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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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村民集会


形式的なモノとは言え、共同体に所属する二人の結婚がオババ様に承認された後はのほほんとしたお祝いムードだ。

続けてダンガから、すでにミルシュラント側でルマント村の移転作業に関して様々な手配が進んでいることが長老達に説明された。


地元領主のモリエール男爵にもミルバルナ王室から話が通っていること。

現地に残ったアサムが仲間と一緒に村を作る候補地を絞り込んでいる最中であること。

数十日後には大公家と伯爵家の手配した輸送部隊が来て、村人全員を支障なく運び出せる予定で有ること。

いま村で作っている作物をすべて放棄していっても、道中の食事と今年来年を越すための食料は全て保証して貰えること。


それらの準備状況についてダンガとエマーニュさんが細かく説明していったのだけれど、屋敷でみんなが危惧していたように『美味すぎる話』だとか『ウソや罠があるんじゃ無いか?』なんて警戒されることは微塵も無く、みんなストレートに感動して感謝してくれた。


そうだったよ!・・・ここはアンスロープ族の村なんだよ!


疑うことを知らない人々。

嘘をつくという概念が希薄な人達。

罠だの毒だのと警戒することも無く、差し出されたモノを、そのまま感謝して受け取る人達。

この純真というか純朴な人々を目の当たりにすると、かつて彼らが戦場で雇い主のいいように利用されていたという事実には、俺も憤りを感じる。


ともかくエマーニュさんが一緒に来たことの効果は絶大で、長老達の承諾はすんなり取れた。


が・・・移転で本当に大変なのはこれからだ。


なにしろ、これからたったの一ヶ月や二ヶ月で村人全員の移転準備をしようなんて大騒ぎだし、何かの理由で自分は村に残るだの後から追い掛けていくだのって人がワラワラ出てきても不思議じゃ無いだろうな。


同席している俺とレビリスとアプレイスは、ダンガの親友として紹介されたけど、微妙にアプレイスだけはちょっと怖がられてる感じがしないでも無い。

まあ本能的なモノだから仕方ないんだろうけど、アプレイスも、もう少し気配の封じ込めが上手くなってくれると嬉しいんだけどね。


++++++++++


ダンガ兄妹を見ていれば分かるように、アンスロープの人達は決して優柔不断とか意思決定が苦手とか、そういうことは無い。

ただ、種族的な傾向として『リーダーが絶対』という感覚が強いらしく、その辺りは微妙に『村』と言うよりも『群』といった空気を感じさせるね。


で、このルマント村と言う大きな群のボスであるオババ様が承諾したのだから、ミルシュラント公国への移住自体は確定という事になった。

ただ、大抵の場合にボスが決めるのは行動の骨になる方針だけで、細部はみんなで話し合うらしい。

例えば『来年は麦の作付けを増やすぞ』とボスが決めたとしても、誰がどの位を受け持つか的な実務面はみんなで話し合って決めるという感じかな?


「いやダンガ、みんなで話し合うって言ってもこの集会所に入りきれるのは、せいぜい集落一カ所分とか、そんな程度の人数じゃ無いか?」


「村内の集落ごとに幾つかのグループに分かれてるんだけど、その代表だけ集まるんだよ。何か意見があって参加したいってヤツがいれば、そいつも自由に参加出来るんだけど、まあ大抵は出てこない。難しい話は任せるから決めてくれって人の方が多いな」


「なるほどね。ちょっと分かるよ」


何処の国や領地でも、大抵の村人の『政』(まつりごと)に対する感覚は似たり寄ったりだからね・・・

よっぽど生活に関わることでなければ気にしない人の方が多い。

特にアンスロープ族の場合は、収穫物や収入の分配に関しては細かくキッチリ決められているし、その分配も『平等が是』だから、あまり損得勘定の絡んだ話にはならないようだ。


「今回の問題は、移住することで生まれる負担の大きさが人によってバラバラすぎるって事だな。みんなで公平にするのが難しいよ」

「完全に公平ってのは不可能だろうな」

「だよね? もしライノだったらどうする?」

「うーん、ホントなら全員一致の合議で決めたいけど、今回はそんな悠長なことをしてる時間が無い。まあ、どんなに長くやっても必ず不公平は残るし...なら、オババ様の強権発動で二段構えだな」


「二段構え? なんだいそれ?」


「例えば炭焼き職人や鍛冶職人が仕事場を捨てて行くのと、農家が長年育てたオレンジの果樹園を置いていくのと、どっちが負担が大きい?」

「それこそ決めようが無いだろ?」

「でも決めないと公平に出来ないよな? 普通、外の世界だったらそれを全部、金額で考える。道具を買って工房を作り直すのに幾ら掛かるか、畑の土地を買って木を育て直すのに何年かかって、その間の生活費とか合わせて幾ら掛かるか、全部を金に換算して取引するんだ」


「ここじゃあ無理だなあ...そもそも金を使うことが少ないし、みんな余所では何に幾ら掛かるかなんて良くは知らないもの。俺も旅に出てからやっと分かって、途中から青くなったよ」

「あの時はダンガ達の財布、もうペッタンコだったよな?」


「見通しが甘かったよなあ...もしもライノに出会えていなかったらと思うとゾッとする」


「そうそう見通しなんて立たないもんだよ。だから二段構えなんだ。まず『村を出る』事と『新しい村を作る』ことを分けて考える。村を出るのはオババ様の強権発動で問答無用。迎えの馬車に積めないモノは持っていけないし、持ち出せるものの量とか数は出来るだけ平等にする」

「仕方ないよな...」

「で、向こうに着いてから村を作るときの手間は、向こうに着いてから考える。ここで色々考えてても、向こうの状況次第でやらなきゃいけないことも掛かる手間も違ってくるだろ? そもそもルマント村でオレンジを育ててたからって、向こうでも同じ事をするとは限らないじゃないか?」


「ああ、そりゃ確かにそうだ!」


「新しい村では、みんな一度、自分の生き方をまっさらな状態から考え直す必要があるし、ダンガなんてその代表だぞ? まさかエマーニュさんと結婚しても狩人を続けられるなんて考えてないよな?」


「も、もちろんだ!」


ちょっと耳が動いたぞダンガ・・・


「ならば良し。とにかくリンスワルド領に行きさえすれば、誰も当面飢える心配はないんだ。村づくりの手間をみんなでどう負担し合うか、どんな生活を送るかは、向こうに着いてからゆっくり考えた方がいいと思うよ」


「それもそうか。明日、長老達にはその事を言っとくよ」

そう言って、ダンガの表情はちょっとだけ明るくなった。


俺たちも到着したばかりだし、とりあえず移転については決定したってコトで今日はお開き。

細かなことは明日以降にみんなを集めて話していくそうだ。


ダンガから『ルマント村に宿屋なんて無い』と言うことは事前に聞いていたので、馬車の中で眠るか、最悪は適当に幕営してもいいかと思っていたんだけど、急ぎ手配がされて、エマーニュさんとシンシアはオババ様の家の客間に泊まれることになった。

ダンガとレミンちゃんは自分の家に戻ればいいし、アサムの部屋があるからレビリスもそこに泊まると言う。

さらに集会所の両隣の家を空けてもらって片方にトレナちゃん達三名、もう一方に俺とアプレイスとパルレアという組み合わせで分散することになった。

この二〜三軒の家は特定の人間が住んでいる訳ではなくて、その時の『最長老』の都合や家族構成に合わせて適当に使っているらしい。


シルヴァンさんとサミュエル君は交代で不寝番をすると言い出したのだけど、パルレアとシンシアの結界があるから不要だと却下。

オババ様は集会所を好きに使って構わないと言ってくれたので、そこに荷馬車から降ろした当面の生活物資を積み上げさせてもらい、ついでに騎士組の寝床にして夜はちゃんと寝て貰うことにする。


一日二日ならともかく、今回の滞在は長丁場になる予定だ。

普通に生活するつもりで過ごして貰わないと疲労が溜まってしまうからね。


++++++++++


翌日、昨日の長老達に加えてダンガ達の帰還と新しい村の場所が見つかったという報せを聞いた各グループの代表が続々と集会場に集まってきた。

基本的には、みんなダンガのもたらした『吉報』に喜んでいてフレンドリー。

不安を口にする人もいるけど、それは無理もない話だろう。


それにダンガが、エマーニュさん・・・彼ら的には『お貴族様』・・・と婚約した上、レミンちゃんまでが婚約者を連れてきたと言うことで、全般お祝いムードである。

レミンちゃん婚約の話を聞いて愕然とした顔の若者も数名いたけど、嫁探しは各自で頑張って欲しい。


集会では大まかにダンガがみんなに状況を説明し、現地に関する質問にはエマーニュさんが中心になって答えている。

魔獣に関しての質問が出たときだけレビリスが受け答えしていたけど、今回、レビリスがあえて破邪の装束で訪れたのは、レミンちゃんと結婚しても破邪を続ける前提があったからだ。

下手に高級な服を着てきて貴族系の人物と間違われてしまっては、後々レミンちゃんと一緒の『村暮らし』がやりづらくなるという理由。

つまりアレだ。

レビリスは『新ルマント村』でレミンちゃんと一緒に暮らす想定でいる、と言うことだな。


魔道士ローブ姿のシンシア、騎士の鎧を着込んだシルヴァンさんとサミュエル君、およびその庇護下にある事が明白なメイドチームの三名は、村人達にとって『触っちゃいけない相手』として映っているらしく、自分から話しかける人が誰もいない。

多くの庶民にとって、貴族の連れている家臣や従者に気安く話しかけることは、貴族の着ている服に勝手に触るような感覚らしいからね。


そして俺とパルレアに近寄ってくる人もいない。

これは決して俺の顔が怖いとかでは無くて、俺の横にアプレイスが一緒にいるからである。


仕方ないじゃ無い、だってドラゴンだもの。


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