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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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岩塩採掘場と破邪の関係


「ところでライノは、岩塩がリンスワルド領の名産品だって知ってるか?」


「聞いたよ。っていうかここに来た次の日にさっそく買い込んだよ。フォーフェンって本当に塩が安くていいな!」


「ああ。それを支えてるのがリンスワルド伯爵の持っている岩塩の採掘場さ。確か岩塩の鉱床が発見されたのが十年くらい前かな?」


「へー、まだ新しいっちゃあ新しいんだな」


「それ以前は、この辺りもよそから運んできた海の塩が使われてたそうだけどさ、それってルースランドかミレーナ王国からの輸入になるだろ? 王都の西にある港町のスラバスから運んでくるにしても結構な距離だしさ、当時は塩の値段もいまより全然高かったらしいよ」


「だろうな。エドヴァルにも一応海はあるけど、広い塩田は無いから流通してる海塩はミレーナ産の方が多いだろうと思う。俺が住んでたロンザ公爵領って内陸でも一番奥の方だったし、塩の値段はここの三倍以上だな」


「やっぱりそんな感じか...前にも話したけどさ、リンスワルド領は麦だけじゃなくて畜産も盛んだから、肉の値段も安いだろ?」


「パストでそう言ってたな」


「それに加えて塩の値段が安いから、こういう腸詰めとかハムとか、あと肉や野菜の塩漬けとか、いろいろな冬の間の保存食も他の土地より安く作れるんだ。それに麦が豊富だからエールも豊富で言うことなし!」


レビリスはそう言って、本当に嬉しそうにエールをあおった。


「そう言えばラキエルたちに『フォーフェンに着いたらエールの飲み比べをしてみろ』なんて言われてな? てっきりどこの店のエールが美味いか較べてみろって意味だと思ってたら、着いたその日に、この食堂で三種類のエールを出されて腰を抜かしたよ。そして全部美味い!」


「分かる、分かる。俺も初めてホーキンからこっちに越した時、エールだけでも色々あって驚いたもんさ。あとほら、パストの街で食べた麦粥があっただろ? ああいう麦を使った料理とかも種類が豊富でさ、嬉しかったねえ」


「うん、あれは美味かった。というか麦粥って言葉の意味が変わったよ」


「そいつは良かった! いまじゃあここはさ、肉と塩と麦と、野菜もだな。人が生きていく上で大事なものが豊富で安いっていう、有り難い状況になってる訳さ」


「で、それをこの辺りの農地と一緒に支えてるのが、リンスワルド伯爵の岩塩採掘場ってことか」


「そういうことさ。ただ、採掘場は大変な場所なんだ」

「ふーん、大変って、どういう意味だ?」

「寒い!」

「えっ?」

「寒いんだよ、やたらと...岩塩の鉱床が最近まで見つからなかったのは、それが山の上の方にあるからなのさ。リンスワルド領の北側にある山の上で、何しろ採掘場まで馬車が通れる道を伸ばすの二年かかってる」


「そうだったのか...」


「話によると、探せば他の場所でも岩塩の鉱床が見つかる可能性は高いってことなんだけどさ、そもそも一帯が森深い場所だから全部を調査するだけでも大変だろうさ」


「人里離れた山奥の森ってなると、大抵の人には踏み込めないな」


「そうそう。俺たちがその岩塩採掘場まで行くのも、採掘場の近くで魔獣が出た時の討伐と、あと、周辺の護衛仕事さ」


「やっぱり、魔獣は多いのか?」


「正直、おれは遍歴に出たことが無いしさ、よその土地のことをあんまり知らないから断言できないけど、多いんじゃないかと思う...それこそ森の奥でウォーベアが出たこともあるよ」


「へぇー、それでウォーベアのことをみんな気にしてたのか」


「て言うかさ、フォーフェンみたいに開けた農地のど真ん中にある大きな街で、そこそこ破邪が(たむろ)っているのはそういうことさ」


「あーなるほどなあ...いや、実はここに来るまでコリンの街を出て南の山地を歩いてラスティユの村を越えてきただろ? そりゃ確かに、山賊騒ぎだとか、ウォーベアと出くわしただとか有ったけど、なんて言うのかな? あの土地そのものは、普段は魔獣だの魔物だのが出るような雰囲気に思えなかったんだよね」


「ああ、それはわかるよ。ラスティユとかの雰囲気はね」


「まあ、だからこそ、立て続けに出会って驚いたんだけどな?」


「叛乱伯って言うか、エルスカインのことが判明しなかったら、ずっと謎のままだったろうな...そもそも旧街道沿ってさ、でかい魔獣なんて誰も見たこと無いような土地だったから、目撃談が大騒ぎになったんだしさ」


「うん、本街道沿いも明るい雰囲気で...ミルシュラントに入ってから小さな魔獣を沢山見かけるようになってきたのは確かだけど、デカブツがいる雰囲気は無かったしね、正直驚いたよ」


「驚いたのは、ウォーベアに出会ったことが? それとも寄り合い所で暇つぶししてる破邪が沢山いたことが?」


「ぶはっ、そりゃ両方だな!」


レビリスのジョークに、二人で大笑いするが、実際にレビリスの言うとおり、破邪衆の寄り合い所に入った時に、暇そうな奴が一杯いたことにちょっと面食らったのは事実だ。

平和ってことなんだろうけど、じゃあなんで昼間っからこんなところで(たむろ)ってるんだ?ってな。

エドヴァルの破邪なら、地元が暇ならすぐに遠征に出るか遍歴に回るか考えるところだ。


「要するにフォーフェンの破邪衆はさ、リンスワルド領の岩塩採掘場とか、そっち近辺の開拓事業に関わる魔獣討伐とか護衛とかで、十分に食ってられるって訳さ」


「そういうことか...破邪の仕事もまあ、ところ変わればだな」


「俺も人のことは言えないけど、ここの破邪は結構のんびりしてられるから、修行が終われば遍歴に出る奴も少ないし、一度居着くと動かなくなる奴も多い。ウェインスさんだって、元は北の方にいた人さ」


「へー」


「シュバリスマークとの国境あたりかな、北部山岳地帯の出だそうだけど、もう戻る気は無いってさ」


まあ、旅して回らなくても十分に食っていけるのなら、そうなるのが自然か・・・


「でさ、話を戻すとリンスワルド伯爵の岩塩採掘場は、寒くて魔獣のウロウロしている山奥にあるって訳で、作業員の行き帰りにも破邪の護衛がつくほどさ」


「そうなのか?」


「だから俺たちは持ち回りでその仕事を引き受けるほかに、時々出る討伐依頼や調査隊の護衛なんかの突発仕事をそれなりに引き受けていれば、一年を通して飯の種には困らない、と」


「他の土地の破邪が聞いたら『なんて恵まれてるんだ!』って間違いなく言いそうだぞ?」


「うーん、最近ちょっと、このままでいいのか?って思ったりもするんだけどな...じゃあもしもさ、ライノが勇者にならずに遍歴の破邪としてフォーフェンに来ていたら、ここに居着いていたと思うかい?」


「あー、それはどうだろう...俺は修業時代からずっと遠征や遍歴を繰り返してたから...一カ所に腰を落ち着けて暮らすのは性に合わないって考えたかもしれないな」


「そうだろうと思うよ。ライノを見てれば分かるさ。まあ、だから俺はパルミュナちゃんがライノと結婚するつもりだって言ったのが腑に落ちたんだけどさ?」


「えっ、なんでだよそれ!!!」


思わぬ発言に泡を食ったが、当のパルミュナの方をチラ見すると、まったく我関せずと言う風で腸詰めを囓っている。


「だって、ライノの奥さんになる人ってさ、絶対に『家で帰りを待ってる』ってタイプじゃ無理そうだもんな。むしろ、一緒に破邪をやるぐらいじゃないとさ」


「そんな訳あるかっー!」


「そうか? 俺はさ、パルミュナちゃんが実はすっごく強そうだって思ったから、寄り合い所で『アタシは破邪の従者なの』って言った時にさ、実は内心すっごく納得してたんだよなあ。『あっそうか、こういうペアもアリなんだ!』ってな...」


「えええええぇー」

「レビリスって分かってるじゃなーい! ホント、そーだよねー」


「いやだって...まあ、パルミュナがどうこうってことじゃ無くてだな、破邪って、基本は独りで動くもんだろ? 大物相手でパーティーを組むことはあるけど、それでも各々が自分の判断で動ける破邪の集まりだ」


「そりゃライノの言いたいことも分かるさ。イザって時に、破邪は自分の面倒を見られるし、覚悟もある。誰かを連れて歩いて守るって言うのは、いつ何時どうなるか分からないもんね」


「そういうことだよ。本当のパルミュナは俺より遙かに強いって思うからどこまでも一緒に行けるけど、普通の相手じゃそうは行かないだろ?」


「だけどさ、ライノの方が普通じゃ無いじゃん?」

レビリスの意外なセリフにビックリする。

「えっ?」


「だって勇者だぜ? 普通の破邪とは訳が違うだろ。並の破邪が誰かを守りながら遍歴をするってのは厳しいだろうけどさ、勇者だったらそんくらい楽勝だろ」

「え、いや...そういうもんかな?」


「そうじゃないかな? 俺は実際にあそこの城跡でライノやパルミュナちゃんの力を見てるしさ、そもそも、ライノが普通の破邪だったら全員あそこで死んでるさ」


「まあ、それもそうだけど...仮にパルミュナがいなかったら、俺もあそこでレビリスを絶対守り切れた自信はないんだよなあ...」

「平気だったと思うよー。ライノだってもう防護結界使えるしー」

「それで試して駄目だったら最悪じゃないか?」

「自信持っていいの! ライノは用心深く考えすぎー」

「うぉお、無責任なこと言うなよ。人は精霊とは違うんだぞ?」


「まあ落ち着け勇者...じゃあ塩の話に戻すけどさ、その岩塩採掘場にも色々な話があってな...」


そう言ってレビリスは伯爵夫妻の事故現場について語り出した。


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