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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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大三角形の配置


さて、三カ所目の探査地点は場所決めの時点からアプレイスだけにお任せすることになる。

シンシアはルースランドの地図を地面に広げ、手の平に出した方位魔法陣を慎重に操作しながらアプレイスが飛び立つべき方向を確認した。


「この方向ですアプレイスさん」


左手に方位魔法陣を掲げたシンシアがアプレイスの眼前に立ち、右手に持った杖を南東に向けて真っ直ぐに伸ばす。


手に持っているのは、北部大山脈の森を歩く時にシンシアのために俺が急ごしらえで作って、その後シンシア自身が手を加えている、あの『杖』だ。

ルマント村に行く途中で見た時には、シンシアの手で綺麗に仕上げ直されてることに驚いたけど、いまでは更に色々と高級化しているように感じられる。

って言うか、元が俺の作った『ただの棒』だとはとても思えんな!


同時に、さっきシンシアが言った『戦争』という言葉が頭を過る。

その杖を指示棒のように空に向けているので、端から見ていると、まるでシンシアがアプレイスに攻撃目標を指し示しているかのようにも見えるぞ?


いや、あながち間違ってないのか、この連想・・・


「よし、ちょっとそのまま動かないでくれよシンシア殿」


ドラゴン姿のアプレイスが、その巨躯をゆっくりと動かして身体全体の向きを変えていくと、やがてアプレイスの背骨とシンシアが伸ばした腕が一直線上に並んだ。


「これでいいだろう。このまま一直線に、パルレア殿を降ろした場所からここに来るまでと同じ時間を同じ速さで跳び続ければいいんだな?」


「はい。そうすれば恐らくフォーフェンよりも二回り小さいくらいの街が進行方向に見えてくるはずです。その手前の適当な場所に着地して人の姿になったら、私たちに指通信で教えて下さい。できるだけ同時に探知を掛けたいので」


「了解だ。だけど、もしも探知が上手く行かなかったら?」

「その時も連絡をお願いします」

「駄目な時はアプレイスだけじゃ無くって、三カ所揃ってダメだろうな。それだったら諦めるしか無いさ」

「そうですね御兄様。その場合は、あの紙に探知魔法を仕込んだことが露呈して消去されたのだと思います。すぐ屋敷に戻って次の策を考えましょう」


シンシアがそう言ってアプレイスから離れようとした時、ふいにマリタンが喋った。


「あの、シンシア様。ワタシからご相談というか、ご提案があるのだけど、口を挟んでも宜しいかしら、ね?」


「え? もちろんですよマリタンさん」


「えっと考えたのですけれど、ね。今回ワタシはドラゴンと一緒に居た方がいいのでは無いかしらと思ったの」

「そうなんですか?」

「何故かって言うと、ドラゴンは単純に強すぎると思うんですのよ」

「強すぎる?」

「ええ、だって、もしも街の近くで何かトラブルになった様な時に、暴れる訳にはいかないもの、ね。静かに、目立たないように事を収めないといけないでしょう? でもシンシア様の許可を得てワタシがドラゴンと一緒に居れば、幻惑や静謐の魔法でやり過ごすことも出来ると思うの、ね」


「へぇ、マリタンは『幻惑』なんて出来るのか? 生活魔法らしくないな!」


「ええ、その兄者殿...アノですね、買物中や旅行中に荷物を置いて、ちょっと席を外す時って、ありますでしょう?」

「ああ、あるな」

「そう言う時に、その置いてある『荷物』を見えにくくする魔法が、ね。あるのですわ...」

「ほぅ、つまり俺は『荷物』ということか!」

「まあいいからアプレイス」


マリタンの言ってることも一理あるか・・・


アプレイスは『誰かに傷つけられる』っていう意味では、エルスカインを除いて全く心配する必要が無いけれど、『揉め事を起こさない』という点では少し心配ではある。

もちろん、いまのアプレイス自身は荒っぽいところなんて微塵も感じさせない静かな男だけど、魔力や気配に敏感な相手は一方的に恐れを感じてしまうことがあるからな。

ルマント村を訪問した際に、アプレイスが馬車から降り立った瞬間、アンスロープ達の間をザワっとした戦慄が走ったけど、ああいう感じのことだ。


それは、アプレイス自身にどんなつもりが有ろうと、無かろうと、無関係だとも言える。


「それに思ったのだけど...ドラゴンって人族の魔法を真似するのは苦手、って言うか、ハッキリ言って下手よね?」


マリタンがバッサリと言い切った。


アプレイスが横目でギロリとマリタンを睨むけど反論はしてこない。

事実だし・・・

まあ、これまでは気にする必要が無かったって言うか、昼寝中以外の単独別行動とかほとんど無かったし、アプレイスが人の魔法を模倣するのが下手だからと言って、それで困ることは何一つ無かったのだ。


「シンシア様、ワタシだってモチロン分かってるの、よ、魔導書が自ら『主』(あるじ)の側を離れようとするなんて、ね。いけないことだわ...」


「いえ、マリタンさん。その判断は的確だと思います」


「そうだな。マリタンの考え通りでいいんじゃ無いか? それにマリタンが(あるじ)だなんだって事よりも、自分がどう動くのが仲間達にとって一番効果的かを考えてくれたってのを、俺は嬉しく感じるよ?」

「ええ、そうですよね! それでこそ仲間だと思います!」

「あら! シンシア様も兄者殿も、そんな風に言って下さるなんて、ね。嬉しいのだわ」


先日、マリタンを『仲間』だとハッキリ認定したからかどうかは分からないけど、彼女の喋り方もドンドン滑らかになってきてる気がするし、いまみたいに『自分の意見』も口にするようになってきた。

アプレイスとのじゃれ合い以外でも、だ。

やっぱり『開放された気分』って言うのは本当だったんだろう。


「で、つまり俺はコイツを抱えていけばいいのかぃ?」


アプレイスがぶっきらぼうな口調で言うけどワザとだな。

目が笑ってるもの。


「丁寧に運んでよ、ね?」

「上空から落とさないように最大限の努力はしてみる」

「もし落したら(たた)るわよ!」

「魔導書が『祟る』なんて言うなよ。そこはウソでも魔法でナントカするって言っとけ...」


「ではアプレイスさん、マリタンさんのことをよろしくお願いします。マリタンさんは現代社会の事情には疎いので、その辺りは気を遣ってあげて下さい」


「シンシア殿のお願いには全力で応えるさ」

「そもそもワタシの提案? なんだけど? それもアナタのためを思ってだったり、とか?」

「はっ、俺が握りしめて飛ぶのと口に咥えて飛ぶのと、お前はどっちがいい?」


(よだれ)まみれなんて止めてちょーだい! 文字が滲むから!」


「むしろ、うっかり飲み込んだら俺が腹を壊しそうだぞ?」

「手に抱えて!」

「まあ結界があるから背中に置いてても落ちないけどな」

「ドラゴンのいけずっ!」


おいマリタン、そんな言葉をいつの間に覚えた?

ってまあパルレアの影響だよな、たぶん。


ドタバタと探知地図とマリタンを抱えて飛び立ったアプレイスを見送り、川べりに二人で残った俺たちは適当に座りやすそうな岩を探して腰を落ち着ける。

アプレイスが最後の目標地点に到着するまで、およそ一刻ほどか?

それまではハッキリ言ってヒマだ。


今頃はパルレアもヒマを持て余して悶々としているに違いない。

もし俺が一緒だったら、間違いなく革袋に飛び込んでソファで横になってる頃合いだろうな。

暇つぶしに余計なコトなんか始めたりしなきゃいいんだけど・・・


++++++++++


最近はシンシアと二人きりになることも結構あるのだけど、テーブル越しに向き合うとかじゃ無く、こういう風に『横並び』に座って同じ景色を眺めるなんて、滅多にないことだ。

真横から朝日を浴びてキラキラと輝く川面を眺めながら、ふと思い出したことを口にしてみる。


「もしも、余計なコトだったり答えたくないコトだったらスルーして貰って構わないんだけど?...」

「はい?」

「シンシアってもう、将来どうするつもりかとかを考えたりしてるのかい?」

「え、将来ですか?」

「うん、このエルスカインとの戦いは置いておいて、っていうか俺たちが信じている通り『勝ち抜いた後で』かな?」


ルマント村から戻って以来、ずっと気になっていたことではあるのだけど、まだシンシアは若いし、そんなことを考えるのは、もっともっと先でいいと自分の中で片付けていた。

今でもそれは変わらないって言うか、シンシア自身が『今は別に考えてない』とか、『もっと年齢を重ねて成人してから考える』とか、そういうつもりでいるんだったらそれでいい。


だけど最近は、仮にシンシア自身の胸中に心づもりがあるのだったら、聞いておいた方がいいような気がしていたのだ。

何故かは自分でも良く分からないんだけど・・・


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