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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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更に更に転移門の改良


「えーっとね、ピクシー族が空高く飛べないのは魔法の使い方が理由なの。地面とか木々の梢とかさー、魔法的な支えの『基点』になる物体が必要って感じ? その代わりに消費する魔力量はすっごく少ないから、一日中でも飛んでいられるってワケなのよねー」


「そうなのか?」


「ドラゴンや精霊魔法は、言っちゃえばもっと力技で飛ぶ感じだから魔力の消費も激しくってさー、まー、お兄ちゃんみたいな特別な存在じゃ無いと真似するのはチョット難しいかなって感じー」

「それは実感としても分かるな。昔の俺だったら浮くだけでも絶対に無理だ」

「ねー。じゃあ一緒に浮いてみて」


「おう!」


パルレアを横抱きにしたまま力の魔法を制御して、自分の周囲の空気を『重く』なったとイメージする。

もちろん本当に空気が重くなった訳じゃ無くて、そう認識する事で『自分の身体が空気よりも軽い』というイメージを描きやすくなるってワケだ。

そのまま自分の創ったイメージに集中していると、ふっと身体が浮かび上がる瞬間が分かった。

練習の成果で、いまは足下に魔力の固まった『土台』を同時に作れるようになっているから、それに押されるようにして身体が浮かび上がるのを知覚できるのだ。


「もっと高く上がってー」

「ほいきた!」


パルレアの声に応えて、これまでの練習よりも一段と高く浮かび上がった。

足下には広い草地に囲まれたアスワンの屋敷が見える。


「じゃー、アタシが動きを付けてみせるから、よく見ててね?」

「ああ頼む」

「いっくよーっ!」


久しぶりだなあ・・・このチョット気の抜けた掛け声を聞くのは。

正直楽しいぞ。


パルレアを抱き上げている俺自身はなにもしないまま、ただ見えない土台をしっかりと踏みしめた状態で前方に動き始めた。

少しずつスピードが上がって、眼下を流れる景色のスピードが『のんびり飛ぶアプレイス』ぐらいに感じるようになったところで、パルレアが向きを変える。


「ねーお兄ちゃん、風を感じてる?」


「アレ? いや、そう言えば結構なスピードで飛んでるのに風を感じてないぞ...いつもアプレイスの背中に乗せて貰う時は結界に守られてるから不思議に感じてなかったけど、いまは防護結界とか張ってないんだよな?」

「うん」

「俺も張ってない」

「それでも風に当たらないのはなーんでだ?」

「おお、なんでだ?...考えるからちょっと待て」

「はーい」


ポリノー村は例外として、アプレイスに出会うまで空を飛んだ経験は無かったけれど、空とは言わず馬に乗って地上を走る時でも、速度を上げれば顔に当たる風が強くなるのは当然だろう。

小舟で急流を下った時も似たようなもんだったな。

乗ってる物がなんであれ・・・馬と小舟とドラゴンを同列に考えるのもどうかという気はするけど・・・風を切って進むほど風圧が強くなるのは道理だからね。


ん?

風を切って進む?

じゃあ今は『風を切ってない』ってことになるのか?・・・


「あっ!」

「なーに?」

パルレアが少しニヤついた表情で俺の顔を見上げる。


「いま俺たちは風を防ぐような事を何もしてない訳だな?」

「そーだねー」

「って事はだ。俺たちは防護結界みたいな感じで風を『防いでる』んじゃ無くて、そもそも風が当たらないような進み方をしてる。つまり、風、いや周囲の空間そのものを切り裂いて進んでるんだな?」


「アッタリー!!!」

「おおっ!」


「やっぱりお兄ちゃんって凄ーい! 直感力ってゆーか洞察力ってゆーか、飛び抜けてるなーって思う!」

「よせやい、照れるぜ」

「ホントだよー?」

「おう、ありがとな!」


「いまアタシたちはねー、自分の前にある空間そのものを切り裂いて、その裂け目に吸い込まれるようにして進んでるの。空気ごと切り裂いてるから当然、顔に当たる風も来ないってワケー」


「なるほどなあ...そんな方法思いつかなかったよ」

「まーねー」

「でもこれって力の魔法じゃ...あっ! いや分かったぞ。力の魔法だけど使い方は足下の土台の逆だ。これは空間っていうか空気って言うか、それを自分の前から追いやってるんだ」

「それもアッタリー! 土台は魔力で自分を下から押し上げてるような感じだけど、コッチは逆に吸い込まれてるような感じ?」


「よし、やってる事が分かれば真似は出来るはずだ。いまから俺も『進む』練習をするぞ」


「おー!」


分かってみれば何のことは無い、単純・・・と言うには語弊があるけど、空間を切り裂く力の加減と向きを制御する事で、空中を自在に飛べることが分かった。


そうこうしているうちに、俺の『飛行練習』の時間は、いつの間にかアスワンの森の空をパルレアと二人で『空中散歩』するっていう時間に変わっていた。


なんて言うか言葉にすると気恥ずかしいけど、超楽しかった・・・


++++++++++


シンシアとパルレアが不可視魔法を改良している間に、俺も修練を重ねた甲斐あってなんとか自力だけでちゃんと飛べるようになってきた。


そして自分が飛べるようになって改めて、アプレイスの飛行技術が素晴らしいと言う事を再認識する。

飛行中の滑らかさもさることながら、まったく衝撃を感じさせずにフワリと着地するあたりの魔力コントロールも絶妙だ。


初めて一緒にアスワンの森に来た時のアプレイスは、『もし狙いを外してナニかぶっ潰しても怒らないでくれよ?』なんて言ってたけど、仮に真下にあるのが藁屋根の小屋でも、あるいは小鳥が止まっているような細い梢の枝でも、アプレイスは何食わぬ顔でそこに留まって見せた事だろう。

彼が自分の『重さ』をコントロールする技量はそれほどに凄い。


「ライノもほぼほぼ自由に飛べるようになってきたし、これなら崖から落ちても飛び降りても問題ないだろう」

「自由に飛べるってのは語弊があるけど、まあ高いところから落ちるってのは大丈夫かな?」

「謙遜するなって。そもそもドラゴンやピクシーのように固有の種族魔法を持ってる訳でも無いのに飛べるようになるってのが常識外れなんだぜ勇者? で、そろそろエルダンに向かうか?」


「そうだな。不可視魔法も良い感じに仕上がってきたみたいだし、これ以上は情報収集よりも自分の目で確認した方がいいだろうね」

「だな」

「じゃあ、全員で段取りを確認しよう」


部屋に籠もってメダルの改良に取り組んでいたシンシアとパルレアに声を掛けて、ダイニングルームに集まって貰う。

『全員』なんて言っても今回のエルダン侵入に関わるのはこの四人だけで、ノイルマント村の建設に忙しい他の面々に声を掛けるつもりは無いし、ジュリアス卿と姫様に関しては言わずもがなだ。


「丁度良かったです御兄様。私と御姉様で取り組んでいた不可視結界の改良におおよその目処が立ったので、次の行動を相談しようと思っていたところでした」

「お、そうだったのか、早いな!」

「毎度の事ながらシンシアちゃんったら凄いのよねー」

「だなあ。で、ピクシー属性を応用した不可視メダルが使えるようになったんなら、もういつでもエルダンに行けるって事か」


俺がそう言うと、シンシアはちょっとだけ躊躇してから口を開いた。


「そうなのですけど...もう一つ相談したいことを思いついて、さっきまで御姉様と一緒に考えていたんです」

「へえ、なんだい?」

「転移魔法のことです」

「うん? 魔石を使った転移で、また何か思いついたのか?」

「ええ、まあ」

「そのうちシンシアは、伯爵家の城ごと転移させる方法とか編み出しそうだよな!」


「いえ、それとはまったく方向性が違うのですけれど、出来たら便利だと思っていた事があるんです」


冗談めかした俺のセリフはシンシアの真面目さに粉砕されたけど、でもまあシンシアが真面目な声で言うからには重要な事なんだろうな。


「実は前から思っていたのですけど...この屋敷の地下の転移門を『基準点』に使う理由は、転移先の位置というか、転移門同士の位置関係を正確に決めるためなんですよね」

「そう言う話だったな。基準点はシンシアの方位魔法陣のお陰で、気にしなくなっちゃったけどさ」

「アレもすっごい発明よねー!」


「転移門を使うために重要なことは、その互いの『位置決め』と、門を開いて二つの地点を結びつけるために必要な『魔力』です。位置決めについては方位魔法陣を応用したことで、屋敷を経由しなくてもステップストーン方式が使えるようになりました」


「うんうん」


「魔力について御姉様や御兄様は言うまでもありませんが、最近の私でも近距離では自分の持つ魔力だけでも問題なく跳べます。遠距離では魔石メダルが必要ですけれど、近ければ埋め込み型の魔力蒸留装置の手を借りる必要もありません」


シンシアの言ってる事はこれまでの転移門の定義と改善のまとめのような感じで、どうも俺には話の着地点が分からない。

悲しいけど。


魔法技術の話になると自分とシンシアの頭脳の差をあからさまに感じてしまうのだけどね・・・

こればっかりは無い物ねだりをしても仕方ないのさ。

だって魔法の類いと違って、いまさら鍛えられるような気がカケラもしないぞ?


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