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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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橋を架ける転移門


「まあ他にも罠が無いとは言い切れないけど、エルスカインみたいに全部吹き飛ばすようなことはしないと思う。用心しながら調べてみよう」


「分かったー! チョット待っててねシンシアちゃん」


パルレアはそう言うと魔導書の真上に浮かびながら再び表紙に手をかざした。

目を瞑ったまま、空中で指先が何かを探る。


「うーん、中身は良く分からないけど、表紙の下に魔法陣が隠してあるみたいな感じ?」

「それが罠か」

「たぶんねー。えーっと...あ、分かった! えぇーっ、コレって転移魔法陣だー!」

「はあっ!」

「本の中に転移門があるんですかっ?」


「それってシンシアがメダルに埋め込んだ魔石駆動型転移門みたいなモノか?」


「もっと大雑把かなー。圧縮して畳み込んであってー、表紙を開くと展開するみたいな? 本に手を掛けてる相手をどっかへ送っちゃう感じ?」

「どこへ送るんだよ?」

「さー? ドボローを牢屋へとかねー?」

「何言ってんだか...」


「いえ御兄様、本当に御姉様の言うような役目かも知れません。財産でも知識でも、盗むのが目的で入ってきた相手にでしたら、いきなり殺してしまわずに目的を確認するか、あるいは誰の差し金かを確認するものだと思います」


「つまり捕らえて尋問するのか」

「ですね」

「そうなると送り先は、相手を閉じ込めて一方的に扱える場所...まあパルレアの言うとおり『牢獄』みたいなもんだよなあ、それって」


「でしょー!」


「なあパルレア、持ち主以外が解呪せずに本を開いたら、その本に触れている相手を強制的にどっかへ送り出すんだよな?」

「うん、そのはずー」

「本はここに残るのか?」

「でないと罠にならないでしょー? って言うか使い捨てになっちゃうもん」

「それもそうか...」


「...なに考えてるの、お兄ちゃん?」


「仮にだな、この本を『開いた』っていう状態に偽装して転移門を発動させた上で、精霊爆弾を送り込んだらどうなる?」

「あ、送り先の牢獄がブッ飛ぶーっ!」

「だよな。牢獄かどうかは分からないけど、この錬金術ホムンクルスの管理下にあるどこかっていうことは確実だ。

「ねー!」

「よしっ またあの大広間みたいにぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「いぇーぃ!」


牧場の罠、すなわちここに来る途中にあった大広間を吹き飛ばした時は、精霊爆弾自体に罠を発動させる囮の役目を持たせたけど、これの場合は『本を開いた奴』という存在を精霊爆弾に肩代わりさせるような仕掛けに出来れば、上手く行くんじゃ無いだろうか?


エルスカインに関係ある場所を精霊爆弾で吹っ飛ばそうとパルレアと二人で盛り上がっていると、シンシアが小さく手を上げて発言した。

「はい」

その仕草は、いまが会議中って認識なのか?


「えっと...ですが御姉様、万が一とは言え、その牢獄に誰かが囚われている可能性もあると思います」

「みゃっ!」

「あーっ、そうか! しかもその場合はエルスカインか錬金術ホムンクルスと敵対してる相手ってことだ。むしろ俺たちにとっては味方側かもしれないな!」


「ですね。なので転移先を確認せずに攻撃を仕掛けるのは控えた方が賢明かと」


「ソッカー...」

「だよなあ...」

「だったらさー、まず確認しよー!」

「どうやって? 自分がワザと罠に嵌まって跳ばされてみるとか言うなよ?」


「...ダメ?」

「ダメに決まってるだろっ!!!」


「だけど牢獄だったらさー、いったん放り込んだ相手をまた連れ戻す方法もあると思うのよねー?」

「あるかも知れないけど無かったらどうする! って言うか、その方法がハッキリ分かってないのに、そんな危ない賭けをさせられるか!」


「あー、お兄ちゃん心配して...」

「やかましいわ! 却下だ却下!」


随分と久しぶりに聞くフレーズだけど、コレはさすがに郷愁に浸ってられる内容じゃないからな。

俺とパルレアの、あまり頭が良くない感じのじゃれ合いを机の向こう側に立ったまま聞いていたシンシアが、ふと思いついたように口を開いた。


「あの、御姉様」

「なーに?」


「この本から起動する転移門は人族の古代魔法ですから、つまり『橋を架ける転移門(ブリッジゲート)』になりますよね?」


「そー。だから簡単に往復できるんじゃ無いかなーって思ったの」

「ですよね」

「あらーっ、ひょっとしてシンシアちゃんも『罠に嵌まってみる方式』に賛成してくれるの?」

「絶対に反対ですっ! 論ずるに及びません!」

「なーんだ」


「ですけど、人族方式なら『転移門を開き続けているあいだ』は向こうとこちらが空間的に繋がったままのハズです」

「でしょー?」

「ですから誰かが見に行かなくても、精霊爆弾の代わりに向こうの様子を探る魔道具を送り込んだり出来たら、なにか分かったりする可能性がありませんか?」


「おっ?」

「あー!」

「ソレだシンシア!」


確かに橋を架ける双方向の転移門なら、こっちから向かうモノと、あちらからやって来るモノが、同時に行き交うことが出来る。


ポリノー村でエルスカインを迎え撃った時、恐らくは即座に襲撃できるようにあらかじめ浮かび上がった状態で送り込まれてきたグリフォンがこちら側に現れると同時に、そこにいたスパインボア達が逆に向こう側の空間に落ち込んでいったのだ。


双方向の転移門を開いて維持し続けるためには膨大な魔力を消費することは間違いないけど、いまの俺たちには高純度魔石が唸るほどある。

楽にやれる気がするな!


問題は、シンシアの言う『向こうの様子を確認する魔道具』っていうものが実在しないと思うことだけど・・・

いやいや、シンシアが考えついたことなのだ。

言葉として口に出す前に、もう解決方法のアイデアが浮かんでたに決まってる。


「具体的なやり方は思いつけそうかシンシア?」

「ええ、確実とは言えませんけど試してみたい方法があります」


「よし、とにかくやってみようよ。なにか手伝えることはあるかい?」

「アタシもー!」

「そうですね...魔道具についてはアイデアがあるのですけれど、それを今この場で造り出すのは少々やっかいかも知れません。ここが放棄されている訳ではないと言うことを考えると、いつエルスカインが新しい手下を送り込んでくるかも分からない訳ですし...」


「それはまあ...無いとは言えないな」

「だったら、この本を持って帰っちゃおー。どーせアタシたちがここに踏み込んだことはバレるんだし!」

「だよな。この本は動かしても大丈夫かパルレア?」


「さっき調べた感じじゃー本の下とか、この机そのものには罠は無いハズー」


「でしたら、この本は私の小箱に収納していきます。私たちの知らない何らかの手段で追跡されたら嫌ですが、小箱の魔法空間ならその心配が絶対に無いと思いますので」

「仮にアタシ達の知らない探知魔法が組み込まれてても、小箱とか革袋とか屋敷の周りとか、アスワンの結界の中だったら絶対ダイジョーブ!」


「そうだな。じゃあ魔導書はシンシアが持っていてくれ」


「それで御兄様、代わりにと言ってはなんですが、ここに罠を仕掛けておきますか?」


「いや。それは止めておこうシンシア。ガラス箱を全部確認できてない以上は、あの中にアンスロープやエルセリアが一人もいないとは断言できないし、未確認な状態でここを吹っ飛ばすと今後の夢見が悪くなる気がする」


「それもそうですね...では、先ほどの大広間の方だけに? 侵入したことは露呈する前提で相手の裏をかいて、私たちが調べているか見落としているか、微妙な場所に仕掛けるという手もあると思います」


意外に吹っ飛ばしたがるなあシンシア!

まだ十三歳の見目麗しき美少女がこの闘気である。


どっちが勇者なんだか・・・


「それも止めとこうシンシア。連中は用心してくるだろうし、俺としては万が一にでもシンシアの精霊爆弾が不発でエルスカインの手に渡ることを避けたいからね。大広間を破壊したモノが何かは、アイツらには謎のままにしておきたいんだ」

「確かにそうですね...」

「うん、人の手で創り出せたものは、人の手で解析できると考えた方がいいよ。ドラ籠の分はまだ成否不明だけど、出来るだけ損失機会は減らしておく方がいい」


「分かりました。では、この本だけ持って、いったん脱出しましょう!」


いったん脱出?・・・


『いったん』って、シンシアはここに舞い戻ってくる気が満々なのか?

まあ、その必要が出てきたら俺も躊躇はしないけど。


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