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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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ジュリアス卿の来訪


俺がパルレアの提案に戸惑っているとシンシアが言葉を挟んだ。


「私も、その方法ならチャンスがありそうな気がします。ただ...アスワン様にお手伝いをお願いできるのでしょうか?」


おう、シンシアも同じ事を考えていたか・・・


「あー、そこはどうなんだパルレア?」


「本当ならアタシが精霊界に戻っても良いんだけど、革袋経由で戻るのはチョット大変だしねー。アスワンをたたき起こした方が早いと思うの」

「酷いな。寝てるのを叩き起こすのかよ」

そう言えば回復のために休んでるっぽいことを言ってたな。


「寝てるとは限らないけどねー。でももしアスワンが力を溜める為に籠もってるとしたら悪いかなーって思って、これまでアタシからアスワンに働きかけるのは遠慮してたのよねー」


「そうだったのか!」


おお、ついにパルレアの口から『遠慮』という単語が自主的に出てきた!

お兄ちゃん嬉しいぞ!


とは言え・・・

それが最善策だというパルレアの主張も分かるとは言え、アスワンを叩き起こすというのはどうも気が向かない。

なんと言うか、仮に勇者って存在がポルミサリアに住む者たちを守りたいという大精霊の意志の『代理人』だとするならば、その代理人がちょっと困難な状況だからと言って、自分から『雇い主』に助けを求めるのは違うんじゃないかっていう思いがある。

もちろん、そんな建前を言ってる場合じゃないと言うことも重々承知した上で、それでもなお気が進まないのだ。


なぜかって言うと、いまはアスワンに出来るだけ力を温存しておいて欲しいという気がするんだよね。

直感的に。

なにしろ相手はパルミュナやドラゴンを吸い込むほどの罠を扱える連中なのだから・・・


俺がずっと悩んだ顔をしていることに気が付いたのか、シンシアが代案を出してきた。


「御兄様、御姉様、仮にアスワン様が力を貸して下さるとしても、この一回だけ乗りきれば良いという訳には行かないと思うんです。エルダンには何か秘密があるかも知れませんし、何も見つけられないかも知れません。たまたま時期が重なっただけで、古城の崩落と牧場の罠の破壊に関係がないという可能性だって残っているんですし」


「まあ、それはそうだ。それを確かめること自体が目的だからね」


「それに、エルスカインの使っていた転移門の基準点がラファレリアを指していたと言うこともあります。あれこそ罠か囮かも知れませんけど、いつかは確かめなければならないでしょう」

「それもあるな。エルダンで何も見つけられなかったら、アルファニア王国に乗り込んでみるっていう事も必要かも知れない」


「ええ。場合によっては更にルースランドの王宮や他の古都...メルス王国のアンケーンや、シュバリスマークのサランディスを訪れる必要性が出てくるかも知れません。それらの全てで、アスワン様の手助けを期待するというのは現実的でしょうか?」


「そーねー。この方法だと単に『箱』を置くだけじゃなくって、アスワン自身が現世に出てきて色々やって貰う必要性があるから、短期間に何度もっていうのはキツいかも...」

「そもそも俺の魂を勇者として練り直した時点で、かなり消耗してるんだよなあアスワンは。なんか、あれから短い間に物凄く色々なことがあったから随分前のことのように思えるけど、実際はそんなに月日が経ってないんだよな...ちゃんと回復できるのは当分先の話だろう?」


「うん、あの時はお兄ちゃんの力が予想以上だったって言ってたしねー」


「そうそう。アスワン流の冗談も混じってたんだろうけど、終わった時に見た目が縮んでたもんな。あれビックリしたよ」

「それにまー、普通なら勇者を世に送り出してからこんなすぐにエルスカインみたいなシロモノにぶつかるってのはないでしょ。さすがのアスワンも想定外だったかなーって感じ?」


この屋敷を初めて訪ねた時にパルミュナが教えてくれたように、勇者の魂を練り直すためには膨大な力を消費するらしく、アスワン一人では、一つの時代に複数の勇者を存在させることは厳しい・・・

その上、シンシアにも精霊の力をなにがしか渡しているんだよな。

消耗しきっていて不思議じゃない。


「だったら、なおのことアスワンに頼らない方法を考えたい。そりゃあいつかは頼らざるを得ない時が来るかもだけど、いまじゃない気がするんだ」


「そっかー」


「では御兄様、次善の策と言うことになってしまいますが、御姉様の仰っていたピクシー族の不可視魔法を精霊魔法に移し替えて、それをいま防護メダルに組み込んである不可視結界と取り替えましょう」

「それで潜入にチャレンジか」

「はい」

「まあ、今のところはそれが最善策だよな」

「そう思います」

「じゃー、術式の組み替えは私がやるから、シンシアちゃんはそれをコンパクト化してメダルの防護結界と合成する方をお願いねー!」


「承知しました御姉様」


++++++++++


しばらくの間、シンシアが入手してきたルースランド全般とエルダン城の情報を教えて貰いつつ、どこからどうやって潜入するか、新型不可視結界のテストをどうやって行うかと四人で議論していると、不意にダイニングルームの扉がガチャリと開いて、ジュリアス卿が一人で入ってきた。


各自に転移メダルと高純度魔石を渡してあるメリットはこういうところだね。

いちいち手紙箱で連絡を取り合ってから迎えに行かなくて良いから、みんなの行動の自由度が計り知れないほど向上した。


まあジュリアス卿に関しては、どうもこの屋敷をいつぞや話した『茶の部屋』みたいな存在に捉えている様子が無きにしも非ずだけど・・・

もっとも俺たちの方から王宮の私室へ『遊びに行く』なんてことはしたくないから、これぐらいでちょうどいいとも言えるが。


「ライノ殿、突然お邪魔して申し訳ない」


「そんなことありませんよジュリアス卿、この屋敷は俺やパルレアがいない時でも、仲間内で自由に使って良いって言ったじゃありませんか。秘密の入り口がある別荘ってくらいに考えて貰ってちょうどいいんです」

「うむ、お心遣い痛み入る...」

「で、どうされました?」

「実はこれが届いたのでな。すぐに見て貰おうと持ってきたのだ」


そう言ってジュリアス卿が革紐で巻き止めてある、報告書とおぼしき書面を俺に差し出す。

元々はシャッセル兵団の斥候班との連絡で使っていたような魔道具の封蝋と帯紐で封印してあったのだろう。

蝋を剥がした跡がまだ残っていた。


「これは...」


報告書を開いた俺は目を瞠った。

内容はジュリアス卿の放っている公国軍の密偵からの報告だったが、エルダンの古城についての事細かな情報がびっしりと記載されている。

驚いたのは現地の地図と合わせて、簡略ながらも城内外の見取り図まで描かれていることだ。


「凄い、よくこんなモノが手に入りましたね!」

「うむ。クルト卿配下の治安部隊遊撃班の者たちが頑張ってくれた成果だ」


ええっ、治安部隊で外国での諜報活動までやるの?


いやまあ元々軍人なんだし、貴族相手の怪しい噂を探るのも諜報活動の一種と考えれば、その延長なのか・・・

ダンガ達と出会った時の遊撃班だって私服だったもんな。

あの時にケネスさんは『私服兵なのは領民たちに警戒されない為だ』なんて言ってたけど、その『領民たち』って言うのは自国民とは限らないんじゃ無いだろうかね?


「ただ、さすがに城内に侵入することは無理だったそうで、内部の見取り図はまあその...懐柔した現地人を介して入手したものだそうだ。ただ、そこにも書き添えてあるが『正しい情報だと確認できていない』ので留意して欲しいと」


懐柔って言うのは、つまり買収かな?


「それでも助かりますよ。それに懐柔できたってことはエルスカイン配下の者では無く、単に古城の警備か営繕かに雇われていた人でしょう。元々極秘の場所には近づけないはずだ」


「それはライノ殿の言うとおりであろうな。もともとエルダンの古城はルースランド王家の所有物と言えど、通称通り『古城』という扱いであって現役の城砦とは言い難い。仮にミルシュラントとの戦役が起きても今では役立つ場所では無く、とは言え朽ちるに任せるのも見栄が悪いので最低限の保守営繕をしていた...というところが表向きではないかと思う」


「でしたら御兄様、この見取り図がありきたりな砦の内情しか記してないのが逆に安心しますね。手の込んだ罠ってことではなさそうなので」


「なるほどな、そういう見方も出来るか...」


いつも深読みするシンシアらしいものの見方だな!


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