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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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古城の見取り図


「じゃあエルスカインの配下は除いて、いまエルダン城にいる正規兵ってのは最低限の人数なのかな?」


「いやライノ殿、その報告書に書いてある通り、エルダン城に常駐兵はいないという報告だ」

「は?」

「兵だけでは無く、日頃は古城全体が無人らしい」

「いやいや普通は近づけない極秘の場所ですよね? 全く警備してないってことは無いでしょう?」

「どうやらルースランド王家の所有物ではあるが軍の施設では無い、そういう扱いらしい」


別荘や離宮じゃ有るまいし、痩せても枯れても城砦だぞ?

そういう扱いってアリなのか?


「御兄様、むしろエルスカインは敵味方を問わず、人を誰も近づけたくないという可能性があるのでは?」


「シンシアの言うとおりであれば、警備しているのはルースランド国軍の兵では無く、エルスカインの手下達だと言う事であろうな。それが人か、魔獣か、魔道具かは別として」

「あー、そういう...」

「戦時ではありませんから、泥棒や物珍しさに惹かれて訪れた者を排除するくらいは結界でどうにでもなるでしょう。もしも戦力が必要なら魔獣を幾らでも出せるのですし、そもそもエルダンという土地は寂れた僻地です。用の無い者が通り過ぎたりする場所では無いかと」


「だからこそ、エルスカインが拠点に選んだって事か」

「そう思います」


シンシアの話によれば、エルダン自体の成立は現王家よりも古く、そもそもは僻地の山際に建てた城砦と、少し離れた麓にある小さな城下町をひっくるめた呼び名だったらしい。

現ルースランド王家がソブリンを王都と定めて、いまの居城を建設する前から存在している古い城砦だけど、東西大街道の沿線から外れてしまったことで防衛拠点としての存在意義は失われ、どこにでもある堡塁(ほうるい)のような扱いになったと。


城下町の方も、そもそも城があってこそ存在意義があった訳で、他に産業が無ければ、ただの『不便な場所』に過ぎなくなる。

周辺は山と荒れ地で農地開拓は行われておらず、いまでは街に住む人もいなくなっていると言う。


交通の要所でなくなれば、あっという間に寂れてしまうのは旧街道しかり、レンツの街しかりだけど、周囲に人目が無くて山と荒野に挟まれた場所なんて、シンシアの言うとおりエルスカインの居場所にピッタリじゃ無いかと思えてくるな・・・


++++++++++


早速ジュリアス卿に貰ったエルダンの城と周辺の見取り図をテーブルの上に広げてみんなで覗き込む。

なにか重要な情報でも読み取れないかと見取り図を睨んでいると、シンシアがある箇所を指差した。


山城(やまじろ)は平地に建てた城と違って堀や城壁で囲んでいない代わりに、天然の地形で侵入を阻むのが基本です。ここの場合は三方を崖に囲まれている台地で、城下町と行き来できるのは、この西側の道しかありませんね」


シンシアの言うとおり、半島のように突き出た崖の先端にある城砦だから、馬車が登ってこれる道は麓の街へ通じる側の一カ所しかない。


どんな大軍で城を囲んでいようと、この細く長い道を一気に攻め上ってくるのは難しい。

崖の高さがそれなりにあるらしいので、投石器や攻城兵器も使いにくい。

守りやすく攻めにくい城だ。

戦争するなら一番確実なのは兵糧攻めだろうな。

もちろん、相手が転移門を使えるエルスカインじゃあ、そんなことにはなんの意味も無いけどね。


「ですが、見取り図を見る限りでは、西の門はそれほど堅牢な守りになっていないように思えます。どうしてでしょう?」


シンシアの言う西の門というのは、城の間際にある城門の事だな。

むしろ、ここまで攻められていたら落城寸前って処だろうけど。


ジュリアス卿が、見取り図に描かれた西の門を指し示して説明してくれた。


「恐らくこの部分、城門の手前を掘り下げて落とし込みにしてあるだろうな。平地の城なら『堀』にして水を溜めてあるものだが、ここは深く掘り下げた穴にして大軍や馬が通れなくしてあるはずだ。味方が通る時だけ跳ね橋を降ろせば良い」


「崖が、王宮の周囲の川や堀のようなものですね」

「左様だ。なんであれ大軍が一気に通れない仕組みであれば、防衛戦には有効だからな」

「加えて麓から城砦までは一本道のようであるし逃げ場は無い。道の両側は石の壁になっていて、登り上がってくる敵に対して矢を浴びせられるようになってるのであろうと思う」

「なるほど、この道自体が城壁の上にある歩廊のような役割だと?」

「うむ」」


ジュリアス卿の言うとおりだとすると、城壁が一方向だけに長く伸びてる感じだな。

もし見張りがいるなら、いや戦時ならいるだろうけど・・・ここを登っていこうとすれば、すぐに目に付くし迎え撃たれる。

で、左右に逃げ場は無いと。


「そうなると、素直に崖を登るって言うのが現実的な選択肢だろうなあ」


簡単に登れるような状況かどうかは、現地に行ってみないとなんとも言えないし、パルレアとシンシアの不可視結界改良が上手く行って姿を隠せたとしても、城砦への到達に時間の掛かる侵入経路だろう。


かと言って、不可視結界に頼って西門の歩廊を延々と登っていくなんてのは論外だしな。

エルスカインが『魔法で姿を隠している相手』に対してもそれなりの対策を講じてないって保証はないし、もしも怪しい動きを勘づかれたら手の内を晒す事になるからね。

仮に新しい不可視結界がエルスカインに対して有効だとするならば、できる限り、その力は隠蔽しておきたい。


平たく言えばエルダンの古城に侵入できたとして、侵入した事自体を気付かれたくないって話だ。

まあ典型的な、言うは易し行うは難しって奴だけど・・・


「そうですね。それにアプレイスさんの不可視結界が見破られる可能性があるとしたら、空から近づくのは危険ですし」


「ああ、グリフォンを操るようなエルスカインが、空からの侵入を警戒してない訳がないからね」

「ですが御兄様、崖を登ると言っても簡単な話ではないのでは? アプレイスさんと出会った山を登るようなワケには行かないですよね」

「もちろんだ」

「本当に手で崖をよじ登るんですか?」

「俺なら登れると思う。オリカルクムのナイフもあるから、あれで手足をかける場所を掘ったりも出来るだろう」


「アタシが崖の上までロープの端っこを持って飛んで上がるとかー?」


「ダメだな。ピクシーの飛行魔法じゃ垂直な壁に沿っては高く飛べないだろう。それに長いロープって半端じゃない重さだよ? かと言って、パルレアが純粋に精霊の魔力で空中に浮かぶのは避けたほうがいい。そっちはエルスカインに勘づかれる可能性が捨てきれない」

「そっかー...」

「万が一滑り落ちたら...」

「防護結界があるさ。それこそアプレイスと出会った山みたいな処の絶壁なら防護魔法にも頼り切れないけど、ここの崖はそんな常識外れな高さじゃ無いと思う。だって、普通に麓から馬車で行き来できる高低差だからね」


「分かりました。ただそうなると...」

「うん?」

「私は城の中まで連れて行って貰えませんか?」


さすがにジュリアス卿もビクッとした表情を見せた。

そこまで父親を心配させちゃダメだよシンシア。

外国の城で敵地のど真ん中だぞ?

何かあっても絶対にジュリアス卿の名前やシンシアの本名は出せないし、むしろシンシアがその場にいる事がエルスカインにバレたら、全力で襲われかねないだろう。


そもそも、シンシアをおんぶして崖を登るってのは無茶すぎるしな。


「今回の侵入は俺とパルレアだな。パルレアなら崖を登っている間は革袋の中に入っていられるけど、シンシアはそうも行かないからね。ルースランドとの国境近くまではアプレイスに運んで貰うつもりだけど、シンシアとアプレイスはそこで待機していて欲しい」


「俺も国境で待機か?」


「あのドラゴンの檻にちゃんと対抗できる手段が分かるまでは、アプレイスは出来るだけ矢面に立たないほうがいいよ。前回の件であの檻が吹っ飛んだのかどうか、檻があれ一つしか無いのか、他に複数あるのかも分からないんだしね。だから今回はアプレイスとシンシアが一緒にいる方がいい」


「まあ、それはそうなんだけどなあ...」


「それよりも問題は城内に入ってからだ。見つからずに地下に降りられるかどうかは出たとこ勝負になるからね」


「やはり地下が目標ですね?」


「ああ、エルスカインがエンジュの森で何をしようとしていたかは分からないけど、ウォームを操って穴を掘らせていただろ。エルダンの城だって、たぶんウォームなんかに土木工事をさせて地下を広げたんじゃないかって気がする」


「私もそう思います!」


エルスカインが高い城の塔や大きなお屋敷に居を構えてるってのは、どうもイメージにそぐわない。

以前にパルミュナとも『あれだけの数の魔獣をどこに隠しているのか?』って会話をしたけれど、そういう必要性も含めて常日頃から地下に潜んでいるのが妥当だと思えるんだよな・・・


言っちゃあ悪いけど想像できるエルスカインの『人物像』的にもね。


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