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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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エルスカインの影


なんにしても、このモリエール男爵領でエルスカインが領主を巻き込んだ大工事を企んでいるとするならば、目的というか工事内容はなんだろうか?


俺たちがルマント村に来てから計画していることなら、アプレイスを陥れるための罠だって考えるのが順当だけど、そうじゃなくて、その前から・・・

俺やアプレイスがここに来るなんてエルスカインが思ってもいなかった頃から、ここで地面をほじくり返す必要が何かあったとすれば、いったい何を?


ひょっとしたらレンツの周辺と同じで『魔力井戸』や『魔力水路』を整備するために地下を掘り返す必要があるのかも知れないし、なんであれ大結界の結節点に絡んで奔流を弄くるためとしか考えられないけど、問題はその中身だな。


「大結界の結節点を支える井戸の工事か...でもアスワンの図で見る限り南端の結節点はそれこそ大森林のど真ん中だぞ? ルマント村は結節点に近すぎて、レンツみたいな中間地点って訳でもないから、いったい何の工事なのか分からないよ」


「ココはレンツとは違うかー」


「なあライノ、結節点の予想位置ってポルセト側からも行けるのか? 俺が空を飛ぶとかじゃなくて、人が歩いてって意味だけど?」


「ポルセト側からだと山脈越えになるからアプレイスみたいに飛べないと、ちょっと厳しいだろうね。それにポルセトから行ったとしても特に近いとは思えない...むしろ距離は遠いと思う」

「そうか。だったら結節点に向かうには飛ぼうが歩こうがミルバルナ側からの方が順当なワケだな。ルマント村は人が住む集落としちゃあ、結節点に一番近い位置になるだろ?」

「ココって、ほぼ大結界の線上にあるもんねー」

「だけど、その割にこの辺りの魔力が乱れてないのは、まだ南端の結節点が本格的に動き出してないからだろうさ。なあライノ、それに関する工事ならあり得るんじゃないかな?」


「そりゃ有り得るけど...結局ルマント村って言うか、モリエール男爵領で何をする気なのかって話に戻るよな...」


「んん...待てよライノ。エンジュの森にやって来たウォームはレンツの近くから送り込まれてた可能性が高いよな?」

「ウォーム?」

「それかなーっ!」

「ひょっとすると、この辺りにウォームを送り込むための大穴でも掘るつもりかも知れんぞ!」


「え? ああそうか...転移門を開くためには、まず誰かが物理的にその場所に行かなきゃならん。それは精霊魔法だろうと、人族の橋を架ける転移魔法だろうと基本は同じハズだ」

「そーよねー!」

「だけど、そこに辿り着けさえすれば、そこまで空から行こうが地下を歩いて行こうが関係ない。アプレイスも見たように大森林の地表を歩くのは大変な話だけど、地下トンネルなら苦労はないからな」


普通なら、『歩いて行けばなんとかなる場所』まで、わざわざトンネルを掘るなんて考えられない。

だけど作業期間の長さを気にせず、すべてを使役している魔獣にやらせるとしたら、エルスカイン本人はのんびりトンネルの開通を待っていれば済む話だ。

一年や二年は誤差の範疇だろう。

そう考えると、エルスカインがここまで転移門でウォームを連れてきて、さらに大森林のど真ん中にある結節点までトンネルを掘らせるって言うのも有り得る話だよな?


「でも、あのトンネルって長くて暗くて嫌いー」

「お前は俺の肩に座ってただけだろうが?」

「そーだけどさー、なんか雰囲気が悪いのよねー」

「当たり前だパルレア。魔獣の掘ったトンネルが清々(すがすが)しくてたまるか!」


「なあライノ、実際に南部大森林の中には道なんて無いんだろう?」

「ないだろうな」

「あのねじくれた密林の中を徒歩で進んで行くくらいなら、ウォームに地下を掘らせた方が手っ取り早いってのは、俺も十分に有る話だと思うね」


「それに、なんだかエルスカインの拠点はほとんど地下にあるんじゃないかって気がしてきたよ。シンシアが吹っ飛ばしたエルダンの古城の件も『崩落事故』だって伝わってたそうだし、つまり地下室が吹き飛んで上の建物が落ち込んだとかって感じじゃないかな?」

「地下基地か...」

「あれほど大量の魔獣を育てていて目立たないなんて、人の住まない荒野か地面の下じゃないかなって思う」

「育ててるって言うより、なにかの魔法で眠らせて『保管』してるとか、そういうことかも知れないけどな」

「有りそうだな。エルスカインは魔獣を生き物扱いしてないって印象だ」

「それは『人』もだろ?」

「違いない」


「ねえお兄ちゃん、ぐーぜんかもしれないけど、仮にシンシアちゃんがアノ魔道具で焼き払ったのがルースランドの魔獣施設だったとしたらさー、ちょうど時期も合うよねー?」


「ん、なんの時期が合うんだ?」


「ルースランドの地下施設がアプレースを引っ張り込もうって企んでたよーな場所ならさー、他にグリフォンとか、ひょっとしてひょっとするとワイバーンとかもいたりして...で、それが全部まとめて吹き飛んでたりしてー?」


「ああ! で、エルスカインは『空から』行けなくなったから、慌てて地下通路を作ることにしたって話か?」

「まー単なる空想だけど。だったらオモシロイなーって」

「それでエルスカインが急にモリエール男爵に近づいたってのも可能性高いよなあ...」

「うん、ありそー」

「当然、次のワイバーンだのグリフォンだのドラゴンだのを手に入れる行動も取るだろうけど、押さえでトンネルを掘り始めておくって言うのもやりそうだ」


確かに有りそうな話だ。

エルスカインの『即断即決、躊躇しない』行動を何度も見せられてきている俺としては、例えウン十年がかりの計画でさえ、やるかやらないかの判断だけは数刻程度で下してしまうんじゃ無いかって気がする。


「そう言えば、前に男爵の屋敷から逃げ出してきてたアンスロープの若者が、『男爵が誰とも顔を合わさなくて良いように、魔道士と護衛騎士の一人だけ連れて別荘に引き籠もった』って言ってたんだよな...」

「そうだったのか?」

「あれ? ダンガとアプレイスには教えてなかったっけ?」

「聞いてないと思う」

「そっか、スマン。村境であの若者達と会った時は俺一人だったもんな。その時に『最近は男爵の姿を見てない』って言ってたんだよ」


「ソレもう確定だろライノ! で、その間にあのガキはホムンクルスにされてて、一ヶ月ぶりに屋敷に戻ってきたってワケだな?」

「たぶんね」

「なあ、ダンガは俺とライノがこの村に来る前にもあのガキと会ってるんだよな?」


「ああ。もっとも魔獣の件で陳情に行った時の相手は、今の少年男爵が跡を継ぐ前って言うか、息子に殺される前の『元男爵』ってことだけど。あの馬鹿息子も同席してて...その時にルマント村からの陳情団にレミンも入らせてたのが大失敗だったよ」


「それであのガキはレミンちゃんを見初めて、美女の多いルマント村に目を付けたって事か」

「そんなところだ」

「あのガキが爵位を継承したのはいつ頃か知ってるかダンガ?」


「俺たちが旅に出る前だから今年の初め頃だ」


となると、エルスカインによる籠絡と、男爵の親殺しによる爵位簒奪は関係ないのかも。

どのみち男爵の品格を言うのは今さらだけどね。


あの男爵を間近で見た感想としては、陳情の時にレミンちゃんを見初めてルマント村の少女達を我が物にしようと考えたことが、親殺しをしてまで爵位を継承しようとした切っ掛けだったとしても、なんの不思議もないとすら思える。


親がいたら、ルマント村の娘達を自分のモノに出来ないとか?

全然不思議じゃないと言うか、むしろ納得だぞ。


「じゃあレミンちゃんを渡せとか言い出したのもその頃か?」

「そうだな」

「親を殺して好き勝手出来るようになった途端にかよ...なんかもう魔獣よりも欲望のままに生きてるよな、あのガキ!」


アプレイスの感想が的を射てるね。


「いきなり使者を送り込んできて、レミンを屋敷に来させろって。その頃にはもう俺とアサムで村探しに行くことが決まってたから、オババ様がレミンも連れてすぐに行けって送り出してくれたんだ」

「そっか。そりゃオババ様のナイスな判断だ!」

「うん、ホントに感謝してるよ」

「で...話を戻すと、この会談要望は罠だってことでいいよなライノ?」


「ほぼ間違いなく罠だな」


今のところは証拠のない単なる想像だけど、モリエール男爵がエルスカインの配下に下って・・・本人は自分がエルスカインの『下僕』にされてるって事にはまるで気が付いていないだろうけど・・・ホムンクルス化されているという前提で考えると、『ルマント村に謝罪と和解』の対話をしたいと言って来た理由も良く分かる。


向こうは向こうで、こちらが宣誓魔法の効果で『モリエール男爵はルマント村に手を出せない』と信じ込んで油断することを期待してるのだ。

もちろん、手を出せばドラゴンの報復があると分かっているはずだけど、そこはエルスカインから言いくるめられている可能性が高いな。


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