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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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ソブリンの郊外


そのままアプレイスは月が天上に昇る寸前まで飛び続け、その間にシンシアはマリタンのストラップを作り終わり、続けて探知地図の複製も三つ作った。


念のために地図のオリジナルは仕舞っておいて、この『魔力的に完全に同一』な地図をそれぞれが持って、違う場所から同時に探知を掛けることで相手の居場所を絞り込めるというワケだ。

シンシアが『対象に術式を仕込むのは大変だけど、探知する方自体はさほど難しくない』と言っていた通り、ちょっと教えて貰ったらみんなすぐに真似できた。


ま、それもそうか。

誰にでも使えないと『浮気調査』とか出来ないよね・・・


シンシアは探知地図の複製を作り終わって、みんなに探知のやり方を教えたところで糸が切れたようにウトウトし始めたので、アプレイスが適当な場所を選んで着陸した後もそのまま寝かせておく。

ここまで来る途中、アプレイスの背の上で軽い食事は摂らさせて貰ったから活動的には問題ないだろうし。


「アプレイス、食事はどうする?」

「いや、今日はいらないな。ライノと一緒にあの屋敷で過ごすようになってからは魔力不足ってモノを感じたことが無い」


「まあ、それならいいけど。じゃあその姿のままでいるか?」

「そうするよライノ」

「パルレアは甘いものとお茶でも欲しいか?」

「甘いものとエール!」

「おまえなぁ、毎度、思うけどその組み合わせって...いいけど。ちょっとこのまま待っててくれ」


アプレイスの背から飛び降り、その周辺の地面が平坦なのを確認してから乗用馬車を一台出した。

牽き馬の二頭の魔馬は屋敷にいる時に外してあるので、本当に馬車の車体だけ。

自力で動くことが出来ない、ただの箱だ。


「お兄ちゃん、なんで馬車を出したのー? それも馬なしー?」


「この乗用馬車ならベンチを広げてベッドに出来るだろ? 荷馬車でもいいんだけど、シンシアにはこっちの方が寝心地がいいだろうからな」

「なーるほどね!」

「それに、ちょっと雲行きも怪しいしな。ここら辺の気候は良く知らないから雨が降っても慌てなくていいように用心しておこうと思って」

「さすがー」

「なんか棒読みっぽくないか?」

「気のせー」


パルレアがこういう言い方をするってことは、今夜は雨が降らないと見た方がいいか・・・大精霊の勘、いやむしろ『野生の勘』が俺より強いからな!


「はいはい、ほらエールとくろきいちご(ブラックベリー)のパイだ」


「ありがとー! って言うか、黒い木いちごって夏のモノじゃん?」

「ルマント村に行く前から入れっぱなしになってたヤツ。メイドチームと買い物に行った時に仕入れてた分だよ」

「あー、あの時のねー!」


革袋から出した数ヶ月前の、しかし今でも『焼きたて』のパイと冷えたエールの小樽を馬車の脇に置き、もう一度アプレイスの背に上がってシンシアを抱き上げた。

持ち上げた瞬間に少し身じろぎしたけど目を覚ますことは無く、そのまま腕の中で静かな寝息を立てている。


なんか小動物みたいで可愛いな・・・エスメトリスの言い方にも納得するね。


でもやっぱり連日連夜、魔道具開発に没頭していたせいで、かなり疲れが溜まっていたようだ。

それを見抜いて、探知の分担を再考させてくれたパルレアには本当に感謝だよ。


++++++++++


東の空が白んでくる頃、しばしの休憩と睡眠の後に再びアプレイスの翼で飛び上がった。

シンシアも馬車のベッドでぐっすり眠ったせいか、疲れも取れたようでスッキリした表情だ。


「アプレイスさん、このまま真西に...昇ってきた太陽を背に真っ直ぐ飛び続ければソブリンの北側を通過するはずです。地勢を確認していたいので少し高く飛んで頂けますか?」

「了解だシンシア殿」


シンシアが手の平に方位魔法陣を出して、眼下の景色とルースランドの地図とを見比べながら言う。


計画では、まずソブリンの北東手前でパルレアが降り立ち、次にソブリンの北側を通り過ぎた辺りで俺とシンシアが降りる段取りだ。

その後は、グイっと南東へ回り込むように飛んで貰えば、おおよそソブリンを正三角形に囲むことが出来る、はず。

探知は出来るだけ同じタイミングで行った方が精度が上がるそうなので、アプレイスが狙った位置に付き次第、指通信で連絡をくれる手はずになっている。


数刻ほど跳び続けたあたりで、遥か南西に大きな街がおぼろに見えてきた。

さっそくシンシアが方位魔法陣を街の方に向けて、地図とにらめっこしながら現在位置を推定する。


「予定通りに進めたようですね。恐らくアレがソブリンのはずです。アプレイスさん、この先にある小さな街を通過したところで、御姉様が降りても差し支えなさそうな場所を適当に選んで着陸して下さい」

「おう! 出来るだけ人気の無さそうなところを選ぼう」


まずはパルレアが第一陣だ。

やっぱり少し心配・・・まだまだ常識外れなところが残ってるからなぁ・・・いやいや、ここは兄として信頼しなければ!


「よし、この先にある大きな森の手前に降りるぞシンシア殿。周りに畑も家も無いし、俺が何かを踏み潰す心配は無さそうだ」


そう言ってアプレイスがぐっと高度を下げると、それまでは大地の模様として描かれていたような街や村、街道、畑の区画を切り分けている石垣や畦道などの存在が瞬く間にディティールを増し、所々に生えている木々も立体的な存在として迫ってくる。


やがて視点が地表に近づくと同時に、周囲を流れていた景色が急激に速度を落とし、それが完全に止まったと思った瞬間には着地していた。

典型的な田舎のはしっこ・・・後ろに山並みを控えて、人の領域と森や荒野の領域がせめぎ合っているような場所だ。

こういう土地なら人目を気にする必要も無いだろう。


「いつもながらだけどアプレイスの着地は見事だよなあ。降り立つ時の衝撃なんて一度も感じたことも無いよ」

「あんがとさん、お褒め頂き光栄だぜ!」


「じゃー、アタシはここで降りるねー!」


パルレアが丸めた探知地図を持ってアプレイスの背からフワッと飛び降りた。


ここまで来る途中で、あらかじめコリガンサイズに変わって着替えておいたのだけど、その身軽な動きにエンジュの森の若者達を思い出す。

ただしパルレアの場合は、あくまでピクシー族の身体で『魔法の羽を出さずにボディサイズをコリガン程度に大きくしている』という状態だから、ちょっとややこしいんだけどね。


「パルレア、食べ物や飲み物を少し持っていくか?」

「いらなーい」

「十分に気を付けてな? 何かマズいと思ったらすぐに逃げろよ」

「うん!」

「辺りには気を配るんだぞ? それから出来るだけ人と会わないようにな。誰かの姿が見えたらまず隠れるんだ」

「わかったー」

「服や地図なんか捨てていいから、ピクシーに戻って姿を消してもいい」

「不可視結界もあるしー」

「まあでも、もしも不安があったらすぐに指通信で連絡しろ。俺が跳躍門で駆けつければ...」


「もー、お兄ちゃんってば心配し過ぎーっ!」

「あ、ごめん...」


さっき心の中で信頼すると決めたばかりだったよ。

俺もシンシアを心配性だなんて笑えないな・・・


ひょいひょいと森の方へ向かうパルレアを見送りながら、『大丈夫だ』と自分に言い聞かせる。


「ではアプレイスさん、ここから次の目標地点までは出来るだけ一定の速度で飛び続けて貰えますか?」

「飛ぶ方向は同じでいいのかいシンシア殿?」


「はい、ここが最初の基点になります。それから次に私と御兄様が降りた後、しっかり角度を整えてから同じ速度で同じ時間だけ真っ直ぐに飛べば、綺麗に大三角形を描けると思うんです」

「それって、半分近くミルシュラント側に戻る感じだよな?」

「ええ、上手く行けば、アプレイスさんの探知位置からココに飛ぶのも、次に私たちが降りる場所へ飛ぶのも同じくらいの時間になるはず...です」


「なるほどな...了解だシンシア殿」


感心したように頷いたアプレイスが翼を広げて舞い上がる。


山並みを横目に見ながら大きな森の上を越え、そのまま一刻ほど真っ直ぐに飛び続けてから、次の目標地点で俺とシンシアとマリタンの三人が降りた。


小さな集落が一定間隔で幾つも点在しているような、いかにも地方の田園地帯のまっただ中だけど、アプレイスが降り立ったのは少し大きな川の広い河原なので、迎えに来てくれる時にはそれがいい目印になるだろう。


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