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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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<閑話:ライノの疑問>


: 前にパルミュナもアスワンも、人の考えとか感覚とかよく分からないみたいに言ってたけどな、それって逆の立場でも同じなんだよ。


: 逆ってー?


: 人にとっても、精霊の感覚や考えはよく分からないってことだ。大精霊を良い存在だと信じてるけど、でも理解してるか? って聞かれたら、全然だって答えるよ。


: そっかー。


: まあ、パルミュナがやたらと俺のことを茶化してくるのだって、別に悪い気持ちで受け取っちゃあいないんだよ? 

ただなあ、その場の方便だとしても妹だ従妹だ妻だ夫だ結婚だとか揶揄われてもさ、精霊たちって人の使う言葉の意味をちゃんと捉えてるのかなーって思っちまう。


: えーっ!


: えーじゃないわ。当然だろう?

だいたい、俺とパルミュナが一緒に旅をするようになって、まだそんなに経たないだろ?

別に変な意味で聞くんじゃ無いけど、なんでそんなに俺と結婚するだの王都で一緒に暮らすだのって『設定』を面白がってるんだ?


: だってこんにゃく者だしー。


: 噛んだな。

正直、最初は単純に面白がって俺を揶揄ってるだけだと思ってたんだけど、お前にとって、なんか違う意味でもあるのか?


: ライノは、これまでの勇者と違うかなー。


: 答えになってないぞ。

それに、俺の持ってる魂は昔の勇者と同じなんだろ?


: 芯が同じだからガワも同じとか、同じ種からは同じ果実が実るってわけじゃないわよー。


: それはそうかもしれんが...でも、どう違うっていうんだ?

はるかに弱いとかなら自分でも納得せざるを得んけどな!


: そんなこと言ってなーい。

勇者に限らないけど、アタシたちと出会った人たちってさー、みんな、アタシたちがいくらやめてって言っても『大精霊サマー!』なんて傅かれたりして、気分よくなかったの。


: あー、まあレビリスですら、最初は跪こうとしたもんな...


: ライノはねー、アタシを『心配』してくれたの。

これまで会ったことのある人族なんて、一人残らず、アタシが大精霊だって分かったら、ひれ伏すとか、崇めるとか、あと、お願い事をしてくるとかー?


: そんなもんだろ? 相手は大精霊なんだから。


: みんな『問題を解決して欲しい』って言ってくるばかりでさー。

そうじゃなくてライノみたいに、寒くないかとか、お腹は空いてないかとか、甘いものが好きだろうとか、力は足りてるかとか...

精霊への奉伺(ほうし)とかじゃなくってさー、存在としてのアタシ自身を気遣ってくれた人なんて初めてだったよ?


: そんなもんかなあ?

具が大精霊っても、ガワが小さな女の子だったら気遣うのは普通だろ?


: 『具』ってなによ、具ってー。

こんな可愛い女の子を揚げパンみたいに言わないでよねー。

まーともかく、ライノがアタシに頼むことって、勇者って仕事の中で必要なことだけで、自分自身の問題を解決して欲しいなんて、一度も言ったことないよね。せいぜい『お湯沸かしてー』くらいじゃない?


: まあ、確かに湯沸かしは毎日頼んでた自覚がある。


: アタシにとって、『人』から自分のこと心配されるなんて、この世界に生じてから初めてのことだったなー。

他の人たちみたいに、不治の病を治してとか、畑を豊作にしてとか、戦争を終わらせて、とか、アタシたちに出来もしないことじゃなくて、お湯沸かしてって頼まれたのも初めてー。


: ...うむ。一応、悪いかな? って気持ちもあったけどな。


: 精霊はさー、人族とは生まれが違う...住んでる世界が重なってるけどズレてる。

だから人族には見えないものが見えてたりー、人族とは違う力を振るえたりもするけどさー、精霊に出来ない事は沢山あるし、人族の方ができることも強いってこともたくさんあるのー。

だって精霊が人や世界を作ったわけじゃないし、あたしたちだって人族と同じように、ただこの世界に生まれ落ちたってだけー。


: そういやアスワンもそんなこと言ってたな。


: 要は、大精霊なんてそこまで大層なものなんかじゃないのさー。

精霊なんて結局、みんな自分が好きなこと、やりたいことをやってるだけだしねー。

そこはちびっ子たちと本質的に変わらないのよー。

ただ知恵があるから色々複雑なことをしてるってだけ。


: ひょっとしたらだけどな、もしも最初に出会ったのが泉で馬鹿なことをしでかしてるパルミュナじゃなくて、アスワンだけだったとしたら、俺も『大精霊様の御意に!』なんて言うような接し方になってないとは、言い切れない、のかな...


: ライノはきっと、そうはなってないと思うけどなー。

アタシがいなくても、今頃はレビリス相手みたいに、大笑いしながらアスワンの背中をバンバン叩いてるんじゃなーい?


: うーん、どうだろう? 微妙だな。

まあ、いまにして考えれば、最初にパルミュナが俺に声をかけてきたのは、結果として良かったのかもしれないな。


: どーしてー?


: だって、あれで『無条件に大精霊を敬う』とかいう気持ちが生まれるわけないからな!


: それって、ほめてるー?

: おう!

: うそつきー!


: 言い方が悪かったな。ほめてるんじゃなくて感謝してる。

最初に出会ったのがパルミュナで良かったと思ってるよ。


: ...


: どうした?


: アタシはねー、この世界に生じて初めて『現世(うつしよ)』でも関わりを持ちたいと思った相手がライノだったっていうだけー。


: それは...まあ俺はありがとうっていうところだな。

ちょっと照れるけど。


: 仮に、『嫌い』と『憎い』っていう心から生まれたのが魔物だとすればさー、逆に何かを『好き』という気持ちから生まれてるのが精霊だからさー。

だから好きって気持ちは精霊にとって大切なの。


: なるほど。


: でも、好きっていうのは、別にライノが言うような『善の心』とかじゃないのさー。

ただ好きなだけなんだー。

精霊は人の基準で言う『善いこと』 をしてるわけじゃなくってさー、『好きなことや面白いこと』をしてるだけなんだもの。


: 善かどうかは、好きってのが、どういう意味かにもよるよな?


: 自分の周りにある何かが、消えたり滅んだりすることを望むって言うなら、それは嫌いってことでしょー?


: まあ、そうなるか。


: 好きって言うのはその逆なの。自分の周りにある好きなモノが、ずーっと続いて欲しい、もっと増えて欲しい。そーいうこと?


: うん、それは分かる。それは人の感覚でも同じだろう。


: だからー、嫌いには終わりがあるけど、好きには終わりがないの。


: いや、だからーってなにが、だからー、なんだ?


: 嫌いはさー、自分の嫌いなモノの最後の一個が消えちゃえば、もう、そこでおしまーい。

だって嫌う対象が全部消えちゃってるんだから。


: おお、それは確かに!


: でも、好きはどんどん増えていくから終わりがないの!

善も悪も関係なくて、ただそれだけなのー。


: なるほどなー。そういうもんなのか。


: うん、そういうものなのー。


: 俺が聞いたことに答えて貰ったのかどうかも、よう分からんけどな。まあいいか。


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