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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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工房の所在地


「それはそうですけど...」


シンシアが不安そうに口ごもる。

彼女も俺が言いたいことは良く分かっているけど、ただ心配なだけなのだ。


「それとも、さっきみたいに銀ジョッキの位置を目標地点にして、あそこへ跳べるかい?」

「いえ、無理です」

即答された。

「先ほどは銀ジョッキの位置が離宮の地下だと分かっていましたけど、今回は一度転移門を通っています。魔力波は繋がっていますけど位置の算出は出来ません」


「だったら、俺が跳ぶのが一番勝率が高いと思うぞ。俺なら夜目も利くし咄嗟の対応も取れるからな。何より、行った先に転移門を開くことが出来るだろ?」


銀ジョッキ自体に転移門を開かせることは出来ないのだ。

誰かが行って回収しなければ銀ジョッキもいずれ失われるし、そうしたら、二度と手掛かりを終えなくなる可能性も高い。

夜明けを待って何処の街かが確認できたところで、そこがルースランドからとんでもなく離れていたりしたら、アプレイスの翼でさえ何日も掛かるだろう。


それまで銀ジョッキの魔力が持つかどうか・・・


「...分かりました御兄様。地上に歩いて出られるルートが無いかを銀ジョッキで探してみます」

「頼むな!」

「ちなみに御兄様、もしルートが見つからなかった時の、別の方法というのはどんなことをお考えですか?」


「ん? とりあえず地下工房に跳んで自力でルートを探すか、土魔法で上向きに穴を掘って地上に出る。不可視の結界もあるし、あそこはエルスカインの本拠地じゃないことは確かだから、それほど危険は無いと思うんだ」

「止めて下さい!」

「まあ最悪は俺が地上に出られなくても、あの工房に転移さえすれば後はシンシアが探知魔法で俺のいる方向を探って、どの地方にいるか、おおよその見当は付くんじゃないかな?」


「ですけど! そうですけど!」

「大丈夫よーシンシアちゃん。アタシも一緒に行って手分けして探すからー!

「むしろ心配ですよ!」

「え?」

「いえ、そうでは無くて...御姉様も一緒なら二人揃って敵地にいるワケですから、私の心配が二倍に増えるということです!」


本当にそういう意味で言ったのかシンシア?

この二人をセットで行かせると、すぐに無謀な事を始めかねないとか思ったりしていないか?


「だって、アタシが行かないと銀ジョッキが回収できないしー...」

「だよなあ」

「それは分かってます! ですが銀ジョッキはあくまでも消耗品です。損耗は前提なんです! いいですか? とにかく急いで地上に出られるルートを探しますから、御兄様も御姉様も慌てないで待っていて下さい!!」


「あ、うん・・・」

「はーい・・・」


なんと言うか、シンシアの声と表情に反論できない凄みを感じて、俺もパルレアも素直に頷いてしまった。


++++++++++


シンシアが鬼気迫る後ろ姿を見せながら銀ジョッキを操作し、地下工房の通路を一心不乱に探索する。


ただ、俺としては地上への『人が通れる通路』を探し当てられる可能性は、それほど高くないだろうと踏んでいた。

銀ジョッキは『その場にいない』から、離宮の地下室みたいに人が入る事で明かりが点く部屋を探索する事は絶望的だ。

この地下工房も離宮と同じように廊下には薄明かりがついているから良いようなモノも、もしもそれすら無い場所では行き詰まるし、地上へ出るルートも昇降機のような仕掛けだったら、銀ジョッキには動かしようがない。


もちろん銀ジョッキ自体は壁が有ろうが土の中だろうが通り抜けられる訳だから、ただウロウロさせるだけなら問題は無いけど、その後ろを追って俺が歩ける訳じゃあないからね。


それはともかく、『ヴィオデボラ』と『ウルベディヴィオラ』が似てるって言うのがタダの思い込みだったならまあ仕方ない。

外国に行くと『似てるけどチョットだけ違う』読み方や綴りの地名がわんさかあって混乱するって言うのも、案外に多い話だからね。

俺と師匠だって、遍歴の最中に『一文字違い』で全く違う場所を目的地と勘違いして、往復四日ほど無駄にした事もある。


「御兄様、あの扉が怪しいと思うのですが、どう思われますか?」


シンシアに声を掛けられて物思いを中断し、箱の上の写し絵に目をやると、廊下の突き当たり一面のレンガの壁が映し出されていた。


「すまん、ちょっと写し絵から目を離していたんだけど、ここはもう地下じゃないのか?」

「階段を二つ見つけて上がりました。もう恐らく地上階では無いかと思うのですけど、相変わらず窓が無いのでハッキリとは言えません」

「扉と言うのは?」

「あそこのレンガとモルタルに隙間が有るように思えるんです。隠し扉では無いかと...」

「えぇ? よく見つけたなあ...」


「筋の入り方に特定のパターンがあるように感じたので、近寄って確認したんです。なんて言うか...ちょうど人がゆったり通れるような幅と高さの矩形で切れ目が入ってる感じなんですよ」


こんなわずかな不自然さを銀ジョッキの暗くて狭い視野で見つけ出すとは、シンシアの観察力というか洞察力は本当に凄い!


「シンシアちゃんってば、やっぱり天才ー!」

「なあ!」

「だって、出入口を見つけないと御兄様が...無謀です...」

「心配させてすまないなシンシア。だけどコレで俄然、可能性が見えてきたぞ!」


「はい。出入口を偽装してるという事は、外をエルスカインの配下以外の者...一般人が通る可能性がある場所だ、ということだと思います。何故、そんなリスクのある場所にワザワザ工房を造っているのかと言えば、外部とのやり取りが頻繁にあるからという可能性が高いのかと...」


「俺もシンシアの見解に賛成だ。あの男も『明日はヴィオデボラからの荷が届く』と言っていたし、この工房はエルスカインの手持ち資材だけでは完結しないモノを造ってるって事だろう」

「ですね」

「徴税ゴーレムって、素材になにを使ってるんだろーね?」


「いやパルレア、この工房が徴税ゴーレム専用とは限らないさ。徴税ゴーレムはまた別の工房で、ここは、その他のものも作ってる可能性だってある」

「例えばー?」

「ガラス箱に関係した魔道具とかな?」

「あー...」

「あのローブの男が『ヴィオデボラからの荷』と言っていたのは気になりますよね。なにか、関連性を感じてしまいます」


「そうなんだよな。ただ同時に、どうして『ウルベディヴィオラからの荷』じゃ無いのかも気になる」

「ん、なんでー?」

「だってヴィオデボラが現在のウルベディヴィオラの事じゃないかって言うのは、単なる俺の推測だろ? もし、外の世界...商人でも職人でもいいんだけど、要するに一般人からの荷物が運び込まれてくるなら、絶対に『ヴィオデボラ』とは言わないよ。もう存在しない街なんだから」


「あ、まってーまってー! 仮にヴィオデビョラがウルベディビュオリャと関係ないとして...」

「噛んだな」

「噛んでないにょ!」

「いや噛みまくってるだろう。ともかく街の名前が似てるってのが、仮に俺の勘違いだったとしてもだ。そこで『もう存在しない太古の街の名前』が出てくるはずはないからな?」

「そーよねー」

「まあ、そうは言いつつ、いまもどこかにヴィオデボラっていう土地があるって可能性も高いけどね」


「御兄様、そうであったとしても、そのヴィオデボラがガラス箱の製造地と無関係とは思えません。そこから荷物が届くとなれば尚更です」

「そうだな。繋がりはあるだろう」

「では、やはり探ってみますか?」

「よーし、とにかく行ってみよーよ、お兄ちゃん!」


「もちろんだ。この工房の所在地を確かめて、その国とか周辺にヴィオデボラという街や村がないか調べてみるのが早いと思うな」


++++++++++


まずは離宮の地下に転移だ。

あのローブ男達がドタバタした地下室に出て、そこから転移門のある部屋へと進む。

いまは銀ジョッキのガイドがないけれど単純なコースだから問題ない。

ホールに出て真っ直ぐ突っ切り、前回は足を踏み込まなかった広い廊下を進んでいくと、絵姿で見ていた通りの扉があった。


「だーれもいないっぽい?」

「気配は無いな。メダルの結界隠しで精霊の気配を遮断して跳ぶぞ? あくまでも普通の人族のようにな」

「アイツらはホムンクルスだったけどねー!」

「そこでツッコミを入れない!」

「はーい」


部屋の中心に立って、マリタンに教えて貰った手順で魔法陣に魔力を流すと転移門が起動した。

このまま待っているだけでローブの男が設定した『工房』に跳べるはず。

本当ならここで転移門をエルスカインの本拠地と繋げる方法を探りたいところだけど・・・いまは止めておこう。


大抵、こういう時に欲をかくと失敗するのだ。

・・・特に俺は。


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