表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
509/934

配下に人族がいない理由


ここには『人族の配下がいなかった』と俺が思った理由を聞き、そのまま考え込む様子で部屋の中をフワフワと飛んで一周したパルレアが、スッと肩に戻って来た。


「うん、これまではタダの想像だったけど、アタシもお兄ちゃんの考えが正しーと思う。きっとエルスカインは『人族』を一人も手下に持ってない!」

「だな!」

「理由はなんだろ、寿命かなー?」


「たしかに人族の寿命じゃエルスカインの計画には付き合えないな。エルフ族でも普通なら二百年かそこらで長命な人でも三百年越えないだろうから...でも、手下はその時に使えればいいんだから、なにも計画の最初から最後まで同道させる必要は無いだろ?」


「そーねー...じゃー人を信用してないとかー?」


「前にもお前とそんな話をしたよな。エルスカインは誰も信用してないって。だから、命を握って絶対に従わせられるホムンクルスだけを使うって...でもなあ、それも絶対とは言えない感じだろ?」


「カルヴィノとかー?」


「それもあるし、あのモリエール男爵だってわざわざアサシンタイガーに殺させてる。例えエルスカインでも、ホムンクルスを遠くから呪文一つで殺せるって訳じゃ無さそうだ」

「そーなのよねー」

「まあ、それでも普通の人よりは従わせやすいだろうけどな」


「んー、ひょっとしたらって理由だけど...」

「なんだ?」

「エルスカインは人と会えないのかなー?」

「会えないって、どういう意味だ?」


「さっきお兄ちゃんが『エルスカインは自分で移動できないかも』って言ったでしょー? それで連想したんだけどさー、同じく物理的に人と会えないって言うか、話せないって言うか?...魔法を通じてしか指示を出せないとかー...」


「んんん...それってどういう...指通信でしか誰かと会話できないみたいな意味なのか?」

「あ、そーかもっ! それも自分が魔法を埋め込んで作ったホムンクルスしか相手に出来ないとかさー。無いかな?」


「無いとは言えないけど、だとしたらなんでだろ?」

「さー?」


なんらかの理由で、エルスカインは『人』と直接会えないとか?

対話でも命令でも、とにかく会話をする事が出来無いとか?


だけど、そう考えれば直接動かしてる手下には人族が一人もいなくて、ホムンクルスと魔獣だけって事にも納得が出来る。

そりゃあ、まさに『魔獣使い』の二つ名に相応しいけど・・・なんでそうなんだ? 


理由が分からない・・・分からないけど無碍に出来ない。

いや、正しくは理由も仕組みもサッパリ分からないけど、それでもパルレアの想像は荒唐無稽とは言い難い気がしてくる。


「なんだか俺もパルレアの言ってる事は当たってるような気がしてきたよ。理由はともかくエルスカインは人と会えないし、話せない。だから魔獣やホムンクルスだけを使う。下っ端のゴロツキや行商人はホムンクルスが代わりに雇ってる。きっとそんな感じだな」


「それにさー、『人に会えない』のと『移動できない』ってのは同じ理由のよーな気がするのよねー...」


「なるほどな」


仮に俺たちの推測が正しいとしたら、人に会えない事と移動できない事は『同じ理由』だって考えるのも自然だよな・・・

移動できないから会いに行けない。

でも自分の本拠地には有象無象を呼べない、とかなのか?


内心で考え込んでいると、周囲の瓦礫を見渡していたパルレアが、ふと呟いた。


「だけどさー、ホントにリリアちゃん親子はココから逃げ出したのかなー? って言うか、もしもココにいたんだったら、何やってたんだろ?」


「こんなところで、か?」

「そー」

「手下だとは考えにくいな。翻意して逃げ出すような人族をエルスカインが拠点で働かせる訳が無い。でもリリアちゃんはホムンクルスなんかじゃ無いし、母親もフォブさんが最期を看取って埋葬しているから違うはずだ」


「そりゃーねー。ホムンクルスならお墓を掘ってる間に蒸発しちゃうしー」


「だったら、捕まってここに閉じ込められてたとかだろう? 理由は分からないけどね」

「それだったら結構な重要人物っぽく無い? なのに逃げられても追わないのはなんで? やっぱり不思議くなーい?」


ここに来る前に屋敷でも議論した話だけど、結局のところ明確な答えは無い。


「うーん、例によって根拠の無い直感なんだけどな? エルスカインは何故か、二人が逃げ出していたことに気が付いていないような気がするんだ。つまり放置しているのでも泳がせているのでも無く、この施設に『二人がいない』ことを把握してないワケだ」


「だからなんでー?」

「だから直感だってば」

「なぞー」

「まあな。だけど、けっして希望的観測じゃ無くて、本気でそういう状況に思えるんだよ。それに鍵のペンダントのこともだ」


アレが、どこにあるなんの鍵かは不明だけど、エルスカインはバシュラール親子と一緒に鍵が手元から失われたことに気が付いていないか、最初からリリアちゃんの母親が鍵を所持していたことを見落としていたか、そう思える。


かと言って、あのペンダントとバシュラール親子はエルスカインとは全く無関係なのか?って言うと・・・いや、これも直感だけど、そうは思えないな。


きっとなにかの因縁があるはずだ。


「そー言えばお兄ちゃんはエルスカインに感情が無いとか言ってたねー! マトモに人と対話できない性格? それって他人に『興味が無い』って事かなー?」


「人への興味か...無さそうだよな。エルスカインにとって興味がある事は自分の利益に役立つかどうかだけだろう」

「心底ホントーに相手の状態を気にしてないのかもねー。生きてるか死んでるかさえも」

「さすがに死んだら困るだろ?」


「死んだら死体を取っといてホムンクルスにするだけー、とか」

「マジで吐きそう」

「うそつきー」

「まあそのくらい不快だって意味だよ。それに保管してた死体が消えたら、それはそれで別の騒ぎになりそうだ」


「だねー!」


最初に姫様の襲撃に出くわした時、エルスカインは(はな)から姫様を捕らえるとか攫うとかっていう考えは無くて、『死体を入手するだけ』が目的だったことは明快だった。

それも肉体の状態はまったく気にせず、だ。


魂を持つホンモノのホムンクルスを操るよりも、死体で造ったニセモノのホムンクルスの方が自由に操れるらしいことが分かった今では、それも納得だけどさ。


「人や世界に興味がなくってさー、しかも動けないとか人に会えないとか考えるとホントーに年寄りなのかも?」


パルレアの言葉で、ふと堅強に守られた地下室のベッドに『魔獣使い』が寝ているイメージが思い浮かんだ・・・

ほぼ寝たきり状態で、身の回りの世話はホムンクルスにさせている。

外の世界の状況を把握するのも配下に指示を出すのも魔法とホムンクルス経由だけで、自らが部屋を出る事はない・・・

そんなイメージだ。


「自力で動けないほどの老人で、人に会うのも難しいか...寝たきりって感じだけど、それでも魔力が強くて魔法に秀でてればホムンクルスや魔獣は服従させて動かせるだろうな」

「そーよね」

「ホントに長生きかもしれないぞ。ひょっとしたら自分自身もホムンクルス化して延命してるとか」


「え? ソレだったら、その時に若い肉体に作り替えればいーじゃん?」


「あれ? それもそうだよな...ホムンクルスになるなら、別にじいさんのままで寝たきりになってる必要は無いか...」

「おばーさんかも?」

「それはどっちでもいいだろ」


「ホムンクルスに魂を移せない理由でもあるのかなー?」


「まあ、いまここで考えても分からんな。とにかくどっかに手掛かりが無いか探してみようぜ」

「はーい」


ホールに戻り、二人で手分けして瓦礫の山を検分していく。


検分と言っても俺は魔法や魔道具に詳しい訳じゃ無いから、ここで行われていた事自体を探れるワケじゃあ無い。

なにか直感にピンと来るモノが出てこないかを見ていく感じだな。


「吹き飛んだとは言え幸い火事になってはいないみたいだからな。本とか手紙とか記録とか、そういうモノならあるかも知れんぞ」


「魔獣使いのお手紙ねぇー...」


「いやエルスカイン自身が手紙を出すかどうかはともかく、ホムンクルスの手下だって外の世界とのやり取りは全部が口頭だけってワケにもいかないだろ? いかないんじゃないかな? 行かないような気がする」


「なーるほど!」


パルレアも積み重なった瓦礫の周辺をフワフワと飛んでめぼしいモノを探しているけど、特に興味を引くようなモノは見当たらないらしい。


とは言え、何がパルレアの興味を惹くのかと考えると、その捜査能力に若干の不安が頭をもたげないでも無いが・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ