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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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元王子と母親


無事に手鞄(パース)を持ったまま地下牢の内側に入る事が出来て、ブリュエット嬢に心なしか笑顔が浮かぶ。

これまでの流れで、この先の牢の中にいるのがフェリクスだと確信しているし、自分は彼を助け出せると思っているからな。


少し急ぎ足になって牢の前までやってきた一行は、俺たちが見ていることに全く気が付かずに寝台でふて寝しているフェリクスに声を掛けた。


「起きて下さい。貴方に会い来た方がいます」


< 警備隊長の言い方って、囚人に対する言葉使いじゃないですよね? >

< だな。機嫌を損ねたくないらしい >

< つまり、彼もフェリクスだと確信してるんですね >


不機嫌そうな声を出したフェリクスが面倒そうに上半身を起こし、鉄格子の外に目をやる。

通路に立っているブリュエット嬢を認めると、不貞不貞しくニヤリと笑った。


「おやおやおや、母上ではありませんか。随分と久しぶりですが、お元気そうで何よりですな!」

「やはり貴方だったのですね、フェリクス」

「ええ、私ですよ。貴方の息子たるフェリクスです」

「その顔を見て安心しました」

「それは重畳。して、今日はいかがされましたか母上?」


< なあシンシア、十年ぶりに会った親子の会話かコレ? >


< 死んでいたはずが、実は生き延びていた息子と母親の奇跡の再会という(おもむき)は全くないですね >

< だよなぁ >

< 実はフェリクスも、今日、ブリュエット嬢がやって来ると知っていたのでしょうか? >

< 警備隊長が告げ口している可能性はあるけど、それにしてもね? >

< そうですね... >


「フェリクス、実はオブラン卿から、あなたと面通しして欲しいと頼まれたのです。私に『顔検分』しろと言ってくるなら、その相手は貴方しか考えられません。オブラン卿は、貴方がそっくりなニセモノかどうか、私に確認させたかったのでしょう」


「左様でしたか。して母上の出した答えは?」


「冗談はやめて下さいフェリクス。見間違うはずがございませんとも」

「でしょうな母上」

「話を聞いた時から貴方だろうとは思っていましたが、顔を見て本物だと分かりましたので、これを渡しておきます」


そう言って手鞄から昨夜細工していた詩集を取り出す。

さすがに警備隊長が一声掛けた。


「ブリュエット殿、それは?」

「昔、フェリクスの好きだった詩集です。中身をご覧になりますか?」

「出来ましたら、一応」

「ええ、是非どうぞ」


そう言って詩集を警備隊長に差し出す。

彼は受け取った本をパラパラとめくり、鍵開け道具のような妙なモノが挟み込まれていないことだけ確認すると、すぐにブリュエット嬢に返した。


「フェリクス、この先の貴方の処遇は私には分かりかねます。ですが、この詩集が貴方の心を落ち着ける役に立つことでしょう。貴方を支えてくれた古い友人達のことも、きっと思い出すはずです」


そう言いながら鉄格子に近寄ると、さり気なくフェリクスに本を渡す。

フェリクスは少し眉を上げると、黙って詩集を受け取った。


< なるほど、うまい言い方ですよね >

< フェリクスはピンとくるだろうけど、警備隊長は親子の会話だとしか思わないだろうな。その古い友人がエルスカインとか錬金術師だってのはかなり頂けないけどね! >

< 高純度魔石はどうするでしょう? >

< もう渡したよ >

< えっ、いつの間に? >


俺はブリュエット嬢が手鞄から詩集を取り出す時、同時に魔石を一個取り出して手の内に握りしめていることに気が付いていた。

警備隊長に詩集を渡す時には片手で差し出したので、彼はブリュエット嬢の手の内を見ていない。

手鞄は小脇に挟んだままだったし、本を受け取ってそのままフェリクスに渡したから、詩集の下に添えた手に魔石が握られていて、手を出したフェリクスにそれを押しつけたことは誰も気が付いていないだろう。


< 先に魔石を手の中に隠しておいて、本の下で渡したんだよ。みんな気が付いてない >

< 私も気付きませんでした... >

< 気にするなよ。見てた位置の問題さ >


実際、俺とシンシアはあえて少し離れて立って牢を見張っていたので、シンシアの角度からは見えづらかったのだろう。


「それではフェリクス、これから私はオブラン卿に『本物の貴方だった』と告げなければなりません。色々と大変なことも多いと思いますが、決して気を落とさないように」

「そう心がけますよ」

「気分が沈みそうになったら、好きだった詩編を読み返してみると良いでしょう。きっと若い頃の気分が戻ってくるはずです」


「そうですな...ええ、そうしましょう母上」


それからブリュエット嬢は警備隊長に向かって頷いて見せた。

これで面談は終了ということだ。


「警備隊長殿、本来、牢獄内に差し入れを持ってきてはならないのでしたら、その本は後で私に戻してくださいますか?」

「良いでしょう」

「御願い致します。では私はこれで」


< 『本を後で返せ』って、フェリクスが処刑されたら本を返せって言ってるのに近いよな? 死なないと分かってるからだろうけど >

< ちょっと迂闊な発言ですね >

< フェリクスの方は魔石も受け取ったし、完全に状況を理解したようだけどな。ブリュエット嬢達が立ち去った後にどうするか、このまま見届けよう >


一行が来た道を引き返し、地下牢入り口の二重格子を再び通り抜けて外に出るまで、フェリクスは鉄格子に持たれるようにして佇んでいた。


地下牢エリアから一行が出る様子はフェリクスの入っている牢獄からは見えないけれど、気配でみんなが立ち去ったことは分かったのだろう。

寝台に座って詩集をパラパラとめくり、すぐに魔法陣を綴じ込んだ頁を見つけたらしい。

俺たちが取り上げないでおいた小さな短剣を懐から取り出すと、慎重に装丁を切り裂いて畳まれた紙を開く。

そこに描かれている魔法陣を見たフェリクスは、ニヤリと笑った。


< 分かったみたいですね >

< シンシアが筆跡とか書き方のクセを、あの錬金術師に似せてくれたのが良かったな。全然疑ってない様子だ >

< 頑張った甲斐がありました! >


そして次の瞬間にフェリクスが取った行動に俺とシンシアは唖然とした。

いきなり服を脱ぎ始めたからだ。


< こ、これは... >

< あー、シンシアは見てなくていいぞ。ちゃんと俺が見張ってるからな >

< すみません御兄様... >

< むしろ俺が見せたくないからね >

< シンシアさま、ワタシも見てるから大丈夫ですわ >


< マリタンさんも御願いします。でも、いきなりどうしたんでしょうね? >


< フェリクスはホムンクルスが死ねばどうなるか知ってるし、パトリック王たちが自分のことをホムンクルスだと思ってることも分かってるだろ? >

< あっ! >

< ホムンクルスがどう言うものかを知ってる人にとっては、誰かが服だけを残して消えれば、それはホムンクルスが死んで土くれに変わり、蒸発したんだとしか思えないってことだ >


< ですね...>


< それを逆手にとって、自分は牢獄内で死んで蒸発したと思わせる作戦だな。騒ぎを起こさないためには、いい手だと思うよ >

< 賢明ですわね? >

< ええマリタンさん。こんなことを言ってはいけないのかも知れませんけど、フェリクスは予想していたよりも賢いです >

< 俺も同感だな >


やがてフェリクスは脱いだ服をキレイに伸ばすと、自分が倒れている状態を床に描くようにして並べ始めた。

服を着たままで中身だけが消失したという状態を再現できるように、シャツやズボンなんかのボタンもきちんと留め直している。

フェリクスが下履き姿でその作業をやっているのを、黙って見ていなければいけないのが頂けないけど・・・


まあ、フェリクスが捕らえられた時に肌着を重ね着してたかなんて誰も確認してないのだから、全裸にまでならなくていいと判断したのは賢明だ。

目覚めた時に、懐に短剣が入っていたままだったから、身体検査をされていないと判断したのだろう。

つくづく、あの時に短剣を取り上げたりしなくて良かったよ。


< よし、フェリクスが床に服を並べ終わったぞ。服を着たまま床に倒れて中身だけが蒸発したって様子だな。ちゃんと袖の先に短剣も転がしてある。あれで自害したって見える算段だろう >

< でもそれって、ホムンクルスを知らない人が見たらとても不思議な光景ですよね? 血痕もなにも無く、服を残して人体だけが消えてる訳ですから >


< だな。そう言えば昔、同じような会話をしたよなあ...>

< 次は転移門ですね >

< ああ、いま詩集に挟んだ状態の魔法陣を開いて魔石を飲み込ませるところだ...よし、これで魔力は補充されたはずだ >


軽く深呼吸したフェリクスが意を決したように、一度綴じた詩集をもう一度開く。


本の合間に挟んでおいた紙の魔法陣が展開し、次の瞬間には眩しい光と共に転移門が起動してフェリクスを飲み込んだ。


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