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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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ヴィオデボラ島


洋上をひたすら南下していくアクトロス号の追跡はさらに一週間が過ぎて、もはや俺は自分が『石像』だと自己暗示を掛けるレベルで退屈さに達観していた。

パルレアはとうの昔に革袋に引っ込んで出てこなくなっている。


破邪の修業時代には、何日も魔獣を待ち伏せするための『動かない』修練や、その間も集中力を失わないための瞑想なんかを死ぬほど・・・体を動かせ無さ過ぎて発狂死しそうなほど・・・やらされたけど、今回はそう言うのと違って不思議な退屈さに満ちている。

きっと、本当に『一人きり』では無いからなんだろうな。


国によっては『酷い犯罪を行ったけど死罪にはならない者』を、窓一つしか無い牢獄に一人で何年も閉じ込めるって言う罰を行うそうだけど、ちょっとそのキツさが分かった気分・・・


シンシアはマリタンと魔法談義が出来るし、他にも沢山の魔法関係の書物を小箱に入れてきている。

あまりにも退屈している俺を見かねて、『御兄様も読んでみますか?』と差し出されたけど、俺にとっては睡眠導入魔法のような文字列だった。

今度アスワン屋敷に戻った時には、俺も談話室か二階の図書室から適当な、かつ分厚い書物を幾つか革袋に入れておこう・・・


そんなことを考えつつ、このまま『精神的な干物』になりそうに思えてきた時、アプレイスが不意に警告を発した。


「ライノ、アクトロス号が帆を半分巻き上げてスピードを落としたぞ。きっと、この先に浮かんでる雲の下辺りに何かあるな!」


理屈は分からないけど、大洋では島があるとその上に雲が集まる、らしい。

言われて進行方向に目を凝らすと、確かに他よりも一段と大きな雲が見えた。

そこだけ雨が降ってそうな雰囲気だ。


「どうするライノ? 雲の中に飛び込んでみるか? それとも真上から何か見えないか探してみるか?」

「いや、相手は古代の遺物だ。何があるか分からない」

「私もそう思いますアプレイスさん。防御魔法の類いも考えられますし、迂闊に近づかない方が良いのではないかと...」


「ふーむ、まあドラゴンを捕まえたり支配しようって連中が相手だからな。油断しないように気を付けるとしよう」

「それがいい。海面近くまで降りて横から見てみようよアプレイス」

「わかった!」


< 出てこいパルレア、目的地に到着だぞ >

< はーい >


アプレイスがすっと高度を落としつつ進行方向を少し斜めにずらした。

もうヴィオデボラ島の位置は分かったのだから、アクトロス号を追い抜くこと無く横から回り込むつもりだろう。


「なあライノ、あれは...『島』なのか?」


アプレイスが疑問を口にするが、俺も同感だ。

俺が聞いていた伝説では、『島の周囲は断崖絶壁でボートが上陸できる浜は無い』と言われていたけど、アレは断崖絶壁というよりも普通に『壁』だろう。


黒い壁だ・・・

つまり『凝結壁』だろうか。


「この距離からだと断言は出来ませんが、周囲は凝結壁で出来てるように見えますね御兄様。伝説の『断崖絶壁』が本当に壁だったなんでビックリです!」


「黒いから、遠目には岩のように思えたってワケか...」


「そりゃあライノ、そもそも凝結壁なんて知らなかったら岩だと思うだろう。俺たちだって南部大森林の魔石サイロを最初に見た時は、自然のモノかどうか判断しかねてたんだからな」

「それもそうか」

「で、どれくらいまで近づく?」

「アクトロス号よりは島に近づかないってくらいの距離感で頼む」

「了解だライノ」


高い凝結壁に囲まれた島の上部はモヤっとした緑色で、沢山の木々が生い茂っているように見える。

元々の島の地上がどういう状態だったかにも依るけれど、エンジュの森であの巨木の森林が育つほどの年月が過ぎているのだから、岩の上に木々が生い茂っているくらい当然だろう。


むしろ、ずっと波に洗われてきたはずの壁が崩れ落ちていない事がビックリだ。


++++++++++


アプレイスが海面に近づき、島の周囲を半分だけ回ってから折り返した。

完全に一周しなかったのは、島に近づいているアクトロス号から目を離さないためだろう。

そしてまた半周。

これで島の周りをぐるりと確認した訳だけど、港や桟橋のようなものはどこにも無かった。


これなら伝説通り、『上陸できる場所がどこにも無かった』って言う体験談に納得だな。

飲み過ぎた酔っ払い扱いされた船乗り達よ、君たちの名誉は回復されたぞ・・・


「ライノよ、ありゃあ背の低い円柱が浮いてるような感じだなあ」

「完全に丸い島か...」


「だな。水面下にどの位が沈んでるのか分からねえけど、そのままの形だったらホントに円柱だ。それこそ、『桶』や『樽』が縦になって浮いてるような感じじゃねえかな?」

「まあ、どう考えても人工物だよな...」

「アノおっきさでーっ?!」

「そうだよ。アプレイスはどう思う?」

「俺もそう思う。あれほど大きな浮舟って言うか『浮島』を作る方法は分からねえけど、逆に、あんなものが自然に出来上がる理由こそ思いつかないね」


ざっと考えて、島の外周を歩いて回るだけで二刻ほど掛かりそう。

それなりの大きさの『島』をまるまる一つ造り出すとは、古代の魔導技術は本当にハンパじゃないな・・・


いま、アクトロス号はメインセイルと呼ばれる大きな横帆を畳んで速度を落としつつ、真っ正面にヴィオデボラ島を捉えて進んでいる。

つまり、浜も桟橋も見えない黒い壁に向かって一直線だ。

このまま激突する訳は無いのだから、なにか着岸するための仕掛けがあるんだろうし、アプレイスもそれが気になっているんだな。


「おい見ろよライノ、島の上からなんか出てきたぞ!」


言われて上に目を転じると、木々が生い茂った島の上方から何か巨大な物体が空中に滑り出していた。


「なんだよあれは!?」

「何アレー!」

「桟橋...みたいに見えるけど、そんなワケないよなライノ? あんな高いところに桟橋が出てきても意味がない」


「平らで四角くて、桟橋って言うか『艀』(はしけ)みたいな形だけど、それにしてもデカいよなあ...あれアクトロス号よりもデカくないかアプレイス?」

「二回りはデカいな」

「待って御兄様! アレって空中に浮いてますよ!!!」

「ホントだ、すっごーい!」

「おおっ、マジだ!」

「あんなデカいものがよく空に浮かぶよな! 信じられねえぜ!」


「...お前が言うかアプレイス?」


「まあほらアレだ。あれは人工物だから種族魔法なんて関係ないだろうしな?」

「そうだけどさあ...」

「きっとアレは、浮遊魔法、ね」

「じゃあマリタン、あれは銀ジョッキを浮かせてるのと同じ類いの魔法なのか?」


「多分そうよ。だけど、あれほど大きいものを浮かばせる魔道具は、相当な魔力を消費するわ、ね」

「ソレってどのくらいー?」

「そう、ね...あの大きさ重さだと島の天辺と海面を往復するのに、推定で標準魔石...兄者殿たちが言う高純度魔石で、五百個くらいは使うんじゃないかしら、ね?」

「まじか...」

「マジだわよ」

「マリタンさん、精霊魔法を封じたメダルなら標準魔石一個でポルミサリア中のどこにでも転移できます。あの『艀』(はしけ)は確かに大きいですけど、こんな短距離にそこまで魔力を消費しないと動かせないのは、効率が悪すぎませんか?」


なんと言うか、シンシアらしいツッコミどころだな・・・


「重いモノを宙に浮かばせるのは転移門よりも魔力を使うものよ。だってアレ、艀じゃなくって桟橋だもの、ね?」

「え?」

「桟橋ってどういうことですか?」

「そのままの意味よ?」


マリタンの言葉に呼応するかのように、その『桟橋』が海面に向かってゆっくりと下降し始めた。


アクトロス号の方も島の手前で舵を切り、後部マストの縦帆を上手く使ってターンし始めたので、後ろに白く波を引く航跡が大きなカーブを描いている。

コレは、島ギリギリのところで速度を相殺して停まる作戦か?


島の手前で大きく弧を描いて向きを変えたアクトロス号は、やがて風上に船首を向けてほとんど停止した。

あんな大きな帆船を細やかに操船出来るとは、素人の俺にも船長たちの腕前が相当なモノだと感じられるな・・・


「おいライノ、空中で二つに割れたぞっ!」


アプレイスの言うとおり、その『桟橋』は中心線から真っ二つに割れて、そのままアクトロス号に向けて飛び続けている。

なんと言うか・・・あんな巨大な構造物が空を飛んでいるってだけでも凄いのに、さらに二つに分かれて動くとか・・・古代の魔導技術のレベルを思い知らされる感じだ。


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