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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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洋上の飛行


追跡に移った俺たちは、ひたすら広くて青い海上を進む小さな白い『点』にしか見えないアクトロス号を上空から同じスピードで追い続けた。

いまのところアプレイスの魔力は十分に足りているから、いつも不可視の結界も掛けたままで、仮に誰かがアクトロス号の船上から後方の空を見上げたとしても見つかる心配はない。


時々シンシアが、上下に海岸線が描かれているだけの地図を睨みながら、銀ジョッキの位置を確認している。


今日はまだ飛び始めたばかりだから、南部の海岸からそれほど離れてはいない。

シンシアが貰ってきた地図上で言えば、ほとんど海岸線に重なっているくらいの距離らしい。

まだ図上にペンで描かれた線の太さ分ほども離れて無いのだと・・・それほど海は広くて、南方大陸までは遠い。

ヴィオデボラがその広大な空隙のドコにあるのかを知っているのは、いまのところエルスカインとアクトロス号の乗組員達だけだ。


「その地図って、ほとんどなーんにも描かれてないのねー! まっしろー」


「ええ御姉様、これに描かれているのは上がポルミサリアの南部海岸線で、下が南方大陸の北部海岸の輪郭です。それと、途中の洋上で位置の分かっている島々だけですね」

「へぇー! 海の地図なんだ!」


「海図と言うそうです。お父様が下さったのですけど、海図上に描かれた諸島の位置や距離の正確さは絶対に期待するなと釘を刺されました。おおよそ『そっちの方に行けば、その場所があるはず』くらいに捉えておかないと痛い目に遭うのだそうです」

「ふーん、まー目印なんか無いもんねー」


「船乗りは進む速度と時間と角度で位置を測るんだよな。後は、この前アプレイスが言ってたみたいな太陽や星の位置だっけ?」

「位置って言うか角度、かな?」

「それ違うのか?」

「太陽で言えば、昼間の一番高い場所にある時でも春夏秋冬でその高さが違う。つまり地上から見た時の角度が違う。同じ時期の昼時でも南北の位置が変われば高さが変わる。なぜって聞かれても説明は出来んが、そんな感じだ。よく見える大きな星も同じようなもんだな」


「あー、そう言えば南方大陸に渡った時、船乗りが『扇』みたいな形をした四分儀って言う道具を空に向けて使ってたな。アレはそういうコトだったのか!」


「俺は四分儀ってのは知らないけど、たぶん太陽や星の角度を測ってるんだろうな。そういう工夫もなしじゃあ、周りに水しか見えない大海原を何十日も旅できないだろ?」

「だよなあ...あの時、もうちょっと詳しく聞いてれば良かった」

「いまさら船乗りになる訳じゃないだろライノ」

「そうだけど、なんか惜しい」

「そっか?」

「あ、分かります御兄様。後から大事な知識を聞き逃してたって気が付くと、凄く悔しいですよね!」

「そうそう! そうなんだよシンシア!」


さすがシンシアは即座に俺の気持ちを分かってくれたよ・・・


先日、俺がソブリンからやらかした『目隠し跳躍』と、敵側の橋を架ける転移門(ブリッジゲート)を使った『行き先不明の転移』の際に、銀ジョッキの詳細な位置を確定できなかったことがトラウマになっているらしく、今回アクトロス号に忍び込ませている銀ジョッキには、シンシアが操る『本体』からの距離と角度を出来るだけ正確に追えるような仕組みを試みたそうだ。


いつの日か、シンシアの発案した『方位魔法陣』の基点がミルシュラントのどこかに置かれて国中の誰にでも使えるようになり、それを反映した地図が出回るようになった時には、どんな位置でも一発で座標を読み取ることが出来るようになるんだろう。

その頃には、探知魔法のペンダントで『連れ合いの浮気を調べる』なんてのは陳腐な話になってるかもな・・・


いまはシンシアが方位魔法陣で読み取った『アスワンの屋敷からの方角と距離』を自分の現在位置として、そこから銀ジョッキがどの方向にどれだけ離れているか、を足し合わせることでアクトロス号の位置を確定する、という俺たちにしか使えない方法だ。


「まあ今回はシンシアがいて銀ジョッキがあるから、アクトロス号を見失う心配は無いけどな。アプレイスも空からだったら見失ったりしないだろうし」


「それもゼッタイ大丈夫とは言えないぜライノ」

「え、なんでだ?」

「天候が良いぶんには問題ないんだけどな。嵐が来たら、あんな白い帆なんか砕けた白波と見分けがつきにくくなる。もちろん低く飛べばいいんだが、雲の下だと雨風をマトモに浴びることになるし落雷も怖い。もちろん結界で大丈夫だけど、落雷を受けた瞬間を見られたら、さすがに俺たちの存在もバレるぜ?」


「おお、そういうことか...」

「まあ、万が一にでも嵐で見失ったり、最悪アクトロス号が沈んだりしても、元の場所に戻るのは大丈夫だから心配するな」


「そうか、仮にアクトロス号が沈んだりしたら銀ジョッキ諸共だよな! 俺たち自身の位置はシンシアの方位魔法陣があるから良いとしても、ヴィオデボラの在りかは永遠に謎のままって事になりかねん」

「それは仕方ないだろう?」

「今のルートを真っ直ぐ進めばぶち当たるってワケにはいかないよなあ...」


「行く訳ないぞ。だってライノ、帆船は風向き次第でジグザグに進んだりするんだろう?」

「だな...」

「と言う訳で、今回もやっぱりシンシア殿とマリタンが頼りだな」

「マリタンもか?」

「今日はこのまま飛び続けるけど、明日は明るいうちに水面に降りて小舟を出そうぜ。俺が一休みしてる間は、マリタンに小舟を動かして貰ってアクトロス号を追い続けよう」


「そうね。ドラゴンが言うように小舟で追うのは明るいうちがいいわ。夜になったら、波間に何か漂っていても気付かずにぶつかっちゃうかも、ね?」

「なるほど」

「確かに、小さな小舟で流木なんかにぶつかったら目も当てられませんね」


「そういうことだシンシア殿。夜の間は俺がアクトロス号の明かりを追って低く飛ぶことになるだろうな」


何気にアプレイスとマリタンの連携が取れている・・・

そして先日から、意外にアプレイスが海のことをよく考えている・・・

やっぱり南方大陸に行ってみたくて、色々と調べたりしていたんだろうか?


++++++++++


風が吹いている限り、外洋帆船が洋上で歩みを止めることはない。

アクトロス号は一晩中進み続け、アプレイスもそれを追って飛び続けた。


辺りが真っ暗になって何も見えなくなると、時々シンシアが銀ジョッキを使ってアクトロス号の位置を確認し、飛行方向を修正する。

後は、たまに俺がアプレイスの口元に浮かんで高純度魔石をザラザラと流し込む以外、特にするべき事も無い。

明るいうちはたまに海面に降りて小舟を出したりもするけど、それはアプレイスが翼を休めるためと言うよりも、単なる気分転換に近い。

仕事の途中に、背伸びして腕を伸ばすようなものかな?


明るくなり、暗くなり、また明るくなり、そしてまた暗くなり・・・簡潔に言えば『退屈』だ。


アプレイスは元々一人で過ごすことが基本なドラゴンだから退屈とは縁遠いし、シンシアはここぞとばかりに『マギア・アルケミア・パイデイア』の内容を隅から隅まで読み耽りつつ、時々マリタンと魔法談義をしているけれど、俺とパルレアは、適当なお喋りと飲んで食べる以外にする事が無い。


いやむしろ、それだけが唯一の楽しみと言ってもいい。


だって、ずーっと眼下を眺めていても島とか他の船なんてモノは一つも無く、全く同じ景色が続くのである。

風の具合で雲と波の様子が少し変わるぐらいで、それもアプレイスの飛ぶ高さからでは良く見てれば分かるけど、っていう程度のレベル。

雲が少ないのは嵐が来ない証拠ってことで歓迎なのだけど、お陰で空もひたすら青い。

言うまでも無く海も青い。

自分の全周をここまで『青色』に包まれていると、もはや広大な海も空も、どこかの部屋の中で壁紙とか床の敷石の模様を眺めているのと大差ない。


ドラゴンキャラバンの時は、その日の宿泊地で火を熾して料理をしてっていう気分転換もあったけど、今回はひたすら俺とシンシアのストックから出す料理を食べるだけ・・・


まあ、料理人の特殊な出自のお陰で、街の食堂として考えれば常識外れにメニュー品目の多い『銀の梟亭』には大いに感謝するけどね。

あとデザートの豊富さにも。


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