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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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フォブさんとリリアちゃん


端的に言ってフォブさんは騙されているとしか思えない。

その行商人仲間とやらが直接エルスカインの手の者では無く、フォブさんと同じように『おいしい話につられていた』だけだとしても結果は同じだろう。


「うーん、正直言って俺には、なんだかミルシュラントの行商人を手駒にするための餌のように思えますよ?」


「ですな。それも有って、そんな怪しい話に首を突っ込むよりはこちらの村づくりを手伝ってくれとフォブ殿にお願いしたのです」

「そうだったんですね」

「思いますにヨーリントンの商会というのは、単にルースランド側の隠れ蓑でしょう。特権状を貰って荷物を受け取れば、後は言われる通りに荷を運ぶしか無いですからな。仮に禁制品が混じっていてもどうしようも無いと思います」


エルスカインが糸を引いてる可能性だけで無く、そこらへんのリスクも考えてウェインスさんはフォブさんを止めたんだな。

さすが破邪衆寄り合い所のまとめ役だったウェインスさんだけあって、親切かつ適切な判断だと思うよ。


「フォブさん、あなたにその話を回してくれた行商人の方は、実際にその特権状を持って商売してたんですか?」

「ええ、見せて貰いました。ええ金になると言ってましたわ」


「その方は今もルースランドとの交易を続けてるんですかね?」


「さあ、どうでっしゃろうなあ...とゆうのは、その特権状を融通してもろうた行商人の何人かは、あっと言うまに金を貯めて、どこぞの街で露天商に鞍替えしたっちゅう話でしたからな。アイツもここ何ヶ月か見掛けとりませんが、その口や無いかと思うとります」


これは、ほぼ確定な気がするな。

何気にウェインスさんの顔を見ると、彼も怪しさ全開の話だと考えてる事を目で語っていた。


具体的になにがどうとは言えないけど、間違いなくルースランド王家、そして後ろでエルスカインが糸を引いている気配だ。

『人の部下』の少ないエルスカインが、ミルシュラントの中を自由に動き回らせて使える手駒として、行商人は一つの解だろう。

少なくともルースランドの兵や国民を使うよりも、ミルシュラント内での情報収集や工作は格段にやりやすいはずだ。


となると、特権状を貰った行商人達が『行商から足を洗った』のは確かだろうな。


すでに行商ではない仕事で金を稼いでいる状態に変わっているのか、場合によっては、もう人として生きてないのかは別として・・・

そう考えると、このフォブさんに俺たちの秘密を教えて良いモノかどうかが悩ましい。


本当にウェインスさんとは偶然知り合っただけだと思うし、ウェインスさんも人物に対しての懸念や警戒感は欠片も抱いてない事が分かる。

もちろん俺も、怪しい人だとか悪意を隠している人だとは全く思わないけれど、少なくとも一度は『エルスカインに取り込まれ掛けた人』だってことは間違いないだろう。

そしてこの先も、件の行商人仲間のようなエルスカインの配下に騙されてしまう可能性は残っている。


宣誓魔法を受けて貰うのが確実なんだけど、リリアちゃんがいるからなあ。

明らかにアサムに懐いてるし、アサムも可愛がっている様子だ。


ホムンクルス化を防ぐために、エルスカインに狙われてる魂を守るってだけならいいけど、秘密保持や裏切り防止を図る宣誓魔法を掛けるって言うのは、仲間と言うよりも部下や配下として扱う事に繋がるからね。

俺とシンシアが、忠誠の宣誓魔法も受けると言い出したアプレイスの意見に抵抗を感じたのもそのためだし、逆に最初から給料を貰う手下として加わってくれたシャッセル兵団とスライの場合は抵抗感が無かった。


この場合の宣誓魔法というのは、そういうことだ。

俺はルマント村の人々に、配下としての宣誓魔法を受けてもらうつもりは一欠片も無い。

じゃあ、アサムが『自分が呼んだ村人第一号!』と言ってるリリアちゃんはどうなんだ?って話だよ。


エルセリア族でありながらも、ダンガ兄妹で末っ子だったアサムの妹だか、気の早い嫁さんだかなポジションに収まりつつあるリリアちゃんに、忠誠の宣誓魔法を受けてもらうというのは猛烈に気が進まない。

それこそ、その意味を自覚した上で自分から言い出したアプレイスの時よりも気が進まない。


アンスロープ族の村の住人になると言ってる、たった一人のエルセリアだけに宣誓魔法を掛けるのか? 

うーん、どうしたもんだか・・・


「フォブ殿、お伺いしても宜しいでしょうか?」


俺が逡巡している様子を見て取ったんだろう、それまで黙っていたシンシアが急にフォブさんに話しかけた。


「は、はあ。なんでございやしょうか?」

「フォブ殿は、最終的にこの村に住んで下さるおつもりですよね?」

「もちろんでござります」

「では、お願いがあるのですが?」

「はあ」

「村が安定して、ここでのフォブ殿の暮らしぶりがしっかり定まるまでの間、フォブ殿はリンスワルド伯爵家に雇用されているという前提で、騎士団の方々と同じ宣誓魔法を受けて頂けないでしょうか}


「宣誓魔法でっか?」


「ええ、伯爵家に雇用される方には皆、宣誓魔法を受けてもらっているのです。私たちには沢山の秘密があるもので」

「なるほど...」

「もちろん拒絶されても構いません。その場合はしばらくこの場所から離れていただき、ある程度ノイルマント村が軌道に乗った後に、純粋な村人として戻って来て頂くという事になります。もちろん、その間の暮らしはリンスワルド家で保証致しますし、なんでしたらフォーフェンにフォブ殿とリリア殿が暮らせる店舗を御用意致しましょう」


「なんと? ホンマですか?」

「はい。リンスワルド家の名誉に賭けてお誓い致します」


その手があったか!

簡単な話で、行商仲間の甘言や特権状の生み出す利益などに惑わされない暮らしを、こちらが用意してあげれば良いのだ。

俺はなんでも難しく考えすぎてしまうけど、こういう時のシンシアの判断には、さすが姫様の娘というかリンスワルド伯爵家の跡継ぎだって改めて認識させられるよね。


「そりゃあ願ってもない話ですけど...」


フォブさんは俯いて考え込んだ。

リリアちゃんは心配そうにフォブさんを見つめていて、スカートの下で尻尾がそわそわ動いているのが分かるほどだ。

尻尾が長いなあ。


「正直ゆうて儂ら行商人にとっちゃあ、フォーフェンに店を持つなんて夢のまた夢やで心を惹かれます。でもそれより...儂はウェインスさんとアサム君に恩返しをしたいと思うとりますんや。そやから、お二人の村づくりを手伝わせて貰いたいし、ここで皆さんと一緒に暮らして、そんで働いていけるなら、喜んで受けさせてもらいますわ」


「ご理解頂けて恐縮ですフォブ殿」


「とんでもありませんわ、何から何まで礼を言うのはこっちですから、なんとか役に立って、いつか恩をお返ししたいもんです」


そう言ってフォブさんはにこやかに笑い、リリアちゃんと一緒にシンシアの宣誓魔法を受けてくれた。

俺もシンシアも『リリアちゃんには必要無い』と言ったのだけど、逆にフォブさんから『二人の間で同じ話が出来ないのは辛いからリリアと一緒に受けたい』と言われてしまった。

リリアちゃんもその方がいいと言うので承諾。


確かに、家族の間で言えないこととか出てくると気持ち的に落ち着かないよな・・・


「それでフォブさん、さっそくですがさっきの特権状の話は罠だと思います」

「罠?」

「ええ、ルースランド王家が行商人の人達を隠れ蓑にした間諜や工作員をミルシュラントに送り込んでいる疑惑があるんです。特権状を受け取ってヨーリントンの商会のために働いている人達って言うのは、すでに、その手下にされている可能性が高いでしょうね」

「そやったら、稼いで行商から引退したっちゅうのは?」


「行商人から引退したのは事実かも知れませんが、穏便に引退して街商人の暮らしを謳歌してるのか、それとも『商売では無い』ことで働かされているかは分かりませんね」

「そんな...」

「つまり特権状は行商人を誘惑するネタですよ」

「やけど、間諜なんか引き受けてバレたら投獄されるんとちゃいますか?」

「もちろん」

「な! 危なかったあ...ウェインスさんが止めてくれんかったら、儂ら間違いなくヨーリントンに行っとりましたわ!」


「でしょうね。今回は、運が良かったと思って下さい」


「リリアのためになんとか安定した暮らしをと...いずれ行商から足を洗って落ち着いた暮らしが出来る、ええ話やと思うとったんですけどなあ」

「その暮らしは是非ノイルマント村で」

「そうですな。これからリリアのことも、あんじょうよろしくお願いします!」


本当に心優しい人だな。


「リリア、今年はお墓参りに行けんやろうけど、村が落ち着くまで辛抱な?」

「うん!」

「ご家族のお墓は遠いのですか?」

「儂の家族やのうてリリアの母親の墓なんですわ。リリアにはちょっと経緯がありましてのう...」


そう言ってフォブさんは自分とリリアの出会いについて語ってくれた。


冬の山道で行き倒れていた見ず知らずの母娘を助け、律儀に遺言を守って育ててきたのか・・・

リリアちゃんが艶々とした髪を持って血色良く育っていることだけでも、十分に大切にされてきたことが分かる。


フォブさんって、なかなかに尊敬できる人物だな。


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