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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第五部:魔力井戸と水路
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地下トンネルを辿る方法


エルスカインは奔流を制御して流れを変えている。

元から魔力の濃い要所には、魔力を集めて井戸や溜め池のようなモノを作りだし、それを相互に繋いで奔流自体を大結界の形状に変えていく。


ガルシリス城の魔法陣は地下室にあったが、人知れず設置しようとすればそれも当然だ。


だけどレンツの井戸は街のど真ん中だし、リンスワルド城の埋め立てられた古井戸や岩塩採掘孔も言わずもがな・・・

そういう場所では人目に付かずに大工事を行うことが不可能だから、ヒューン男爵のように領主を手中に収める必要があるだろう。


「レンツの魔力井戸と関係ある気はするけれど、ちょっと距離が離れてるよな」

「穴を掘ると魔力溜りになるのか?」

「いや、奔流には地中も空中も関係ないからそういう訳じゃないけど、元々奔流の濃い大地に穴を掘ると、そこが吹き出し口みたいになったりはするんだ」

「リンスワルド家の岩塩採掘孔とかそんな感じよねー」

「レンツの街の古井戸もそうだな」

「ふーん。穴が吹き出し口か...井戸や縦穴なら牧場の罠みたいに出来るって事だな。でも長いトンネルってなるとそういうことでも無さそうだな」


「では御兄様、ウォームの事はいったん忘れて、純粋なトンネルの用途として考えて見ませんか?」

「さっきアプレイスが地下に宝物庫を作るって言ったけど、そういう話か」

「ええ」

「普通トンネルって言うと難所越えの道を作るとかだよな?」

「どうしても馬車を通したいけど一カ所だけ急な崖がある、という道には何年も掛けてトンネルを掘ったりするそうですけれど」

「うーん、何処と道を繋ぐにしても、エンジュの森が目的地なのかなあ...しかも全部地下で?」

「なんだかピンと来ませんね」


「ねーお兄ちゃん、ウォームって普段は魔力を吸収してるのよね?」

「そうだ。生き物を襲うのは飢えてる時と、特に大物の気配に気が付いたときだけらしい。伝聞ばかりですまんが」

「じゃあさー、ほったらかしておくとウォームは、どんどん魔力の濃い方にトンネルを掘っていくわけー?」


「ん? それもありうるか...」


ウォームは『穴掘り役』で間違いはないけど、魔力の濃い場所を探して進んでいくのであれば、ただの穴掘りではなく『探査役』にも使えるだろう。

エンジュの森周辺は、上空から見ていたアプレイスが気付くほど魔力が濃いはずだ。

レンツや牧場近郊に放たれたウォームが、特定の方向に向けて魔力の濃い場所を求めてトンネルを掘っていくように仕込まれていたとすれば、数ヶ月や数年かけてエンジュの森まで辿り着くのはありえる話だし、四百年掛けて奔流そのものを改変しているエルスカインにしてみれば、その程度は、どうと言うことのない時間スケールに思える。


「例えばだけど、奔流を捩じ曲げると同時に周辺の魔力を集めてくるために、ウォームを放って水路を作ってるなんて可能性は無いかな?」

「魔力を集めさせるんですか?」

「地上や空中の奔流はシンシアみたいに天然の魔力を視れる者になら探せるけど、さすがに地中は無理だからね。奔流の濃い場所までトンネルを掘らせて、それを魔力収集の水路にするんだ」

「たしかに、地中なら誰にも悟られずに好き放題出来ますね...」

「魔法陣だって作り放題だろ?」

「えーっと、ガルシリス城の地下室みたいなー?」

「ああ」

「もしそうなら、ライノが見たレンツの井戸とやらにトンネルが繋がってる可能性があるよな?」


「つまり、トンネルを辿って行けばレンツに出るのかもしれん」


「ですが御兄様、恐らくここからレンツまで馬車で七日以上はかかる距離ですよ? 地下のトンネルでは馬車も出せないでしょうし、普通に歩けば馬車の三倍の日数です。そんな日数掛けて歩いて行くのは危険すぎるのでは?」

「二十日以上かよ!」

「まあ二十日も掛けて、得体の知れない真っ暗闇のトンネルを歩いて行くってのは現実的じゃないよなあ...」

「しかも、それでレンツに着いたからどうするってもんでもないんだろ?」

「ぶっちゃけそうだな」


「それでしたら、とりあえずトンネルが何処に繋がってるかさえ探れればいいんですよね御兄様?」


「そういうことだけど、実際に歩いてみなくてもシンシアの魔法でなんとかなりそうか?」

「一つの案として...ウォームを殺さずに、来た方向に追い返すことが出来れば、後を追えたりしませんか?」

「ひょっとして探知魔法か?」

「はい。ウォームの身体に探知魔法を埋め込んで追い返すことが出来れば、私たちは動かずに後を追うことが出来ます。ウォームがレンツまでどの位の日数で移動するか分かりませんけど...いえ、レンツに到達するかどうかも不確かですけど、定期的に位置をチェックしていれば良い話です」


「なるほどな...上手くすれば水路の全容を探ることだって不可能じゃ無いかもしれん。そうなるとウォームを殺さずに探知魔法を埋め込む方法を考える必要があるな」

「あと、追い返す方法もだぜライノ? どうやって地中でウォームの向きを変えさせて追い返すんだ?」

「いや、向きを変える必要は無いんだ」

「なんでだ?」

「これに関してはピクシーの狩人が言ってた事が正しくて、そもそもウォームには前後がないんだよ。両端に口があって、どっちの方向にも進める」

「マジかよ...」

「だから、進むのを止めて、そこから追い返せばいい」

「便利な生き物だな!」


「なあシンシア、音を出す魔道具を作れるか?」

「それは出来ますけど...あっ、ひょっとしてウォームの後ろ?にその魔道具をぶら下げるとか?」

「正解! 例えばだけど、ウォームの片側に鎖かなにかを打ち込んで、そこにうるさい音を出す魔道具をぶら下げておけば、それを嫌ったウォームがひたすら反対側に進んでいこうとするんじゃないかとか...短絡的かな?」

「ほう...」

「お兄ちゃんってば天才っー!」

「頼むパルレア、シンシアの前で俺を褒めるな。心が痛くなるから」

「えーっ!」

「止めて下さい御兄様! 私も本当に良いアイデアだと思いますよ!」

「まあ実際に試してみないと、上手く行くかどうか分からないけどな。俺もウォームの相手をするのは初めてだし」


「で、ライノ。ウォームの足を止めてシンシア殿が探知魔法と魔道具を埋め込む隙を作るのはどうやるつもりだ?」


「そこはなあ...殺さずって言うより、酷い怪我もさせずに気を失わせる方法があるかどうか...そもそもウォームに『気を失う』っていう状態があるのかどうかも分からんけどな」

「凍らせちゃえば、お兄ちゃん?」

「ん? 凍らせる?」

「だって、虫って大抵が冬に弱いじゃない? 動きが鈍くなるし出てこなくなるし。ウォームが南方大陸の虫なんだったら、なおさら寒さには弱そーな気がするけど、どーだろ?」


「それだパルレアっ!」


もともと南方大陸で、雨の少ない乾燥地帯に住んでいるウォームが寒さに弱いってのは十分にありえる話だ。

熱魔法で温度を奪えば、身体の動きが鈍くなる可能性は高いぞ。


「トンネルに入ってウォームを見つけ出し、熱魔法で周囲の温度を奪って凍り付かせる...もちろん死なないように加減しながらだ。で、思惑通りに奴の動きが鈍ってきたら、探知魔法と音の魔道具を埋め込むって寸法だな」


「なあライノ」

「なんだ?」

「その方法って、シンシア殿もトンネルの中に入ることにならないのか?」

「あ...」


「大丈夫です御兄様! 凍っていれば、たぶん、きっと、絶対に頑張れます!」


健気だなあシンシア・・・


「でもシンシア、カルヴィノみたいに身体に探知魔法を埋め込まなくても、それこそペンダントみたいな魔道具にしてしまえないか? 相手はデカい虫だから身体のどこかに小さな魔道具を埋め込まれたって気が付かないだろうと思うよ」


「そうですね...相手が大きな魔獣だったら、ペンダントのように純度の高い魔石を使う必要も無いですし...」

「魔道具にしてあれば、凍らせてる間に俺がウォームの身体に埋め込んでおける。どのみち音を出す魔道具を括り付けなきゃいけないんだから、俺がやる作業的には大差ないよ」


「分かりました御兄様。手持ちの材料で魔道具にできるよう、やってみます!」


全力を出すって決意が漲ってるな。

任せたシンシア!


++++++++++


結局、その日の夜は大宴会になった。

そもそも最初は辞退の意を伝えたのだけど、逆に『なんとかやらせて貰えないでしょうか?』と懇願されてしまったからね。


どうやらコリガン族的には、偉大なるドラゴンが(いにしえ)の盟約に基づき、勇者達と共にエンジュの森を訪れて里の危機を救ってくれた・・・

挙げ句に大精霊まで姿を現した・・・

という事で、エンジュの森の里の開闢(かいびゃく)以来の出来事だから、なんとしても里人みんなの記憶に残る祝いにしたいらしい。

そこまで言われると断るのも可哀想なので、一緒に牧場に行った六人の若者を俺たちと同列に『村を救ったメンバー』として扱ってくれるのなら、という条件で承諾した。


それにしてもアプレイスの話は元より、コリガン族とピクシー族のドラゴンに対する考え方を見ていると、人族のドラゴン観が偏見に満ちているんじゃないかって思うよな。


ただただ自分たちよりも『強い=怖い=触っちゃ駄目』という三段論法。


当初の俺たちはもちろん、大精霊であるパルミュナでさえドラゴンを相互理解の困難な相手として認識していたからね。

もちろん無理もないという側面もあるけれど、ドラゴンは難しくても理解し合える相手だってことはコリガン族達が証明している。


その俺も最初は真っ正面からブレスを吐かれた訳だから偉そうなことは言えないんだけど、たぶんラポトス氏との出会いと同じように『最初が肝心』なんだろうな・・・


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