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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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パルレアのお披露目


「それはそれとしてトレナちゃん、俺が屋敷に戻った以上は食事に関して必要なことがあるよね?」

「はい、ダイニングに御茶の用意をしておりますが?」

「いや俺の役目の方で」

「では?」


トレナちゃんがスッと俺の腰の革袋に視線を落とす。

俺がその視線を追って目が合うとトレナちゃんがにっこりと微笑んだ。

俺もニヤリと笑ってみせる。


「今夜は新鮮な肉と魚と野菜のオンパレードだな! 調理の方を頼むよ?」

「はい! お任せ下さいませクライス様!」

「いやぁ、みんなゴメンね...さすがに塩漬けも飽きた頃でしょ?」

「おおぉーっ!」

「良っしゃぁーっ!」

「わーい!」

みんなも歓声を上げている。

というかメイドチームさえ小躍りしている。


俺に続けてシンシアまでいなくなってしまった屋敷では、外部からの補給が一切途絶えていたはずだ。

念のために荷馬車が有るとは言え、よほど困窮しなければ外まで食材を仕入れに行こうって気にはならなかっただろうから、ここ最近は肉も魚も塩漬けや干物や燻製が主体になっていただろう。

干し肉と野草のスープで生きてるような遍歴破邪じゃあ無いのだから、そろそろみんなも日々の食事がキツくなってきてた頃だよね・・・俺もシンシアも後先考えずに飛び出して本当にゴメン。


とりあえずキッチンに行って適当な『生鮮食品』を山ほど革袋から出してメイドチームに渡し、後はよろしくと丸投げしてダイニングに行った。


もちろんダンガも含めてみんなが揃っていて、シンシアが姫様との間に二つ空席を空けて待っている。

なんとなく言わんとしたことは分かったので、黙ってシンシアの隣に座った。


「で、手紙で伝えたとおり、シンシアとアプレイスのおかげでパルミュナとクレアを復活させることが出来たよ。みんなにも色々と迷惑を掛けたけど、アプレイスも仲間になってくれたし無事にパルミュナも戻って、結果良ければ全て良しって事で...」


みんなが晴れやかな顔をして頷いてくれる。

このメンバーで笑い合えることが何よりも嬉しい・・・おっと、まだ一人欠けてたな。

「じゃあパルミュナとクレアからもみんなに一言、お礼を頼む」

「はーい!」


元気な返事と共に革袋から跳びだしたパルレアを見たときの、みんなの表情は特筆ものだったね。


「みんな心配してくれてありがとー!」


「えっー!」

「パルミュナちゃん!?」

「パ、パルミュナちゃんですわね?」

「これってどういう...」

「よもや...」

「かわいぃー!!!」


みんなに笑顔を振りまきながら、得意満面でテーブルの周りを飛び回るパルレア。

そしてキラキラした目でその姿を追う姫様。

驚いたダンガがティーカップを取り落としそうになったけど、次の瞬間にはそのカップは隣に座るエマーニュさんの手の中にあった。

なんという隙の無いフォロー(りょく)


「実は今回、精霊のパルミュナとクレアの魂は一つの存在として顕現してるんだ。だから今みんなの目の前にいるのはパルミュナでありクレアでもある」

「ほぉー...」

「それで、パルミュナとクレア本人の意見を汲んで、これからは『パルレア』と呼ぶことになったよ。みんなも今後はパルレアと呼んでやって欲しい」


「承知致しましたライノ殿」

「おー、パルレアっていうのも可愛い名前だね!」

「素敵です!」

「雰囲気に合ってると思うよ」

やいのやいのと大騒ぎするみんなの声が一段落したところで、姫様が感想をまとめた。


「パルミュナちゃん、いえパルレアちゃんがピクシー族のお姿で顕現されるとは、さすがに予想外でございました」

「えへーっ!」

「姫様はピクシー族をご存じでしたか?」

「以前に会ったことがございます。ミルシュラントにも住んでいるという噂は耳にしておりましたので、ライノ殿のお手紙でコリガン族とピクシー族の里にいると知った時もさほど驚きはしなかったのですが、まさかパルレアちゃんご自身がピクシー姿になっておられたとは...」


「えーっとねー、節約? って言うか顕現した場の雰囲気?」


「まあ、俺の魔力不足も有ってね。パルミュナが俺とシンシアとクレアを守るために気を利かせてくれたんですよ」

「左様でございましたか」

「これはこれで、ふつーに飛べるし便利よー?」


「とにかくパルレアちゃん可愛いです!」


そう言うレミンちゃんの尻尾がバッサバッサと動いてる。

飛び回るパルレアの姿を追う視線とテーブルの上で彷徨う手が、パルレアを撫でたくて堪らないという心情を雄弁に語っているな・・・まあそれは姫様もか。

迂闊に近づくと無意識に捕まえそう。


姫様がテーブルの上のベルを鳴らすとすぐにトレナちゃんが入ってきて固まった。

目がパルレアに釘付けだ。


「え? パルミュナちゃん様っ?!」


「そうですよトレナ。いまのお背丈では、わたくし共と一緒にテーブルに付いて頂くには少々難があります。なにか、椅子の高さを調整するとか、テーブルに台座のようなものを乗せるとか、そういったことは出来ないでしょうか?」


「か、かしこまりました。すぐに考えます!」


慌ててトレナちゃんが出て行ったけど、まあ無理してピクシー姿でテーブルに着く必要は無いだろう。


コリガン族はテーブルと椅子をあまり使わず、食事や睡眠は床の上で取る生活スタイルだったから、里を訪れていたピクシー族同様にパルレアも特に困ることは無かった。

この屋敷では基本がテーブルと椅子だけど、そこは臨機応変に過ごして貰えばいいだろう。

食事時だけ身体をコリガンサイズに大きくするとか・・・


それよりも姫様の視線が俺の肩に腰掛けたパルレアから片時も離れないので、まるで横顔を凝視されているみたいな気分。

緊張するよ・・・

仕方が無い、ここは俺が姫様のために誘導してあげよう。


「パルレア、ちょっと姫様の手の上に乗らせて貰って見ろよ。飛んでないときでもどれくらい軽いか分かって貰えるぞ?」

「うん!」

パルレアが可愛く返事をして俺の肩から飛び立つと、姫様の横に浮かぶ。


「ぱ、パルレアちゃん、よろしければこちらへお座り下さいませ!」

姫様がそう言って両手を揃えてお盆のように掲げた。


「はーい、失礼しまーす」

ちょこんと姫様の手の上に座るパルレア。

「本当に軽いのですね! 可愛いですパルレアちゃんっ!」

もうね、姫様の顔が輝かんばかりの笑顔!

ちょっとエスメトリスを思い出した。


「ピャルレアちゃん...その、もしよろしければ、わたくしの肩の上にも乗ってみませんか?」

珍しく姫様が噛んでるよ。

「いいよー」

フワッと手の上から浮き上がって姫様の肩に座るパルレア。

満面の笑顔の姫様。

なんだろう・・・凄く綺麗な女性が凄く綺麗な人形を肩に乗せてる的な非現実さ?


「レティシア姫が俺の姉上みたいに見える...」

シンシアの向こう側に座るアプレイスも同じ事を思ったらしく、ボソッと呟いたのが耳に入った。


++++++++++


パルレアのお披露目が一通り落ち着いてから、俺はシンシアと合流してからの北部山脈での出来事とエンジュの森のことを詳しく説明した。

ちなみにパルレアはみんなの頭や肩の上を散々飛び回った挙げ句、いまはレミンちゃんの腕の中に赤ん坊のように収まって居眠りしている。

ピクシーも飛び続けるとそれなりに疲れるらしいけど、抱っこしているレミンちゃんは満面の笑顔だ。


やっぱりアレだな、女の子って『可愛い存在』が根っから好きなんだな・・・


「ではライノ殿、シンシアの作りだしたその魔道具で、エルスカインの拠点を破壊できたかもしれないと言うことですか?」

「ただし、その拠点が何処にあってどの程度の規模のものかは、まだ分かりませんけどね」

「ですが、アプレイス殿を取り込もうとしてた場所ですから、ただの隠れ家と言うこともございませんでしょう」

「ええ。たぶん魔獣を準備しておく基地のような場所だと思いますよ」


「恐らくライノ殿の仰るとおりでしょうね。では、次の行動はどのようにお考えでしょうか?」


「シンシアのお陰でこちらからエルスカインの意表を突いた攻勢に出ることが出来ました。まさか奴らも俺たちからあんな攻撃を受けるとは予想だにしていなかったはずです。この勢いは失いたくない」


「すでに具体的な計画はお持ちでしょうか?」


「アプレイスを狙って、結果パルミュナを吸い込んだ転移門の罠に関しては、シンシアが魔法陣の写しを取っていますから、それをシンシアとパルレアに解析して貰おうかと。あとはエンジュの森で遭遇したウォームの位置を探ることで、他のエルスカインの企みにも手が届く可能性があります。俺としては、まずその二つを追ってみたいですね」


「攻めに転ずると?」

「出来れば」

「ウォームの行き先が想像通りにレンツ方面だった場合は、どうなさいますか?」


「レンツの古井戸は何らかの手段で破壊するつもりですけど、出来ればウォームは少し泳がせておきたいかなと思いますね。ウォームがレンツとエンジュを往復するだけなら別ですけど...レンツから先、例えばあの大結界の奔流に沿って動いたりするようなら、その水路を伝って他の拠点を(あぶ)り出す手掛かりになるかもしれない」


「かしこまりました。アプレイス殿に味方になって貰えたことでキャラバンの目的を達成したとは言え、あまりのんびりしている時間は無さそうですね。今後、どのように行動するかについては、また夕食の後にでも皆で検討致しましょう」


「ええ、それから俺とパルレア、シンシアもですけど、転移門で移動するために気軽に声を掛けて使って下さい」

「と仰いますと、もう、屋敷から離れても良いのでしょうか?」


「三人の誰かと一緒に転移すると言うことは、精霊の防護結界も使えると言うことですから。それとシンシアの新しい魔法で防護結界自体も遙かに強力になってるから、不安は減ったと思います」


「それは素晴らしいですわ!」

「素晴らしいのはシンシアの才能ですよ」

「まあ! 母親として誇らしく思えるお言葉を頂戴して恐縮でございます」


本当にそうなんですよ姫様?

もしシンシアが来てくれていなかったら、俺もパルレアもアプレイスも、今ここに座っていない可能性の方が高いのだから・・・


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