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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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魔獣使いは動けない?


「もしも放棄したんだったら、撤退する時に俺たちを目標にして罠を張ってると思うからね。ここには元々の城砦からの侵入を防ぐ仕掛け以外は無かったよ。それはパルレアが消滅させたけど」

「ほめてー」

「おう!」

「えへー...」


「放棄されていないとすれば、エルスカインはいつか必ずここに配下を送り込んでくるでしょうね。それがいつになるかは別としても」

「だな」

「それを見越して、逆にこちらが罠を張っておくという手もありますか?」


「いや、それはムダだろうと思う」


さすがに、エルスカインがそれほど甘い相手だとは思えない。

むしろ今日、俺たちが来ていたことを知ったら、その瞬間にここを放棄するってぐらい大胆な行動だって取りかねないからな。


「ですが、私たちが侵入した痕跡を残していなければ上手く行くかも知れませんよ?」


さすが心の内に武闘派魂を秘めたシンシアだ。

食い下がるね・・・


だけど、高原の牧場でもモリエール男爵家のドラ籠でも、同じく『罠に掛かったフリをして逆襲する』っていう手法を使っている。

さすがに三度目となればエルスカインも用心するだろうし、まだドラ籠が吹き飛んだって言う証拠がない現状では、罠に使ったシンシアの魔道具を鹵獲されて解析されてる可能性が怖い。


「痕跡は残ってるよ。吹っ飛ばした大広間に積もった砂埃の上を歩き回ってるんだし、なにより転移門を設置するために送り込まれてくる手下は、まず城砦の上から入ってくる訳だろう?」

「そうですね」

「地下通路に仕掛けてあった幻惑の魔法と罠はパルレアが消滅させたんだ。アレは復帰できないから絶対にバレるよ」


「あー...ゴメン、お兄ちゃん。そこまで考えてなかった...」


「いやいや、アレはそれで良かったんだよパルレア。まず覚られずに侵入することが第一だったんだからな?」

「うん...」

「ともかくエルスカインはここを放棄していないし、爆発以来は手つかずのハズだ。被害を受けていないこっち側の地下室には色々残っていそうだし、手掛かりを探そう」


「分かりました御兄様」


ともかくシンシアとアプレイスをいざなって階段を降り、見渡す限りの空間を占めているガラス箱の大群を指差す。


「見て欲しかったのはこれだよシンシア。このガラス箱だ」


立ち止まったシンシアが息を飲んだ。


「凄いです! 広い! それにこんなに沢山の大きなガラス箱が! これ全部、板ガラスで作った箱なんですか?!」

「ああ。そして、この中にはエルスカインが集めた魔獣が入ってるんだよ」

「は? えっ! この広さで、ぜ、全部にっ!?」

「まだ調べてないけど、たぶん」

「マジかよライノ!」


きっと驚くぞ? と予告はしておいたけど、本当に目の当たりにするとビックリして当然だ。

二人とも絶句している。


「あのねーシンシアちゃん、なにかの魔法で凍結してるよーな感じなの。凍り付いたみたいに固まってるけど死んでない、そーゆー状態」


「ええぇ...」


「近寄ってガラスの内側を覗いてみるといいよ。中の魔獣...そこに入ってるのはブラディウルフで、目を開けているけど動いてないし剥製でも無い。ただ止まってるだけって感じだな」


「この大きなガラス箱自体が、その魔法を封じ込めた結界の魔道具なんですね?」

「そーなの」

「まあ、ガラス自体も魔法素材なんだろうな。魔ガラスっていうか、オリカルクムのドラ籠と同じような出自だと思う」

「だって古代の魔道具だもんねー!」


「古代の...魔道具...」


シンシアが言葉の意味を確認するかのように呟く。

興味と畏怖が入り交じったような複雑な表情だ。


魔道具を開発している時の神妙な顔で思案しながらもどこか楽しんでいるような表情とも、エルスカインの放った魔獣と対峙している時に見せたような険しい表情とも違う、複雑な心境が見て取れる。

元々、見た目や実年齢より遙かに大人びた中身を持ってるシンシアだけど、こういう表情を見せるのは珍しいな。


「ってことはライノよ、こいつはエルスカイン達が世界戦争の時代から大事に維持し続けてるシロモノだってコトか?」

「そうかもしれん」

「なんでまた魔獣を?」

「仮にココに収められてる魔獣達が古代のモノだとして、エルスカインが『闇エルフの系譜』だと噂されてたことも鑑みれば、これは当時の戦争のために作られていた魔道具だろう」


「戦争のため...」

シンシアがその言葉を噛みしめる。


「つまり...」

「アンスロープを造るためですね?」


さすがシンシア、理解が早い。

俺が喋るよりも先に答えが出てきたよ。


「そうだろうね。元の素材にした魔獣や奴隷達を押し込めておくためか、作りだしたアンスロープ達を必要な時まで保管しておくためか...その両方か」

「ひどい...」

「でもそれが闇エルフ達のやっていたことなんだよ」


「...ええ。そうですね御兄様。そして、エルスカインは間違いなくその系譜でしょう。血筋も引いているのか、技術や思想を継承しているだけなのかは、まだ分かりませんが...」


「だけどココに並んでるガラス箱は大体どれも同じものに見えるぞ? ライノ達を襲ったっていうデカい犀とかグリフォンとかは、どうやって中に入れてるんだ?」


「入れるモノを無理矢理この箱のサイズに収める収納魔法に近い仕掛けでもあるんじゃないかな?」

「それって凄いじゃねえか!」

「それに、こっち側に転移門が無いとすれば、大きさ的にもここでグリフォンを出す訳にも行かないだろ?」

「確かにここへの通路は通れそうに無いな」


「いま通ってきた通路や地上との出入口も多分ウォームに掘らせてると思うし、どの魔獣もガラス箱に入れたまま城砦の地下まで運んでから復元して、あそこの転移門で目的地に送り込んでたんじゃ無いかな?」


「なんかムカつくけど便利そうだな!」


「それにエルスカインは用心深いから、エルダンから襲撃場所に直接魔獣を送り込んだりもしてない気がする。きっと、あちらこちらに転移門の中継場所があるんだと思うよ」


「手が込んでやがるぜ...」


「だけどさー、収納魔法そのものが使えるなら、そもそも、こーんなガラス箱なんていらないよ? お兄ちゃんだって本気になれば魔獣の千匹ぐらい革袋に入れられるでしょー?」


俺の魔力的に収まるのかな?・・・


いま革袋に入ってる生き物は七頭の魔馬だけだけど、全部まとめた重さで言えばブラディウルフの百匹くらいと変わらない気もする。

まあブラディウルフが小さいんじゃ無くて、魔馬達が普通の乗用馬より格段にデカいって事だけど。


魔馬が七十頭・・・うん、入るな。

いつぞや、ノイルマント村に数十台の幌馬車と牽き馬を一気に運んだ時と大して変わらんか。


「だからコレは人族の空間操作魔法の限界だと思うの。もちろん、それでも凄いけどねー。きっと現代じゃ作れないだろーし」


パルレアがガラス箱をしげしげと眺めて言う。

精霊魔法よりは劣るけど馬鹿にしたものじゃ無い・・・表情からすると、そんなところかな?


「なるほど。まあ俺もアスワンから革袋を受け取るまでは、空間操作の魔法なんて自分に縁のない話だと思ってたからな」


「なあライノ、このガラス箱に入れられてる魔獣達は、ずっと変わらない状態のままでいるのかな?」

「どう思うパルレア?」

「きっとそー」

「じゃあパルレア殿、時間の流れを操る的な魔法か?」


「ううん、時間の流れを変えるとか遡るってのは、ちょーっと条件が厳しいって言うか制約が多いって言うか、いくら魔力が潤沢でも現世にいる限りは不可能みたいな感じ?」

「さっきパルレアは比喩として凍り付いてるって言ってたけど、それが時間が止まってるって意味かと思ってたよ」


「似てるようで、ちょっと違うよーな...この箱の中にいる限りは周囲の時の流れが関係なくなるんじゃ無いかなーって気がする」


「じゃあ、そう言う意味でも俺の革袋の中と一緒か?」


アスワンの作ってくれた俺の袋やシンシアの小箱は、元々が現世とは違う精霊界で作られて、その中に小さな『精霊界的な空間』を封じ込めたまま現世に持ち込まれている。

その中では時の流れがすべて止まるからどんなモノも状態が変化しない。


革袋を受け取った時には、四百年間使ってなかった屋敷を『樽から塩漬け肉を出す』ようにホイホイと差し出してくるアスワンに驚いたけど、劣化版とは言え、それに匹敵する魔道具が何百と並んでいると考えれば圧巻だな。


「たぶんねー。単純に、ガラス箱の中は現世の時間の流れから切り離されてるんだと思う」


「なあそれ、止まってるのも切り離されてるのも、どっちも同じコトじゃ無いのかパルレア殿?」

「結果は同じだけど、ちょっと違うの!」


「へー...」

声が小さいよアプレイス。


生返事しながらガラス箱を眺めてるアプレイスの顔には、あからさまに『どっちでもいいじゃないか?』って大きく書いてあるけど、まあパルレアというか大精霊的には拘りポイントなんだろうな。


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