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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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逃走経路の仕込み


オブラン卿の口ぶりは淡々としているけど、表情には『嫌悪感』と受け取れるものが浮かんでいる。


いつぞやのジャン=ジャック氏との問答でも似たような印象を受けたけど、宰相の立場云々を越えて本当に嫌いな相手なんだろう。

あの時は、なにがなんでもジャン=ジャック氏を道連れにするつもりだったに違いない。


「陛下と離縁した後は、さすがにバランド子爵家もブリュエット嬢を持て余しまして...実家にも戻したくないということで、街外れにある別宅でひっそりと一人暮らしをさせておるのです。屋敷で働く家僕やメイドも全てルリオンで新しく雇った者達で、バランド子爵家から送られてきた者は一人もいなかったと思います」


「じゃあ、屋敷の建ってる場所が街外れだったら目立たないですかね?」


「街外れと言うより『森の間際』という方がしっくりくる立地ですな。そこで誰にも会わずにひっそりと暮らしているそうで、外に出るのはたまに森を散策する程度だと聞きました」


詳しいな!


オブラン卿はさり気なく言ってるけど、王宮から離れた屋敷で働く家人達の素性までちゃんと把握してるって訳か。

まあ、それだけブリュエット嬢を危険視して、日常的に監視してるってコトなんだろうけど。


「じゃあ目立たずにワイバーンを一頭そこに向かわせるのは出来るとして、具体的にはどうするんだ?」

「シンシア殿の造った『転移門の罠』を、使い方を書いた紙と一緒にワイバーンの口に咥えさせておくんだ」


「ホントにワイバーンに配達させるんだな」


「こういうのは、出来るだけ大袈裟って言うか度肝を抜くような演出の方が、相手に深く考えさせなくすむもんだぜ?」

「演出って...」

「人が届けに行くほうが向こうも警戒するさ。ブリュエットの耳に『フェリクスがワイバーンを従えて王宮に攻め込んだけど、返り討ちに遭って捕らえられた』って情報がすでに入っているならそれほど驚きもしないだろうし、物言わぬワイバーンなら『何らかの理由で自分を訪ねてきた』と思い込むんじゃねえかな?」


「大胆な案だなぁ...」


「ですが御兄様、私もアプレイスさんの案はアリだと思いますよ。相手に深く考えさせない時には、驚かせて一気に畳み込む方が得策です」


「わかるー! アタシもさんせーっ」


そこは同意する。

そもそもパトリック王との会見だって同じ発想で、あえてドラゴン姿のアプレイスと一緒に現れたのだ。

相手をドーンと驚かせて、深く考えさせずに状況になだれ込ませる・・・つまり、詐欺師の常套手段である。


「まぁそうだな。ただ、使い方を書いた紙ってのはどういう風にする? 迂闊なことを書けないし、ブリュエットはともかくフェリクスが見たら、誰の筆跡かも考えるんじゃ無いか?」

「筆跡ねぇ...ライノは妙なところで細かいよな」


「俺個人じゃ無くて、人族が全般的に細かいんだよ。種族の性格的に!」


「御兄様、あの罠を作った錬金術師の筆跡を真似て造りましょう。罠、と言うか手製の転移門と手紙の筆跡は同じの方が良いでしょう」

「お、確かに!」

「ここでもエルダンでも、あの錬金術師はエルスカインの指示とは無関係なことをかなり勝手にやっていたように思えますし、ペリーヌさんを閉じ込めた罠のこともフェリクスの独断で動いていただろうと」


「あぁそうだな。それにフェリクスもエルダンで何があったかまでは教えられてない可能性の方が高いからな」


「そう思います。仮に消えたことを知っていても、似てる筆跡と思うだけでしょうね。それと、魔法陣にはあらかじめ高純度魔石を飲み込ませずに、別にしてブリュエット嬢に渡しておけば、万が一、彼女が好奇心に負けて罠を開いても起動させずに済みます」


「使い方を手紙で渡すならその方がいいな。むしろ別々のままフェリクスに渡せるといい。ヤツも自分の目で見て転移門の魔法陣だと確認すれば、アッサリ誘いに乗るだろうし」

「ええ。ペリーヌ嬢を飲み込んだ罠も、フェリクスは誤動作する魔法陣だと気づけなかったのですから、見せても問題ないでしょうね」


「よし、じゃあその線で行こう。道具立ての準備はパルレアとマリタンも手伝ってやってくれ」

「りょーかい!」

「まかせてね兄者殿」

「頼んだ。それでエスメトリス、外のワイバーン達を動かすのはどうすればいいのかな?」


「準備が出来たら我が姿を現して、これ見よがしにワイバーン共に『巣へ戻れ』と命じよう。その際に一頭だけは手元に残して、森の中にでも隠れさせておけば良かろう」

「なら、その時から不可視結界を使うようにしよう」


「うむ。さすがに魔道具を扱わせるのはワイバーンには無理であろうから、我かアプレイスが共に行こう」

「そうだな、頼む」

「俺が行くよ姉上。屋敷の誰かがちゃんと罠を受け取るか、ライノと一緒に様子を見てた方がいいと思う」

「そうであるな。ではお主に任せるゆえ、粗相の無いようにな?」

「はいはい」

「御兄様、私も一緒に行っていいですか?」

「もちろんだ」


オブラン卿が同席しているからシンシアは口にしないけれど、シンシアが一緒に来るのは、恐らく銀ジョッキを使うためだろう。

ブリュエット嬢の屋敷がワイバーンの訪問を受けて、家人が慌てて逃げ惑うようならシロだ。

その場合は銀ジョッキを使う必要は無いけど、もしも誰かが平然とワイバーンの咥えてきた魔道具を受け取るようなら、明らかにクロ・・・エルスカインとの繋がりがあると見ていいだろう。


その場合には、俺も銀ジョッキの使用を躊躇うつもりは無いぞ。


「ところでシンシア、ブリュエット嬢がエルスカインとの繋がりを持ってた場合は、なんらかの手段で即座にエルスカインやフェリクスと連絡を取り合うことが出来ると思うか?」

「例えば、指通信みたいにですか?」

「そんな魔道具とか」

「凍結ガラスもそうですけど、全ての古代技術をエルスカインが継承してる訳でも無いみたいですし...古代の遠距離通信手段を使ってるかどうかは微妙かと...マリタンさんはどう思いますか?」


「使ってる証拠は無いわねシンシアさま。貴重な魔導技術だから漏洩を恐れて配下には使わせてないって可能性もあると思うわ。それに、必要な時は転移門で直接報告に来させれば済む話だし、ね?」


それもそうか。

転移門が使えるなら、それで大抵のことは用が済むよな・・・


「そうだな。まぁ心配しても始まらないか。それによって相手の動き方は変化するだろうけど、俺たちの目的は変わらないし」

「そうですね」

「じゃあライノ、その辺りはフェリクスとブリュエットの動きを見ながら臨機応変にってことでいいな?」


「ああ、フェリクスをどこまで追えるか、モノは試しだな」


「あ、あの...勇者さま?」

「何でしょうオブラン卿?」


「その...決して勇者さま方の計画に反対する訳ではございません。ただその...」

「はい?」

「思ったのですが...相手の動き次第ではフェリクスを取り逃がしてしまうこともあり得ると?」

「ああ、そこを心配するお気持ちは分かります。で、正直に言えば予想外の出来事が起きて拠点まで追い切れずに、そのまま取り逃がす心配も無いとは言えません」


「やはりそうですか...うーむ...」


そう言えば、まだオブラン宰相には『フェリクスのホムンクルスは、実はマディアルグ王その人の魂を複製されたホムンクルスでは無いか?』と言う、俺たちの推測を話してないんだった。


「そうですけど、いま地下牢に入れてあるフェリクスを処刑しても問題は解決しませんよ。いずれ、次のフェリクスが現れるだけですからね」


「は? 勇者さま、次のフェリクスとはいかなる意味で? この先も、あのような悪巧みを持つ者が現れると?」


「いや、そうではなく...ここからの話は俺たちの推測で、まだハッキリした証拠は無いんですけど、それを踏まえてお聞き下さい」

「かしこまりました」

「でも、聞くとビックリー!」

「茶化すなパルレア。で...いま地下牢にいるフェリクスは、魂を持った『ホンモノのホムンクルス』です」

「はい」

「ですが、あの身体に移されている魂は『フェリクス王子だった人物』の魂ではないと推測してるんです」


「えっ? フェリクス自身では無いと? では、アレはいったい誰なのでございますか?」


「恐らく、あのホムンクルスに移されているのは『マディアルグ王』その人の魂だと思います」


「まさかっ!?...」


オブラン宰相が絶句する。


それは当然だな・・・俺たちだって、その可能性に気が付いた時には心の中で絶句してたもの。

もちろん『魂の複製』って言う概念は俺たちにとっても盲点だったけど、そう考えると、色々なことがすんなりと納得できるのだ。


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