表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
415/934

手紙箱自動振り分け装置


翌日は午前中にフォーフェンまでシンシアの毛布とカシュクールをまとめて受け取りに行き、ついでに街の商店で少々の買物を済ませた。


更にその足で、屋敷の地下室を蹴り飛ばしてジャンプする勢いでリンスワルド牧場に向かう。

公式にルマント村へ持ち込む資材は着々とリンスワルド牧場に運び込まれつつあるから、そっちも定期的にピックアップしないと荷物部屋から溢れてしまいかねない。

昨日のスライからの手紙箱でも『早く引き取らないと廊下に溢れるぞ』と警告されたばかりだ。


まだまだ革袋の空間には限界が見えないけど、いよいよ入りきらなくなったらシンシアの小箱も当てにさせて貰おう。

ただ、事情を知らないルマント村の住人の前で、シンシアに小箱を使わせたくは無いから、最終的には可能な限り『普通の方法』で村内に持ち込むつもりでいるけれど・・・


そんなこんなで牧場の荷物をあらかた収納して屋敷に戻ると、ちょうどシンシアが手紙箱自動振り分け装置の実験を始めるところだったらしい。

転移と同時に見えたのはシンシアが取り組んでいるちょっと不思議な形をした魔道具で、その横には、こちらに背中を向けているエマーニュさん。


なんでエマーニュさん?


「あの、ですからシンシア...あなたにこんな事をお願いするのはとても心苦しいですし、正直に言って恥ずかしいのですけれど...」

「はい、なんでしょうか叔母様?」


シンシアはエマーニュさんの影になって俺が見えていないのか。

普通なら転移の気配で気が付きそうなモノだけど、その大きな魔道具を動かしてるから掻き消されてるんだな?


「その...どうか、ダンガさまのいる前では、私に『叔母様』と呼びかけるのを控えて頂けると嬉しいのです」

「はい?」

「ですから、その、叔母様では無く、外でのようにエマーニュさんとかあるいはフローラさんとか、そういう風に呼びかけて貰える方が心やすいと言いますか...ダンガさまの前であなたに『叔母様』と呼ばれてしまうと、その...」


あー、これって・・・


とにかく猛烈にマズい状況に出くわしてしまったことは俺にも理解できる。

このやり取りが俺に聞かれてたと分かったら、実年齢は知らないけど乙女なエマーニュさんが舌を噛みかねないな!

見つからないうちに、即座に牧場に逆戻りだ。


牧場に戻り、荷物が無くなってがらんとした荷物部屋で、床板の節の数を端から歩きながら数えて二百八十三個目で飽きたので、そろそろいいだろうと屋敷に戻った。

今度は無事にシンシア一人だ。


「あ、御兄様! 丁度良かったです。これから実験をしようと思っていたところでしたので」

「自動振り分け機のテストかい?」


さっき俺がエマーニュさんの話を聞いていたことには、シンシアも気付いていないようだ。

素知らぬふりでセーフ!


「ええ。ようやく思っていたイメージで動かせそうな形になってきました。別邸にいるシャルロットさんと本城のテレーズさんに、正午になったら、この屋敷では無く、直接お互いに向けて試験の手紙を送ってくれるように皆さんにお願いしてあります」

「もうすぐだな。じゃあその装置を転移門の中心に移動させるか?」

「いえ、これは転移門の稼働を察知しますから、この部屋の中に置いてあれば場所は何処でも構いません」

「へえ...」

「この装置は、動き出したら一年中止めない想定です。転移門の中に置かなければ、転移する人の邪魔にはなりませんから」


「それもそうか。ところでパルレアは?」


「午前中は装置の調整を手伝って頂いてたんですけど、それが終わったらお母様が談話室に連れて行きました。なんでもピクシー族の事についてはパルレア御姉様自身よりもお母様の方が詳しいようで、色々と知っていた方がいいこともあると」


「だったら姫様にお任せだな」


そのまま装置の脇に立って二人で待っていると、やがて転移門の中心に手紙箱が姿を現した。

同時に、シンシアの振り分け装置がブンっという軽い音を出して動き出す。

もちろん物理的に動く訳じゃ無く、装置の正面に描かれている魔法陣から床の上に現れた手紙箱へと一直線に光が伸びた。


「改良型の手紙箱には、行き先を示すラベルが取り付けられます。ああやってラベルを光で読み取って手紙箱の目指す行き先を確認するのです」

「ほうほう...」

「ラベル自体も微小な魔道具ですけれど、転移の度に箱から魔力が補充されるのでメンテナンスの必要はありません」

「ふーむ...」

「行き先を確認したら、例の『精霊魔法を起動する術式』を応用して転移門を稼働させます。ここの場合は屋敷そのものが精霊魔法の術者の様な存在ですから、装置に組み込んだ術式で転移門を動かすことが出来る訳です」

「なるほど...」


ダメだ俺、シンシアの説明に対して気の利いたことが一つも言えない・・・

黙って見ている間に、装置からの光を浴びていた手紙箱がフッと床の上から姿を消した。


「これで本来の目的地に送られたはずです。今のはシャルロットさんからテレーズさん宛ですけど、逆にテレーズさんからも直接シャルロットさんへ送るように頼んであります」


言葉通り、すぐに別の手紙箱が魔法陣の上に登場し、装置からの光を浴びてまた消えていった。

これで、テレーズさんとシャルロットさん...と言うか、別邸と本城の間を誰の手も介さずに手紙箱が行き来した、という事だな?

シンシアが動かないので、そのまま一緒に待っていると、また転移門の上に手紙箱が現れたけど、今度は装置がうんともすんとも言わない。

というか光が出ない。


「あれ、今度は動かないか?」

「いえ、あれはこの屋敷へ送られた手紙箱ですから」

「あ、そうか!」


間もなく二つ目の手紙箱も現れた。

それぞれの中身はテレーズさんとシャルロットさんからシンシアへ宛てた、実験成功を報告する内容だ。


「いかがでしょう御兄様? 御兄様の目から見て改良すべき点というか、もっとこうした方がいい、みたいなところがあったら是非ご教示ください」


「凄いぞ。本当に、誰も触らなくてもちゃんと跳んでいったな!」

それ以上の言葉を思いつけない自分が悲しい・・・


「ええ、やっと上手く行ったので嬉しいです!」

「大変だったなシンシア、お疲れ様」

「ありがとうございます」

「ところでコリガン族とピクシー族に渡した手紙箱はどうする? 俺とアプレイスが取り替えに行ってあげてもいいけど、そもそも彼らには、この屋敷以外の送り先が意味ないからなあ」

「はい。そこは振り分け装置の方で対応させます」

「出来るの?」

「ラベルの付いていない手紙箱が届いたら、あらかじめ設定した場所に自動転送するように出来ます。いまは私たちがこの屋敷にいるから不要ですけど、ここが無人になる時は、お母様のいる王宮に直接転送するように振り分け装置を設定しておけば大丈夫です」


「なにからなにまで凄いなシンシア...」


「ただ、この装置の稼働には相当な魔力を消費します。奔流から魔力を直接汲み上げているこの屋敷だからこそ動かせますけど、何処でも使える様にするには、まだまだ改良が必要ですね」

「まあ手紙箱というか転移門を使うこと自体が、この屋敷を中心にする必要があるからな。そこはあまり気にしなくてもいいだろ」


「それもそうですね。ただ『精霊魔法を起動する術式』自体は、他にも色々なことに応用できそうなので、研究を進めたいと思いますけれど」


「それは是非やってくれるといいな。魔力収集装置と言い、二段重ねの防護結界と言い、シンシアのお陰で俺たちの行動は途轍もなく自由度が高まってるもの」

「そうですか?」

「うん、この上なく助かってるよ」

「だったら良かったです!」


実験が大成功でニコニコしているシンシアと一緒に階上へ上がっていくと、ちょうど談話室からパルレアと姫様が一緒に出てきたところだった。

パルレアがシレっと姫様の肩に座っているけど、姫様が満足そうだからそれでいいんだろうな。


「お兄ちゃん、トレナちゃんがお昼ご飯出来たって!」

「おぅそうか! じゃあ頂こう」

そう言えば、丁度さっきの実験が正午のタイミングだったな。


そのまま四人でゾロゾロとダイニングルームに入ると、すでに呼ばれていた他の面々も丁度着席して料理が運ばれてくるのを待っているところだった。


ちなみに一度、シーベル城の晩餐会みたいな『ビュッフェ形式』と言うか、各自が自分の分の食事をキッチンに受け取りに行き、ダイニングに持ち帰って勝手に食べる・・・もちろん姫様達は除いてということだけど・・・フリーダムな形式にしてみてはどうだろうかと提案したことがあるんだけど、トレナちゃんに笑顔で即時却下された。


「クライス様、それはまるで『食事時にメイドの顔など見たくない』と言われているようで寂しいです」

「いやまさか! 人手が少ないのに配膳までさせて悪いなって思っただけだよ!」


「力仕事や汚れ仕事がほとんど発生しないと申しますか、なんでも簡単に片付いてしまうこの屋敷で、三人もメイドがいて人手が足りないなど有り得ません。むしろ、もう少し仕事が欲しい、そう思わされるくらいです」

「えー、そうなの?」

「そうですよ。みなさん全然呼びつけてくれませんし」

「あー、まあホラ、みんな家にメイドさんのいる生活なんて送ってきてない連中ばかりだからね? 遠慮があるんだよ」


「それは理解していますけれど、自分の職務が必要とされないのは寂しいのです。ここに居る理由を失いたくないと申しますか...」

「大袈裟な」

「いえ、メイドは主人やお客様の役に立ってこその存在です。その機会が無いのは楽なのでは無く、逆に不安になるものです」


「うーん、そう言われてみると、それもそうか...」


だいぶ昔にテレーズさんにも似たようなことを言われたよなあ・・・


そういう訳で、食事の時は本城や別邸にいるときと同じように、ちゃんとテーブルに座ってメイドさん達が配膳してくれるのを待つ、という事で合意したのだ。


合意したんだけど。

そういう話にはなってるんだけど・・・

エマーニュさんがメイドチームと一緒になって配膳する側にいるってケースは合意の中に無いよね?


めっちゃ反応しづらいよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ