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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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新しいルマント村の報せ


さて・・・


新しい村の場所が決定した報せを村民のみなさんに開示した結果、いまルマント村はお祭り騒ぎである。


しかも大公家・・・ミルバルナで言うなら王家だな・・・そこが自分たち専用の狩猟地にしていたほどの豊かな土地を譲って貰えると聞いて、信じられない思いのようだ。


そして、そんな幸運を村に引き寄せてきたのはつまりダンガ兄妹だと言うことで、ダンガとレミンちゃんはこれまでに輪を掛けてヒーロー&ヒロイン扱いである。

すでに、エマーニュさんを連れて移住の確約を貰ってきていたという段階で、長老達すらダンガの顔を立てる程になっていたけど、もはや誰(はばか)ることなく『村を救った英雄』って扱いになり、本人が照れちゃって外に出たがらない状況。


ダンガって、ホントに「真っ直ぐ」な男だよなあ・・・


なんだかんだ言っても新しい村に持って行けるモノに限界がある以上、どれを運んでどれを捨てるか、争いとは言わないまでも村人ごとの思いや主張があって難しいことも幾つか発生していたんだけど、今やあらゆる判断がダンガの一言で決まっている。

それに対してどっち側も『渋々従う』と言うのではなく、『ダンガが言うなら』と納得して解決出来ているのが凄い。


ダンガ兄妹といい、姫様たちといい、ウェインスさんといいレビリスといい、それどころかトレナちゃん達さえも・・・って言うか俺以外はみんな揃って、人望の厚い人物ばかりだってのが凄いよな!


別に拗ねてないけどな!


そして村の少女達は、あちらこちらで綺麗な花を摘んできては女性達の英雄(ヒロイン)レミンちゃんと、その夫であるレビリスに渡そうとしている。

もう、その姿がメッチャ可愛い!

きっとレミンちゃんも幼い頃はこんな雰囲気だったんだろうなーっていう可愛い少女や幼女が耳をピコピコ、尻尾をサワサワさせながら、手にした野の花の束を贈りに来るのだ。


これを心和む光景と言わずしてなんと言おう。


「みんなカワイーよねー!」

「なんて言うかこう、ちびっ子精霊たちにつながる可愛さがあるよな?」

「わかるーっ!」


恐らく俺とパルレアが感じているそれは、ただ小さくてぽよぽよフワフワしてるとかじゃなくて、汚れを知らない清廉さを体現している様子なのだ。

人を疑ったり嘘をついたりすることが苦手なアンスロープ族の裏表の無さに、さらに幼いゆえの純真さが加わって、精霊よりも精霊っぽい。

少なくともパルレアの方がよっぽど日常的にはっちゃけてるよ・・・


そんなことをふんわりと思い浮かべていると、シンシアが新しい手紙を持ってやってきた。


「御兄様、新しいルマント村の名前も決まったそうです!」

「へえ、どうなったの?」

「ノイルマント村、だそうです。ミルシュラントの北部地方の言い方で、『新しいもの』という意味ですね。そのまま新しいルマント村と言う意味で通じますから、分かりやすくて良いのでは無いかと思います」


「ふーん、ストレートでアサムらしいな」


「いえ、名前の案を出したのはアサム殿ではなくて、リンスワルド騎士団のローザック殿だそうですよ」

「フォーフェン分隊長の?」

「そうです」

「さっそく姫様に手伝いに行かされてる騎士達ってローザックさんだったのか。まあフォーフェンから行かせるのが順当っちゃあ順当か...でも考えてみると、キャプラ公領地というか、エイテュール家の騎士団っていないの?」


「おりますけれど、リストレスの官邸やエイテュール家直轄の警護などに携わっている方々だけですので人数は多くありませんね。公領地の保安維持は公国軍治安部隊の衛士隊で賄い、必要な時はノルテモリア家の騎士団が加勢する、という体制ですから」

「まあそれで十分か」

「はい。そもそも公領地の管理義務は大公家にありますし、エマ、ん、フローラシア長官は法務と経済の計画と執行を受け持っているに過ぎませんから」


シンシアの中で、エマーニュさんの呼称に対して若干の混乱が見られるけど、これは指摘しないのが花だろう。

いつぞや、屋敷の地下室で聞いちゃいけない会話をしてたもんな・・・


++++++++++


ところでシンシアは、高原の罠から転写してきたエルスカインの転移門がルースランドに繋がっていたと言うことが分かって、俄然精力的に解析に取り組み始めた。


これは彼女曰く、『鍵をどちらに回すかが分かった』というレベルのブレークスルーだったようだ。

「おまけにですね!...」

熱っぽい調子でシンシアが弁を振るう。


「転移門を開くために、術者の魔力ではなく高純度な魔石を使っていたらしいと言うことが分かったので、その点でも大きな発見です。これまでは『魔石なんかで転移門を開く魔力が購えるはずがない』というのが大前提でした。ところが、それが可能だと分かりました!」


「シンシアちゃんそれってさー、エルスカインの転移魔法がまるっきり古代の術式そのまんま!って事よねー?」


「そうなります御姉様。まさかそんな事は想定していなかったので、どういう風に駆動されているのかが、ずっと謎だったんです」

「分かってみればシンプルってことか」

「古代の術式ねぇ...」

「橋を架ける方式ですから、転移門で一度に大量の人や物を動かすことも可能です。その代わり、以前に御姉様が言っていた通り魔力は凄く消費しますし、転移門自体の消耗も激しいですから、長く使い続けられるモノでもありませんけれど」


「でもシンシア殿、だったら古代の人は、どうやって使い続けてたんだい?」

アプレイスがもっともな疑問を口にする。


「転移門の両側に専属の魔法使いを置いて、定期的にメンテナンスさせていたんじゃないでしょうか?」

「豪勢だな!」

「それはまあ、あの魔石がふんだんに使えるっていう世界ですから...」

「贅沢だな...」

どうもアプレイスが言うと食べ物について言及している風に聞こえる。


「ですが、橋を架ける転移門だと言うことで、もう一つ大きな事が分かりました。それは基準点です」


「シンシアが『アスワン屋敷の代わりになるモノ』って言ってたやつだな?」


「はい。橋はあくまでも二つの場所の間を結ぶもので、精霊魔法の転移門のように、沢山の跳び先の中から、その都度行き先を選ぶ転移方式とは根本的な原理が違うんです」

「ねー。自由度をとるか物量をとるか? みたいな感じかなー?」


「パルレア、前にも聞いた気がするけど、それってなんだっけ?」


「つまりさー、精霊魔法の転移門は毎回の跳び先を自由に選べるけど、運べるモノは術者が一度に抱えられる量や大きさに限定されるの。転移門自体を大きくすればいいけど、それはそれで日頃は無駄な魔力を使うワケよねー」

「なるほど」

「橋の転移門なら、一度繋げば沢山の人でも物でも流し込むように送り込めるワケ。代わりに門の場所は固定だし、特に双方向の場合は使う魔力もぼーだい。そんな感じかなー?」


「物量特化か。まあでも魔力の心配がなくて、日常的に『道』として使うならその方がいいんだろうな」


「ですね。それで、あの転移門の設置場所、つまり高原の牧場の位置はハッキリと分かっていて、その跳び先もハッキリと分かりました。今度は、牧場から確定した跳び先までの位置決め方法を逆算すれば、基準点が分かるハズなんです!」

「ほう!」

「なあシンシア、それってひょっとしたら俺たちのアスワン屋敷と同じように、エルスカインにとっての『本拠地』だっていう可能性が高くないか?」


「そうなんです!」

「あれ? なんかそれって凄くねシンシア?!」


「絶対とは言えません。エルスカインは周到ですから、私たちと同じように解読された時の目眩ましを仕込んでいるかもしれませんし、それがあるかどうか、そして見破れるかどうかはやってみないと...」

「でも凄いよ!」

「それにエルスカインが過去の遺産を利用して活動しているのだとすれば、今いる場所とは関係なく、その資産とか設備のある場所を基準点にしている可能性も高いですから」


「それでも、エルスカインがそこにいるかどうかに関わらず、重要拠点だってことには違いないよな?」

「ですね!」

「どうでもいい場所を基準点にしたりしない、いや、出来ないだろう。そこを基準点にするにはそれなりの経緯があるはずだ」


「私もそう思うんです。橋を架ける転移門の魔法陣は、すぐに消耗して消滅してしまいます。でも、今度また写し絵を撮ることが出来たら、同じように基準点を確認できます。それが同じ場所を示していたら、本拠地、もしくは重要拠点だという可能性は高いですね」


コレは凄い。

シンシアが全開のニコニコ顔だよ。


「よし、シンシアはまず、それの解析に全力投入してくれ。俺とアプレイスの次の動きも、その経過を睨みつつ決めよう」


「分かりました御兄様!」


高原の牧場で罠の転移門を転写した時点では、せいぜい転移の目的地・・・今回は別口からの情報でルースランドのエルダンだと分かったけれど・・・それが分かればいいと思ってた。


ところがシンシアは更に情報を重ね合わせて、その先にあるモノまで暴き出そうとしている。

本当に凄い魔道士だよシンシアは。


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