咆哮の発動条件
「正直言ってアプレイス。俺もいまじゃあ、実は人族よりドラゴン族の方が温和じゃないかって思ってるよ」
「まぁそこまでは言わないケドな。とにかく人族は戦うことに対しての創意工夫が凄えんだよ。生まれつきの力や魔力、スピードの差だけじゃ勝負がつかない。大したもんじゃねえか?」
「良い事かソレって?」
「だって船や道を作ったり農地を切り開いたりするのと根っ子は同じだろ。『創る分野』は工夫するけど『壊す分野』は工夫しないなんて、そんな器用なこと出来るワケないって思うぞ?」
「そうか...まあ同じ頭を使うんだからそうかもな...心の問題のような気もするけど」
「ともかく、マリタンの推理が正しけりゃ、今でも『獅子の咆哮』は稼働中って事だ。ライノの言ってた通りだったな」
「嬉しくないよ!」
「ですが御兄様、四百年近くも動いていることを気付かれていないと言うことは、サラサス王家に動かす力が無いと言うことですよね?」
「そうだけど...スライが言うには大戦争以降は大した諍いも無かったらしいし、あれが本当に罠だとすれば、単に『発動する必要が無かった』って考えた方が良いかもしれない」
「確かに王宮自体が罠とか、ギリギリ瀬戸際まで追い込まれねえと使うワケないよな!」
「ああ。それにエルスカインが目を付けてる可能性がある以上、こっちも喫緊の課題に思えてきてるんだ」
「そうね兄者殿。もしも『自爆兵器』みたいなモノだとしたら危険だわ」
「じばく兵器? なんだソレ?」
「ヴィオデボラのドゥアルテ卿みたいな行いよ兄者殿。つまり、自分を囮にして引き寄せた敵を巻き込んで一気にやっつけちゃうってこと。もちろん自分自身を犠牲にして、ね?」
「無理心中戦術か!」
「おおぅぃ...エグいな。あと変なネーミングするなよアプレイス」
「慰霊碑裏の使用上の注意に書いてあった『我らと彼らを等しく滅ぼす』ってのはそういう事だろ? むしろ『自爆兵器』なんて呼称がマリタンの時代からある方がビックリだ」
「うっ、その通りだなアプレイス」
「それにライノ、もしも現王家が『獅子の咆哮』の使い方を分かってないとすればだな...それは自分たちが自爆攻撃の『囮』にされることも分かってねぇって話だぜ?」
「だよなあ...」
ただ、サラサス王家として使いたくなる状況はまず来ないはず・・・誰も攻めてくることの無い状況で使っても、それはマリタンの言う『自爆』じゃ無くて、ただの大掛かりな『自殺』だからね。
問題は、もしマリタンの推測通りなら、なにかの条件を満たせば自動的に『獅子の咆哮』が発動する可能性があるってことだな。
毎年の慰霊祭で大勢の人々が訪れてもなんともなかったのだから、なにか『押し掛けてくる人数』だけじゃない条件があるんだろうけどね。
「でもマリタン、あれって本当に自爆兵器なのかな? そこまでして敵を滅ぼしたいってのはよっぽどな状況だと思うんだけど?」
「そうね...最初から自爆兵器として作られてるのでは無くって、結果として今はそうなってるだけの可能性も高いわ。本来の使い方をすれば、囮役の王族達はちゃんと生き延びられるのでしょうね」
「そっか。使ったマディアルグ家自身は生き延びてるんだもんな。一番奥にあるって言う離宮の中にいれば安全とか、かな?」
「かもしれねえな。スライ殿は離宮が王族の個人的な空間だって言ってたし、敵を引き込むエサになると同時に、エサを死なせないように守る装置になってるのかもしれん」
「エサ、エサって身も蓋もないな」
「何を今さら。ここんところ、そんな話ばかりじゃねえかライノ?」
「確かにそうだけど...でも、エルスカインはどうして『獅子の咆哮』を狙うんだろう?」
「そりゃ強烈な武器だからだろ?」
「四百年も放置してたクセにな」
「御兄様、放置していたのでは無く、温存していた可能性はありませんか?」
「えっ!」
「もしあれがヒュドラの毒だとするならば、そもそも初代サラサス王家が『獅子の咆哮』を使用できたこと、いえ所有できたこと自体が異常です。ですが、当時から『魔獣使い』という二つ名で色々な国の紛争に介入していたと思われるエルスカインが、『貸し与えた』と考えれば説明が付くのではないかと...」
「なるほど...初代サラサス王家に貸しを作り、そのまま国家の力で保管させていたって事か」
「ひょっとしたらルースランドのように、マディアルグ王家をホムンクルスと入れ替えて傀儡政権を作っていたのかも知れません。ただ、そうだとすれば宰相のメシアン家による王位簒奪は予想外だったのでしょうけれど」
「簒奪の善悪は抜きにして、俺たちにとっては幸いだったわけだ」
「その可能性はあると思います」
「そう言えばパーキンス船長が、ルースランド王家の商会からヴィオデボラ探索を持ちかけられたのは八年くらい前だって言ってたな...その頃に『獅子の咆哮』の使い道が出来たから取り戻そうとしたら失敗した。で、予備の押さえとしてヴィオデボラの探索もしておくことにした、と言うことか」
「なあライノ、八年前から十年前...その頃に一気に色々と動き出した感じがするよな?」
「そうだな...」
サラサス王家への襲撃。
リリアちゃん母娘のエルダン脱出。
パーキンス船長によるヴィオデボラ探索開始。
俺の育ての両親、フルーモアとリリルア夫婦への襲撃も・・・
完全な推測だから確かめようが無いけど、ひょっとしたらリリアちゃん母娘が脱出する切っ掛けになったエルダンの錬金術師の交代も、その頃のなにか関係しているのかもしれない。
「その頃、エルスカインになにかあったのかな?」
「逆じゃねえかライノ? その頃にようやく準備が整ってきたんだろ」
「大結界か...」
「その完成の目処が着いた。どんな関係があるかは分からないけど、ソブリンのゴーレムやらトークンやら、挙げ句にドラゴンシェルターだったっけか? そういう仕掛けも整ってきた。単に俺たちが知ってるのは最近の出来事だけだってのもあるけど、エルスカインの準備が整いつつあるように感じるぜ」
「ますます嫌な感じだ。とりあえずスライに、サラサス建国の頃の『疫病』に関する詳しい話と、メシアン家による『王位簒奪』がどんな風だったのか、分かる範囲で調べて貰おう」
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対策会議を一旦解散して自室に戻り、まずはスライに情報収集を依頼する手紙を書く。
スライとはリンスワルド牧場で手紙箱をやり取りしていたから、ラクロワ邸に直接手紙箱を送っても良いのだけど、久しぶりの故郷だから屋敷の自室にいない可能性も高い。
部屋の掃除に来たメイドさんに手紙箱を見つけられても手間を掛けるだけだし、俺が転移して不可視状態でスライの部屋に行き、本人がいれば話をする、いなければドアの下に手紙を突っ込んでおくって段取りでいいだろう。
無用にラクロワ家の使用人達と顔を会わせる必要も無いからね。
まず知りたいのは、件の『疫病』は実際のところどんな風に発生し、どれほどの被害をもたらしたのか?
そして大切なのは、その疫病がどういう風に収まったのか? だな。
本当の疫病なら、ある日パタリと収まったりはしない。
もし罹患した人々が全員死んだとすれば、その土地には長年、誰も近づいたりはしないだろう。
肝心のマディアルグ王家だって、ワザワザそんな場所に城を建て直したりするもんかって思う。
大勢の人々の亡き骸を埋葬するのは大変な事だから、すぐに大量の兵や人足を呼び集める事が出来なかったら、周辺の土地はそれこそヒドイ状態になるだろう。
城下町を復興させるなんて何十年後の話だって感じじゃ無いかな?・・・
でも、それが『毒』なら話は別だ。
毒がすぐに消える事を知っていれば・・・ドゥアルテ卿が言っていた様に『長期間に渡って太陽光に晒されていれば中和される』と分かっていれば・・・王家はその後に平気な顔で戻ってこられるし、『秘密兵器』も所有したままでいられる。
敵の親玉を斃した後なら、各地の戦場に散らばる兵達を憂い無く集めることも出来るだろうしね。
もう一つの鍵は、メシアン家はなぜ王位簒奪を企てたのか? って事だ。
マディアルグ家がエルスカインの傀儡政権として成立していたとするならば、メシアン家は『永遠の命』を得たと勘違いして傍若無人に振る舞うマディアルグ家の王に叛乱したって可能性もなくは無い。
なんにしても、どちらが正しいとかじゃあ無いだろうし、ただの『権力欲』なら分かりやすいけど、エルスカインが絡んでいる可能性がある以上はなんとも言えないけどな・・・




