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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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地下牢


もしも歩廊が崩れ落ちるほど地面が揺れたんだったら、こういう後付けで積み上げたような石壁だって無事では済まないだろう。


試しに指で軽くほじってみると、石組みの隙間を埋めているモルタルの破片がパラパラと床に落ちる。

よく見ると、すでに床にはあちらこちらに白い粉が散らばっていた。


< なーに、その粉? >

< 隙間を埋めたモルタルが、かなり脆くなってるんだよ >

< 外壁の石組みは立派なのにねー! >

< 後付け工事だからな。それも最近じゃ無くって随分と昔のもんだ。モルタルに使ってあるセメントが中途半端に古くて弱い奴なんだよ >


< ちゅーとはんぱに古いって、もっと古ければ良かった訳? >


< そうだな。大昔のセメントは現代のと変わらないくらい強かったそうだ。長い大戦争を挟んで、職人や技術が失われたり材料が手に入りにくくなったりして、色々なモノ造りがいったんチャチになってたらしいぞ? >


< アスワンが聞いたら憤慨しそー! >

< それくらいの経緯はアスワンも知ってるだろう >


パルレアにどうでもいい解説をしつつ、石組みの中で特に弱っている所が無いかを探すと、明らかに差し込まれている石がゆるゆるな状態になっている場所が見つかった。

試しに、そっと石を掴んで左右に抉ってみると抵抗なく揺れる。

そのまま引き出してみると、見事に細長い石が壁から抜け出て手に残った。

荷重がかかっていない位置だったから、壁そのものには何の影響も無いはずだ。


< 壁の向こう側が見えるな。真っ暗だけど >

< ちょっと見せてー >


パルレアに場所を譲ると、穴に張り付いてと言うか穴に頭を突っ込むようにして壁の向こうを観察している。

しばらくすると頭を抜いて俺の方を振り返った。


< 向こう側は、直ぐこの先から下に降りていく階段だねー。他に通路は無いっぽいから地下牢の入り口で正解かも? 前に行ったシーベル城の地下牢みたいな雰囲気だしー >

< 戦争が終わっても兵が常駐してるなら城の牢屋を使わないなんて無いから、塞いだのはエルスカインの指示だろうな。物理的に地下に誰も近寄らせないために、とか? >

< じゃー入ってみる? >

< お前はいったん革袋に戻ってくれ >

< はーい >


石組みの穴は、俺の持ってる魔石ランプを通すにはチョット小さいな。


革袋から適当な蝋燭を出して火を着け、ゆっくりと穴の奥に差し込んでいく。

ギリギリまで蝋燭を押し込むと、狭い穴の向こうに口を開けている階段と、真っ暗な空間がおぼろに見えた。

おぼろでも、見えさえすれば跳躍門でそこに跳べる。


無事に跳躍して壁の内側に入ったけど、蝋燭の明かりでは少々心許ないから魔石ランプを取り出した。

ガルシリス城の地下では人の魔法は使えなくしてあったし、かといって精霊魔法を使うのは出来るだけ控えたい。

なので光魔法はやめて、ありきたりな魔石ランプに頼る事にする。


明かりを灯すと、パルレアも革袋から出てきた。


< ちょっと待ってろ。引き抜いた石を元に戻すから >

< だーれも通らないんじゃない? >

< 多分ね。だけどこういう時の法則があるんだ >

< 法則って? >

< 『人目の法則』って言ってな、誰も通らない時間や場所だって思って油断してると意外な理由で誰かが通る。きっと誰かが通り掛かるハズだと思って用心すると誰も通らない。そういうものなんだよ >

< あー、なんか分かる気がするかも... >

< だろ? >


抜いた石は手に持ったままだったので、オリカルクムのナイフでその周囲を少し削り、壁のこちら側から押し込めるように加工する。

向こうから削り跡は見えないから大丈夫なはずだ。

壁に開けた穴を修復してから、出来るだけ物音を立てないように魔石ランプの光を頼りにゆっくりと階段を降りていく。


四角い井戸のように掘られた空間に深いらせん階段が続いているけど、階段の幅が結構広いのは、囚人の両脇を抱えて力尽くで連れて行くためだろうか?


< もーそろそろ、下の扉に辿り着くと思う >

< 良く分かるな。何か見えてるのか? >

< ううん、アタシ達の出す音の響き具合ってゆーか、反響? >

< 凄いな >


それほどカツカツ足音を立てていたワケじゃあ無い。

むしろ、できるだけ静かに抜き足差し足で階段を降り続け、自分自身では足音よりも衣擦れの音の方が気になるほどだったのに、パルレアはその微かな音の響き具合で、階下が塞がっている事に気が付いたのだ。

ピクシーの感覚の鋭さは、本当に並大抵じゃ無いな・・・


そしてパルレアの言った通り、それからしばらく下ったところで無骨なというか重々しい木製の扉に突き当たった。

いかにも年代物。


< 鍵とか魔法とか掛かってるかなー? >

< いや上の出入口を塞いでるんだから、この扉は使われてない前提だろ。逆に扉の向こうにモノを置かれて塞がれてる可能性はあるけどな >

< 鍵穴あるよー >

< おう、覗いてみてくれ >


鍵穴も扉の風格に相応しい年代物だな。

つまり『鍵穴』がデカい。

覗きやすくて大変助かる。


気配は何も感じないけど、もしも向こうに誰かいたなら、すでに鍵穴から漏れ出る魔石ランプの明かりに気が付いているだろう。


< 狭くて暗い部屋だねー。でも先に廊下が延びてるみたい >

< ここは、地下牢の詰所みたいなもんだろう。きっと見張り番の衛兵がいたような場所だな >

< この鍵穴ならローソク通る? >

< 大丈夫だ。もう一度革袋に入ってろ >


俺はパルレアと入れ代わりに革袋から蝋燭と麻紐を取り出し、熱で柔らかくした蝋を麻紐に押し当てて擦り込んだ。

ほんの一瞬だけ明るく出来れば良いのだから長時間燃える必要は無い。

蝋が擦り込まれて固くなった麻紐を真っ直ぐに伸ばし、途中で引っ掛かったりしないよう慎重に鍵穴の中に差し込んでいく。


扉の厚みを越えて向こう側の床に届くほど長く麻紐を送り込んだところで、麻紐を指先で加熱して燃え上がらせた。

炎が安定したら指を離すと、麻紐は燃えながら自重で鍵穴の向こう側に引き込まれていく・・・


素早く鍵穴に目を押し当て、麻紐の火が消える前にわずかに照らされた空間を視認して跳躍した。

手に持ったままの魔石ランプが室内を照らす。


石造りの典型的な地下室と、奥へと続く暗くて寒々しい廊下。

左の石壁には小さな鉄の鉤杭が幾つも打ち込まれていて、恐らくはそこに牢屋の鍵を沢山ぶら下げてあったんじゃ無いかって感じがする。

この部屋と廊下との間には鉄格子の扉が嵌まっていて、そこの鍵を開けないと地下牢そのものに出入りできない構造だ。


もちろん、いまは鉄格子が閉まっている状態だけど、見えている場所に跳躍できる俺たちにとっては鉄格子の扉なんて無いに等しい存在・・・


< 奥に進むぞパルレア >

< アタシが少し先を飛んでくねー >

< いや肩に乗っててくれ。罠があって当然だし、お前が前を飛んでて咄嗟に周囲に攻撃できない方が困るかも知れないからな >

< そっかー。了解! >


パルレアは跳躍しなくても粗い鉄格子の隙間をくぐり抜けられるサイズだ。

俺が鉄格子の向こう側に出ると同時に、パルレアはすーっと隙間をくぐり抜けてくる。

小さいって便利だな!

この城が現役だった時代に、ピクシー族の兵士がいて地下牢に放り込まれるとか想定にも無かったんだろうけど。


< ねー、思ってたほど空気が濁ってないねー >

< かなりカビ臭いけど毒気は無いな...まあ、ここまでの階段や地下牢は長い間まったく使われてなかったって事だろう。エルスカインの出入りは転移門経由だからな >

< じゃあ逆にアタリだねー >

< アタリだな。だけどアタリって事は、この先に罠が有るか敵がいるかだ。すでに放棄されているとしてもな? >

< うん >


さて、この先には魔獣が出るのか魔物が出るのか・・・魔石ランプの光に照らされた殺風景な石造りの廊下が延々と続き、その左右には鉄格子の嵌まった牢獄が並んでいる。

幸いなのは、全ての牢の中が空っぽになっている事か。


仮にこの城が現役だった時代に放り込まれていた者の遺体があっても長い年月を経て干からびてしまっているだろうけど、エルスカインが最近まで、いやひょっとしたらいま現在も使っている場所となったら話は別だ。

凄惨な光景を目にする覚悟もしていたけど、とりあえず今のところはそう言うモノに出会っていないのが有り難い。


まあシンシアと違ってパルレアは、そう言うモノを見たところで動じないだろうって気もするけどね。


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