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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第一部:辺境伯の地
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旧街道にはなにかがある


これは結構、厄介な話だ。


正直、思っていたよりも面倒な話に思えてきたというか、むしろ軽く見ていた自分が間抜けに思える。


『悪意を持った魔獣の使い手が、魔力の乱れに乗じて何か良からぬことを企んでいるんじゃないか?』・・・簡単に言ってしまえば、自分の中に漠然とあったのは、そういうストーリーだった。


なのに、ここの破邪衆は現地調査の成果がゼロだと言う。

本当に魔獣が出たという証拠は現場に何も残ってないし、幻覚を見たとしても麦角が原因のはずはない。


残る可能性は幻惑魔法で旧街道沿いの住人たちが弄ばれてる、という感じなんだけど、目撃事件の頻度や期間からしても意味がないように思えるんだよな。

狂った魔法使いが遊んでいるとしても、そいつはどこからきて、どこに滞在している?

寂れかけた旧街道沿いで、余所者が長い期間ウロウロしていたりしたら、すぐに目に付くだろう。


現場の証拠、目撃頻度、騒ぎになってからの期間、見た内容の違い、何もかもが矛盾しあって、一つの答えに辿り着くのを妨害しているかのようだ。


これって結局、原因不明なのは相変わらずで、最初にワンラ村の村長さんの家でパルミュナに荒唐無稽な思いつきを語った時から、まるで変わってないとも言えるな・・・


うーん、だからと言って旧街道に行ってみようという気持ちを失うほど、事態が無害だとも思えないのが微妙。

何より、俺たちは実際に魔物に取り憑かれた破邪のおっさんたちと出会っているし、ワンラ村のアルフライドさんも嘘はついていなかった。


まあアルフライドさんは魔獣を見た本人ではないけれど、その村人が生まれてこの方見たこともないはずの、ブラディウルフらしき魔獣を見たと嘘の証言をするのもおかしな話だろう。

もしも知ってて嘘をつくなら、『返り血を浴びたデカいオオカミ』なんて形容しない気がするし。


とりあえず、俺は自分達の出会ったことについて話すことにした。


「実はですね...」


あのおっさんたちも、ここに来ているどこかの師匠筋から印を貰っているはずだし、コリンの街でちゃんと報告しているならば、そろそろここにも伝わっていておかしくないはずだ。


「ここに来て、噂の真偽を確かめようと思ったのは、俺たちも魔物や魔獣に出逢ってるからなんですよ」


俺がそう言った瞬間、室内にいた人たちの纏う空気が変わった。


それまでは、ちょうどいい暇潰しが来たぞっていうような雰囲気で、俺が一割でパルミュナに九割という感じだった周囲の視線が、一斉に俺の方に向けられる。


「コリンの街からここに向かうときにですね、妹と話して、しばらく山道を歩いてみようってことになったんです。山の中なら野宿も自由だし、食料も手に入るかもしれないしでね。山あいの雰囲気もそんなに悪くなかったんで、ここなら出ても弱い魔獣だろうから、むしろ小遣い稼ぎになるかもってぐらいの考えですよ」


出来るだけ、それが気軽な思いつきだったように話す。


「ところがですね、旧街道からワンラ村に向かう山道に入って半日ほどの場所ですかね。あそこで山賊に襲われたんです」


そこで周りの人たちは、もはや視線を隠すこともなくこちらに体ごと向き直った。


「なんだって!」

「それで、大丈夫だったのか?」


「まあ問題なく。ただ不可解だったのは、その山賊だった五人の男が、ここで印をもらった破邪だったってことです」


「馬鹿なっ!」


全員が息を呑んだ。

この反応からすると、まだ話は伝わってないな。

あれから・・・十日ほどか。

コリンの街の衛士隊か騎士団では、今のところ事実関係の確認みたいなことをしてる最中なんだろう。


「本当ですよ。後で調べてもらえれば分かることですから、こんなことで嘘をついても仕方ありません。コリンの街に誰かを行かせるか...ひょっとしたら、ここの騎士団か衛士隊の方には、もう話が伝わっている可能性もありますが」


ウェインスさんは絶句して固まっている。

世話役的には、そういう反応になるだろうなあ・・・


「一体、どういうことなんだ...」

誰かが絞り出すようにそう言った。


「彼らは思念の魔物に取り憑かれていたんです。魔法で浄化できたから殺す必要はありませんでした」

「そうか...」

「本人たちが言うには、ワンラ村で大きな魔獣を見たという人が出て、討伐依頼を村から受けたんだそうです。ですが、目撃場所の山に入ってみたら、魔獣じゃなくて、黒いモヤのような魔物がいたと。それと戦っているうちに正気を失い、俺たちに魔物を浄化されるまで半月も山で暮らしていたそうです」


「なんだそりゃ?...」

「そうなのか...魔物に取り憑かれて...」

「あり得るのかよ?」


声に不信感があるのは無理もない。

まあ、討伐する側が討伐対象になってたってことだからな。

それが自分たちの縁者だとすれば信じたくもないだろうし、俺だって、自分が直面していなかったら眉唾だと思う。


まあ、だからここに来て説明する羽目になるのを面倒だなーって思ってたんだけどさ。


「まあ、俺が法螺吹きかどうかは別にいいですよ」

「いや、嘘だと言ってるわけじゃあないんだよ...ただ、あまりにも突飛な話なんでな...」

「それはわかってますよ」


「それこそ麦角のせいじゃないのか?」

一人の男がそう口にすると、他の人たちが一斉にジロリと睨んだ。

そりゃあ破邪の不始末を麦角のせいにしたら、地域のダメージが大きすぎるよね。


「彼らにはコリンの街に戻ったら衛士隊か騎士団に事情をちゃんと報告するようにと言っておきました。魔物に取り憑かれてからは俺たちを襲おうとするまで誰にも出会わなかったので、結果として、人は誰も傷つけてなかったそうです」


周囲の中から一人がスッと部屋を出ていった。

おそらく、騎士団か衛士隊に話を聞きに行くのだろう。

もうこっちにも伝わっていればいいんだが。


「話を続けると、フォーフェンで印をもらったという五人の破邪たちは、無事に魔物を浄化できて正気を取り戻したので街へと送り返し、俺たちは、そのままワンラ村へ向かいました」


「魔獣の話の出所だな?」


「ええ。ワンラ村では村長さんの家に泊めてもらって、その時に、魔獣を見た村人から伝え聞いたことを教えてもらったんですが、話を聞く限り、その村人が山中で大きな魔獣の姿を見たと言うのは、本当だったように感じましたね」


「じゃあ、五人に取り憑いてた思念の魔物とは別に、デカい魔獣もいたってことか?...」


魔獣がブラディウルフっぽかったっていう話は、ややこしくなりそうだし、特に言わなくていいだろう。


「だと思います...さらに、です。俺と妹がそのまま山道を進んで三日め、ラスティユの村というエルフ族の里の手前まで来たところで、里の狩人の二人がウォーベアに追いかけられているところに出くわしました」


「ウォーベアだと!」

「いや、あんなところに?」

「これまで人里近くで出たことなんかなかっただろう?」


「間違いなくウォーベアですよ。討伐してラスティユの村に運び、村のみんなと食べましたから見間違いとかはないです。これも、誰かラスティユの村に行って、村長さんにでも聞いてもらえれば、本当のことだと分かります」


まあ、これまでフォーフェン近郊や新旧街道の近くでは、あまり強烈な魔獣が出没していなかったんだろうなってことは感じる。

あの五人のおっさんたちも、ここの基準で考えればそれほど低いレベルじゃなかったのかもしれない。

引退勧告は、ちょっと悪いことしたかな?


いやいや、魔物もブラディウルフもウォーベアもリアルな存在だ。

彼らが今度そいつらに出逢ったら、多分死ぬんじゃないかと思うもの。


「で、本街道へ降りてからここまで来る途中のマスコール村やあちこちで、改めて旧街道の化物騒ぎの噂話を聞いて、自分達が出逢ったことと関係があるのか確かめようと、ここへ聞きに来たって訳です」


「うーん...」


さっきからウェインスさんは黙り込んだままだ。

まあ、立場的に迂闊なことは言いにくいだろうな。

沈黙が場を包んだ。


「いま、一人が騎士団に話を聞きに行ってる。まだこっちに伝わってない可能性もあるけど、何かわかるかもしれない。それまで、ちょっと待っててもらっていいかい?」


一人の男がそういうと、それを受けてウェインスさんが気を取り戻したように立ち上がった。

「まあまあ、せめて茶でもお出ししましょう。気が回らなくて申し訳ないですな」


ウェインスさんが、努めて明るい声を出そうとしているのがわかるな。

「ありがとうございます。まあ、お気遣いなく」

「ここも最近は、南の方からいい茶葉が入ってくるようになりましてね。いまフォーフェンではお茶がブームなんですよ」


俺とパルミュナとしては、いまエールが大ブームなんだが、ここでそれを口にするのは野暮というものだろう。


「そうですか。じゃあ是非いただきます」


「それにしてもさ、山賊に襲われたっていうのに、よくその後も平気で山道を歩いたね?」

「挙句に、ウォーベアなんだろ? 彼女を守りながら一人で戦うなんて、ちょっと危険すぎたんじゃないか?」

「なあ、おまえラスティユの方でウォーベアを見た話とか聞いたことあるか?」

「あるわけ無いさ! そんなの」

「だよなあ...」

「腕に自信があるのは見てわかるけどさあ、そんな可愛い妹さん連れで、もしものことがあったら、いくら後悔してもしきれないよ?」


急にみんながパルミュナ中心の話題を振ってきた。

騎士団に確認に行った人が戻ってくるまでは暇だもんね。


「えー、平気よー」


それまで、例の無口な人見知りキャラのはずだったパルミュナが急に口を開いた。


「いやいや妹ちゃん、お兄さんがいくら強い破邪だとしてもさ。山奥には一人じゃ勝てない相手だって出るかもしれないんだよ?」


「その時はお兄ちゃんと一緒に戦うもん。だって、アタシだって破邪だものー」


おいパルミュナよ、今日もまた、お前は一体何を言ってるんだ?

俺が止める間も無く、パルミュナはそう言うや否や自分の胸元に手を入れ、鎖に下げた破邪の印を取り出した。


ええぇっ!

俺が驚いたよ。


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