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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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Part-3:旧街道の城跡へ 〜 印とペンダント


翌日、俺たちはフォーフェンの宿『銀の梟亭』を出て、東西の大街道を西に向かった。


しばらく西に進んで、途中に在るパストという小さな街で南に折れると、そこからが旧街道だ。

ウェインスさんの説明では歩いて一日かからない程度の距離感らしいから、乗合の街道馬車は使わず、いつも通りに歩くことにする。


 昨日の夕食の時に給仕の娘さんに聞くと、前日に頼めば弁当も仕込んで渡してくれるということだったので、俺とパルミュナの分を頼んで、今朝出発する前に受け取っておいた。

ただし、冷めると味の落ちる焼き魚や汁気の多い煮物なんかは弁当に出せないということで、中身はお任せだ。


東西の街道には途中のあちらこちらに、枝振りの立派な大きな木や、元がなんだったのかは分からないような崩れかけた石壁なんかがあって、歩きの旅人たちはみんな、そういう場所に身を寄せて休憩場所に使っているっぽい。


俺たちも適当なところで放置されている元納屋のような半分崩れ落ちた石壁の残骸を見つけて、その向こう側に座り込んで弁当を広げた。

街道からは直接見えない位置なので、居心地良く遅めの昼食を取る。


腰掛けるのにちょうどいい高さの石組みがあったので、二人で並んでその上に座り、弁当の包みを開ける。

出掛けに食堂で受け取っておいたのは、焼いた薄切り肉にマスタードを塗ってライ麦パンに挟んだものだ。

市場で見かけた、例の「根っこの太いフェンネル」を生で薄くスライスしたものも一緒に挟んであって、これがシャキシャキしていて実に美味しい。


食べ終わって一息ついたところで、昨夜は面倒臭くてというか・・・

宿の食堂で二人ともエールを三杯づつ飲んで、焼き魚と羊の煮込みとイチゴのタルトを食べてお腹いっぱいになり、部屋に戻ってすぐに寝たせいで・・・

あえて触れてなかった話題をパルミュナに問いただした。


「なあ、お前、昨日見せてた破邪の印はどうしたんだよ? アスワンにでも作ってもらったのか?」


「これねー」

と言ってパルミュナが胸元から印を引き出した。


「違うよー、ライノに渡そうと思ってずっと身に付けてたのー」

「はあ?」

「旅の途中でライノがアタシの魅力に負けて服を脱がそうとしたら、胸元からこれが出てきてびっくりー! みたいな狙いー?」


「ふざけんな!!!」


「そーゆードッキリ狙って待ってたんだけど、いくら待ってても全然ライノの方から迫ってくる感じにならなさそうだしー」

「なるわけあるかっ! 女性型で顕現してるとか関係ないわ!」

「えー、魅力ないって言いたいわけー?」

「お前、一応は大精霊だろ?」

「一応ってなにさー。ちゃんと大精霊だよー」

「なおさらだ! いくらそっちに飢えてても大精霊を押し倒すアホな男がどこの世界にいるかっ!」


「あ、飢えてるって自白したー!」


ホント、毎度イラッとくるんですけどね。

この大精霊様は!

と言うか、大精霊を押し倒せる奴っているのか?

無理だろう・・・常識的に考えて。


「お前と話してるとな、ときどき俺は頭痛と虚無感に襲われるんだよ。俺は本当に勇者なんだろうか? 大精霊のおもちゃになってるだけなんじゃないだろうかってな...」


「もー、そんなこと言わないでよー」


まあ、いつでもほっぺた膨らませポーズを忘れないところは、俺は評価するけどな?


「これは大切なものだから、マジでライノに渡したかったのー! ちょっと渡し方を面白くしたかっただけー!」

「なんでさ?」

「これ、ライノのお父さんが持ってた印だから」


一瞬、パルミュナの言ってる言葉の意味がわからなかった。


「はあぁっ! 何言ってるんだお前!」

「驚くよねー。拾ってきたのはアスワンだけどさー。ライノの魂の跡を辿って、居場所を探しているときに見つけたらしいよー」


「え、いやちょっと待て。待ってくれ。それどういうことなんだ?」


俺の父親・・・産みの方か育ての方か、どっちのことを言ってるのかわからんが、いや、どっちにしたって意味がわからんぞ・・・


「嘘じゃないよー。破邪だったライノの本当のお父さんがつけてた印なの。だから形見っていうのもほんとー」


「待て待て待て、俺の実の父親が破邪だったって言うのか? いや、嘘だって言いたいわけじゃないんだけど...待ってくれ、正直どういうことか見当もつかん」


俺がハーフエルフだと暴露というか、教えられたのが、ほんの数日前なんだ。

そのことさえ、まだ自分の中に根付いていないっていうのに、今度は実の父親が元破邪で、その印をアスワンが拾って持ってたっていうのは、一体全体どういうことなのか、まるで分からない。


俺、もう、どうすればいいんでしょうね?


「説明するー?」

「知ってるんなら説明してくれ...」

「意地悪で隠してたわけじゃないから、怒らないでねー」

「ああ、怒ったりしないよ。ただ本当の話が知りたい」


「えっとね、ライノのお父さんはエドヴァル王国生まれの遍歴破邪で、ずっとあちこちの国を回ってたの。それでー、ある時、アルファニア王国の森の中で襲われていた貴族の馬車を助けたのねー。その馬車に乗っていたエルフ貴族のお嬢さんが、ライノのお母さんなのー」


「えっと、ちょっと端折りすぎじゃないかな?」


「そのお姫様は、一族の権力争いっていうかー、跡目騒動っていうのー? 貴族の格を誰の子供が引き継ぐかーみたいな? そーゆー揉め事に巻き込まれてたのね。で、途中で襲ってきたのは対立してる家が放った刺客でしたっていうはなしー」


「うん、それで?」


「お父さんは、ホントーに偶然そこに通りかかったんだけど、さすがライノのお父さんでさー、なみいる相手をバッタバッタと成敗して、お姫様を助け出したらしいのねー。でも、お父さんが駆けつける前に護衛の人たちや、お付きの家臣たちはほとんど殺されちゃっててー、姫様以外に生き残っていたのは、姫様と一緒に馬車の中にいた侍女の子と、あと馬車の扉を守っていた若い護衛の騎士の二人だけだったってー...」


それは、悲惨な状況だったんだろうな。

ほとんど絶望的ってやつだ。


「そこでねー、生き残った姫様と侍女と騎士が相談して、もう国内に居ずに、このまま外国へ逃げた方がいいってことになって、お父さんに護衛を依頼したのねー」


うん? 

破邪は傭兵や用心棒としての活動はしないのが基本だけどなあ・・・


実際のところは厳密なルールがあるわけじゃないけど、破邪は自己防衛と盗賊なんかの討伐以外では対人戦闘は避けるという建前になってるから、『対魔物や対魔獣』以外の意味で、用心棒的な仕事を引き受けることはない。


逆にいうと、どこの勢力にとっても軍事力にはならない存在、という建前で往来の自由が保証されているわけだからな。

往来自由な破邪を軍事に関わらせていたりしたら、密偵疑惑で面倒臭いことにも成りかねないから、結局は誰の得にもならない。


ただまあ、目の前で襲われてた人がいて、すでに大勢殺されてたとするなら、そんな建前言ってる場合じゃないよな。

きっと俺だって、もしもその場にいたら姫様の護衛を引き受けただろう。


「でー、お父さんが破邪の力でみんなを守りながら、四人で一緒にアルファニアから逃げて、そのまま南部大森林の方にあるどっかの集落に匿ってもらってたんだってさー。でね、でね、そのエルフのお姫様は自分を助けて守ってくれたライノのお父さんにゾッコンに惚れ込んじゃってー、自分の夫になってくれってお願いして...それでライノが生まれたのー!」


『それで生まれた』とか、スカッと言われると微妙に落ち着かないな。

特に理由はないけど。


「ただー、姫様を狙ってた奴も諦めてなくって、逃亡中も居場所を探られて何度か襲われたらしーのね。もちろんお父さんが全部撃退したんだけど、このままじゃあどこにも安住できないし、匿ってくれる人にも迷惑をかけるし...ってなってー」


そこでパルミュナはいったん言葉をつぐんだ。

まあ、なんとなく悪い話に流れていきそうなことは分かってる。


「姫様は、自分が一緒にいる限りこの子を平和に育てていくことはできないだろーって、そう考えて、まだ小さな子供だったライノを侍女と騎士に預けたの。本当は、お父さんにもライノと一緒に行って欲しかったんだけど、お父さんは、もし自分がそばを離れたら、姫様は数十日と生き延びられないだろうって、そう言って一緒にいることを選んだの」


そうだったのか・・・


俺が、あの二人に預けられた理由と、あの二人が実の親のことを知らないと俺に言っていた理由は、母親だけでなく、俺自身も敵に見つかると危険だってことだったんだろうな。


まあ、跡目争いなら直接の血縁者の存在は将来的なリスクだ。

血も涙もない相手なら、赤ん坊だろうがなんだろうが、芽のうちに潰しておこうとするだろう。


「でねー、もしも困ったことが起きたら、自分の代わりに頼りになる奴らがいるから、そこに助けを求めろって言って、お父さんが自分が下げてた破邪の印を騎士に渡したの」


つまり、いまパルミュナの首に下がっている印は、元々は俺の実の父親が師匠から受けたもので、その後に育ての親だった「父さん」が隠し持ってたってことになる。

きっと父親の師匠筋への紹介状かなんかも一緒に預かってたんだろうな。


「なあパルミュナ、ちょっとその印を見せて貰えるか?」

「もちろん。これはライノのモノだよー?」


そう言ってパルミュナは首から印を外し、俺に渡して寄越した。

印には、それを受けた破邪の名前、つまり俺の『実の父親』の名前と、その師匠筋の名前が鋳込んであるはずだ。

そして、魔法で鋳込んだ魔銀の文字は後から改ざんできない・・・


意を決して、パルミュナから印を受け取った指を開き、手の上に乗っている魔銀のペンダントを覗き込んだ。


『ランス・ウィンガム』 そこには、そう刻んであった。


これが、俺の実の父親の名前か・・・

ランス、ライノ、似ている響きのようにも思う。

俺の名前は育ての親である父さんと母さんが付けてくれたのだと思っていたけど、名付けは実の両親だったんだろうな。


「騎士と侍女の二人は夫婦を装って、まだ小さな子供だったライノを自分たちの子供として連れて逃げたのねー。その時に、もしも将来、本当のことを伝えられる日が来たら、渡して欲しいって姫様が二人に預けたのが、その経緯を記した手紙と、姫様がずっと身に付けてた家紋入りのペンダントなのー」


「つまり、お前たちは印と一緒にその手紙を見つけて読んだってことか...その手紙は、いまもアスワンが持ってるのか?」


「読んでないし、手紙も家紋のペンダントも見つけてないってー」


「じゃあどうして知ってるんだよ?」


「アスワンは、大地の記憶を読み取れるのさー。大地だけじゃなくて色々なものからも。もちろん、その場所に行かなくっちゃダメだし、必ずしも読み取れるわけじゃ無いらしいけどねー」


「マジで?」


「まじー。で、ライノの魂が今世でどこの誰に顕現しているかを探しているうちに、ライノのお父さんとお母さんの痕跡に当たったんだってさー。手紙の話は、手紙そのものじゃなくって、手紙とペンダントが収められてたらしい箱に残っていた記憶だってー」


「すごいな大精霊」

「アタシも大精霊なんだけどー?」

「別にアスワンだけがすごいとは言ってないだろ」


「...そーね。まーとにかく、この話は手紙そのものじゃなくて、手紙を十年納めていた箱と、この印に残っていた、周囲の人々の記憶なのさー。ずっと長い間、その箱に収められていたせいで、手紙の記憶も焼き付いたんだろうってさー」


「そっか...そうだったのか...ところでさ、その箱と印はどこにあったんだ?」


「ライノが育った村の森のはじっこー」


「なにっ?!」


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