表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
418/934

転移門の解析と新発明


そろそろルマント村への出発が目前に迫っているが、高原の牧場からシンシアが絵図として転写してきた罠の解析は余り進んでいない。


ガルシリス城にあった魔法陣と同系列だってことはパルレアが確認してるけど、やはり根本的に精霊魔法とは仕組みが違うらしくて、さすがのパルレアも解析には手を出しにくいようだ。


シンシアに言わせると『膨大な順列組み合わせの中から有り得る可能性を一段階ずつ探っていく感じです』という、良く分からない説明を受けた。

それを聞いたときの俺の目が泳いでいたのか、シンシアは続けて『とっても複雑な錠前の構造を手探りしながら、鍵なしで開けようとしてる感じです』と言い換えてくれて、なんとなくその大変さが腑に落ちたけど・・・


「ただ、コレの解析をやっている最中に、別のことを思いついたんです」

「別の?」


なんだろう?

シンシアが、こういう軽い調子で言い出す事って、実は結構大騒ぎな内容だったりすることが多いからな・・・


「パルレア御姉様も言ってたんですけど、ガルシリス城にあった転移門も、この罠の転移門も、複数の役目を組み合わせて構築してるんですよね。転移だけじゃ無くって召喚とか、魔力の合成とか」

「うん、それはガルシリス城でもパルミュナから聞いたな」


「奔流から吸い上げた魔力を井戸の魔法に合成して他所へ送って、なおかつ転移門と召喚術を組み合わせてると言う...」

「ただ、あの時のパルミュナは、それで結局何がしたいかは良く分からない、って感じだったけどね」

「問題はそこです」

「仕組みが分からないと?」

「ええ、この罠の仕組みや転移の目的地は良く分からないままですけど、仕掛けとしての考え方は私たちにも応用できるんじゃ無いかなってことなんです」


「うん、ド素人な俺にも分かる感じで言える?」


「そんな素人だなんて。御兄様の精霊魔法の方が私なんかよりも遙かに強力なのに...実際に、あの井戸での魔力補充以来、御兄様の魔力量はグングン高まっていますよ。すでに私やお母様を遙かに凌駕しているかと」


「それは、ひとえにシンシアの蒸留アイデアのお陰だよ」


「私の作った魔道具は補助効果です。誰でも御兄様のように底なしの魔力を溜めていける訳ではありませんから」

「いや、俺に出来ないことをシンシアには出来る。だから俺は屈託なくシンシアに頼れるんだ。例えば馬車の扱いがどんなに上手くても、新しい馬車を作ったり仕組みを考えたりする能力は別だからね?」


「それはまあ、そうですね...」

「で、シンシアはどんなことを考えついたのかな?」


「大精霊様は、転移門が無くてもどこでも現世(うつしよ)に現れることが出来ます。だけどそれって実際には転移してないんですよね。一度精霊界に戻ってから、また違う場所に顕現し直してるだけで...だから魔力は凄く消費するそうですけど、あくまでも精霊界への帰還と現世への顕現なので転移門は不要です」


確かにパルミュナからそう言う話は聞いた覚えがあるな。

それにパルミュナと一緒に歩き始めたときも、アスワンが革袋を渡しに来てくれたときも、どちらも『箱』経由で顕現していて、その方が楽だとか簡単だっていう話だった。

場所をあらかじめ決めて『箱』を設置しておけば消費魔力が圧倒的に抑えられるとか、そんな理屈なんだろう。


「ですが、人は精霊界にお邪魔することが出来ません。以前、パルレア御姉様は転移について、精霊魔法は谷を飛び越える時にジャンプするけれど、人の転移魔法は橋を渡すようなものだ、という例えをされていましたが、実際にエルスカインがどんな方法で橋を渡しているのかは分かりません」


「かなり無理矢理な方法らしいんだっけ? それで魔力の消費も凄いし耐久性も低いとかなんとか」

「そうですね。だからこそ、使いたい場所に向けて奔流を捩じ曲げる必要があるのかもしれませんけど」


「俺もそう思うよ」


「逆に精霊魔法での転移は、この屋敷の転移門が跳び先の場所を調べる基準点になっていて、基本的に転移できるかどうかはこの屋敷からの距離次第というのが制約です。離れるほど確定しにくくなります」

「だな」

「ですけれど、レンツから北上してアプレイスさんのいた山に近づけば近づくほど転移が急速に難しくなって、最後は手紙箱さえ送れなくなりましたよね? あれはエルスカインが大結界構築のために、奔流を捩じ曲げたていことが原因だと思うんです。場所の確定がやりにくくなっていたんですね」


「最後の方って、手紙箱の姿が安定するまでに時間かかってたもんなあ」


「それで思ったんです。転移先への安定度が距離だけじゃ無くて、その場の強い魔力の影響も受けるんだったら、逆に、その場にある魔力で転移を補強することも出来るんじゃ無いかって」

「うん? 逆に?」

「転移のしやすさは魔力の影響を受けます。距離が伸びれば必要な魔力も多くなるし、一緒に運ぶモノの量が多ければやはり必要な魔力は多くなる。ここから何処かに跳ぶときは屋敷の転移門が必要な魔力を肩代わりしてくれますから何処へでも行けますが、帰りは自力なので同じようには行かないという話です」


ああ、そう言えば以前シンシアと一緒に、パルミュナからこの初級転移魔法講座を聞いたんだなあ・・・


「だったら、帰りの転移に使う魔力をその場で補給すればいいんです!」

「へ?」

「つまり自分自身の魔力では無く、その場で集めた魔力も使って転移すれば、距離で消費する魔力の増大分をかなりカバーすることが出来るのでは無いかと」


「うーん、理屈ではそうかもしれないけど、魔力収集装置...あの魔力蒸留メダルを使っていても、その場ですぐに転移に使えるほどの魔力を集めるのは難しいんじゃないかな?」

「その場ですぐには無理ですね。場所にもよりますし」


「だよな?」


「なので、魔力収集の術式を転移門の魔法陣と合体させて埋め込みます。その魔法陣は存在する限り、その場で魔力を収集して貯め込み続けます。言うなれば、エルスカインの『井戸』の小型版と言うことになるのかもしれません」

「なんだと...」

「つまり設置型の魔力蒸留装置です。どこかに行って転移門を埋め込むときに魔力蒸留機能付きの魔法陣を設置しておけば、次に使うときには十分な魔力が貯まっている可能性が高いです。


「そうか! それが可能なら、安全に帰還できる距離が飛躍的に高まるな!」


「この場合、正確には屋敷への帰還と言うよりも、次の転移門への転移ということになりますが」

「ん、いやシンシア、転移先は必ず屋敷側との一対一の対応、そうパルミュナも言っていたはずだぞ?」

「この屋敷の転移門にとってはそうですけど、個別の転移門にとって大切なことは跳び先の位置...方向と距離が正確に分かっていることです」

「だから必要なのでは?」

「そもそも必ず屋敷の転移門を中継する必要があったのは、魔力の補充と同時に転移門同士の正確な位置を確定するための『基準点』が不可欠だったからなんです」


「基準点...あ! もしかしてシンシアの開発した方位魔法陣か!」


「そうです御兄様! 基準点を知るだけなら大きな魔力は消費しませんし、周囲の魔力の影響も受けにくくなります。そして基準点が分かるなら、次の跳び先の位置を屋敷以外でも確定することが出来るんです!」


「おおおぉっっっ!!!」


「つまり、基準点さえ確定できるなら、ある転移門から別の転移門へ、屋敷を経由せずに飛ぶことも可能になるワケです」

「なるほど!」

「さらに、どこの転移門でも跳ぶための魔力を抽出できるのなら、どんなに遠い場所からでも、いくつかの転移門を庭の飛び石(ステップストーン)のように繋いで屋敷に帰ってきたり、逆に屋敷に戻らずに、そのままもっと遠くへ行ったりと言うことも可能になると思うんです」


「そうか、そうなるのか...凄いぞシンシア、まさかそこまで可能にするとは! お兄ちゃんビックリだよっ!」


「ありがとうございます御兄様、こうやって座標と魔力蒸留の機能を合体させた転移門を沢山置いていって、それぞれの転移門同士で互いの位置を測り合い、なおかつ蒸留して集めた魔力も融通し和えるように出来れば、どこにでも跳べる『転移網』が構築していけるんじゃ無いでしょうか?」


「なんとまあ...」


これって、エルスカインの構築していた魔力井戸と水路の網の目を、自力で精霊魔法に置き換えて見せたって感じだな。

シンシアの魔法理論がついに大精霊の知見を超えたと言うことか?!


その上、このシンシアのアイデアには副産物というか、想定外のメリットもあった。


俺たちがドラゴンキャラバンで使っていた馬車には、出発前に四台とも害意を防ぐ結界と転移門の魔法陣を仕込んでおいたけど、転移門は移動中は使えなかったし、馬車を止めて使う時にもいったん転移門を起動し直す必要があった。

つまり、精霊魔法を使える三人の誰かが近くにいないと動かせない。


ところが新しい転移魔法陣は、防護メダルと同じように魔力収集装置を使って常時転移門を稼働させておくことが出来るから、起動する為に精霊魔法の使い手が一緒にいる必要が無い。

馬車を止めてそのまま互いの位置が確定できるまで待ちさえすれば、すぐに手紙箱を屋敷に向けて送ることが出来るのだ。

人自体が転移できなくても移動先から手紙箱を送れるのなら、バツグンの利便性が生まれる。


シンシアの凄まじい知恵の発露に言葉が霞む俺だったよ・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ