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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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詩集を追跡開始


「そうか。ならばこの本は持ち主であるブリュエット嬢に返すのが良いであろう。フェリクスが牢内で死んだことは告げるが、反逆者ゆえ遺体は家族に戻さぬと言えば納得するしか有るまい」


「はっ! 残っております服や短剣は如何致しましょうか?」


「元々が叛逆人である上に、消えたのも人ならぬホムンクルスとあっては遺品というモノでもあるまい...燃やしておきなさい」


「かしこまりました!」


警備隊長がホッとした表情になる。

ブリュエット嬢に本の持ち込みを許したことを咎められるかと内心ヒヤヒヤしてたんだろうな。


オブラン宰相はブリュエット邸への使者を立てるにあたり、『機密事項ゆえに、公に使者を送るのは憚られる...密かに警備隊から人を出せるか?』と警備隊長に聞いた。

もちろん隊長は二つ返事だ。

ならば、ついでに本も間違いなくブリュエット嬢に返しておきなさいと指示をして詩集を警備隊長に渡し、悠々と地下牢を出て行く。


詩集を受け取った警備隊長は牢内に残って、床に広がっている衣類と短剣をひとまとめにし始めた。

オブラン宰相は、さすがの演技力だったな・・・


< 見事な芝居だったなぁ >

< あの演技は、御兄様には無理ですよねっ! >


< そこかシンシア! 最初の感想がソレなのか? >


< 冗談です御兄様。もしアプレイスさんや御姉様がこの場にいたら、きっとそう言いそうだなと思ったので... >

< それは間違いない。って言うか、素直に自分には無理だって思うよ >


< でも私は、それが御兄様の良いところだと思っていますからね? 嘘が苦手なのは御兄様の美徳です >

< う、ありがとうシンシア... >


思いっきり嘘が下手なシンシアから『美徳』とか言われると、むしろ後ろめたい気分にならなくも無いけど・・・以前にも同じ事を考えた気がするな。

まあ、それも言わぬが花か。


< 詩集が間違いなくブリュエット邸へ届くかを見張って、それからフェリクス自身に掛けた探知魔法を起動しましょう。彼が転移門の罠から吐き出された時点で、探知魔法に反応が現れるはずですから >


< よし、戻るか >


++++++++++


借りている居室に戻ると、すでにオブラン宰相が待ち構えていた。


「お帰りなさいませ勇者さま、シンシアさま。やはり、あの場に立ち会われておられたのですかな?」

「ええ、いました」

「それは少々気恥ずかしいですな。大仰にし過ぎてワザとらしくなってはいないかたと案じておりました」


「とんでもない! ずっと見てましたけど自然な振る舞いと口ぶりでしたよ。あれなら警備隊長達も一欠片も疑わなかったでしょうね」


「それなら良うございました。して、フェリクスの所在を探知するのはいつから行われますか?」

「あの詩集がブリュエット邸に届いてからですね。念のために本にも探知魔法を仕込んでおきましたから、もしも警備隊長が良からぬことを考えて詩集をどこかへ持っていこうとすれば、それも分かります」

「では安心ですな」

「ブリュエット邸にフェリクスが出現したら、すぐにお知らせします。そこから先は正直言って、どこまでどう追えるか出たとこ勝負ですけど」


「はい。そこは承知しております。勇者さまの仰るように『ヒュドラの中心の首』を取り押さえねば解決はございません」


そう言ってオブラン卿は辞していった。


何度も宰相執務室とここを往復させていて申し訳ないけど、順調にいけばフェリクスがブリュエット邸で転移門から飛び出すのは、すぐのことだろう。

警備隊長が指示通りに警護騎士を走らせていれば、夕方頃には結果が出るはずだ。


++++++++++


「御兄様、ちょっと様子が変です...」

「どうしたシンシア?」


シンシアが眉毛を寄せてルリオン平野の地図を睨んでいる。

詩集がちゃんとブリュエット邸に向かっているかを、時々は探知しておこうと話していたのだけど、早速、不穏な様子があるらしい。


「それが...本と服が同時に、別々の場所へ向かっているようなんです」

「は?」

「詩集の方はブリュエット邸に真っ直ぐ向かっていると思います。銀ジョッキが載せられてきた馬車の経路を、そのまま逆に辿っている感じですから」

「なら服の方が?」

「ええ、服は王宮を出てから全く違う方向へ向かっていますね。ルリオン市街ということでも無さそうですけど」


「ちょっと判断に困るな...悪いけどオブラン卿に見て貰おう」


例によって扉を開けて廊下に顔を突き出した瞬間に目が合う部屋付メイドさんと護衛騎士さんに目配せして、オブラン宰相にすぐ来てほしいと伝えてくれるよう頼んだ。

もはやこの人達は、俺たちがいつどうやって部屋を出入りしているのか考えるのは止めたらしい。


本当なら宰相執務室にでも転移門を開かせて貰えば色々とやり取りがカンタンなんだけど、一応はシンシアもいる手前、ミルシュラント以外の国の重鎮に手紙箱を使わせるのは憚られるからね。


ともかく、小走りでここまで来たんじゃ無いかって思う位すぐにオブラン宰相が部屋に来てくれた。

シンシアの探知魔法が走っている地図を見せて、本と服が別々の場所へ向かっていることを説明する。


「ふむ。転移門を挟んだ本の方は、問題なくブリュエット邸へ向かっているのですなシンシアさま?」

「ええ。服の方だけがどこかへ向かっています。この方向ですね」


シンシアが地図の一角を指差すと、オブラン宰相はしたりとばかりに頷いた。


「なるほど...恐らくでございますが、『服』が向かっているのはルフォール侯爵家の別邸では無いかと思われます」

「あー、やっぱりソッチ系ですか?」

「警備隊長には服を燃やせと指示したのですが...恐らくルフォール侯爵家への手土産と申しますか、本当にフェリクス、いや、フェリクスのホムンクルスが現れたのだぞと言う証拠のつもりなのでしょう」


「本家への点数稼ぎみたいな感じですか? ...まあ、あの服には変な魔法や陣が仕込まれてたりはしませんから、本当にタダの服に過ぎないですけどね」


パルレアとマリタンが調べたし、そもそもフェリクス自身が脱いで捨てていったのだから、大切なモノであるはずが無い。


「しかしながら、れっきとした『証拠品の横流し』でございますな。よもや王宮警備隊長の行いではございますまい」

「それは確かに」

「あれでは、以前フェリクスと共謀して断罪された官吏と変わり有りません。王宮の安全に実害が無ければ、もう少し泳がせておくつもりだったのですが...彼をどのような理由で罷免するかを早めに考えねばなりませんな」


毎度ながら、俺がオブラン宰相の立場だったら頭痛がしてきそう・・・


「じゃあ、服の方は放置しておいて構いませんか?」

「勇者さまが危険は無いと考えられるのであれば、このまま捨て置いて頂いて結構でございます」

「わかりました。じゃ、そういうことで」


ブリュエット嬢の馬車には銀ジョッキが付いていってるから、王宮を出たブリュエット嬢が途中で寄り道せずに屋敷に戻ったことは分かっている。


++++++++++


その後は何事も無く、転移門を挟んだ詩集は順調にブリュエット邸に到着した。


警備隊から差し向けられた使者が、玄関先に現れたブリュエット嬢に詩集を渡しながら、牢内でフェリクスが自害していたこと、実はあれはフェリクス本人では無くホムンクルスだったので、死後の遺体が消失したことを告げるが、ブリュエット嬢はまったく驚きを見せない。


つまり、『ホムンクルスとは何か?』を彼女が知っていると言うことだ。


それにしてもオブラン宰相は、あのフェリクスがホムンクルスだったとブリュエット嬢に教えろなんて言って無いだろうに、この警備隊から派遣された使者は警備隊長の指示で勝手に喋っているのか・・・

ここまでくると、完全に背信行為と言って間違いないだろう。


ルフォール侯爵家だってサラサス王国の重鎮なんだし、万が一にも国そのものが傾いたりしたら、自分たちの貴族って言う立場さえ危うくなりかねないのに良くやるよ。

結局の所、エルスカインって言う正体不明の存在を、誰もが見くびってると言うことか・・・


決してエルスカインは、貴族が自分たちの権力闘争の道具として利用できるような『ぬるい』存在なんかじゃ無いのだけど、狭い世界での権謀術策に明け暮れていると、自分たちを脅かす存在が見えなくなってしまうのだろう。


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