ワイバーンの利用
「そう来ましたか。もしも結界で封じ込めることが出来てないとしたら、俺も牢番を引き上げさせるでしょうね。魔法が使えるかもしれないフェリクスの側に置いておく方が危険ですから」
「では、この命令は理に適っておりますな?」
「いいと思います」
「良かった。更に、フェリクスに関連する資料を全て集めて精査するようにと書記達にも指示を出しました。緊急の指示としてあのフェリクスの私室も立ち入り厳禁にし、誰も近づかせるなと言ってあります」
「先ほどのワイバーンの襲撃と併せて、その情報をつなぎ合わせて考えれば...『ひょっとすると、ワイバーンを引き連れて襲撃してきたのは実は生き延びていたフェリクスで、それが改めて地下牢捕らえられたんじゃないか』と。そう考える訳ですね?」
「もちろん普通はそう考えません。公式には、彼は十年前に死んでいるはずなのですからね」
「逆にそう考えるのは、フェリクスが生きている可能性があると思っている奴らだけだと?」
「はい。その上で近衛の騎士団長を通じて、『危険な警備任務』に対して王宮警備隊から数名の志願兵を募るようにと指示を出しました。実は警備隊の隊長はルフォール侯爵家ゆかりの者でして、ブリュエット嬢とも遠縁です」
双子の言ってた通り、ルフォール侯爵家って本当にアチコチに手を伸ばしてるな。
もっともパトリック王が愛していたオリアーヌ妃、つまりジェルメーヌ王女の母親もルフォール侯爵家の『先代当主の側室の娘』だったらしいから、ルフォールって名前だけで色眼鏡で見ちゃいけないんだろうけど。
「それって大丈夫なんですかね? その、なんと言うか...王宮の警備体制として?」
「彼も日頃は真面目に仕事をしておりますよ。それに、こちらがルフォール侯爵家の関係者を要注意人物として扱っていると、わざわざ教える必要もございませんので...イザという時に注意を払えば良いのです」
「なるほど!」
おお、要注意人物と承知しながら気付かないフリをして泳がせておくとは、さすがは権謀術策の飛び交う王宮内を取り仕切っている宰相だな。
「それで次の段取りなのですが、恐らく警備隊長はルフォール家もしくはブリュエット嬢の実家に連絡を取って、誰かが地下牢を確認できるように手配するのでは無いかと想像しています」
「その後を追って、どこに行くかつける訳ですか?」
「いえ、それではすぐに正解に辿り着くとは限りません。ルフォール侯爵殿は常日頃から権力を握らんと虎視眈々でございますから、今回の件も単純に影響力拡大の機会と見ているだけという可能性もございます」
「ルフォール家って、それほど権力を欲しがってるんですか?」
「それほどです」
「となると、ルフォール侯爵家はフェリクスを恐れるよりも、むしろ利用しようとするかもしれないワケですね...」
「可能性としては、でございますが。元より勇者さまを王宮の勢力争いに巻き込むつもりは毛頭ございませんので、エルスカインとの繋がりが見えてこなかった場合は誰がフェリクスの元を訪れようとしても、捨て置いて頂いて構いません」
「分かりました。ところで仮にブリュエット嬢に動きが見えたとして、例の『脱出用の転移門』をフェリクスの元に届ける方法はどうしますか?」
「面通しではいかがでしょう?」
「はい?」
「極秘の行為という扱いにしてブリュエット嬢に対し、『王宮への襲撃に際して捕らえた敵が、サラサス貴族の関係者の可能性がある。本人確認をしたいので面通しを御願いしたい』と依頼するのです」
「ほお...」
「もし、フェリクスが死んでいると確信していれば、『面通しする相手』とは単に自分と血縁のある誰かだくらいにしか思わないでしょう。ブリュエット嬢の性格からすれば、袂を分かっている王家からの依頼ですし、面倒だと言って断ってきても不思議はありません」
「なるほど、でもフェリクスが『生きて捕らえられた』という情報を耳にしていれば...」
「必ず王宮へ面通しに来るでしょう」
「それはいい。後はシンシアが作る『転移門の罠』をブリュエット嬢に自然に渡しておく方法ですね」
「ルフォール侯爵家からの届け物に偽装してブリュエットの処へ届けると言うのはいかがでしょう?」
「うーん、露呈するリスクも高い気がしますね...それだとルフォール侯爵家の方がエルスカインとの繋がりが強いって事になりますし、ブリュエット嬢が信用するかどうか」
「難しそうですか...」
「もちろん、やってみる価値はあると思いますよ?」
「なあライノ、さっき姉上と話してたんだけど、ブリュエットってヤツにウマいこと転移門を渡す方法を考えてみたんだよ」
「お、どんな手だい?」
「姉上が従えてるワイバーンを使うのはどうだ?」
「え? いやまぁ面白そうだけどな...」
「まあダメ元で聞いてくれ。うまいことフェリクスの話が王宮から漏れたように見せ掛けて、オブラン卿がブリュエット嬢の前に餌をぶら下げた後の話になるけどな...姉上がワイバーンの一頭に命じて、シンシア殿の罠をブリュエット嬢の家の前まで運ばせるんだ」
何を言ってるんだアプレイス・・・
まさかワイバーンを荷馬代わりに使う気か?
まぁワイバーンで行商するとか、ちょっと楽しそうだからやってみたいけどさ。
「おいおい、ワイバーンを貴族の屋敷に降り立たせる気か? いくらなんでも大騒ぎになると思うぞ?」
「アタシ、それやりたーい!」
「逆だぞパルレア、目立ちに行くんじゃ無いんだからな」
「そこは上手くやるさ。この案のキモは、ワイバーン共が王宮を襲いに来たことをみんなが見てるってコトだ。つまり、事情に聡い奴らはワイバーンはエルスカインの配下だと分かってる」
「もう解放されてるじゃ無いか?」
「いや、姉上が魔力を放って支配の魔法から解放したことは誰も理解してないよ。単に『空の王者たるドラゴンから叱責されて大人しくなった』ってくらいにしか見えてないだろ」
「なるほどな」
「だから、その中にはまだエルスカインの支配下にあるワイバーンがいてもおかしくないって寸法だ」
「そうか...それでワイバーンが自分の所を訪ねてきたら、ブリュエット嬢はそのワイバーンが勇者や王宮の使いじゃ無くて、エルスカインかフェリクスからの使いだと思うだろうと?」
「ああ。いけると思うね」
「そうだな...なあエスメトリス、あのワイバーン達はコッチの用意が出来るまでずっと、ああやって地面に這いつくばらせたままで大丈夫なのか?」
「問題ない。我が命ずるまで何日でもじっとしておるし、その程度で具合を悪くするものなど出てこぬよ」
「ならいけるか...」
「ワイバーン共は結界で姿を隠したりできねえけど、チビのワイバーンなら、俺が背中に乗せて屋敷の庭まで運んだっていいからな」
「そこはシンシアの創った不可視結界のメダルをワイバーンに使わせればいいんじゃ無いか? 大丈夫だよなシンシア?」
「はい、問題ないと思います」
「なんと、シンシアはそのような魔道具まで創ることが出来るのか! 器量よし、性格良しな上に魔法と頭脳まで優れておるとは、つくづくシンシアは死角が無い娘よのう!」
「でしょーっ! シンシアちゃんって無敵なのーっ!」
「うむ!」
「あ、いえ、そんなことは無いですエスメトリスさん...」
「ともかく! 不可視結界も使えるなら尚更大丈夫だな。もちろん屋敷の上空から前庭まで降り立った後は姿を現さなきゃいけねえけど、夜ならそんなに目立たねえだろ?」
エスメトリスがシンシアのことに脱線しそうになるのを察して、アプレイスが即座に言葉を繋いだ。
気が利く相棒がいるとマジ助かるよ。
「まあ不可視結界に頼るとしても、そこの状況というかブリュエット嬢の屋敷の立地は気になるかな...オブラン卿はどう思いますか?」
「ブリュエット嬢の実家はバランド子爵家です。本来の領地は平野の南部にありますがルリオンの郊外にも屋敷を持っていて、件のブリュエット嬢は長らくそこに住んでおりますな」
「じゃあ実家の別宅みたいな感じですか?」
「左様で御座います。叛逆事件の後でフェリクスの所業を庇って大騒ぎし、陛下とは離縁しました。父親たるパトリック王陛下を含めた王族全員を皆殺しにしようとしたフェリクスを援護したのですから当然ですが」
「いくら息子が可愛くても、それも凄いですね」
「援護だけならまだしも、島流しに送られるのを妨害して救助しようとまで企んでおりましたからな。むしろ陛下の温情がなければ、ブリュエット嬢も無罪放免とは行かなかったでしょう」
そんなにかよ!
ちょっと二の句が継げない感じだぞ・・・
相手が実の家族であるとか王族であるとかはさておいたとしても、『自分の邪魔になる相手は皆殺し』って考えを『間違ってない』と言えるのも相当だろう。
フェリクスだけで無く、母親もかなりアレな人だったらしい。




