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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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発掘を始めた理由


俺は人を道具としてしか考えないエルスカインへの腹立たしさを感じながらも、同時に『何故いまになってヴィオデボラからの荷が届くのか?』に思い至った。

ヴィオデボラ・・・『彷徨う島』が古代の遺跡なら、その存在はエルスカインも昔から知っていただろう。

知っていたけど手が出せなかった、という理由があるはずだ。


「そうか...ようやく獣人族だけで大型船を動かす準備が整ったから、『ヴィオデボラ島』の発掘に取りかかったのかもしれないな!」


「え? 御兄様、それはエルスカインが、獣人族だけで船が動かせるようになるのを待っていたということですか?」

「ああ、そんな気がする」

「なんでだライノ?」

「動く島なら転移門は使えないから船で行くしか無いだろ。でもニセモノのホムンクルスは数が足りないしホンモノのホムンクルスは絶対安全とは言えないから、あんなデカい船をホムンクルスだけで動かすのはムリだ。かと言って、長い航海の度に入れ代わるようなそこらの船員を連れてきても、宣誓魔法じゃ限界がある」


「つまりエルスカインは長期間...どんくらいかは知らないけど、長く掛かるヴィオデボラでの発掘作業と輸送の秘密保持のために、獣人族だけを揃えたってコトだな」

「そうですね...無いとは言えない、そんな風に感じます」

「ああ。ようやく世間の目から隠したまま遺物を運び出す目処がついたから発掘を開始したって、そうは思えるよ」


『船員達が獣人族だけ』で有れば、支配の魔法で完全に掌握できるだろうからな。

秘密保持もそうだし、古代の貴重な遺物を掘り出しても裏切りや着服を心配する必要が無い。

そう言う点で普通の宣誓魔法では、『対象がハッキリしてない』ことを縛るのは難しいのだ。


「つまり、それだけの『ご大層なブツ』がヴィオデボラ島にあるって事か...」

「魔法ガラスの素材ってレベルじゃない気がするね。なにかは分からないけど、良くないものなのは間違いないさ」

「そりゃそうだ」


ローブの男達が口にした『発掘』という言葉。

『魔法ガラスの板』と思われる荷物の到着。

『ウルベディヴィオラとヴィオデボラ』という現代と古代の二つの地名。

古くからある『彷徨う島』という伝説。

そしてルースランドに船籍を置く外洋帆船(キャラック)の入港・・・


まさに材料が揃いつつある感じなんだけど、そもそも南部海岸の港町に注意が向いたのは、リリアちゃんが身に着けていたペンダントが発端だ。

あのペンダントがなにかの『鍵』なのかどうかでシンシアやアプレイスと議論したけど、明確な結論には至ってない。


謎の魔法陣と一緒に魔石に刻まれていた『風と戯れる者に幸いあれ』という不思議な言葉と、ペンダントを受け渡した時にシンシアが見た、かすかに揺らいだ魔力の流れが一層謎を深めているんだけど、仮にそれがリリアちゃんの『血筋』に由来するなにかの魔法だったとしても確認のしようが無かったからな・・・


でも仮に・・・仮定の上に更に仮定を重ねる感じだけど、そこは目を瞑って仮にだ・・・『彷徨う島ヴィオデボラ』がバシュラール家ゆかりの地だとしたら・・・


あのペンダントがなにか関わってきたりはしないだろうか?

それを確認する手段が何か無いだろうか?


ともかくルースランドが所有する商船が、古代遺跡・・・恐らくは『彷徨う島』であるヴィオデボラからの荷物を運んできたことはハッキリしたので、この際、離宮と工房の調査は棚上げだ。


シンシアには銀ジョッキを倉庫から港に移動させて貰った。

あの大きさの船となれば、復路の水や食料を買い付けて積み込むのも大変な作業だし、一日や二日で荷揚げを終えて出航するって事はまず無いから、みんなで貼り付いて見張っている必要は無い。

事故防止のために大型船が深夜に出航することも無いはずだから、明るい間は四人で適時交代しながら、銀ジョッキから送られてくる写し絵を幌馬車の中で見張っていれば十分だろう。


馬車には悪意を弾く結界が張ってあるから大抵の人には手が出せないし、出されれば即座に分かる。

屋敷と港の間は転移門ですぐに往復できるしな・・・


うーむ・・・銀ジョッキからの絵姿と音も屋敷まで届けば、ホント言うこと無いんだけどね・・・って、転移門の贅沢に慣れすぎてる自覚はあるけど・・・


++++++++++


その日の夕食時はパルレアが自分から交易船の見張り番を買って出てくれたので、残りのみんなで屋敷に戻って早めの夕食を取ることにした。

そのついでに咄嗟の思いつきを口に出してみる。


「なあシンシア、ちょっと相談なんだけど?」

「はい、なんでしょう御兄様?」

「銀箱くんのオーラは、乱数とかでいつも変化してるんだよな?」

「そうです。機械らしさを隠すための仕掛けでしたけど、ソブリン市に潜入する時は、それを御兄様のアイデアで上手く活かすことが出来ました」


「じゃあもし、銀箱くんみたいに自律的に動かなきゃいけない魔導機械(ゴーレム)じゃ無くて、ただの魔道具...以前の、アプレイスのフリをしたメダルみたいな仕掛けだったら、誰の『オーラ』でも模倣できるのかな?」


「そうですね...アプレイスさんの時のモノは、言わば『気配』の模倣だったので簡単でしたけれど、『その人そのもの』と見間違うかのようなオーラを造り出すのは時間が掛かると思います」

「出来なくは無い?」

「ええ、まず模倣する元になるオーラをしっかり分析しないといけませんから、えっと...例えば、オーラのパターンを記録するような魔道具を最初に造り出し、それでオーラの流れ具合を把握します」


「ほうほう、それで?」


「次に、オーラを形作っている色々な波長を自在に生み出せるような魔道具を創ります。銀ジョッキと本体の魔力波を調整して一致させるような仕組みと同じですね。先ほどの記録を元に、それで同じようなパターンを幾つも造りながら、記録したものと同じオーラの流れが発生するまで調整を繰り返していけば、なんとかなるかもしれません


「つまり、誰かのオーラを模倣しようとしたら...それが出来るとしても、相手の協力を得ないと難しいってことか?」

「ですね! きちんと記録させて貰わないと模倣する意味が無いかと」

「そうか...」


「御兄様、なにをお考えなのですか?」


「つまりリリアちゃんのオーラだよ、シンシア」

「あっ...」

「もしも彼女のオーラを模倣できてペンダントを借りられたなら、危険な場所にリリアちゃんを連れ出さなくても『鍵』の秘密を探れるかも知れないだろ?」


「確かにそうですね! 正直に言って、私はリリアーシャ殿をどこかに連れ出すことには反対でした。彼女と母親の出自がどうであれ、いまのリリアーシャ殿には何の関係もありませんから」

「そうだな...」

「彼女の幸福を奪う権利は誰にもありません。ですが、御兄様の思いつかれたこの方法が上手く行けば、彼女をノイルマント村から連れ出す必要は無くなりますね!」


「じゃあ賛成してくれるか?」


「もちろんです。御姉様とマリタンさんのお力を借りて、早速魔道具の開発に取り掛かりたいです」

「よし頼んだ。パルレアも暗くなったら適当に戻ってくるだろう。その後は、魔道具関係の片がつくまで俺とアプレイスが交代で港を見張るよ」

「はい、お願いします」

「だけど、まずはノイルマント村に行ってリリアちゃんに協力して貰えるかどうかを確認しないとな。特にペンダントは母親の唯一の形見だ。手元から離したりはしたくないだろうし」


「そうですね...万が一でも失われるかも知れない可能性があれば尚更です。そこは正直に話した上で了承を得ないといけないですよね」

「ああ」

「もしもペンダントを借りられなかったら?」

「ライノ、その時はアサムを拉致すればリリア嬢は勝手についてくるぞ?」


「...アプレイスさん?」


「冗談だってば! そんなコワい目で睨まないでくれよ! マジ冗談だから!」

「別に睨んでいませんよ?」

「それは余計に怖いな...」

「あの?」

「いやいやいや、今のは言葉のアヤだから!」


「まあシンシア、ペンダントを借りられなかった時は、縁が無かったってコトで忘れるとするよ。後は出たとこ勝負だ」


「ふふっ、御兄様らしいです!」

シンシアはクスッと笑ってそう言った。


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