表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
787/934

地下牢で待ち伏せ


そもそも、『エルスカイン』もしくは『魔獣使い』という名前が知られるようになったのも、四百年前の大戦争の頃からという噂だったな・・・そう考えれば、ポルミサリア全土を戦火に染めた大戦争その物を引き起こしたのさえエルスカインであったとしても大した驚きは無い。


エスメトリスが言うように、大結界を創るために魔力の奔流への干渉を始めたのが同じ頃だったのも、同じ計画の一環だったんだろう。

たまたま四百年前に長い眠りから目覚めたからなのか、それとも以前から進めていた準備が整ったのが丁度その頃だったからなのか、その辺りは分からないけどね。


そして、ここサラサスでもホムンクルスに仕立てたマディアルグ王を押し立てて建国への道筋を造り、『獅子の咆哮』まで与えて勝利させていたのだ。


ひょっとしたら、獅子の咆哮とマディアルグ王を巡るエルスカインの行動は、大結界の構築と同じくらいに重要だったりするのだろうか?

もしそうであれば、本当に『フェリクス=マディアルグ王』がエルスカインにとって重要人物であってもおかしくは無いだろう。


相変わらず、その理由は分からないけれど・・・


++++++++++


朝食の後はブリュエット嬢の到着を待つだけだ。

部屋で思い思いに寛いでいると、ふいにシンシアが声を上げた。


「御兄様、ブリュエット嬢が動き出しました。馬車で屋敷を出るようです!」


シンシアは、朝一番で部屋から出しておいた銀ジョッキを、そのまま彼女の屋敷の玄関に待機させておいたのだ。


「ん? オブラン卿が、王宮から迎えの馬車が行くように手配してたんじゃ無かったかい?」


「そのはずですけど、迎えの馬車の到着を待たずに自前の馬車を出しましたね。フェリクスの救援が上手くいった場合の帰りも考えて、王家の馬車に乗りたくなかったのでは?」

「そりゃもっともだな」

「オブラン卿に警戒させないように、迎えの馬車を出し抜いたのでしょう。言い訳は何とでも立ちますし、空っぽの馬車が戻ってくる前に自分は王宮に到着できるでしょうから」

「それなりに考えてるじゃ無いか...」


とは言え、その馬車の屋根の上には銀ジョッキが鎮座ましましているのだから、途中でどんな行動を取ろうと俺たちには筒抜けである。


シンシアは銀ジョッキを前向きにして馬車の屋根に固着させているから、操作台の『画面』には御者の頭越しに前方の風景が見えている。

長閑な田舎道を淡々と走り続けるだけの風景がずっと続いてるんだけど、馬車ってのは結構揺れる。

俺の革袋に入ってる乗用馬車は姫様の特注品で、試乗したスライが感心するほどスムーズな乗り心地だったけど、普通はそんなことは無くて、ガタガタ、ピシピシと道の荒れ具合に合わせて細かく、時に激しく揺れ続ける乗り物だ。


何が言いたいかというと、ずっと揺れ続けている写し絵を見つめていると、なんだか気分が悪くなってくるのだ・・・自分が揺れる馬車に乗っている時は全然平気なのに、どっかり座って揺れる画面を見つめている方が気分が悪くなるってのはどういうことなんだろう?


「なんか船酔いしそー!」

「あ、パルレアもそう思ったか?」

「実は私もです御兄様」

「やっぱりな。俺もチョット気分が悪い。自分が馬車に乗ってる時は平気なのになんでだろうな?」

「そりゃあライノ、絵だけが動いて自分の身体が動いてねえからだろうな」


「え、どういうことだアプレイス?」


「馬車に乗ってる時でも俺の背中に乗ってる時でも、揺れれば視界と一緒に身体も揺れてる。むしろ、目ん玉がくっ付いてる身体が揺れるから、視界がそれに合わせて揺れるんだ」

「あ、そうか!」

「コレは身体は全然揺れてないのに、見えてる景色だけが揺れてるから頭が混乱して、逆に気分が悪くなっちまうのさ」

「なるほどなぁ...」

「凄いですねアプレイスさん、そんなこと私も初めて知りました! じゃあ船酔いとは違うんですか?」


「船酔いは、休むこと無く身体を揺すられるから気分が悪くなるってヤツだな。だから揺れる船に乗ってると、例え目を瞑っていても関係無しに酔っちまうんだよシンシア殿」


原因は分かったけど対処方法は無さそうなので、とりあえず画面を見つめ続けるのは止めて、みんなで茶飲み話でもしながら目の端でチラチラと様子を見る、というスタイルに変える。


これでも大きな動きがあれば分かるだろうと考えていたけど、久しぶりに会ったエスメトリスから聞かされるドラゴン族とワイバーンに関する話なんかがあまりにも面白すぎて、すっかり画面を見るのを失念していた。


「王宮が見えてきました!」


シンシアの声で我に返って画面に目をやると、前方に王宮が大きく見えている。

もうそんなに時間が経っていたとは・・・

エスメトリスの話術、恐るべし。


到着したブリュエット嬢が問題なく王宮内に招き入れられるのを確認して、俺たちも次の行動に移る。


「じゃあシンシア、銀ジョッキはブリュエット嬢の馬車にそのまま載せておいて、不可視状態で地下牢に先回りしておこう」

「はい御兄様」

「俺と姉上は待機でいいのか?」

「ああ、追跡が始まるまでアプレイスとエスメトリスはのんびりしていてくれ」

「了解だ」

「アタシはアプレースと一緒にいるー。地下牢とかってなんかヤダもん!」


パルレアの気持ちは分からんでもない・・・大精霊的にも。


それに支配の魔法のカラクリが分かってない以上は、例え王宮内とは言えアプレイスには出来るだけパルレアかエスメトリスと一緒にいて貰った方がいいから、好都合だ。


++++++++++


シンシアとマリタンを連れて地下牢に張っておいた転移門に跳ぶと、牢内のフェリクスは寝台に横たわって大きないびきを立てていた。


< フェリクスの様子は問題無さそうだな? >


< そうですね御兄様。ふて寝しているだけのように見えますけれど、今日の顔検分のことは知らされていないのですよね? >

< そのはずだ。それが救援になるとは分かってないから、余計なコトされても困るしな >

< あんなに豪快に寝ていられるのは、やっぱり『何も恐れてないから』と言うことでしょうね? >

< だろうな...お、ブリュエット嬢達が入ってきたみたいだ >


二重の格子で遮られた地下牢の入り口に数人の人影が見えた。

恐らく先頭に立っている、飾りの付いた立派な鎧を着ているのが件の警備隊隊長だろう。

その後ろにはブリュエット嬢を挟んで、警護の騎士が二人だけだ。

少ないな・・・警備隊長の『腹心』だけで固めたってところだろうか?


約束通り、オブラン宰相やパトリック王に近い家臣達の姿は見えない。


< あまり緊張して無いような感じがしますね? >


< ああ、牢獄に入れられてるのが死んだはずのフェリクスだってことは分かってるんだろうし、本来なら反逆行為の咎が掛かっていたブリュエット嬢に対しても警戒すべきなんだけどね >


< むしろ...心なしか期待してる面持ちに見えます >


< これでブリュエット嬢が『赤の他人です』なんて言ったらガッカリするんだろうな。ルフォール侯爵家にまで伝令を飛ばしてるんだし、面目が丸潰れだもの >

< そんなものですかね... >

< そんなもんさ >

< ちょっと不思議です。フェリクスが生きていたとしても結局は捕らえられている訳ですし、これでルフォール侯爵家の王位簒奪が現実になるなんて事は無いと思うのですけど >

< 相手の失点が自分の利益って考えるタイプなら、王家の評判が悪くなるようなネタであれば何でもいいのさ。先のことなんか考えてない気がするよ >


シンシアと指通信で話している間に、一行は二重の格子の内側に入った。

一応、警備隊長がブリュエット嬢に『この先には規則で何も持ち込めない』と言っているのが聞こえてくる。


< あ、彼はブリュエット嬢の味方だと思ったのですが、警備隊長として一応の責任は果たすということでしょうか? >

< いや違うと思うな。見ててごらん >


案の定、ブリュエット嬢がちょっとごねて見せると、警備隊長は『他ならぬブリュエット嬢ですから今回は特別ですよ?』と言って、すぐに彼女の手鞄(パース)に向けた手を引っ込めた。

手鞄の中身を改めることすらしない。


< ほらな? 単にブリュエット嬢に恩を売ったって言うか、貸しを作ったのさ。見逃してやるから、いずれ恩を返せって感じだろう >

< なるほど、凄いです御兄様! >

< いやいやシンシア、こういうアコギな深読みは思い浮かばない方が人として健全だからね? >


むしろシンシアには、こういう小悪党共の心理なんか理解できるようになって欲しくないと思うよ・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ