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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第六部:いにしえの遺構
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Part-1:ウェインス氏とアサム君の村づくり 〜 村探しの二人旅へ


(このパートはウェインスさんの主観となっています)


クライスさんとダンガ殿達の一行が遙か遠いミルバルナのルマント村に向けて旅立って以来、残った私とアサム殿は、『新ルマント村』を開墾するための候補地探しを続ける日々です。


若かりし頃、夏でも涼しいシュバリスマークを後にしてひたすら南下していたときには、人跡未踏の地であると聞いていた南部大森林にも立ち寄ってみるつもりでいたのですが、ミルシュラントの王都で中々に快適な日々をだらだらと送った挙げ句、発展著しいフォーフェンに居着いてしまった事で、南部大森林のことなどすっかり忘却の彼方に押しやっていましたな。


それが偶然にも勇者であるクライスさんとの出会いと、それに連なる一連の出来事から、件の南部大森林地域に住むアンスロープ族の方々のために新しい村の場所探しをすることになったのですから、本当に人生とは先が読めないというか、面白いものです。


アサム殿の話によると、ルマント村の住人は全ての集落を合わせても五百人には満たない、自分が知っている範囲では三百人前後ではないか? との事。


三百人前後と五百人未満では時として二倍近い差があるように思いますが、よくよく聞いてみると、アサム殿の実感として面識がある・見覚えがある・匂いで分かる、という村人を合わせると『たぶん三百人くらい?』という解釈。

ですが、長老からは『村民全部で五百人程度』と教えられているという話でした。


まあ広いエリアに跨がって複数の集落が点在しているような村の場合、村長や世話役の様な立場の人間でもない限り、正確な人口など把握していないのが普通でしょう。

本当の僻地に行くと、村長クラスの方でさえ三桁以上の計算が怪しかったりもします。

もちろん掛け算、ましてや割り算は、はなから除外しての話です。


姫様・・・つまりはフォーフェンの御領主であるレティシア・ノルテモリア・リンスワルド伯爵様の事ですが・・・曰く、『仮に、いま五百人なら最低でも千人、出来れば二千人が自給できる大きさの村を想定すべきでしょう』との事で、これもやはり千人と二千人では二倍の差があるように思うのですが、『可能な限り多めに想定を』という意味と捉えることにしました。


従って村づくりの候補になる場所は、まだ大きな集落の無い場所であることが前提になります。


いきおい、そこがリンスワルド伯爵領であろうとキャプラ公領地であろうと、まだ開発の手が伸びていない僻地を歩いて回ると言うことになりますな。

そうなるとフォーフェンの街から日帰りで見て回ることなど到底不可能。

クライスさんから貸し出された馬車に二人の荷物を積み、まるで巡業か行商のようにあちこちを見て回ることになりました。


私とアサム殿では親子ほどにも年が離れていますが、そこは元破邪と現役狩人、どちらも野外生活には慣れているので特に気苦労はありません。

それにアサム殿は非常に勉強熱心というか、色々な知識を吸収したがる方ですので、こちらとしても話しやすいのが助かります。

破邪としての知識や経験のみならず、我流に過ぎない私の北方料理さえ一生懸命に覚えようとしてくれますから、どんな情報でも伝え甲斐があるというモノです。


私は結局、所帯を持つことが無いままこの歳になってしまいましたが、もしも結婚して息子がいたら、こんな風に親子で山を歩いたりもしたのだろうかと、ふと思ってみたり致します。

もしも、あのまま王都で、あの女性と一緒に暮らし続けていたらどうなったのだろうか? などと・・・


・・・いやいや、来なかった未来を考えるのは詮無いことですな。


++++++++++


さて、現時点の目的地はキャプラ公領地の端っこにある山あいの地域です。


キャプラ公領地はかつて、ガルシリス辺境伯と今はなきツベルナ王国の領土だったことは知られていますが、二百数十年前の叛乱事件を切っ掛けにガルシリス辺境伯家がお取り潰しとなり、公領地に組み込まれたのだそうです。

まあ、私は元が外国人ですから、そう言う話はフォーフェンに住まうようになって初めて知ったことですがね。


そのガルシリス辺境伯の城跡を中心に起きた一連の事件が、私がクライスさんと出会う切っ掛けになったのですから、本当に人生とは以下略。


ちなみに『実際はガルシリス城でなにがあったのか?』については、あのドラゴン探しのキャラバンに参加した時にクライスさんに教えて頂きました。

いや、それを聞いたときはあまりの驚きに開いた口が塞がりませんでしたね。


クライスさんとタウンドさん、それにエマーニュさん・・・つまりはキャプラ公領地長官である、フローラシア・エイテュール・リンスワルド子爵様ですな・・・が報告書作成の時には嘘をついて申し訳なかったと平謝りに謝って下さいましたが、みなさんに謝って頂くことなど一つもありません。


むしろ面白い話が聞けて僥倖というモノでしょう。


キャプラ公領地は北西側に広がる広い平野部を利用した麦の一大産地であると同時に、牧畜の盛んな土地でもあります。


しかし南側の地域は、エドヴァル王国に繋がる南北の本街道からルースランドと接する西側の縁に向けて延々と複雑な地形の山塊が鎮座しているために開発が進んでいません。

どこでも山脈の稜線が国境とされている事は一般的ですが、ミルシュラントとエドヴァルの国境を『南北本街道』以外の道で抜けようとすると自然と山越えすることになってしまい難しいという話です。

そもそもミルシュラントとエドヴァル、それにミルバルナの間では通商協定が結ばれているので往来は自由。

わざわざ面倒な道を通りたがる人などいませんからね。


ところで、元々は『リンスワルド領への移転』のハズだったのに、なぜキャプラ公領地の土地が最初のターゲットになったかというと、今回の段取りが決まった夕食会の後、男性陣だけが遊戯室に入ったところでジュリアス卿・・・つまり、ミルシュラント公国の君主である、ジュリアス・スターリング大公陛下なのですが・・・が、そっと私のところに近づいてきてこう耳打ちしたのです。


「ウェインス殿、新ルマント村の建設予定地だが...出来れば、まずはキャプラ公領地から探し始めて貰えないだろうか?」

「はあ、もちろん構いませんが、なにか理由でもおありでしょうか?」


「うむ、この件ではレティに負担を掛けすぎたくないのだ。命を賭してシンシア、フローラシアとレティを救ってくれたダンガ殿らには我もできる限りの礼をしたいが、新ルマント村がリンスワルドの領民となったらレティの手前、口も手も出しにくい。キャプラ公領地であればフローラシアの管理になる上に、色々と国費からの支出もしやすいからな」


「なるほど...ではその方向で考えてみましょう」

「我が儘を言ってすまんが、よろしく頼む」


ジュリアス卿は私が勝手に抱いていたイメージと違って、本当に謙虚で思いやりのある方です。

そしてシンシアさんの良き父親・・・

卿の話に納得して、キッチンにエールの追加でも貰いに行こうかと遊戯室を出ると、廊下でエマーニュさんとバッタリ出くわしました。


「あの、ウェインス殿、少々お話をよろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

「その、新しいルマント村の候補地なのですけれど、私はキャプラ公領地を第一候補にして頂くのが良いと考えましたの」

「ええ、もちろんそれでも構わないと思いますが?」

「大公家の直轄地である方がジュリアス御兄様も関わりやすいですし、その、実は、あの、ダンガさまもそのほうが...その、新しい故郷に積極的に関わりやすいのでは無いかと思いまして...」

「...承知しました。では、まずはキャプラ公領地の調査から進めましょう」

「ありがとうございます!」


あの夕食の席での会話で、愚鈍な私でもエマーニュさんとダンガ殿の間柄というか、あの襲撃を生き延びてから二人の間に何があったのか、なんとなく理解できましたからね。


世間の常識や過去の事例などはすべて忘れ去ったとして、もしもダンガ殿とエマーニュさんが一緒になるとすれば、ダンガ殿がエイテュール家に入るか、なにかの手段で別の家門を立てて、二人でそこに移籍するかしかないでしょう。

少なくとも、エマーニュさんが『狩人の妻』になって村に住むという選択肢はあり得ないと思います。


つまり、ダンガ殿がエイティール子爵家に婿入りして、エマーニュさんが公領地の長官を続けるというのが一番現実的な解決方法で、そうなれば新しいルマント村がキャプラ公領地にある方がダンガ殿にとっても積極的に関わることが出来るという考えは理に適っています。


まあ、外国から来た狩人と子爵家当主が結婚するという非現実さに目を瞑れば・・・の話ではありますが。


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