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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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エルセリアの少女


急な展開に、ウェインスさんも眉を寄せて思案顔だ。


「まだ後一ヶ月やそこらは猶予があると思っていたので、仮住まいの小屋なども少しは用意出来るかと考えておりましたが...すぐに人数分を用意するのは厳しいでしょうな」


「まあ仮住まいの小屋なんかも、移転してきた村人自身に頑張って建てて貰うしか無いですよね」

「ですな。しかし労働力はともかく、それだけ大量の資材をどれだけ早く運び込めるか次第かと...」

「それでも移転は早いほうがいいと思うんですよ。資材の方はモノの確保さえ出来れば、後は俺とシンシアが収納魔法と転移門で頑張って運び込めば大丈夫です」


「分かりました。確かにルマント村の状況が状況ですからな...時間が経つほど魔獣が出てくる頻度は上がるでしょうし、秋になれば森の食べ物が変化する影響も出てくるかも知れません。どんな時でも快適さより安全を優先すべきでしょう」


さすが、破邪として長年にわたって魔獣と対峙してきたウェインスさんだ。

過去の経験で、現に魔獣に脅かされている村人でさえ、命よりも目の前の財産や楽さに気を取られて悪手を取ってしまう様を何度も見てきているんだろうな。


「とにかく、これでシンシア方式の転移門に問題ないと分かったから、すぐに姫様やジュリアス卿とも相談しようと思います」

「それがよろしいですな」

「御兄様、ここで私から手紙を書いて王宮に送りましょう」

「頼んだシンシア」


『御兄様』というシンシアの言葉を聞いて、ローザックさんが少し怪訝な表情をしている。

シンシアはそれに気が付いて、にこやかに言った。

「ローザック殿、それに騎士団の方々にも、これから私のことは『シンシア・クライス』だと思って頂ければ幸いです。私はライノ・クライスの妹になりましたから!」

「おお、左様でございますか!」

「ですので、今後は公務の時もシンシアと呼んでくださいね」

「かしこまりました。では今後はジットレイン様では無くシンシア様とお呼び致しましょう」


うん、意外と動じないねローザックさん。

『勇者』にとっては、なんでもアリだと思ってるっぽい。

王都と転移で行き来したり、中身が大精霊やドラゴンの身内とフォーフェンで買い物したりしてれば、伯爵家令嬢で領主の跡継ぎが妹になるぐらいは驚くほどの事では無いのかも?


「あれぇっ、ライノさんっ!? どうしたの?!」


ローザックさんやウインスさんと話し込んでいると、背後から素っ頓狂なアサムの声が聞こえた。

数人の騎士と一緒に丘を降りてくるところだけど、その横に白い粗末な服を着た小柄な少女がいる。

色白で髪の毛も服も白い。

まあ服が白いのはオシャレと言うよりも、染めてない白布を縫い合わせてワンピースに仕立てただけっていう感じで、飾りの一つも付いていない手作り感溢れるデザイン・・・と言うか、ぶっちゃけ質素な仕上がりだ。


そして白い頭頂部には、丸っこい獣の耳がちょんと突き出している。

ひょっとして・・・エルセリア族か!


誰だろう?

騎士団とは関係なさそうだから、ウェインスさんが仲間に引き入れた商人さんの関係者かな?


「おう、アサム。元気そうだな!」

「うん! ライノさんは、えっと...」

駆け寄って来たアサムに声を掛けると、アサムはちょっと口ごもった。

転移門のことを喋っていいかどうか迷っているんだろう。


「シンシアが転移門に関して凄い発明をしてな。それで、ルマント村からここまで跳んできたんだ」

「そうなのっ!」

「ああ。いまウェインスさん達に話してたところなんだけど、実は村人全員を転移門でココに連れてくる目処が立った」

「凄いっ!」

「だろ? シンシアに不可能の文字は無いんだよ」

「御兄様、恥ずかしいので止めて下さい」

「あーゴメン...」

「とにかく凄いね。じゃあ移転も早まりそうなの?」


「そうだ。こっちの準備が整わないことは分かってるけど、安全第一で出来るだけ早く移動した方がいいだろうと思ってな」

「うん、俺もその方がいいと思う。だよねウェインスさん?」

「ですな。安全は全てに優先します」

「じゃあ、それで!」

「ところでアサム、そちらのお嬢さんは?」


「あっ、ゴメン! 紹介するね。村の場所探しを一緒に手伝ってくれた行商人のフォブさんの...お孫さん的な? とにかく一緒にいるリリアちゃん!」


ウェインスさんが言ってた商人って言うのは行商人だったんだな。

この、とても可愛い真っ白なお嬢さんは、その人と一緒に行商に回ってる娘さんだと。


「こんにちはリリアちゃん。俺の名前はライノ・クライスだ。よろしくね」

「私は、その妹のシンシアと申します」


「リリアです。よろしくお願いします」

少女はそう言って、俺たちにペコリと頭を下げた。


リリアちゃんの髪の毛は真っ白。

それもパルレアみたいな『銀髪』じゃ無くて白亜のように純白なんだけど、絹のように滑らかで、艶々と輝いていて綺麗だ。

言い方は悪いけど、お年寄りの白髪(しらが)とはまったく印象が違う。

そして顔の系統としてはエルフっぽい美少女なんだけど、なんて言うか全体の雰囲気はレミンちゃんと似てる方向性で滅茶苦茶可愛い!


「きっと、リリアちゃんはエルセリアなんだよね?」

「そうなの」


明らかにシンシアより若い。

見た目の判断なら十歳とか十一歳とか、それくらいかな?

アサムの横にピッタリくっついてて仲良しそうだから、ホントにアンスロープ族とエルセリア族の確執なんてのが根も葉もない噂だったと分かるよね。

まさかリリアちゃんだけ特殊って事は無いだろうし。


「リリアちゃんもね、おじいちゃんのフォブさんと一緒にノイルマント村に住む事になったんだよ。俺が直接声を掛けた移住者第一号だよ!」

「なるほど、それは良かったな」

「フォブさんは行商人なんだけど、金物を扱ってて昔は鍛冶職人だったんだって。だから村づくりには色々と技能や知識を貸して貰えると思う。今はフォーフェンに資材調達に行って貰ってるから、戻って来たら紹介するよ!」


「そっか。よろしく頼む」


どうも『行商人』って単語に悪いイメージを連想してしまうのは、ホント良くないよな、俺・・・


「御兄様、新しい転移門は何処に開きましょうか?」

サクッと手紙を書いて姫様に送ったシンシアが辺りを見回しながら聞いてきた。


「そうだなあ。さっきこの荷馬車に転移した時は周囲の様子が見えないって事でちょっと躊躇したんだよね。家の中とかと違って帆布一枚隔てて誰がいるか分からないって言うのは、不安も感じるよな」


「わかります。私も御兄様に続いて跳んだから気にしませんでしたけど、もし一人だったら、誰かに見られたらどうしようって少し悩んだかも...」

「やっぱそうかー」

「それに、今後は村人や騎士団だけでは無く、将来的にも不特定多数の人が出入りする可能性もあると思います。やはり転移門の周囲は、きちんと囲っておいた方がいいかもしれませんね」


「じゃあ、あの小屋を使う?」

アサムがそう言って指差した先には小さな丸太小屋がポツンと建っていた。


背後は森だ。

転移門を知らない人は、そっちから人が歩いてきたら小屋の中にいたか、奥の森から出てきたとしか思えないだろうから位置的にも悪くない。


「いいんじゃないか? でもアレって何に使ってる小屋なんだ?」

「リリアちゃんの休憩と変身の場所だよ」


おおぅ、そりゃエルセリア族だもんな! 

この子の耳の雰囲気からすると、豹とかに変身出来そう。


「いや、だったら流用するのは悪いだろ?」


初めてアンスロープの変身を目の当たりにした時に、まったく気が利かずに凝視していてレミンちゃんに恥ずかしがられたことを思い出すよ。

いま同じことをやったらレビリスの回し蹴りが跳んでくるな!


「平気なの。変身は何処でも出来るけど人前だとフォブが怒るだけなの」


いや? いやいやいやいや。


態度や言葉遣いに幼い雰囲気があると言っても、絶対に二桁年齢だろう。

それにリリアちゃんの着ている服って、言っちゃあなんだけど粗末な服だ。

アサム達が着てるみたいな魔力で変形する素材じゃ無い、ごく普通の布で作ったワンピース。

いくら山奥とは言え、人の姿ですっぽんぽんになられたら周囲が困る。

騎士団の人達とか凄く困る。


「そういうワケにもなぁ...」


「クライス様、それでしたらもう一つ小屋を建てましょう。あの小屋も我々で建てたものですから、同じ程度の作りであれば問題ありません」


え?

騎士団員が建てた丸太小屋?

何それ・・・


「幸い、部下に丸太小屋作りの経験者がおりまして。皆で森の木を伐採して建てたのです」

「そりゃ凄い。さすがリンスワルド騎士団って感じですけど、いいんですかローザックさん?」


「もちろんでございます。シンシア様、二つ目を建てる場所はいまの小屋の近くでよろしいでしょうか?」


「そうですね...転移門は一度に大勢が使うものじゃないし、それほど大きくする必要はありません。今はとりあえず地面に魔法陣を埋め込んでおくので、後からその周囲に壁を建てて貰えれば大丈夫です」

「承知しました」

「私が出来るだけ平らな場所に転移門を張ります」

シンシアがそう言って丸太小屋の近くを少しうろついた後、場所を決めて転移門を張った。


よし。

これでもう、どこからでも安心して転移してこられるな。


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