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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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仮設住居と鋳造メダル


結局、バーダー騎士位が率いる輸送部隊の御者達は五台の荷馬車に分乗して来た道をそのまま戻っていった。

かなり窮屈そうに見えたけど、この先の街まで戻れば治安部隊の詰所から各種の手配や連絡が出来るから問題ないんだそうだ。

まあ食料も十分に渡したし、なによりここはミルシュラント国内だから帰路で困るようなことは起きないだろう。


「で、このままノイルマント村に運ぶのか?」

「そうだ。全部収納できると思うし、出来なきゃ転移門で何往復かするだけだからね。魔石はたっぷりあるから距離は問題ないよ」

「そこまでなると翼で飛ぶより便利だな。俺も転移魔法が使いたくなるぜ...」


アプレイスがワザと情け無さそうな声を上げて見せるけど、本心では仮に転移魔法を使えるようになったとしても、ドラゴンの誇りに掛けても絶対に自分の翼で飛ぶことを止めないだろうな。


アプレイスって言うのは、そういう奴だと思う。


「でも逆に言えば『精霊魔法頼り』なんだよ。俺もいつか勇者を辞めたら精霊魔法も使えなくなるだろうし、あのアスワンの屋敷も引き払うことになるってつもりでいるさ」

「えっ、そうなのか?!」

「そうだよ」

「勇者に『辞める』とか有るなんて思いもしなかったぜ?」

「そりゃあ人族なんだ。戦いで死ななくてもいつかは老いて、勇者なんて続けられなくなるに決まってる」


「まあ、そう言われてみればそうか...ライノやシンシア殿だって中身はハーフエルフなんだよな」

「中身って...なんだそりゃ」


そりゃ自分としても積極的に考えたいことじゃ無い。

だけど破邪としての修業をしている間にも老いて引退していった先達を何人か見ているし、鉄で出来ていそうな俺の師匠だって、やがては俺が面倒を見なきゃいけなくなるだろう。


破邪だろうが勇者だろうが時が経てば...いつかは自分がそうなる順番が回ってくるってだけの事だ。


「だからなアプレイス、俺にとっては一時的に借りてる力に過ぎない精霊魔法を使えて当たり前って気持ちになるのが『宝物への執着』なんだよ。借りたモノはいつか返さなきゃならんし、魔石だっていつかは使い切ってなくなる。その時になって慌てたくないからな」


「なるほどね。ライノらしいっちゃあライノらしい考えだよ」

「そうか?」

「なんにしても将来、精霊魔法が使えなくなった時はいつでも俺の翼で運んでやるから感謝してくれ」

「おう、頼んだ」


そんな益体もないことを話しながら、次々と馬車を革袋に収納していく。


もしも誰かが俺たちの様子を見ていたら、男が二人、隊列の脇を歩いて行くに連れて一台ずつ馬車が姿を消していく・・・そんな風に見えたことだろう。


二人で馬鹿話をしながら隊列の最後尾まで歩いて、気が付くと最後の一台を収納し終えていた。

俺の魔力量も、アスワンから革袋を受け取った時からすると桁外れに増えたな。


「結局、全部入っちまったな!」

「ああ、まだ革袋の限界を感じてないくらいだ」


振り返ると、なにも無い街道の遙か向こうに、俺たちが乗ってきた荷馬車がポツンと佇んでいる。

しまった! 先に、あれから収納しとけば良かったか。

わざわざ歩いて戻るのがチョットかったるいと感じる距離だ。


文句を言っても仕方が無いので、荷馬車までテクテクと戻ってそれも収納し、ようやくノイルマント村に跳ぶと、俺の予告を受けたウェインスさんやローザックさん達が待ち構えてくれていた。


アサムはリリアちゃんや騎士団の従者達と一緒に、少しずつ離れた場所に木の棒を打ち込んで、簡易住居にする幌馬車の設置場所をマーキングして回っている様子だ。


と言うことは、アサムが印を付けた場所に、どんどん馬車を出していけばいいのかな?

あまりにも沢山の馬車を収納したから、個々の馬車の見分けは付いてないんだけど構わないよね?


気が付くと、俺の姿を見つけたアサムがこちらに向かって凄い勢いで走って来ていた。

その少し後ろを、リリアちゃんも一生懸命について走ってきているのがとても可愛らしい。


「ライノさーん、もう受け取ったの!?」

「おおアサム。まとめて貰ってきたぞ!」


「嬉しいけど、こんなに早く来るなんて思ってなかったから、まだ置き場所の整地とか全然出来てないんだよ」

「それもそうだな。なんだったら今は出さずに、しばらく革袋に預かっといてもいいぞ?」

「うーん、でも、早めに準備を進めたいって言うのはあるからなあ...やっぱり、全部出しちゃって下さい!」

「分かった。まあ、どうしても動かすのが大変そうだったら俺を呼べよ」

「え、でもローザックさん達にも手伝って貰えるから...」


「そうじゃなくてだな...俺ならな?」

そう言ってみんなから少し離れ、さっきまで乗っていた自分の荷馬車と魔馬をそこに出してみせる。


「あ、ここに出すんじゃ無かったよ間違えた!って思ったら、また収納してチョット歩いて、そこで良い場所に出し直すだけだろ?」

喋りながら、その言葉通りに実際にやってみせると、アサムだけじゃ無くて騎士達も全員あんぐりと口を開けた。

俺の収納魔法を初めて見るリリアちゃんも、ちょっと固まっている。

事前に話には聞いていても、やっぱりみんな初めて見た時は似たような反応を示すもんだね!


「もうライノさんって何から何まで桁外れに凄いよね...知ってたけどさ」


「まかせろ。ところで、アサムとリリアちゃんが印を付けた辺りにどんどん置いていけばいいのか?」

「あ、うん! ザックリだけど配置を考えておいたんだ」

「よし。じゃあとにかく革袋から出して置いていくから、細かな修正や水平取りは後でゆっくりやってくれ。もし手に余るようなことがあれば、さっきも言ったように遠慮無く手紙箱で俺を呼べばいい」


「うん、ありがとう」


そうして街道で収納したばかりの馬車を次々と出して置いていったんだけど、一つ大事なことを忘れていてローザックさんと騎士団の人達をてんてこ舞いさせてしまった。

なにって・・・

幌馬車を全部、『馬ごと』収納してるってのを伝え忘れてたんだよ。

悪かったよ。


馬車を一つ出す度に、索具から馬を外して連れて行って一カ所にまとめてと、大騒ぎになってしまった・・・ごめんなさい!


++++++++++


ノイルマント村に『仮設住居』代わりの幌馬車群を設置して、いつ村人を移送しても問題ないとなったところで、長老達を集めてダンガが『転移門』の説明を行うことにした。


さすがにこればかりは、幾ら言葉で説明しても分かって貰えないだろうと、シンシアとパルレアが大急ぎで転移メダルの量産に手を付けたのだけど、ここでまたしてもシンシアが奇天烈というか奇跡的な方式を開発した。


それが転移メダルの『鋳造』だ。


もちろん魔銀に魔法陣を刻み込む作業は、ただの『模様』を刻印する作業じゃあ無いから、銀貨を作るみたいな方式で鋳造することは不可能だ。

術者が一つ一つに魔法を込めて作っていく必要がある。


ところがシンシアは、従来と全く異なる魔道具として、まず自分とパルレアの魔力を込めた『鋳型』を作り、それを高純度魔石で駆動して、流し込んだ魔銀に『魔力の籠もった魔法陣の複製を刻み込む』という、とんでもない製造方法を実現してしまった。

なのに、これで何度目かの常識外れの発明を成し遂げた本人は、『高純度魔石がなかったら不可能な方法でした!』と涼しい顔である。


もうなんて言うか、仮に俺がジュリアス卿の立場だったら、シンシアは大公家の筆頭魔道士どころか『主席魔導大臣』とかって役職を新たに作って叙任したいレベルだ。

おかげで転移メダルの量産は予想を超えて順調に進み、あっという間に長老達と各グループのリーダー全員をいっぺんに転移させられる数が揃った。


そして本日の長老達への説明へ・・・


「は?」

「転移?」

「転移とは?」

「すまんがダンガ、言っとる事の意味がよう分からんのじゃが...」


まあ予想通りの反応だよね。


ちなみに、ここ最近のオババ様は『信じられないこと』の連続にノックアウトされてしまった感じで、あらゆる決定をダンガに委ねてニコニコしている状態だ。

いまも他の長老達が複雑な表情を見せている中で一人悠然と構えているし、さっきまではレミンちゃん相手に『母親の心得』を蕩々と教えていた。


まるで、すぐにでもレミンちゃんが赤ん坊を産みそうなノリで話しているから、レミンちゃんもちょっと恥ずかしそうで顔が赤い。


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