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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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探知網を狭める方法


シンシアが自分の考えをゆっくりとした言葉で口にする。


「もしも、世界戦争が終わった時にエルセリアに変貌したことで姿を消したイークリプシャン...『月の影から来た人達』の意味を『影に消えたエルフ族』と取り違えたとすれば...その言葉が時代と共に変わって『影のエルフ族』、そして『闇のエルフ族』と呼ばれるようになったとしてもおかしくは無いと思います」


「いやいや。おかしくないどころか、むしろ滅茶苦茶に納得できるよシンシア!」

「そうですか?」

「俺もそう思うな。たぶんシンシア殿の推測通りじゃねえか?」

「きっとそーよねー!」

「ああ、闇エルフの語源はきっとソレだと思うよ!」


「まあ、今となっては確かめる術もありませんし、仮にそうだとしても、だからどうと言うことも無いのですけれど...闇エルフと呼ばれる理由が単に『悪逆非道な一族だった』というよりは、別の語源があると考える方が自然ですよね?」


「たしかにな...」

いまの言い方にはシンシアの優しさを感じる。


エルセリア族であるリリアちゃんが闇エルフの子孫や系譜どころか、数千年前から目覚めた『闇エルフの一族そのもの』である可能性を強く感じて以来、シンシアも闇エルフ『族』と『エルスカイン』を同一視することに躊躇いを感じ始めているのだろう。

だから『闇』という形容が部族全体の悪行とか醜い心根を示すモノでは無く、無関係な由来の言葉が状況に沿って変化しただけだっていう可能性に、救いを感じたんだろうな。


「正直、月の影から来たって意味は良く分からないけど、なにか当時の(いわ)れがあるんだろうし、その『影』や『消える』というニュアンスが『闇に消えた人』となって、後代の人々から『闇エルフ』と呼ばれるようになったというのは無理もないことだと思うよシンシア」


まあ、なんて言うか、イメージにも合ってるしな・・・


もちろんエルスカインを始めとしてアンスロープの創造に関わった魔法使い達が悪逆非道なことは疑う余地もないけど、その余波を喰らってエルセリアに変貌した全てのイークリプシャン民が悪逆非道だったかと聞かれると、それは無さそうな気がするのだ。

何故って・・・

全国民がそこまで悪辣というか、人の心を持たないような民族性や国民性だったら、とてもマトモな社会を運営できたとは考えられないからね。


実際に彼らは高度な魔法文明を発達させて、最終的に敗北したとは言えポルミサリアを手中に収めかけていたらしいのだし、攻撃的だったのは、欲と力に溺れた支配階級だけだったのでは無いか?って考える方が俺にとっては腑に落ちる。

甘いかな?


「えーっと、もしシンシア殿の推理があってれば、つまりマリタンって闇エルフ族に創られた魔導書って事になるよな?」

「まあ、そうなるな」

「で、なにか? 知ってる魔法が生活魔法限定ってか? 可笑しいって言うか、らしくねぇよな!」

「なにが可笑しいのよドラゴン?」


「ああ、別に可笑しいとは言えんぞアプレイス」

「なんでだ?」

「だって国や集団が出来た時からずっと戦争し続けてた訳じゃ無いだろ? 世界戦争が始まるまでは、闇エルフって言うかイークリプシャンの人々も普通の生活を送ってたと思うぞ?」


「あー、ソレはまあ、そうだな...」


その時代に実用書として創造されたマリタンこと『魔法と錬金の教養』が、生活魔法と呼ばれる『日常を便利にする類いの魔法』しか記載していないことは、逆に、世界戦争が始まるまでのイークリプシャン達の日常が極めて平和だったことを示唆しているように思えるのだ。


それにエルセリアに変貌した後とは言え、『その当時の人物そのまま』っていう可能性が高いリリアちゃんを見ていても、そう感じるね。


++++++++++


「エルスカインのいた集団、イークリプシャン達が闇エルフって呼ばれるようになった経緯は、きっとそんな流れだと思うよ。で、さっきの話に戻るけどシンシア、探知魔法の精度をこれから上げる方法ってなにか無いかな?」


シーベル城の時にシンシアは、探知魔法は対象の魔法陣と地図をセットで組むから後で探知範囲を変えることは出来ないと言っていた。

でもいまのシンシアなら、なにか秘策が出てきたりするんじゃないだろうか?


「そうですね...こちらの地図を弄って精度を上げることは難しいと思います。探知結果が同心円なのも、それが確率を表しているからで、外側の円に行くほど存在確率が低いとは言えますけど、絶対いないとは言えませんから...」


「やっぱりそうか。じゃあ別の手段を考えるしか無いかな?」

「ですが、もし出来るとすれば...」

「おっ、もし出来るとすれば?」

「相手が居るとはっきり分かっている場所に行って、その周囲を囲むことです」


「囲むって言うのは?」


「例えば今回はソブリンを含んだルースランド中央部に対象が居る確率が高いと考えられます。逆に東端のエルダンや西岸のデクシーは、事実上の範囲に含まれません。ですので複数...できれば三人以上で同じ探査地図を持ってルースランドに赴き、ソブリンを中心にした三角形で囲むんです」


「三角で囲む? それで詳細な位置が分かるのか?」


「例えば三人として、それぞれが探知魔法を発動して...もちろん、まだ探知が効けばの話ですけど...地図に波紋を描き出します。相手が探知できたら、その波紋の状態を固定してから持ち寄り、三人の地図それぞれに現れた波紋を一枚に重ねてみます」


「あ、意味が分かったぞ!」


「はい。合成された波紋が重なり合う中心に対象が居る確率がとても高い、そういうことですね。三カ所を順繰りに回っても良いのですけど、出来れば同じ時刻に...同時に別の場所で探査を掛けた方が断然、精度が良くなるはずです」


「おーっ...」

「そーゆー手が有ったのねーっ!」

「なるほどな、俺にもピンと来た」


いやぁシンシアって、マジ天才!


「この方法でしたら囲む範囲が狭ければ狭いほど、より高い確率で対象が居る場所を炙り出せます。だけど欲張って近寄りすぎたせいで三角形の中から対象が出てしまっていたら元の木阿弥ですから、その塩梅がむずかしいですね」


あのニセの罠に探知魔法を仕込んでいることがバレたら、無論即座に消去されるはずだ。

ローブの男が意気揚々とエルスカインの眼前まで持ち込んでくれると嬉しいのだけど、それは期待薄だろう。


アレを持ち帰ったと言うことは、つまり錬金術師が仕掛けてある罠の存在を知っていたと言うことだから、転移門の先に『侵入者が虜囚となっている』と思っている訳だよな?

ただ彼らにとって不幸なのは、過去実際に罠が稼働したことが無いらしく、転移先が文字通りの目と鼻の先、大広間脇の檻の中だと知らなかったことだね。


もし知ってたら、ちょっと歩いて見に行けば確認できた話だからな!


「シンシア、コレはチャンスだ。いまは何をさておいても徹底的に追撃するべきだと思う」

「はい御兄様。私もそう思います!」

「よし、だったらなるべく早くルースランドに向かおう。ダメで元々、上手く行けばニセの罠が露呈する前に、あのローブの男が何処に転移したのかをもっと詳しく絞り込めるかも知れない」


「最速の手段は、この前のエルダン近くの着陸地点にいったん転移して、そこから俺の翼でソブリンに飛ぶことかな?」


「いや、いまエルダンに誰かいるのは確実だろうし、あの周囲をアプレイスに飛んでもらうのは嫌だな。帰り道に立ち寄った草原の転移門に跳ぼう」

「了解だ、ライノ」

「まだ陽が高いって言うか、ぶっちゃけお昼前だけど...今から行くか?」


「ええ、向かいましょう御兄様。あの草原は街道から離れてしますし、一般の方々が相手なら不可視結界だけで問題ありませんから」


「よし、じゃあアソコまで転移門で跳んで、そこからはアプレイスの翼に乗ってルースランドに侵入しよう。三カ所の選び方と分担は途中で決めればいいな。地下の転移門は使えないから、全員メダルで玄関ホールから転移だ」


朝食後すぐのエルダン偵察から始まり、なんとも怒濤のような展開で昼食前にはルースランドに向かうことになった。

ここから先は時間との闘いだ。

シンシアが王宮と往復して姫様宛の置き手紙を残し、『全員でルースランドに向かうから屋敷が無人でも心配無用』と伝えておく。


俺とシンシア、パルレアは必要なモノがほとんど革袋と小箱に入っているし、アプレイスとマリタンは必要なモノがそもそも無い。


旅の準備なんて常時整っているも同然なのだ。


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