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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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隠し部屋と謎の魔法陣


しかし、ここは『入れない』ようにしてあるな・・・


俺は、パルミュナがレビリスの様子を元に戻したのを見て、そう確信した。


単に濁った魔力が澱んでいて不愉快とか気持ち悪いとか、そういうレベルの話じゃない。

破邪が持ち歩いている侵入防止の結界を張る護符の、もっと強烈な奴か、パルミュナが宿の部屋に張った結界に近いのかもしれない。

たぶん、俺も勇者じゃ無かったらレビリスと同じ状態になってたんだろう。


未だに、自分が勇者になったと言う事実がピンときていないというか、特に最近忘れがちという感じも有るんだが、こういうことがあると改めて気づかされるな・・・


気を取り直して、そのまま坑道を進んでいく。


後ろでレビリスのかざす明かりが、俺とパルミュナの前に長い影を造りだし、坑道に漂う不気味さを否応にも増している。

だが、もうレビリスの明かりもさっきのようにゆらゆらとぶれたりはしていない。

精霊魔法のおかげで、完全に平静を取り戻しているようだ。

さすがだな、パルミュナ。


雰囲気は坑道だが、本当の鉱山でもないので通路はすぐに壁に突き当たった。

石壁で行き止まりになっているが、もちろんそんなはずは無い。

俺にだって揺らいで見えるぐらいだから、この程度、パルミュナにとっては無いも同然の幻惑だろう。


パルミュナはもはや遠慮も無く、呪文の詠唱もなしに片手を振って幻影を消し去った。

俺の後ろでレビリスがそれを見て息をのんだように感じたが、説明は後だ、後。


消え去った石壁の向こうには木の扉。

こっちは実体があるっぽいが、パルミュナが手をかざすと、さっきと同じようにミシッと言う軋んだ音がして扉がぶれた。

俺が力を込めて扉を押すと、軋んだ嫌な音を立てながらもゆっくり内側に開いていく。


そして、その奥には予想外に広い空間が広がっていた。

地下なので天井は低いが、面積だけで言えばさっきの謁見の間とどっこいどっこいの広さがある空間だ。


「なんの部屋だ、これ?」

「まあ順当に考えればさ、財宝とか重要物資を隠しておいた場所じゃないかな?」


そう言ってレビリスが数歩進んで俺とパルミュナの脇に並んだ時、部屋の床全体がレビリスの光に照らされて、中心部にあるものが姿を現した。


ある意味では予想通り・・・魔法陣だ。


「なんだよこれ...」

レビリスの声に不安が籠もる。


「これって転移魔法陣か、パルミュナ?」

「うん、そーだね。ただ、転移だけじゃ無いなー...吸収? 召喚? 合成? んんんー変な術式ねー」

「複数の役目が組み合わさってるって感じか?」

「そんな感じー、でもこんなややこしいことする意味って...あ、分かった!」

「なんだ?」


「これ、ここの地下を流れてる魔力の奔流に手を伸ばして、そこから直接魔力を掬い上げてるのー! それで、吸い上げた魔力を自分たちの魔法に合成して他所へ送っててー...なんで?」

「いや、俺に聞かれても...」

「んー、それに転移門と召喚術を組み合わせてー?...何がしたいのかなあ?...」


「どうしました?」


急に後ろから声をかけられて、俺たちは驚きつつ振り向いた。

そこには、カンテラを下げた温和な顔の村人が通路に立っている。


「えっ、村長さん! なんで? いや、ここに来ちゃダメです。危険なんだ!」


レビリスが慌てて、その村人に近寄ろうとした。


「やめろレビリス! そいつに近づくな!」

「え?」

「レビリス、ただの村人が、破邪に気配を気づかれずにこんなに近寄ってこれると思うか?」


「あっ!」


俺たちに姿を見せるまで綺麗に存在を隠していたことは見事だが、いま、その村人には尋常では無い気配のものがくっ付いていた。

その様子は俺には、そして恐らくパルミュナにも見えているはずだが・・・まるで、あの山賊たちのようだ。


「くっ付いてるものが見えてるよ、村長さん?」


レビリスが村長さんと呼んだ初老の村人は、俺にそう言われてニヤリと破顔した。


「ほう、見えているとは...全く田舎の破邪ごときが調子に乗りおって...まさか、あの扉をこじ開けた上に、ここまで気も狂わずに歩いてこられるとは思わなかったがな」


「アンタ...いや、アンタの後ろにいるエルスカインがこの魔法陣を作ったのか? なんなんだこの魔法陣は?」


「なるほど、その名を知っておる者か...その魔法陣はな、世界を巡る魔力を吸い出して集める力を持っている。集めた魔力は、儂らが各所に置いたこの魔法陣の網の目に溜めておき、いつでも好きなように使うことが出来るのだ」


エルスカインという名前を否定しなかったな・・・


「そこから溢れて滲み出た魔力が、この地に澱んでいた訳か」

「まあな。もちろん、ただ溢れていた訳では無く、その魔力を使って色々な実験もしていたのだがな」


「何故そんなことを?」

レビリスが叫ぶ。


「その理由を聞いても意味が無かろう? どうせ死ぬ」

村長は冷たくそう言い放つと付け加えた。


「丘の上で何も見つけられずに引き返しておれば、ここで死なずに済んだものを...解呪の魔法が強力なことは褒めてやろう。剣の腕前がどの程度かは、これから試すとするがな」


「何をする気だ?」


「この魔法陣の機能の一つを見せてやろう。もちろん見終わった後にお前たちは死ぬが、儂らにとっても良い実験台になるからな。せめてもの役に立って死ぬが良い」


村長がそう言うと同時に部屋の扉が勝手に閉まって、レビリスの手から明かりが消える。


だが、レビリスの光魔法が途絶えて部屋が暗闇に閉ざされていたのは、ほんの数瞬だけだった。

すぐに床の魔法陣が歪んだ光を放ち始め、室内は青ざめた光にほんのりと照らされていく。


この魔法陣に仕込まれている罠から何が飛び出すのか、それによってとれる選択肢が変わるが、あの村長に憑依していた何者かが、あれだけ自信満々だったと言うことは生半可な代物では無いだろう。


「パルミュナ、レビリスを守ってやってくれ!」

「うんっ!」


本音を言えば、あまりパルミュナに役目を押しつけたくない。

根は真面目なパルミュナが、その役目を全うしようと、危険な状況になっても逃げない可能性があるからな。

だけど、いま一番危険なのはやっぱりレビリスだ。


「いや、俺も戦うから妹ちゃんは部屋のすみ...」


最後まで言い終わらないうちに、レビリスはパルミュナに部屋の角まで押しのけられた。

自分の胸までしか背丈の無い華奢な少女に、壁まで一気に押し下げられてレビリスが驚愕するが、パルミュナは構わずレビリスに背を向け、仁王立ちになって両手を広げる。

パルミュナの体から膨大な魔力が放出され、綺麗な銀色の髪の毛が波を打って浮き上がった。


常識外れの魔力量が渦を巻き、空中ですら視認できる強度の魔法陣が構築されていく。

昨日の夜、俺が教えて貰った防護の結界と基本は同じだが、出力と緻密さが桁違いだ。

やっぱりパルミュナって凄い!


「え、妹ちゃん?...」


レビリスが度肝を抜かれているが、あのパルミュナの結界の内側なら、少々のことは大丈夫だろう。


そうしている間に、魔法陣の中心の円を囲むように並んだ何かがゆらりと実体化し始める。


ブラディウルフか・・・それも十匹はいるな。


俺は習い立てホヤホヤの防護結界を自分に施すと同時に、ガオケルムを抜き放って、壁を背にしたレビリスとパルミュナの前に立った。


今回初使用の防護結界の強度には全く自信がないし、床の魔法陣が持つ術式の意味が完全に分からない以上は、できるだけ陣の中に踏み込みたく無いんだが、そうも言ってられないか・・・


悩むまもなく、完全に実体化したブラディウルフが、一斉に俺に向かって飛びかかってきた。

ただ、十匹同時と言っても、元の出現位置が円周上にずれてるし、そこは飛び上がるタイミングや方向、ジャンプに込めた力などに若干の差はある。

でないと、十匹が空中でぶつかりあってしまうからな・・・って、いやでも本当にぶつかりそうな間隔だなこいつら!


精神を集中し、自分とガオケルムに魔力を込める。


それと同時に、俺に向かって飛びかかってきつつあるブラディウルフたちの動きが、まるで水の中にいるようにゆったりとした動きに変化した。

もちろん、実際に魔獣の動きが遅くなったのでも、モノを動かす世の理が変わったのでも無く、勇者の力で俺の身体と心の働きが桁違いに加速されているだけだ。


生身の破邪にとっては、一対一でも油断できない相手のブラディウルフだが、いまの俺の動きに較べればスピードもパワーも、赤ん坊のハイハイに等しい。


俺は、わずかな時間差で喉元めがけて牙を向けてくるブラディウルフの塊に向かって自分から踏み込み、下段から掬い上げるようにガオケルムで左から右へと一気に撫で斬りにした。


普通の刀ならこうはいかないが、アスワンの魔力を込めて錬り上げられた魔鍛オリカルクムの刃は、まるで実体の無い霞でも切ったかのように、なんの抵抗もなく五匹のブラディウルフを一閃で切り裂く。

飛び上がった姿勢のブラディウルフたちは、空中にいる間に揃って首と胴体のつながりを失っていた。


そのまま腕を捻って、身体の真横まで振り抜いていたガオケルムを上段に持ち上げ、一拍遅れでさらに高い位置から飛び込んでくる残りの五匹に斬り込んだ。

俺の頭上から斜めに走った太刀筋に位置していた二匹のブラディウルフが、ほぼ身体の真ん中で前半身と後半身に分かれて床に落ちていく。

その亡骸が床に落ちきる前に、着地しつつあった次の二匹の首も返す刀で払う。


一番離れた場所にいた一匹は少し賢く、着地と同時にステップを踏み換えて横から飛びかかってこようとしている。

だが悪いな? 魔力を纏ったガオケルムの斬撃はこの程度の距離なら空間を越えて届くんだ。


最後の一匹を両断して振り返ると、床には十体分のブラディウルフの胴体と頭が転がって、なかなか壮絶な光景だ。


うーん、こいつらが綺麗に並んで一斉に攻撃してきたことは、逆に言うと、ちゃんと統制されてるってことだよな・・・そもそもブラディウルフは、普段は単独行動しかしないはずだぞ? 

群れで行動しているブラディウルフが観察されたことなど、俺の知ってる限り一度も無い。


「なっ! ライノ、お前....」

だから説明は後だ、レビリス。


もちろん俺もこれで終わりだとは思ってなかったが、魔法陣の上にはすでに次のグループが実体化し始めていた。

今度はウォーベアが五匹か。

さすがに一歩も動かずに迎え撃つのはちょっとやりにくい。


俺は覚悟を決めて魔法陣の上に乗った。


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