表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
585/934

ウルベディヴィオラの街


「作業する人足の方々は恐らくただの地元労働者です。秘密を守るためには発掘現場に転移門は開けないでしょうし、運び先も秘匿するでしょう。どうせ馬車に乗せて運び出すのなら、そのまま運んでしまう方がいいでしょうね」


「なるほど、そうなると馬車で搬入って可能性も高いか...」

「ですよね! 早速屋敷に戻って銀ジョッキの改造を」


「ストッープ、シンシア!」

「はい?」

「兄としての権限で今夜の作業は禁止します。なぜってシンシアの健康と美容は全てに優先されるから!」

「ですが、もうあまり時間が...」


「昨夜だって、それほど長くは寝てないんだぞ? これ以上睡眠時間を削ってもいい結果にはならないよ。ゆっくり休んでから集中した方が絶対にいい」

「そうでしょうか?」

「そうだよ」

「まあ、御兄様がそう仰るのなら...」


「ねぇアプレース、念のためにマリタンちゃんを屋敷に連れていっちゃってー!」

「えぇっ御姉様!」

「お、おぅ。了解だパルレア殿」

「マリタンちゃんが近くにいたら、ついページをめっくっちゃいそーだもんね! 違うー?」

「いえ、その...分かりました御姉様...」


「今日はもー、考え事を止めてグッスリ眠るコト! 兄と姉からの命令でーす!」

「は、はい御姉様。そうします」


アプレイスがマリタンを抱えて転移門から屋敷に跳んだ。

あえてシンシアがこの部屋に残るようにパルレアが仕向けたのは、自室に戻ってしまうと、シンシアがアレコレ実験をやり始めたり、参考になる本をひっくり返したりし始めるに違いないという読みだろう。


俺もそう思う。


「じゃーお兄ちゃん、今日はアタシも寝るねー!」

「おおそうか。ほれ入れ」

俺が革袋の口をパルレアに向けると、パルレアがニヤリと笑う。


「今日はアタシも疲れてるから、ソファーじゃ無くってベッドで寝たいでーす。じゃーねー!」

「へ? それって...」

意味がよく掴めないでいると、アッと言う間にパルレアも転移してしまった。


つまり、俺とシンシアだけが部屋に残っている。

ちょっと待って。

アプレイスが言ってたように、ここは曲がりなりにも敵地だ。

さすがにシンシアを宿屋に一人で残しておく訳には行かないんだけど?


「御兄様、今日は御兄様と御姉様の言う通りにします。早く眠って、明日の作業に備えましょう」

「お、おう。そうだな!」


まあ実際のところドラゴンキャラバンの最後は、ずっとシンシアと二人きりで過ごしていたんだから、一緒に毛布を被って眠るのには慣れてる。


今朝、シンシアからあんなことを言われたから、ちょっと俺が意識しすぎてるだけって事も分かってるし、俺の勇者の体力からすれば二晩や三晩の徹夜なんてどうって事も無いんだから、今夜はシンシアを守って過ごすと考えればいいよな・・・


「じゃあ寝ようかシンシア」

「はい、おやすみなさい御兄様」


「えっと、シンシア?」


「なんでしょう?」

「窓際のベッドの方が良かったか?」

「いえ、そういう訳では」


俺が警戒しやすいだろうという考えで窓際のベッドに横になると、シンシアも俺に並んで横になった。

ベッドはもう一つあるんだけど?


「狭いのは嫌ですか?」

「いや、そんなことはないよ」

「だったら私の要望として、今日は御兄様にくっついて眠ってもいいですか?」


本当にハッキリ言うようになったなあシンシア!!!


「あ、ああ。なんだかアプレイスに会う直前を思い出すな。荷馬車の上でこんな風に一緒に眠ってたっけ?」

「そうでしたね。とっても楽しかったです」

「怖かった、じゃなくて?」

「不謹慎って怒られるかも知れませんけど、ダンガさんが大怪我をした襲撃事件とパルミュナ御姉様が危険な目に遭ったこと以外、ドラゴンキャラバンは最初から最後まで、私にとって楽しい思い出ばかりなんですよ?」


「マジで?」

「はい、マジです」


シンシアがそう言ってにっこり笑うと、窓から差し込む月明かりがその美しい顔を照らした。

うん、そうか・・・

俺の腕枕で良ければ、いつだって提供するよ。


++++++++++


シンシアは、ベッドに入ってすぐに糸が切れたかのように眠りに落ちて、そのまま朝までぐっすり熟睡していたけれど、目が覚めると銀ジョッキの改良に取りかかるために大急ぎで屋敷に転移した。


対して俺は宿屋に対してアリバイを作るために、一人で階下に降りて食堂で朝食を貰う。


この部屋はもう一晩借りてあるけど、今日は使い道が無いな・・・

あのローブの男達も離宮には来ないはずだし、シンシアとマリタンは屋敷で鋭意、銀ジョッキの改造中のはずだ。

アプレイスも草地の上で昼寝してるだろう。


少し悩んだけどトークンの滞在期限はまだ大丈夫だし、宿屋の女将さんには『長旅の疲れが出たからゆっくり休みたい』と、まるで部屋から出掛けないことを言い訳して金を払っておいた。


さて、寝てるフリをして秘密工房のある街でも探索に行くかと考えていったん部屋に戻ったら、すでにパルレアが屋敷から戻ってきていた。


「おはよー、お兄ちゃん!」

「おはようパルレア。早速だけど昨日の街に行ってみようと思うんだ。お前も一緒に来るだろ?」

「行くよー。あっちはシンシアちゃんとマリタンちゃんにお任せだしー」

「だよな!」

「アタシだって、少しは役に立ってるんですけどー?」


「知ってるよ。それに少しじゃ無くて物凄く、だ。いつもありがとうなパルレア」

「うん!」

「とりあえず、倉庫街?の物陰に張った転移門に跳ぼう。もしも人通りが絶えないようなら諦めて、今日は地下には飛び込まないつもりだ」

「わかったー」


もしも地下に飛び込んで騒ぎを引き起こしたら、明日の午後に届くはずのヴィオデボラからの荷物を追えなくなる可能性がある。

いまは、秘密工房の中身よりもそっちの所在を探る方が優先だ。


++++++++++


転移門を起動して少し様子を窺ってみたら倉庫街の裏通りは人通りも無く、人目は大丈夫そうだったので即座に跳ぶ。


もし、もっと人目を気にせず転移できそうな場所が見つけられたら、明日はそこに銀ジョッキの本体一式を持ち込んで粘ってもいいかもしれない。

シンシアも、今度の改良版銀ジョッキは物理的に距離が近い方が魔力効率がいいって言ってたしな。


< 不可視化してから出てこいよパルレア。ピクシー姿は目立つかもしれん >

< わかったー >


姿を不可視にしたままのパルレアが革袋から飛び出て俺の肩に乗る。

この方が指通信も繋ぎっぱなしに出来るし、コリガン姿で手を繋いでるよりいいだろう。

兄妹ならまだしも、親子とか思われたくないしな!


ここがポルセト南岸の港町だと仮定すれば、南に行けば港に出るはず。

街の中心が何処にあるのか分からないけど、港から大通りを辿るのが一番確実だろう。

知らない名前の街だったとしても、店の看板やらなにやらで『どこの国っぽいか』は見当がつきそうな気がするしな。


< どっちに行くのー? 街の中心? >

< まずは南に向かうよ。これだけ潮の香りがするってコトは、大して歩かずに港に突き当たると思うからね >

< 南に行けば海? >

< 絶対とは言えないかな。南岸地方全体としてみれば海があるのは南側だけど、深い湾や入り江の奥にある街なら、近い方の海岸線が西にあったり東にあったりもするからね >

< あー、それもそっか! >


とは言え予想通り、半刻も歩かないうちに港に出た。


秋の港は賑わっていて、今朝水揚げされたばかりだろう魚介類が早速市場の屋台に並んでいる。

鮮魚類を売る人、買う人、両方を目当てに食事や様々な小物の露店を出している人、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ・・・以前にダンガが『一度は見てみたい』と言っていた漁港とは、まさにこういう賑やかなイメージだろうな。

桟橋(さんばし)も整備されていて大きな船が着岸できるから、貿易港として機能していることが分かる。


< パルレア、目当てのモノが見つかったぞ。街の中心部まで戻らなくても良さそうだ >

< え、なにがー? >

< 桟橋の向こうに立ってるゲートの看板を見て見ろ >


< あ! ウルベデビュヨーリャって書いてあるー! >

< 噛んだな >

< ピクシーだから、口がちっちゃいのー! >

< 大きさは関係ないだろ...って言うか『声』に出してないんだから脳内で噛んでるのか? まあ確かに言いにくい名前だけどな >


< でしょー? >


< あの看板は遠くからやって来た船に向けて、この港の名前を示してるんだよ。沖からでも見えるように大きな文字でね >

< へー、親切! >

< いや、ウルベディヴィオラは昔から沿岸貿易だけじゃ無くて南方大陸との交易船も出てたから、必要なものだろうな >


大型船は着岸するのも出港するのも大変だし、外国で万が一でも違う港に着けたりしたら大騒ぎだから、遠くから見える目印が必要になる。


無けりゃ、小舟を出して確認に行くしか無いからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ