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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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領主とレミンちゃん


ダンガとエマーニュさんを中心に長老達との会議が進む中、アプレイスが小声で話しかけてきた。


「なあライノ。現実的な話として、この様子ならシンシア殿もエマーニュ殿の横に貼り付いてる必要は無いんじゃないか? 俺たちと一緒に大森林の探索に行く方がなにかといいだろ」


「うーん、防護結界はメダルがあるからいいとしても、シンシアかパルレアがいないと緊急時に避難する手段がなくなるのが怖いんだよな」


「まあ、ここら周辺の魔力が一段と濃いのは事実だしな。ただ、それが仮に、エルスカインの仕掛けが南部大森林の中に隠されている影響だとしても、ライノが空から見下ろしただけで何か分かるのか?」


「うーん、それを言われるとなあ...」


そこに何があるにしても、シンシアの鋭い目と知恵を借りたいという思いは確かに捨てきれない。


「それと、なにか見つけたときは俺の背中に乗って突っ込むって言うんなら、もちろん喜んでお供するさ。だけど、一度それをやったら二度目は無いぜ? 次からは警戒されるに決まってるからな」

「パルレアはどう思う?」

「お兄ちゃんと一緒にいるー」

「じゃなくって...それはもちろんそうなんだけど、どのタイミングで大森林に踏み込んでみるかって話だよ」

「ウォームの進み方次第じゃ無い? アレも、もーすぐレンツに着くでしょ?」


「だよなあ...」


不可視効果付きの防護結界メダルに手紙ゴーレム、さらに魔力を自給できる連携型転移門と、怒濤のようなシンシアの発明の数々によって俺たちの自由度と安全性は飛躍的に向上したけど、それらの準備には予定外の日数を取られてもいる。


アプレイスの翼に乗って屋敷へ帰還してから、はや五週間近くが経ち、毎日移動を追跡しているウォームも間もなくレンツ近辺に到着しそうな頃合いだ。

果たしてウォームはそこで止まるのか、引き返すのか、別の方角へ向かうのか・・・

それによって、先にレンツの井戸を破壊するかどうかも考えないといけない。


最初はもっと早くにルマント村を訪問して、ついでに南部大森林を偵察してからシンシアを残して戻ろうって言う考えだったんだけど・・・

どちらに行くにしても微妙なタイミングになってしまった感は否めないな。


「ちょっと見通しが甘かったか...」

「そもそも、この状況でちゃんとした見通しなんか立たないよライノ」

「だよなあ...」


あれっ?

この会話って、さっき俺がダンガとしたやり取りじゃね?

なんだかなあ・・・

しかし、ルマント村まで来ておきながら今さら次の行動に悩み始めた俺を余所に、村民集会の方は順調に進行している。


ダンガがさっきの『二段構え』での移転の考え方を力説し、居並ぶみんながうんうんと頷いて話がまとまりそうになったとき、一人の男性が小さく手を上げて言い辛そうに声を出した。


「ダンガよ。新しい村への引っ越しはお前さんのゆうとる通りでええとして、モリエール男爵の方はどうするんじゃ? レミンのことがあるんじゃろ?」


その途端、みんなの顔色がサッと変わって目線が宙を泳ぐ。

ダンガの表情も明らかに変化して厳しい顔つきになった。

問題の発言をした男性もマズい話題を振ったことは理解しているらしくて萎縮しているけど、悪気はないようだ。

純粋に疑問を口にした、って感じか・・・


これは何か、ダンガ的にアンタッチャブルな事情がありそうだな。


「その件については、移転前にきちんと話を付けておくつもりです。それにミルバルナ王家からの通達もあるから、モリエール男爵も無茶なことは言えないと思う」


ダンガがそう答えると、周囲の人々の間にホッとした空気が漂った。

質問した男性も頷いて、それ以上は追求する様子を見せない。

口ぶりからしてレミンちゃん絡み、そこで領主の名前と領民であるレミンちゃんの名前が並列に出てくる話題ってのは、ありがちだけど嫌な予感しかしないよな・・・


++++++++++


その後、集会所で村人達との間で移転についての諸々の細かな相談や確認が続いていく中、急に外から騒々しい声が響いてきた。


明らかに怒気をはらんだやりとり・・・シルヴァンさんとサミュエル君が複数の相手と押し問答している声だ。


追加で嫌な予感。


アプレイスに目配せして表に出てみると、騎乗した四人の騎士がシルヴァンさんとサミュエル君に槍を向けて威圧しているところだった。

乗馬している四人の体形や身のこなしから推測すると、腕前としてはサミュエル君だけで瞬殺できる相手だな。


「どうしましたシルヴァンさん?」

あえて四人は無視してシルヴァンさんに尋ねる。


「はっ! モリエール男爵家の使者を名乗るこの四名が、中に入れろと申しておるのですが、私が許可を取らねばならぬと告げたところ、いきなり剣を抜いて威圧して参りました。剣を払ったら今度は槍を向けてきたところでございます」


うん、ちょっと離れたところに剣が落ちてるよ。

シルヴァンさんに片手で吹き飛ばされたんだな。

その段階で、勝てない相手だと察することが出来ただろうに・・・いや、それすら出来ない程度の技量って事か。


「で、あなた方は?」


「無礼者! 我らはモリエール男爵家騎士団の者である! 本日はご当主様より伝言をつかまつり、わざわざ足を運んだゆえ有り難く拝聴するが良い!」

「伝言の相手と内容を伺いましょう」

「この村に、昨日レミンという娘が舞い戻ってきておるであろう! 即刻、ご当主様の屋敷に出頭するようにとのお言葉である! いますぐここに呼んで参れ!」


嫌な予感は大正解だな。

それにしても、もうダンガとレミンの帰還が領主の耳に伝わっているとは、本当に人の噂っていうのは駆け足だ。


大体この手の話は、街の大衆演劇で定番の出し物になってるネタだ。

色惚けした領主が村一番の器量よしという評判のある娘に目を付け、恋人と引き離して『妾』(めかけ)にしようと悪事を企む・・・というのが基本路線で、無論のこと舞台では悪徳領主が最後に酷い目に遭って拍手喝采で終わる。


ただ、あまりにも現実にちょくちょくある話なので、場所によっては『貴族への冒涜・不敬』を理由にこの手の演目を禁じている領主さえいる。

まあ、そう言う場合は領主役を悪徳商人とかに差し替えて上演するんだけどね。

見てる人達は頭の中で役者の顔を自分のところの領主の顔に置き換える。


ともかく、この四人をどう追っ払うかが当面の課題だ。

武力的には何の問題も無いけど、ルマント村の人々に迷惑を掛けるのはマズい。


「レミン嬢を呼びつける理由はなんですか?」

「貴様、下民(かみん)の分際でご当主様に意見する気か!」

「理由を聞いてるだけですよ」

「有り難くもご当主様は、一介の下民(かみん)に過ぎぬレミンとやらをご寵愛下さると申しておるのだ。あまり待たせると良い事は無いぞ?」


はい確定。


「ちょっと身内に話を聞いてきますので待ってて下さい」

「もういい、我らが連れて行くゆえそこをどけ!」


一人の騎士がそう言って馬を下りようとし、同時にもう一人の騎士の一人がシルヴァンさんの胸当てを槍で突こうとした。

もちろん鎧の上からだから、ちょいと槍の穂先で付いたくらいで怪我をさせることは無いし、ただの脅しのつもりだったんだろうけど、槍の穂先がシルヴァンさんの鎧に触れることは無かった。

だって、シルヴァンさんの腕がフッと揺れた瞬間に、槍の穂先が刎ね飛ばされていたからね。


「なにをっ!」

「こ、こ、この無礼者がっ!」

騎士達が口から泡を飛ばすが、さすがに実力差を感じたのかそれ以上は暴れず、馬を下りようとしていた騎士もさっと鞍に跨がり直した。

いつでも逃げ出せる体勢か?・・・そういう判断は素早いんだな。


これはどうやっても穏便に収めることは難しそうだ。


多くの場合、貴族家に所属する騎士達の振る舞いは、そのまま主君の性格を映す鏡だと言っていい。

だとすれば、モリエール男爵って輩がどの程度の人物か、大体の想像は付く。


「シルヴァンさんもサミュエル君も、こいつらが無理に入ってこようとしたら、ミルシュラント公国リンスワルド伯爵家の縁者に無礼を働こうとした(かど)で斬り捨てて構わないですよ」

「承知致しましたクライス様」

「シルヴァンさんとサミュエル君の鎧に付いている紋章を見ていながら、なお不遜な態度を取ったことは明白ですからね」

「かしこまりました!」

サミュエル君も元気よく返事をし、シルヴァンさんが手の内でくるりと剣を回した。

その手つきだけで、勝てない相手だと分かって欲しいんだけど君たち?


四人の騎士は、俺の言っている言葉の意味が良く分からないようで戸惑っているが、『ミルシュラント公国リンスワルド伯爵家』という言葉は聞こえたようだ。


「俺はここの村人じゃないので、モリエール男爵なんて知らないんですよ。ここに来た理由は、ミルシュラント公国リンスワルド伯爵家の縁者が、この村出身の方と婚姻を結ぶことになったからです」

「なにっ?」

「もうじきミルシュラント公国のジュリアス大公陛下からもミルバルナ王室に書簡が届く頃合いです。モリエール男爵って人が何を考えてるのか良く分かりませんが、その手紙が届くまでは、少し大人しく待ってた方がいいんじゃ無いかと思いますよ?」


「貴様、我らに指図する気か!」


「俺はここの村人じゃないと言ったでしょう? それにモリエール男爵から指図を受ける立場でも無い。今の言葉はあなた方に対する指図じゃなくて、モリエール男爵本人に対する助言だ。戻って男爵にそう伝えて下さい」


「なんだと貴様っ、言うに事欠いてご当主様への助言とは不敬にも程がある。何者かは知らぬが調子に乗ると容赦はせんぞ?」


口では容赦しないなんて言いつつも、もう馬から下りてくる様子が無いんだけど?

それともなにか、『容赦しない』って言うのは『援軍を呼んで来ちゃうぞ』ということの婉曲(えんきょく)な表現なのか?


でもホントにそうなんだろうな・・・


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