まあいい』


ブリュエット嬢が部屋から出ると、フェリクス=マディアルグはテーブルの上に積まれたフェリクスの服を適当に選んで身に着け始める。

一通りの装いが整った時、布袋を抱えたブリュエット嬢が戻って来た。


『パンと干し肉、ハムとドライソーセージをご用意しました。ワインもお持ちしますか?』

『いらん、水だけ有れば良い。お前の馬を借りて行きたいが、ここに男物の鞍は置いてあるか?』

『はい陛下。フェリクスが使っていた鞍が(うまや)に保管してあります。いまも馬丁が手入れをしているかと』

『ならばよし。お前が(うまや)まで先に立って歩け。もしも指示を聞いてないメイドや馬丁がうろついていたらすぐに引っ込ませろよ』


フェリクス=マディアルグはブリュエット嬢から食料の入った袋を受け取ると、チラリと中を確認してから肩に背負った。

そのままブリュエット嬢を先に部屋から出し、少し間を置いて様子を見ながら廊下に出ていく。


シンシアは、そのタイミングに合わせてスムーズに銀ジョッキを部屋から廊下へと送り出した。

ナイスなコントロールだ!


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