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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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空から漁村をさがす


確かに『支配の魔法』をかけたドラゴンを持ち駒に出来れば、特定の街を襲わせることなど容易いだろうし、先に周辺で少し暴れさせておいて、人々を十分に怖がらせた後でソブリンに向かわせてもいい。


そうすれば『ドラゴンが街に近づいてきてる』っていう話が伝わっただけで、人々は我先にドラゴンや戦火から守って貰える『シェルター』に傾れ込むだろうな。


エルスカインがなんとかドラゴンを手に入れたい理由はコレか?


単にポルミサリア中で好き放題するための戦力としてだけじゃ無く、イークリプシャン、つまり闇エルフ族とエルセリア族の呪い返しの『帳尻を合わせる』ための『最後の仕上げ』に必要だって訳だな・・・


また一人で考え込んでハズすのも嫌だし、これは大事な話だと思ったので、すぐに屋敷に戻ってみんなに話しておくことにした。

再びダイニングルームに集まって貰って、ヨハルさんが仕入れてきた新情報と、そこから導き出した俺なりの推論を話す。


「なるほど。御兄様はそういう理由でエルスカインがアプレイスさんを執拗に狙っていると考えたんですね?」


「俺はそういう気がしてるよ。いまさらエルダンを再建したのも、ルマント村で出してきた虎の子の『ドラ籠』を精霊爆弾で吹き飛ばされたからだと考えると納得がいくしね」

「それは仰るとおりです...」

「じゃあライノ、元々エルスカインは俺に限らずドラゴン族の誰かを手駒にするために、以前から計画を練ってたって訳だな」


「ああ。今年になって突然、俺たちに邪魔されるようになって慌てだしたって感じだろうけどな」

「ドラゴン以外の方法じゃ、その『ドラゴンシェルター』とやらにソブリン市民を入らせるのは難しそうなのか?」


「いや、そうも言えないかな...もしもドラゴンが手に入らなかったら本当にルースランドに戦争を起こさせるかもしれないね」

「ミルシュラントに攻め入るんですか?」

「一度ね。その後ワザとルースランド側に負けさせて首都ソブリンまで逆に攻め込まれるって状況くらい、エルスカインなら作り出しかねないと思うよ?」


「なんとも非道な...でもルースランド王家は乗るでしょうか?」


「むしろ『絶対に勝てる』と思い込まされるとか。たぶんエルスカインにとってドラゴンシェルターを動かした後は、ルースランドって言う国自体がどうでもいいんじゃ無いかな?」

「そして途中で裏切られると?」

「エルスカインにとって国や王家なんてただの駒だよ。けど、そこまでやるのは色々と手間が掛かって面倒だろうし、軍を動かす関係で全市民をそっくりシェルターに入らせるのも難しい。まあドラゴンに襲われる状況を造るのが一番だろうな」


「なるほど...エルスカインらしいと言えばエルスカインらしいですね。大胆で非道で、よく考えてます」

「全くだ」

「そうなると、ヴィオデボラから秘密工房に運び込まれるのは、その『ドラゴンシェルター』を製作するための部材だという可能性も高いですね」


「確率は高いだろうな」


「なあライノ、だったらエルスカインの計画を止めるためには、ヴィオデボラ島への追跡の前に、その部材とやらを強奪するなり破壊するなりしといた方がいんじゃねえか?」

「いや、それはダメだアプレイス。明日届く部材が全部とは限らないから、中途半端に強襲をかけても奴らを警戒させるだけになる。秘密工房の場所は分かってるんだから、必要あればいつでも攻められるよ。それに、ヨハルさん達には手紙箱を渡してあるから、何か特別なことがあれば知らせてくれるだろう」


「なるほど、分かった」


「なので、明日はまず計画通りに俺がどこかで小舟を仕入れてくる。それから全員でウルベディヴィオラに跳んで、積み荷が港に届くのを待とう」


++++++++++


翌朝はソブリンの宿を早めに引き払い、同時に三人分のトークンをまとめて回収箱に放り込んでおく。

何か魔力波動とやらを追跡する仕組みでもあるんだったら、持ち続けてるのも不安だしね。


早朝に宿を出て市壁の門まで歩いたのだけど、市内にも徴税ゴーレムが所々に置かれていることに気が付いた。

まあ、数日おきに買い換える必要があるのなら、アチコチにある方が訪問者にとっても便利だろうけど、なんか『トークンを追跡してる可能性』を考えると嫌な感じでもあるな・・・


ともかく市壁から外に出て街道を少しだけ歩き、適当なところで雑木林の中に入って屋敷に転移する。

ソブリンを出る前に、あらかじめ指通信でパルレアに連絡しておいたら地下室で待っていてくれた。


「お兄ちゃん、お帰りなさーい! って、このままウルベディヴィオラに行くんだよねー?」

「おお、噛まなかったな!」

「そこ?!」

「このまま行くそのつもりだ。パルレアは大丈夫か?」

「うん、へーき! あとコレー」

「なんだ、その木箱は?」

「シンシアちゃんが昨夜王宮に行ってポルセトで通用する銀貨をジュリアス卿から貰ってきたの。小舟を買うお金に使ってだってさー」


「いや、小舟程度はアスワンに預かってる金貨で間に合うだろ? 金貨なら南方大陸でもどこでも通用するぞ」

「えーっとね、小舟を買う相手が田舎の漁師さんとかだったら金貨なんて扱えないから、地元の銀貨や大銀貨の方がいいんだってさー。でも銀貨だから量が多くなっちゃったって言ってた」


またうっかり。

ソブリンでの買物や宿の支払いだって、全部シンシアが用意してくれていたルースランド貨幣で済ませているというのに、俺の学習能力って・・・


「おお、それもそうか...そう言えばスライにシャッセル兵団の馬を買い付けて貰う時にも金貨を出して文句を言われたっけなあ」

「エルケちゃんとドリスちゃんに買い物して貰った時もそーだったねー」

「あったなソレ!」


みんな『大金』ってイメージですぐに金貨、金貨、と言うけれど、実際の取引に金貨を使用するのは大商人や貴族だけで、庶民が一生の間に金貨に触れることはまず無いのだ。

それどころか目にする機会だって滅多にない。

考えてみれば俺だって、只の破邪だった時には金貨なんて自分の金として持ったことは無かったからな。


とりあえず姫様の用意してくれた銀貨は木箱ごと革袋に収納して、パルレアと一緒に例の倉庫街の片隅に転移する。


「ここじゃー、船は買わないのよねー?」


「ああ、街外れの浜の方まで行けば漁師たちも多いだろうけど、誰が見てるか分からないし、なにより『余所者』が大金払っていきなり小舟を買いに来た、なんてのは噂になりやすいからな」

「分かるー! アタシだって怪しいって思うもん」

「無理もないよな。誰が見たって真っ当な理由とは思えないもの。とにかく、少し離れたところで漁村か小さい港が見つかるまで海岸沿いに跳躍していくから、革袋に入っててくれ」

「はーい!」


不可視結界を張ったまま少し上空に跳躍し、そのままウルベディヴィオラの港から海岸線に沿って、地上を眺めながら飛び続けてみる。

まず東に向かったのは完全に気分というか当てずっぽうだ。


< お、漁村っぽい集落が見えるな。桟橋に舟もそこそも留まってるっぽい >

< 五人乗れるくらいのありそー? >

< むしろ、もっと大きいのばかりだ。買った後にどうやって革袋に入れるのを誤魔化すかが問題だな >


< ちっちゃいボートは無いの? 一人か二人がオールで漕ぐヤツ >

< 砂浜には転がってるぞ >

< まず、そっちを買って少しだけ海に出よーよ。お兄ちゃん、貴族の服は持ってるよねー? >

< ああ持ってる >

< ボートの上でそれに着替えてさー、跳躍するか空を飛んで浜に戻ったら漁師さん捉まえて、こー言うの。『釣りをするつもりだったけど、砂浜に置いてたボートが波で流されたから追い掛けてくれ』って >


< ほうほう、で? >


< 海の上に出てボートに追い付いたら、漁師さんに『この船の方が気に入ったから売ってくれ。ボートはやるから、それに乗って浜に戻ってくれ』って言って銀貨で大金を積めば、受け入れると思うなぁ >

< なるほど...それで行けそうな気がする >

< でしょー? >

< よし、やってみるか。ダメなら次の集落を探してチャレンジだ >

< おーっ! >


どこでそんな小技を覚えたんだパルレア。


いや、人の心の動きに敏感になったのはクレアの影響かな?

そう言えば、こういう小技で家僕たちを出し抜いて、しょっちゅう城を抜け出してた記憶がそこはかとなくあるぞ・・・


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