マディアルグとフェリクス
「仮定の話だけど、最初に『島流し』にされたフェリクスのホムンクルスは、この世に一人しか存在していない『本当にホンモノのホムンクルス』だったから、エルスカインも何らかの必要性があって救助の手を差し伸べたって事も考えられるな」
「元ネタって言うところですか?」
「そうだな。フェリクスを複製しなきゃいけない理由は分からないけど、複製元は残しておかないとダメな気がするし...」
ニセモノのホムンクルスは自分の意志を持ってないから、ある程度はエルスカイン側で制御する必要がある。
つまり、創った後は放置して勝手に働かせるってワケにはいかないって事だ。
その事が、エルスカインが『同時に大勢のニセモノのホムンクルスを動かせない』理由だと俺たちは推測していた。
でも、複製された魂を持つホムンクルスなら、自分の意志を持って動くことが出来る。
そいつらを沢山作り出せるとしたら、フェリクスが口にしていたという『不死の部隊』に、表向きは似たようなモノを作り出せるかもしれない。
そう考えると、その頃のフェリクスは『ホンモノのホムンクルスのニセモノ』を作り出すって言うエルスカインの試みに、すでに関わっていた可能性があるな・・・
「ただ、やっぱり分からないのは、エルスカインがフェリクスの存在を重要視してるとすれば、それはなぜなのか?ってコトだ」
「理由かー...」
「何かあるだろ。合理的なエルスカインが気まぐれで行動するはず無いんだし...魂の元ネタとして大切だから流刑の島から助け出したとしても、そもそも、なんでフェリクスを『元ネタ』に選んだのかがサッパリ分からないぞ? それ自体が重要人物って証拠だろ?」
「バカなのにねー! アレ...それとも、ひょっとしたらバカだからかなー!」
「それなら助かるけど、まぁ違うだろうな」
「でもエルスカインの考え方って判断基準が分からないと言いますか、ちょっと理解を超えている感じがしますからね...」
と言っても同じ違和感は以前から何度も感じているし、絶対に何か俺たちが気が付いていない理由があるはずなんだよな・・・
「なあライノ、ちょっといいか?」
「何だアプレイス?」
「いや、フェリクスが『魂の元ネタ』にされてるってコトを聞いてて思ったんだけどよ...そもそも、なんでフェリクスは『獅子の咆哮』の動かし方を知ってるんだよ?」
「え?」
「前にも話したじゃねえかソレ。結論は出なかったケドよ」
「そうだったな...」
「そりゃあエルスカインは最初からマディアルグ王の計略を見抜いてただろうけど、自分だけしか知らないと言いたげだったフェリクスの口ぶりからすると、それをエルスカインから知らされているハズは無いよな?」
「だと思うね。むしろエルスカインに『知らない振り』をされて騙されている可能性もあると思う」
「じゃあフェリクスは、獅子の咆哮の動かし方を『誰に聞いた』って言うんだ?」
「お? おぉ...!」
「変だろ?」
「変だな!」
「フェリクスに獅子の咆哮の動かし方を教えたヤツがいるとすれば、そりゃあつまり、マディアルグ王とエルスカインしか知らないはずの知識をひっそり何百年も継承してきたってことになるぞ?」
「だよなぁ...要するに、秘密を代々伝えてきた一族の誰かがいたって言うこと、かな...?」
最初から俺たちはマディアルグ王自身が誰かにそれを教えるハズなんて無い、と考えていた。
なぜなら、自分自身がホムンクルスになって永遠に王として君臨し続けるのならば、その力の秘密を誰かに継承させる必要が無いからだ。
むしろ自分だけの秘密として保っていなければ権力を維持出来ないから、人に教えるなんて論外のはず・・・
だけどメシアン家による王位簒奪によって捕らえられたマディアルグ王は、自分の最後を覚って、死の直前に秘密を誰かに教えたんだろうか?
かつて処刑されたマディアルグ王が『塵になって消えた』って言う状況からして、その時点で彼がホムンクルス化されていたことは確実だ。
もしもエルスカインにとって何らかの理由でマディアルグ王が必要な存在だったのなら、むざむざ処刑させていないだろう。
流刑の島からフェリクスを助け出したみたいに、マディアルグ王だって処刑の前に助け出したはずだ・・・
あれ?
エルスカインなら助け出せたはずだよな?
なんでエルスカインが助け出さなかったかと言うと、もうマディアルグ王が必要無い存在になってたからだと思ってたんだけど・・・
それとも、実は助け出そうとして失敗していたとか?
でも、どちらにしても子孫のフェリクスを特別扱いする理由も無さそうに思える。
なにかが噛み合ってないな。
なんだろう・・・
数百年前に塵になって消えたマディアルグ王しか知らないハズのことを、なぜか知ってるらしいフェリクス。
重要な存在じゃ無いはずのフェリクスを助けているエルスカイン。
エルスカイン自体が、どうやって何百年も目的意識を失わずに大結界の構築を粛々と進めてきたのかってのも謎だけど・・・
ともかく、そういう矛盾した事象が並列してて帳尻が合ってないんだ・・・まあ、フェリクスが獅子の咆哮の動かし方をマディアルグ王から直接聞いたって言うのなら、辻褄も合うんだけどね?
「そりゃあライノ、職人の秘技みたいに代々秘密を伝えてきたってのもあるかも知れねえケド、他の考え方もあると思うぞ?」
「他って?」
「マディアルグ王なら知ってるんだろ?」
「んん?」
「それなら辻褄が合うぜ」
「マディアルグ王本人がいまだ生きていて直接聞いたってか? いやいや、生きてるんならフェリクスに託さなくても本人が...あぁっ、そうか!」
「だよな?」
「そうか、フェリクスは誰からも聞く必要が無かったんだ!」
「な? 俺もそういう気がしてきてるんだよライノ」
「えっとアプレイスさん、それはマディアルグ王が実は処刑されていなくて、いまだにホムンクルスとして密かに生き続けているという意味ですか?...その、何百年も」
「そうだけどなシンシア殿、俺はそれだけじゃ無いと思うね」
「ああ、アプレイスの言う通りかもしれない...」
「えー、どーゆー意味なのお兄ちゃん?」
「つまり...フェリクスが『マディアルグ王』その人なんだよ! いや、正確に言えば、マディアルグ王の『魂を移植』されているホムンクルスだ」
「えぇーっ!?」
「それでは御兄様、四百年前に処刑された人は...?」
「シンシア、そもそも処刑されたマディアルグ王は『ニセモノのホムンクルス』だったんだと思うよ。処刑される前にエルスカインの手ですり替えられてたんじゃ無いかな?」
例えば、公衆の面前で処刑されたマディアルグ王は途中ですり替えられた『ニセモノ』のホムンクルスで、魂を持った『ホンモノ』のホムンクルスは事前にエルスカインの手で保護されていたとしたら・・・?
考えてみれば、ホンモノのホムンクルスとニセモノのホムンクルスが同時に存在しちゃいけない理由なんて無い。
これまでは、そういうケースを見たことが一度も無かったから、なんとなく『どちらか』だけしかいないように思い込んでたけど、それはエルスカインにとって必要無いから造らなかっただけだ。
「ホンモノの魂はどこかに温存していたという訳ですね」
「だな」
「それから何百年も大人しくしてたのにさー、どーして今になって急に?」
「パルレア殿、それは以前に話したみたいに温存していたヒュドラの毒を使う目処が立ったからだろう。もっともフェリクスの陰謀は十年前の話だから、ライノがヴィオデボラで暴れたコトとは関係ねえと思うけどな?」
「ええ。そこはエルスカインのことですから、次善の策も同時に動かしていたのでしょう」
「でもさーお兄ちゃん、ルースランド王家みたいに自分の子供の身体に乗り換えながら、ずーっとエルスカインの指示を待ち続けてたって厳しくない?」
「いや、また必要になるまでエルスカインに眠らされてたんじゃ無いかな? 魂をホムンクルスに移し替える時に複製したり出来るくらいなら、そのまま取り出して眠らせておくことだって出来そうだもの。で、必要になったら適当な肉体に流し込む...みたいな?」
「そっかー!」
もちろん、フェリクスも母親のブリュエット嬢から産まれた時点では、ごく普通の『人』だったろう。
そして、ホムンクルスにされた時点で『魂だけ』がマディアルグ王のモノと差し替えられてるように思える。




