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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第七部:古き者たちの都
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闇エルフという名の由来


「エルスカインの本拠がドコかはまだ判断できないな。ルースランド王家とエルスカインの繋がりは確定だし、以前に姫様も言ってたように王家がホムンクルス化されてるのも確定だろうって思えるけど、それがエルスカイン自身の居場所を示しているとは言い切れないからね?」


「そうですね。私もソブリンは『本部』とか『司令部』では無くて、単に『前線指揮所』のような役割の気がします」


「ほう『前線指揮所』か、まるで戦場だなシンシア殿!」


「ええアプレイスさん、エルスカインのやっていることは密やかですけど、犯罪組織のレベルではありません。むしろ静かな戦争だと思います」

「戦争か...」

「はい。エルスカイン一味は現代社会の国家そのものではないですけれど、ポルミサリア全体を意のままにするような何かをたくらんでいます。コレはもう、『侵略戦争』と言っても良いのではないかと...」


「確かにな。滅びたはずの過去からの侵略と言っていいのかもしれん」


「そう考えるとエルスカインにとっては、エルダンが魔獣やホムンクルスと言った『戦略物資の製造補給所』で、ソブリンの王城が行商人の間諜(スパイ)を操ったり、周辺の国を密かに攻撃したりする『前線指揮所』の役目なのかな?って思うんです」

「俺も戦略物資か?」

「今更なにを言うアプレイス。操られたドラゴンは焦土兵器だぞ」

「ひでえ...」

「とにかく、これまでに見聞きした話や出来事を考えるとシンシアの分析は当たってる気がするよ」


「そーよねー。ガルシリス城の過去と現在のアレコレでしょー、リンスワルド家への攻撃でしょー、それにヒューン男爵領? レンツ? アソコでの動きなんかもルースランドが発信源って感じ、するわよねー!」


「そうなんです御姉様。なんとなく災いが西から来てたような印象があって...」

「わかるー!」

「ふーん、でもエルスカイン本人は、そこには居ないのかい?」


「私はソブリンにエルスカインが居る可能性は低いと思います。エルスカインはもっとこう...普通では無い場所に潜んでいるような気がして...」

「普通じゃ無いってのは?」

「お屋敷とかお城とかじゃ無いって言う意味ですアプレイスさん。現実的に考えれば、これだけの陰謀を何百年も動かすのは魔力だけでは無理です。これって物凄くお金も掛かることだと思うんです」


「そうだな。現実に生きてる人を買収したり抱き込んだりって言うのは大金の掛かる話だ」

「でも、エルスカインはただの『金持ち』の様には思えません。物凄いお金持ちのはずですけれど、お金持ちや貴族のような暮らしぶりはしていない気がします。まるで洞窟に潜んでいる盗賊の親玉みたいな感じで...」


「そりゃあ面白い想像だな」

「ええ、おかしいですよね?」

「いやあ、当たらずとも遠からずじゃねえかなシンシア殿? 特に『洞窟に潜んでる』なんてくだりはね!」

「えっ、アプレイスさんもそういう風に感じてるんですか?」


「だってエルダンでガラス箱を見たからな? ドラゴンの常識で言えば、宝物を沢山手に入れた奴ってのは『洞窟に籠もる』モノなのさ。エルスカインだってもう何千年か籠もったままなんだろうよ」


「確かにアプレイスの言うとおり、エルダンの地下城砦だって『洞窟』の一種だよなあ!」

「おお、それもそうだな」

「言われてみればさー、エルスカインって地下ばっかり弄ってるよねー!」


「アレ? ホントそうだな...ウォームで穴を掘ったり地下城砦に物資を溜め込んだり...モグラか?」

「モグラってなんだよライノ?」

「小さな獣さ。いつも土の中に住んで穴を掘って暮らしてるんだ。ホントかウソか知らないけど、ウッカリ地面の上に出て太陽の光を長時間浴びてると死んじまうらしい」

「ウォームかよ」

「温かい血の通ってる獣だから、もっと可愛げがあるよ。やけに手がデカいネズミぐらいな感じだ。でも尻尾が無いし毛皮がスベスベして綺麗だからネズミとは全然、雰囲気が違うけどね」


「御兄様はモグラを見たことがあるんですか?」


「子供の頃は良くあったよ。ただ可愛いけど農家には嫌われ者なんだ。畑にトンネルを掘りまくって作物をダメにするし、用水路の土手に穴を開けたり、土を豊かにする役目を持ってるミミズを根こそぎ喰っちまうからな」

「そうなんですか?!」

「ああ、だから農家の人はモグラを見つけると退治する。可愛いから心が痛むっていう人もいるけど、まあ背に腹は代えられないって感じ?」


「エルスカインがモグラねぇ...」


「アプレイス、断言してもいいけどエルスカインには絶対にあんな可愛げは無い! むしろウォームそのものって言う方が似合ってるぞ?」

「だろうな」

「実際ウォームを操ってるしねー!」


まあ冗談はともかく、シンシアが想像したようにエルスカインが『地下に籠もっている』というのは俺にも腑に落ちる。

ただ『動けない』から籠もっているのか、なにか『籠もらざるを得ない』理由があって動けないのかは分からないけど・・・


「でもアレだなライノ。モグラだっけ? ソレみたいにいつも地下の暗闇で暮らしてるなんて、まさに『闇エルフ』の名にふさわしいじゃねえか? ひょっとしてエルスカインだけじゃなくって一族郎党みんな揃って、そういう暮らしぶりだったから付いた呼び名かもよ?」

「おぉぅ...なるほど、それも一理あるな!」


「ねえドラゴン。昨日、兄者殿も言ってたけど、その『ヤミエルフ』ってなんなの? エルスカインって言う敵の『家名』とか?」


「いや、民族って言うか集団って言うか...お前が生まれた時代の、ある国の連中の呼び名だ」

「だったらワタシの知らない人達、ね」

「聞き覚えが無いのかマリタン?」

「無いわ、よ。単にワタシの知識には無いってだけだけど、ね?」


本人も言ってる通り、『本』として記述されていることと、あらかじめ知識として与えられているらしいこと以外は、マリタンの記憶はおぼろで不完全だ。

敢えて、所有者というか主に対しての先入観を持たせないためなのかも知れないけど、せっかくの『古代の生き証人』が・・・と思うとチョット惜しい。


「なあマリタン、お前が生まれた世界というか時代というか、創り主の魔法使いが自分たちをなんと呼んでいたかも知識に無いのか?」


「兄者殿、それは『人族』という括り以外で、かしら?」


「さっきアプレイスが言ったような部族とか国民とか、そういう自分たちのグループとヨソのグループを分けるための名前だよ」

「それはあるわよ」

「ちなみになんて?」

「知識としてあるのは『イークリプシャン』という呼び名、ね。たぶんワタシを創った魔法使いは、その種族に所属していたハズ、よ? だから知識に入れられているのだと思うわ」


「イークリプシャンか...なんかこう、語源とか意味とかあるのかな?」

「兄者殿は『月の影』ってご存じかしら?」

「月の影? いや知らんな」


それを聞いたシンシアが不意に声を上げた。

「マリタンさん、それはひょっとして『月蝕』の事ではありませんか?」

「月蝕?」

「あら、やっぱりシンシア様は難しい言葉をご存じだわ! まさにソレよ、ね」

「なんのコトだいシンシア?」

「えっと...まれに月明かりが影に暗く沈むことがあるんです。月が見えなくなる訳ではないですけど、赤黒く不気味な姿になります...ただ、普通の月の満ち欠けとは違って満月なのに暗くなるので不吉とされていますね」


「あー、なんとなく分かるかも」

「ええ、目にする機会は誰にでも有ると思いますので」


「で、イークリプシャンって言うのは『月の影から来た人』って言葉らしいの。ヘンな意味だけど、ね。理由は知らないわ」

「ふーん」

「御兄様、月に影がかかることや太陽が欠けて見えることを総じて『エクリプス』と呼びます。恐らく、マリタンさんのいた場所の人々の呼び名がイークリプシャンだということは、それを示しているのかと」


「面白いって言えば面白いなシンシア殿。月の影から来たなんて、なかなかロマンチックじゃあ無いか?」


「意味不明だけどな」

「あっ、ひょっとすると!」

「どうしたシンシア?」


「あの...古語では消えた人や去った人などに対して『リプシー』という呼び方があったようです。実はそれが『エクリプス』の語源で、太陽や月が力を失って影に消えてしまうからだと...」

「ほう?」

「想像なんですけど御兄様、『影に消える』っていうニュアンスは『闇』という言葉に通じる感じがしませんか?」


おぉっ? なんかピンと来る感じがする言葉だなシンシア!


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